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利口な女狐の話

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第三幕その三


第三幕その三

「もうね。可愛くて気は優しくて」
「そんないい娘がよくだよ」
「よく?」
「御前さんみたいなのと一緒になったものだよ」
 彼が今言うのはこのことだった。
「全くね」
「それが人徳ってやつですよ」
「違うと思うがね」
 管理人はハラシタ本人にはっきりと告げた。
「それはね」
「違うっていうんですか」
「御前さんみたいな人にはだよ」
「あたしみたいな人には?」
「あんな可愛い娘は勿体無いよ」
 こう言うのである。
「全くね」
「そんなことを言うんですか」
「言うさ。とにかくだね」
 そう返す彼だった。
「まああれかな」
「あれとは?」
「結婚自体はよかったよ」
 そのことは素直に祝う管理人だった。
「それ自体はね」
「どうも有り難うございます」
「幸せになるんだよ」
 微笑んでハラシタに告げた。
「いいね、それで」
「それでプレゼントを考えてるんですけれどね」
「プレゼントか」
「はい、何がいいでしょうか」
「そうだな。寒いからな」
 彼から相談を受けて少しばかり首を捻って。それで言うのだった。
「襟巻きなんかがいいな」
「襟巻きですか」
「それなんかどうだい?」
 また彼に告げるのだった。
「襟巻きなんかな」
「わかりました。それじゃあそれでも」
 管理人のその言葉に対して頷くハラシタだった。
「プレゼントします」
「そうか。それならそれでいいんじゃないかな」
「じゃあそれで」
 二人はこんな話をしてから別れた。ハラシタはそれから森の奥に入った。そうして切り株の上に腰掛けて休んでいるとであった。
 狐の一家がやって来た。ビストロウシカ達である。
「おや、あれは」
「あっ、嫌な奴ね」
 ハラシタを見て隣にいる夫のストラシュビーテクに対して告げるビストロウシカだった。その後ろには子狐達が可愛い姿を見せている。
「あれは」
「嫌な奴って?」
「あの人間はハラシタっていうのよ」
 嫌悪感に満ちた顔で夫にまた告げるのだった。
「密猟していてね。私達を狙っているのよ」
「そんな奴等なんですか」
「そうなのよ。とてもね」
 そうだというのである。
「まずいわよ、こいつは」
「じゃあ逃げようか」
「ええ。まずはね」
 ここでさらに夫に話す。
「この子達を早くね」
「逃がすっていうんだね」
「そうよ、まずはね」
「わかった。それじゃあ」
 夫は妻のその言葉に頷いてだった。彼等を逃がすと妻にあらためて告げた。
「じゃあ僕達も」
「待って」
 しかしであった。ここでさらに夫に告げるのだった。
 
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