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珠瀬鎮守府

作者:高村
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木曾ノ章
  その5

 
前書き
休暇になった木曾が、戦い方を考えるところに入るお話です。


誤字脱字支離滅裂その他諸々を全くもって一切合切気にしないで読むよ! という心強い方は続きをどうぞ。
あと、表紙の裏とかちょっと目を通さないとわからないかもしれない。 

 
 てんやわんやで、祝賀会は終わりに近づいていた。
「提督、見たか!」
 雷は酒で酔いつぶれ、先程からここにいない人と会話している。
「おらおら雷、何してる~」
「そうだぞ、提督は向こうだぞ~」
 天龍と長月は雷程ではないにしろ、かなり酔っていた。響は、途中で用があると行ってどこかへ行っていた。
「ねぇ、木曾」
「ん、どうした」
 結局、最後まで素面で飲んでいたのは私と不知火だけだった。
「戦う意味って考えたことある?」
「なんだ、急に」
「ここに初めて来た時、提督が私に言ってきたことよ」
 その言葉には聞き覚えがある。同じようなことを私も言われたからだ。
「敵を沈めることじゃないのか」
「不知火もそう答えたわ。けど、なんでかしらね。提督はちょっと笑ったのよ」
「おれの時も、そういえばそうだったな」
「あとで鳳翔さんに聞いた話だけど、吹雪たちは違ったそうね」
「なんて答えたんだ?」
「自分で考えなさい、だって」
「なんだそれ」
「そう、何なんでしょうね。第二艦隊、活躍しているって聞いてるでしょ? 戦う理由にも、その秘訣があるのかと思ってね」
 それを聞いて、真っ先に浮かんだのが『死ぬのが怖い』だった。これが、秘訣?
「ま、第二艦隊も初めは上手くいっていなかったわ。戦う理由だけってわけじゃないんでしょうけど」
「初めは上手くいってなかった?」
「そうよ。初めはダメダメだった。けど、二度目の出撃からは良くなった」
 意味がわからなかった。死ぬのが怖いが答えなら、初めから成功しているはずだ。
「私は、なんとなく答えがわかってきた気がするわ」
「何だ、聞かせてくれよ」
「当たっている自信はないし、あっていたとしても、自分で考えなさい」
「なんだそれ」
 同じ会話を、ついさっきもした。
「そろそろ、お開きにしましょうか。いい時間になったし、彼女たちを宿舎に運びましょう」
 話を逸らされた気がするが、確かに時間も遅くなっていた。門限を過ぎることを言ってあるが、遅くなりすぎるのも良くない。
「なんとか天龍と長月は歩けそうね。二人に肩を貸すから、木曾は雷を背負ってくれない?」
「分かった」
 雷を、不知火の手を借りながら背負う。不知火が二人に肩を貸して立ち上がったことを確認して、歩き出した。
 夜風が、酒の後に気持ちが良い。
 歩き出してから一寸して、不図、途中の曲がり角の左を見た。誰かが、そこにいるような気がしたからだ。こんな夜分遅くに外を歩く人間は、早々いない。
 曲がり角の先は暗い。だが、確かに十米あたり先に、人が立っていた。身長は、私より高い。提督ほどはある。
 向こうは、空を見ているようだった。私も空を見てみる。空に浮かぶは淡い色の月。上弦の、三日月よりも更に薄い。
 視線を曲がり角の向こうに戻す。人は、まだいた。こちらを見ている。薄い月の光では判断しづらいが、その顔は
「提督?」
 提督に似ている気がした。
「木曾、どうしたの」
 後ろを歩いていた不知火が、立ち止まっていた私に声をかけた。私は少し悩んで、彼女には何も言わないことにした。
「何でもない。それより、いつの間にこんなにお前と俺で差がついていたんだ?」
 私が立ち止まってから、不知火が追いつくまで一寸あった。
「途中で提督を見かけてね。事情説明だけしたのよ」
「提督と会った? さっきか?」
「ええ、ついさっき。あなたに追いつくつい二十秒ほど前」
 二十秒? 視線を不知火から、暗闇に向けた。もう人は立っていない。不知火が追いつくまでには、私が立ち止まってから二十秒以上ある。提督では、なかったのか?
「そうか。 とりあえず、早く宿舎に戻ろうか」
「そうしましょう」
 不知火に、尋ねることもないだろう。私は、宿舎に向けてまた歩き出した。



 休暇二日目。前日は気づかないうちに飲み過ぎていたのか、体調が優れない。
 私は暇を持て余していた。出撃や訓練をしない日は、この港に来てから初めてだった。出撃がない日は、日に一時間は射撃の訓練をしていた。今は休暇を言い渡されている。言い換えれば、訓練の類も禁止であるということだ。できることといったら、簡単な筋肉トレーニング程度。
 それも終わってしまうと増々時間を持て余し、部屋にいても仕方がないと思って、少し港を散歩にでかけることにした。
 青い空が、天上には広がっていた。海風が心地よい。波も高くなく、絶好の海戦日和だった。けれど、今日の私は戦うことはできない。
 私はどこへ行くか少し考えて、工廠に行くことにした。昨日壊してしまった装備のことについて、話しに行こうと思ったからだ。
「ああ、木曾の嬢ちゃんか。大丈夫だったかい」
 工廠について、中に入ると、私に気がついた老整備士は心配顔で訪ねてきた。
「ああ、昨日の戦闘か? 大事ない。ただ、装備の類は全部ボロボロだ。済まなかったな」
 答えると、老整備士は何が面白いのか、少し笑った。
「なぁに、装備も敵の砲弾や魚雷で圧壊なぞしてるだけさ。錆びて壊れたんじゃない。装備は壊すために作ったわけじゃないが、間違った壊れ方をしなかっただけいいさ」
「そういうものなのか?」
「壊さなければ、一番いいがな」
 老整備士は先程より強く笑った。
「何、言うとしたら少々扱いが荒いってことかね嬢ちゃん。響のお嬢の装備も壊れてはいるが、疲労が蓄積してる部分何かがね、やっぱり違うよ」
「すごいな、わかるのか?」
「伊達にこんな歳まで機械を弄ってはいないさ。まぁ響のお嬢とあんたじゃ、経験の差もあるだろうけどね。話を戻すが、嬢ちゃんが無事で、儂は良かったよ」
「結果としては無事だったな。途中で何度か轟沈するかと思ったが」
 老整備士は顎髭を手でなぞると、真剣な面持ちをした。
「成程な、噂に聞いたとおりだ。あんたの装備を見て荒いって言っただろう? あんたの戦い方もだ、嬢ちゃんよ。沈んじゃ意味はないんだ。沈んだらな」
 一瞬、思考が停止した。その言葉は、この港に来てから幾度か聞いている。ここで、また同じことを言われるとは思っていなかった。
「どういう意味だ? 沈むことは避けるべきだが、意味が無いなんて」
 今まで、幾度か思っていた質問を投げかける。この老整備士は、信用が置けた。
「提督から、何も聞いていないのか? 去年のことも?」
「去年のこと?」
「ああ、あれは」
「木曾」
 老整備士の言葉を遮るように、背後で響が私の名を呼んだ。
「盗み聞きか響」
 何か話を聞きだせるかと思った矢先に止められたせいで、少し苛ついた。
「違う。ちょっと用事があって、探してた」
 はっと我に返る。私は、苛立ちを仲間に押し付けたのか。
「ちょっと言い過ぎた。体調が優れていなくてな。すまない響」
「いいよ。昨日結構飲んだって不知火も言ってたし、二日酔いかもしれないね。話が終わったら休んだほうがいいよ」
「ああ、そうしよう。それで、用事ってなんだ?」
「鳳翔さんが、木曾と話をしたいって」
「鳳翔さんが?」
「へぇ」
 少し、驚いた。鳳翔さんと私の接点は多くない。提督の部屋に赴いた際に見る限りだ。会話自体は更に少なく、片手の指で数えられるほどだけだろう。
 驚いたのは老整備士も同じようだった。今は先ほどと同じように髭を手でなぞっている。
「暇な時間を教えてくれれば、鳳翔さんに言っておくよ」
「なら、おっちゃんと話し終わったらすぐでも構わないぞ?」
「儂から語ることもなくなってしまった。鳳翔の嬢ちゃんが代わりに答えてくれるさ」
 そう言うと、老整備士は立ち上がって奥に歩きはじめた。
「お、おいおっちゃん!」
「ああ、お前の壊れた装備は新しいの見繕ってあるから、出撃決まったら言いに来いよー」
 彼はそのまま振り返らず、奥へ消えていった。
「おっちゃんには、気を使わせちゃったかな」
「俺には全く話がわからないんだがな」
「ごめんね木曾。それと、明日の夜時間空いてる?」
「明日の夜? 休暇が続く限りは暇だが、なんで明日なんだ?」
「木曾、調子が悪いって自分で言った。今日は部屋でよく休んで。急ぎのようでもないから。鳳翔さんは明日ならば、夜が都合がいい」
「そうか、分かった。それじゃあな」
 響に別れを告げて、工廠を後にした。



 翌日の夜、私は鳳翔さんの自室の前に立っていた。鳳翔さんの自室がある場所は、私の使っている宿舎とは違った。と言っても、同じ敷地の直ぐ隣で、通路を使えば室外にでなくて行ける。こちらの棟はドアの間隔が大きい。ここまで案内してくれた響に聞いたところ、大型の軍艦などが使う部屋らしい。なる程、今まで私が知らなかったわけだ。
 響はここまで案内すると元きた道を戻っていった。私は昨日工廠から帰ってからと今まで、いったい鳳翔さんが何を話したいのかを考えてみてはいた。てんで見当がつかなかった。ならば考えた所で仕方がない。直接赴くだけだ。
 扉を叩く。
「木曾だ。話があると聞いてきたのだが」
 中から返事はない。留守だっただろうか。
 もう一度扉を叩こうと、腕を上げた瞬間、扉は開かれた。
「いらっしゃい、木曾。夜間にごめんなさいね」
「いや、空いてる時間に合わせたのはこっちだ。それで、話があるんじゃないのか?」
「ええ。ちょっと長くなるだろうし、中にどうぞ」
 彼女について部屋の中に入る。後ろで、扉が音を立てて閉まった。
 部屋の中は、確かに私の部屋に比べて大きい。収納スペースが大きめなのは、大型の戦艦や空母の装備を入れておけるためだろう。
 けれど鳳翔さんの部屋に、そのようなものはなかった。勿論戸棚の類を全て開けてみたわけではなく、見た目だけの話だから皆無かはわからない。だが、私が今見る限りそのような類はない。
「適当に座っていて。今、お茶出すわね」
 畳張りのスペースに座布団を置き、私に勧めると、鳳翔さんは台所に向かった。座って、部屋をのんびりと見回した。やはり、武装の類は見当たらない。付け加えて云えば、生活感も乏しい。
「どうぞ」
「ありがとう」
 帰ってきた鳳翔さんが置いた御盆から、茶を頂く。唇にお茶が触れた瞬間に、反射的に茶飲みから口を離した。熱い。しょうがないので、まだ飲まずに盆に戻した。
「早速だけどね、木曾。私は、あなたを説得するために呼んだのよ」
「説得するため?」
 面食らった。話がしたいとは、説得の事だったのか? 一体何を?
「ええ、そう。戦い方を変えてもらうためにね」
「何だ何だ、提督といい響といいあんたといい、それに拘るな」
「ええ、しょうがないわよ。気になってしまうのだもの」
「じゃあ、聞かせてもらおうか、その理由を」
「分かったわ。だから、木曾。ちゃんと聞いてくれると嬉しいわ」
 鳳翔さんは、少し改まった。
「この話はね、ある愚者たちのお話よ」 
 

 
後書き
長いこと更新できないので、その前にある分をちょこっと放出。まだ十分に目を通していないから、誤字脱字とか結構ひどいと思われます。
その6等は目を通してもいないので、今回の機会には上げません。
これの他にも、コトノハと登場人物を更新しました。
あとは更新は多分できないので、物語の途中ですが一旦お休みです。亀とかアキレスとか言えないほどに遅いことになっちゃうなぁ。
尚、今回から練習ではなく普通の方に上げてみようかと思いました。不評ならまた練習投稿へ戻ります……。 
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