利口な女狐の話
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第二幕その五
第二幕その五
「僕と」
「あらっ、いきなりなのね」
それを聞いて軽い言葉で返したビストロウシカだった。
「またそれって」
「駄目かな」
「そうね。あんたは見たところ」
「僕は?」
「顔もいいし」
まずはそのことについて言ってみせたのだった。
「スタイルもいいし」
「褒めてくれて有り難う」
「それに毛並みだって」
そのことも褒めるのだった。
「それに紳士だし。いいと思うわ」
「それならいいのかな」
「そうね。ただね」
「ただ?」
「結婚の時はよ」
くすりと笑って彼に告げるのだった。
「わかってるわよね、それは」
「それなら少し待ってて」
彼女が言いたいことをすぐに察して返したズトラシュビーテクだった。
「それはね」
「そう。じゃあ少し待ってるわね」
「君は何が好きかな」
行く前にこのことを尋ねるのも忘れなかった。
「それで」
「果物が好きよ」
それだと答えるビストロウシカだった。
「果物がね」
「そう、果物なんだ」
「果物なら何でもいいわ」
明るく笑って話す彼だった。
「何でもね」
「わかったよ、それじゃあ」
こうして一旦森の奥に消えた彼だった。そうして持って来たのは。
野苺だった。それをまとめて彼女の前に持って来たのである。口に咥えてそのうえで持って来たのであった。
「これでどうかな」
「あっ、いいもの持って来てくれたのね」
ビストロウシカはその野苺を見て笑顔になった。
「それじゃあそれでいいわ」
「うん、じゃあね」
「ええ、これで」
「ちょっとちょっとビストロウシカさん」
「それ母や過ぎないかしら」
今の彼女を見て周りから声がした。
「会ってすぐなんて」
「どうなのかしら」
「何よ、一体」
周りにいる梟やリス達に言われて顔をあげる彼女だった。
「何が言いたいのよ」
「何かじゃなくてよ」
「会ってはじめてじゃない」
「だからそういうのじゃなくて」
その彼等に抗議するのだった。
「わからないの?運命の出会いよ」
「ううん、そう来たか」
「運命ってやつね」
「そうよ。感じたのよ」
そうだというのである。
「言っておくけれどね、私は」
「あんたは?」
「どうだっていうの?」
「今まで誰とも付き合ったことなかったわよ」
「あれっ、そうだったんだ」
「初耳だけれど」
「いや、確かそうだったよ」
トカゲがそれを保障してきた。
「ビストロウシカはあれで結構ね」
「身持ちが固かったの」
「嘘みたい」
「相手は選ぶのよ」
そうだというのである。
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