珠瀬鎮守府
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木曾ノ章
その4
前書き
何故か前回の投稿時には書き上がっていたその4を今投稿。実は数日後には出そうと思っていたけれど、続きを書くことに専念していて忘れていたとかでは、恐らくない。そう自分を信じたい。
サブタイトルの後の艦の名前は、特に意味は無かったりする。その場のノリである。
駄文とか拙いとか誤字脱字とか、そういう諸々のもの全てを気にしないぜっ! っていう猛者はどうぞ続きでも見ていってくださいな。
あ、そうそう。前回までより文章は長くなってるよ。行数で言うなら、1.5倍くらいかな。
「報告します。鎮守府正面海域にて、敵艦四艦、内軽巡洋艦一駆逐三と遭遇。これを撃滅、我が艦隊に損傷なし。目視圏内に敵艦不在の確認を取り、帰投しました」
港に着き、提督に報告をと思った矢先、提督が工廠に居た。早速報告する。
「四艦と遭遇か。初の出撃にしては、負傷艦無しという功績は大きい。各艦とも十分な休息を取るように。以上だ。良くやってくれた。次回も、同様の活躍を期待している」
第二艦隊全員が提督に敬礼し、提督がその場を去ると同時に手を下げた。空気が弛緩する。
「初の出撃、不安はあったけど無事に終わってよかったわ」
「天龍様は、不安はなかったぜ」
「提督に褒められるとは、俺たちいい働きをしたってことだな」
各々が言葉を交わす。私以外、今回の作戦の成功を祝い、提督の言葉を聞いて気を良くしている。けれども私は、それに倣うことはできなかった。
「どうした、木曾。作戦は成功だ。嬉しくないのか?」
響が、そんな私の様子に気づいて声をかけてきた。
「作戦成功は嬉しい。私の指揮が結果に出たということだ。ただ」
そう、作戦成功は嬉しいのだ。ただ
「ただ?」
「提督の『負傷なしという功績は大きい』って言葉が引っかかってだな」
「何でまた」
「褒めるところは、敵艦隊壊滅じゃないのか?」
響は、私から少し視線を外した。
「敵艦隊を逃しても、私達全員が港に帰る。それが、提督の方針」
「当たり前だ、そんなこと。ただ負傷なしって言葉が気になる。例え傷ついても敵を撃滅するべきだと、俺は思う」
「そうかもしれない。けど、響はそうしたくない。この戦いは、甘くない。安全策を取っても、負傷する。負傷覚悟なんてしたら、帰らぬ人となる」
「俺の指揮が、信用ならないのか」
「違う。今日見て、貴方の統率力や才能は認める。ただ、いつでも作戦は上手くいくとは限らない。これは、先輩としての言葉。受け取ってくれるとありがたい」
そうだ、彼女は体が小さいが、私の先輩なのだ。先人の意見を参考にするもしないも勝手だが、蔑ろにする必要なない。
「……お前の言っている意味は、分かる。けど、敵は倒さないといけない」
響は、少し寂しそうな顔をした。
「そう、分かった。じゃ、私は先に休息をとるね」
言うが早いか、彼女は宿舎に走っていった。
彼女は、恐らく過去に戦闘で何かがあったのだ。だから、慎重になっている。響にとってこの戦い方は、参加しているだけで古傷を抉る結果になっているのかもしれない。だけど、私の今の戦い方を、変えるつもりはなかった。
ドアを二度、叩く。
「響です」
第二艦隊帰投後の夜、私は提督室に赴いた。今日の出撃の報告をするためだ。木曾や、他の艦たちには秘密にしてある。
「入れ」
ドアを押し開けると、提督と鳳翔さんが居た。机の上には湯気の立つお茶が淹れてある。小休止のところだったか。仕事中でなくて、良かった。
「響、あいつの指揮はどうだった?」
提督は、単刀直入に話を切り出してきた。あいつとは、木曾にほかならない。
「一言で表すなら、微妙」
「具体的には?」
「木曾の指揮ですが、悪くはないです。出撃前に、皆にある程度作戦を言い渡し、きちんと調べているのでしょう、当該海域の敵編成の傾向や緊急時の行動も言い渡しています」
「問題点は」
「二つあります。一つが、実戦不足。艦隊距離や敵の反撃のタイミングの掴めなさ等です。これは致し方ない部分もあります。もう一つが、突撃肌ということです。ある程度艦隊に危険が及んでも、敵を倒すことに重きを置いて行動します。今回は殆ど無傷でしたが、冷や汗をかく場面も多々ありました」
「“特攻”肌は、回数をこなせば治りそうか?」
こちらがわざと突撃と使ったのに、提督は特攻と返したか。まぁ、そうだろう。あの戦い方は、自らを顧みない戦い方だ。後ろにいる私達はまだいいが、先頭の彼女の危険は大きい。
「難しいでしょう。何が彼女を動かすかはわかりませんが、敵に対する執着心は大きいです。彼女は敵を逃がすくらいでしたら、負傷しても狩りに行きます」
「それで自らが沈んでも、意味は無いのにな」
「ええ、全く無意味です」
「では、お前は引き続き木曾たちを見ていてくれ。辛いことを押し付けて、すまんな」
「いえ、誰かがしなければならないことです。それが偶々私だっただけ」
「分かった。じゃあ言葉を変える。ありがとな。部屋に戻っていいぞ」
「お疲れ様、響ちゃん」
労いの言葉をかけてくれた鳳翔さんと提督に頭を下げて、提督室を後にする。木曾たちに見つからない内に、部屋に戻ろう。
初陣からひと月が経った。今日は、そんなある日の朝だ。
港に帰ってきた私達は、誰も彼もが負傷していた。大小が様々。被害が大きいものだと、装甲が大きく剥がれていたり、砲塔の一部が破損、魚雷が脱落している。
けれど、皆の顔は暗くはなかった。今回は、敵は六艦。重巡洋艦一艦、軽巡洋艦二、駆逐艦三の編成。それを、私たちは夜戦にまでもつれ込み、全艦撃破した。
今から一週間前ほどに、顔を合わせたのが始めだった。あの時は昼間の砲撃戦でこちらが大打撃を受け、夜戦は響の進言により断念、結果取り逃がすことになった。今回は二度目の接敵。あれから考えぬいた作戦で、ようやく倒せたのだ。顔が暗くなるはずはなかった。
「本当に、皆良くやってくれた。提督に報告したら休みを貰って、今日は祝賀としよう」
「いいねぇ木曾、酒は好きだぜ!」
「あまり飲める口ではないが、私も混ざろうか」
「私は飲めるわよ、見てなさい!」
皆が思い思いに話しながら港を歩く。敵は重巡洋艦もいた。華やかな戦績と言ってもいい。達成感に溢れていた。いや、言い換えようか。浮かれていたと言ってもいい。
「木曾、何だそのなりは」
だから、近くに提督がいた事に、一瞬気づかなかった。
「おう、提督じゃねえか」
私より早く、天龍が言葉を返す。提督は、私から目を逸らして天龍を上から下まで見た。彼女は恥ずかしかったのか、少し顔を背けた。
彼女は獲物が中程で折れ、腕部の追加装甲は脱落。中の服が一部破けていた。至近距離を弾が通過したせいで、直撃したわけではないから怪我らしい怪我はない。
更に視線を動かして、響。彼女も一部装甲脱落、魚雷は脱落していないものの、魚雷管は運用不可の損傷。主砲は、片方が半ばから折れていた。
彼が視線をどんどん動かしていく。そうして、最後に私。
砲関係、装甲関係は全て脱落。右魚雷脱落。左魚雷管損傷、内一発発射可。だが、そこに魚雷は装填されていない。ここにあった魚雷は、敵の最後の一艦の致命打になった。
「報告」
その言葉で、はっと我に返る。そうだ、私は任務から帰ってきたのだ。
「鎮守府正面海域奥にて敵艦隊と遭遇。内重巡一、軽巡二、駆逐三。砲雷撃にて撃滅を図るも未決。夜戦を展開し、残りを撃滅しました。こちらは在籍六艦中六艦帰還。内四艦大破、二艦中破です」
「……わかった、ご苦労。全員入渠し、その後十分な休暇を取れ」
「提督、その休息ですが、今晩も頂いて良いですか」
皆と祝賀をするために、休みが欲しかった。
「休息ではない休暇だ。お前らは出撃回数が多い。これから休暇を取れ」
「え?」
「期間は未定。解かれる場合は前日に通達する。以上だ」
「おいおい、待ってくれ」
「どうゆうこったい提督」
私と、天龍が声を上げる。期間未定の休暇なんて、おかしい。それは私達を海から遠ざけているのと同義だ。
「提督は、不知火達が過労って言いたいの? 大丈夫よ、数日休めば」
「それもあるな。だが、それだけじゃない」
「じゃあ何だ。俺達は自分で言うのもなんだが、よく活躍していると思う。何が問題なんだ」
提督は、すぐに言葉を返さずに、少し悩んだ。
「沈むぞ」
そうして、静かに、その一言だけを放った。
頭のなかで、いつかの話が横切った。あれは、鳳翔さんだ。提督が鳳翔さんにただ沈むだけと言っていた。
「ただ沈むだけじゃあない。私たちは敵を倒す」
「沈んでは無意味」
そう言うと、提督は歩き出した。私達の背中に、提督が使っている建物がある。
「とりあえずは、お前らは今から休暇だ。入渠しておけ」
皆が、いや響以外の者達が不満顔で提督を見つめていた。だが、提督はその発言を覆さない。
そうして、響の傍を通り過ぎる瞬間、小さな声で言った。
「時間がない」
偶々響の傍に私がいたから聞こえたその言葉は、どんな意味を持っていたのか。響は、帽子で目を隠した。
ドアを二度、叩く。
「響です」
何時かの夜の繰り返し。そうして、これはこのひと月の間、出撃の度に繰り返した。
「どうぞ」
嗚呼、今回は、鳳翔さんしかいないのか。初めの夜は、確かどちらもいた。
いつもどおり扉を開ける。鳳翔さんが、明かりのついていない部屋に佇んでいた。窓から入る月明かりが、彼女を暗闇にぼおっと映し出している。
「提督はいらっしゃらないのですね。それと鳳翔さん、灯りはつけましょう」
「ああ、ごめんなさい。月を、見ていましたから」
そう言って、鳳翔さんは外に目を向けた。私も窓辺に近づいて、彼女の視線を追う。三日月より更に薄い月が、空に浮かんでいた。
「二日月ですか」
「ええ」
彼女のような月だと、思った。
「響ちゃん、今日は、提督は外出しているわ。報告は、私に」
「わかりました」
彼女に、私は敬語を使う。初めは彼女も遠慮していたが、こちらがやめないので諦めていた。
「では、早速戦闘について話します。敵艦は艦載機を有していました。索敵機を全機撃滅できなかった私たちは、進行方向にて丁字戦になることを恐れ、大きく進路を変更。後に敵艦と接敵したときは、単縦陣同士の反航戦となりました。初めは敵重巡からの砲撃。敵艦載機の座標報告による砲撃だったからか、大きく私たちの艦隊とは離れた位置に落ちます。その弾道から敵艦隊方向を予測。接近し、交戦となりました」
一旦言葉を切って、頭のなかで文章を考える。
「続けてちょうだい」
「戦闘は、苛烈でした。重巡に対し砲撃での撃破は時間がかかるため、最初の接敵には駆逐を攻撃。敵二艦を轟沈、こちらは木曾、不知火に被弾。装甲が落ち、主砲を失います。木曾は戦闘継続が可能と判断。そこからは少々略しますが、夕暮れの時点で敵は重巡一、軽巡は中破二艦となりました。こちらは木曾、不知火、私、長月が主砲を失い、私は魚雷管を失いました。雷は装甲は健在でしたが、主砲、魚雷共に失い、全員が中破以上でした」
「そうして、夜戦になったのね」
「ええ、そうです。木曾は初めからやる気でした。私はこれに反対していません。敵艦は旗艦である重巡が生きていますし、こちらは主砲が少なかったのですから、追われたらどうしようもありませんでした。丁字戦を恐れ接敵が遅れたので、それもあります。
夜戦に突入時、こちらは残った私が砲撃を仕掛けました。先制で、敵軽巡片方を撃破。後制の敵の砲撃は、私の主砲の一部を破壊し、長月のすぐ傍に着弾、長月は喫水下の魚雷を損傷。
その後雷撃可能距離までは、私の片方の砲撃のみでした。敵は旗艦の木曾を狙いましたが、木曾は上手く避けました。被弾は少なかったですが、魚雷管を一つ除いて破損。彼女は誘爆の危険もありましたが、唯一の兵装だったので投棄せず、近づいていきます。
雷撃戦にて勝負を決めますが、最後はギリギリでした。正直に言いますと、あの場で最後に木曾の魚雷が重巡に当たらなければ、私たちは誰かを失っていたと思います」
「そう、大変だったわね」
こういう時に、この言葉を使う人は多いと思う。だが、彼女の言葉は重たかった。彼女も、このような経験を何度もしてきたから。
「提督の言っていたとおりですね。このままでは、誰か沈みます。申し訳ありません。それを防ぐために、私がいるのに」
私は彼女たちが沈まぬように、この艦隊にいるのだ。
「謝るのはこっちよ。私のわがままで、あなたはそこにいるのだもの」
「ですが」
「それに、今、彼女たちが生きているのはあなたのお陰よ。間違い無くね。ありがとう。けど、確かにこのままでは、誰かが沈むわ。早急に、何か策を講じないと」
頭を悩ませるのは、そのことだった。彼女たちは沈む。提督が言っているように、時間がないのだ。その前に彼女たちを説得できなければ、また繰り返す。
「また一年は、辛いですね」
「私もよ。今回何もできない私が言うことでは、ないでしょうけどね」
「提督は、もしかすると彼女たちを使わないつもりかもしれません」
「数は多いほうがいいのだけれどね。沈むならいないほうがいいという判断かしら」
「そうかもしれません。そうして、もう時間はありません。新しく艦娘を呼ぶのも難しい。そうして、木曾たちが消えた穴は、大きい」
「ええ、だからどうしようかしらね」
会話が切れる。思えば、鳳翔さんとこんなに長く話したのは、久しぶりかもしれない。
「私も、参加しましょうかしら」
「駄目です」
即答した。この問答は、これが初めてではない。
「あら、なんでかしら」
「私はあなたを信じていません」
嘘だ。彼女とは、二年前からの知り合いだった。はっきりというが、木曾よりも信用と信頼をおいている。彼女のそれと同格なのは、提督くらいだ。
「それでも、戦いたいわ」
「信じていませんよ。私も、提督も、そして、第四艦隊も」
鳳翔さんは、黙した。彼女は、提督の秘書艦だ。秘書艦は、普通第一艦隊旗艦が務める。彼女も例外ではなく、第一艦隊旗艦だった。一度も出撃したことがない艦隊。あの日と同じように、ただ一人の艦隊。
「第四艦隊の皆も、あんまり顔を会わせてないわ。嫌われているのかしらね」
「彼女たちは鳳翔さんも知っている通り、演習と、提督の後輩に指導。空いた時には、遠征で勘を鈍らせないようにしています」
「そうだったかしらね」
鳳翔さんは、また外に目を移した。ともに戦えないことを、なんと思っているかはわからない。
「じゃあ、できることをしないといけないわね」
「? はい、そうですね」
「私が、木曾を説得するわ」
「それはいいかもしれませんが、話すんですか?」
一年ほど前のことを。
「必要ならば」
「そうですか。わかりました」
これは、私が兎角言うことではない。彼女に任せよう。
「失敗したら、ごめんね」
「謝ることはありません。ただ、成功を祈っています」
「そうならば、嬉しいわ。さぁこんな辛気臭い話はおしまい。ゆっくり休みましょう」
「そうですね。では、失礼します」
私は軽く頭を下げて、提督室を後にした。
後書き
その7を前に書いているよみたいなことを、書いた気がしなくもないわけですけれども、一個の行数増やして数を全体的に減らしにかかったのであんまり個数は増えていなかったり。というかその結果今7個目書いていたり。
鳳翔と響は、こんなに登場させるつもりではなかったりしますね実は。書いている内に愛着が湧いてきてしまった……。
はい。これからも私<アキレス<亀です。
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