利口な女狐の話
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第三幕その二
第三幕その二
「何しろ不逞の輩がいつも森の中でうろうろしているからな」
「大変ですなあ、それは」
「全くだよ。それでだ」
「はい、それで」
「あんたは散歩をしているんだな」
わかっていて尋ねるのだった。
「そうなんだな」
「はい、そうです」
ふてぶてしさは変わらない。
「それが何か」
「そうか、わかった」
一応その言葉は聞くのだった。
「わかったがな」
「それでどうかしたんですか?」
「悪いことは言わないから早く森を出るんだ」
あからさまな忠告であった。
「いいな、すぐにだ」
「またそんなことを」
「疑われてもいいことはないよ」
「疑われるようなことはしていませんよ」
お互いわかってこう言い合うのであった。
「別にね」
「だといいんだがな」
「ええ。それで、ですけれどね」
「それで?」
「何か聞いたんですけれど」
管理人に尋ねる顔になっての今の言葉であった。
「牧師さんですけれど」
「あの人がどうしたんだ?」
「結婚されるらしいですね」
このことを尋ねるのだった。
「何か」
「結婚まではいってないよ」
それは否定する彼だった。
「ただ」
「ただ?」
「いい人は見つけたよ」
それは事実だというのである。
「いい人はね」
「そうですか。それは何よりですね」
「あんたも早くいい相手を見つけるんだね」
笑って彼に告げる管理人だった。
「もういい歳なんだし」
「ははは、それですけれどね」
そう言われると明るく笑って返した彼だった。
「私もですね」
「まさか結婚するのかい」
「はい、今度します」
その笑顔で告げたのだった。
「私もめでたく」
「それは初耳なんだが」
「初耳でも結婚しますから」
それは事実だというのである。
「いい娘を見つけまして」
「そうだったのか」
「相手の娘を知りたいですか?」
相当嬉しいらしく自分から言ってきたのだった。
「その相手は」
「そうだな。誰なんだい?」
「テリンカっていうんですよ」
その娘だというのだ。
「その娘はね」
「テリンカっていうと」
その名前を聞いてふと思い出した管理人だった。
「確か」
「牧師さんが前付き合ってた娘ですよ」
「ああ、そうだったな」
以前彼と飲んでその名前が出たことを思い出したのである。
「その娘だったか」
「いい娘ですよ」
満面に笑みを浮かべて話す彼だった。
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