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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode6 会議の席、勇者の底力4

 
前書き
 圧倒的……っ! 圧倒的主人公力……っ!!! 

 

 その繰り出される剣は、とてつもなく鋭く、速く、重くて。
 そして何より、美しかった。

 神速で振われる二本の剣。右の黒剣の輝きと、左の白刃の煌き。

 目で追うのすら困難な二刀の剣戟が、ユージーンの鎧を次々と切り刻み、そして魔剣の『エセリアルシフト』を二段構えの弾き(パリィ)で遮る。針の穴を通すような完璧なタイミングでの防御は、流石かつてあの世界で《武器防御》スキルマスターだった男の腕前だ。

 「お……おおおあぁああっ!!!」

 力強く声をあげながら繰り出される連撃に、徐々に、徐々にユージーンが押され出す。

 しかし、奴も伊達にALO最強と呼ばれている訳ではない。なんとか押し返そうと『エセリアルシフト』で応戦し、既にかなり減少しているキリトのHPを削りきろうとその剛剣に物を言わせて反撃を繰り出す。そして、

 「ぬ……おおおっ!!!」

 野太い咆哮と共に、その全身から真っ赤な炎の壁が半球体状に放たれ、キリトを押し返す。俺の売った鎧のエクストラ効果だ。相手の連撃を強制的にブレイク、更には数メートルを不可侵領域として押し返すという一発技。その無理矢理作ったブレイクポイントを生かして、《魔剣グラム》が大上段に振りかぶられる。

 だが、

 (……見せてやれ、お前の、『二刀流』を!!!)

 大上段に構えた魔剣が振り下ろされるより早く、キリトがゼロ距離へと飛び込む。

 その手の左手の長刀が鋭く閃き、紅い剣の側面を弾く。『エセリアルシフト』を発動する前に弾かれた剣はその軌道をずらされ、キリトの左肩を掠めるにとどまる。その隙に、キリトの右手が大きく引き絞られる。大剣を担ぐように体を捩じる、俺……俺たちにとっては「懐かしい」、その構えは。

 (……単発重攻撃、《ヴォーパルストライク》!)

 繰り出された強烈な突きが、ユージーンの鎧の胸の中央を貫き、激しいダメージエフェクトが迸り、HPが凄まじい勢いで減少していく。ユージーンがなんとか体勢を立て直そうとする……が、もう遅い。俺には分かる。

 キリトの左腕の、その構えが。

 (……四連撃、《バーチカルスクエア》、だよな!)

 繰り出される美しい四連撃が虚空に二重の十字を描き出す。ゼロになる、ユージーンのHP。その顔が驚愕に歪み、上体が二つにズレる。一瞬……まるで戦いの余韻を引くかのように遅れて生じた真っ赤なエンドフレイムが、その姿を一気に覆い隠して。一瞬後にはもう、かのALO最強を謳われた将軍は、小さなリメインライトだけが残してその姿を消した。

 勝った。
 キリトの、勝利。

 その間違いなくこの世界でも最高の勝負に捲き起る拍手の中、俺はゆっくりと目頭を拭った。






 「いっちゃったネ……」
 「ああ。こちらもすぐにフリーリアに向かおう」

 キリトは、嵐のように去っていった。

 ―――世界樹の上に行きたい……ある人に、会うために。

 その言葉だけを残して。いや、それだけではないか。アリシャの抱え持つ、大きな袋……可視化された金貨の山も一緒に残していきやがった。一枚で十万を表すミスリルの硬貨がぎっしりと詰まったその袋に、領主二人が目を丸くして中を何度も覗きこむ。その様子を見ながら俺は、

 (……ってか、アレ、そんなに多かったのか……。……やべえ、俺の方が持ってる……)

 己のストレージを思い出して、内心で冷や汗をかいていた。

 そう言えばエギルに説明を忘れていたが、見たところのキリトの熟練度からするに恐らく奴も謎のSAOデータ引き継ぎを受けたのだろう。とすれば、この巨額の金もキリトがあっちの世界で稼いだ金だったということだ。

 が、俺は知っている。アイツは実は結構浪費家で、アヤシげな剣や胡散臭い食いモンに次々金を使いまくるタチだ。その上、経験値とは違ってガンガン効率重視で金が稼げるわけではない、ソロプレイ。そう考えるとゲーム終盤にエギルからなかなかの大金を受け取り、尚且つギルドの金額まで加算されていた俺の方が金額が多いのも頷ける。

 (ま、ばれなきゃいいか……)

 とりあえず内心の汗を拭って、ケットシーの首都、フリーリアに向かって飛び始める一団を飛行して追う。有難いことに『随意飛行』が出来ないメンバーも(ごくわずかとはいえ)いるようでその速度は超絶飛行苦手野郎の俺でも辛うじてついていける。ついていける、はず。……正直、きつい、が。

 だが、それを承知で速度を上げる。
 アイツに……アリシャに、確認しないといけないことがあるからだ。

 「おい、アリシャ」
 「ん、なにかナ? シド?」

 編隊を組んでの飛行の先頭を行くアリシャに(死力を振り絞ってなんとか)追いついて声をかける。いや、不意打ちしようとかそういうわけじゃないから側近の諸君、武器はしまってくれたまえ。

 「キリトから貰った金額で、軍資金は足りそうか?」
 「ンー……ケットシー用の装備は多分足りるんだけど、ネ……」

 言葉を濁すアリシャ。やっぱり、と内心で舌打ちする。仕方ない。

 口を開きながら同時にウィンドウでメッセージを打ち込む。送り先は、フリーリアに残してきたブロッサムに対してだ。何かあったらいつでも連絡を、って言われていたのだ、ならば今連絡しても大丈夫だろう。

 なんと伝えるかと考えながら、アリシャには、軽く。

 「分かった。《竜鎧》の分の金は、俺が立て替えておく。すぐに準備に取り掛かってくれ」
 「っ!? 立て替えておく、って、トンデモない金額だヨ!? そん金額どこに、」
 「奢らねーぞ?出世払いだからちゃんと返せよ?」

 さらりと、告げる。

 驚くアリシャの抗議を、若干ずれた回答で誤魔化す。そんな金があるんだよ、申し訳ないことに。まあ俺の力で手に入れた金では無いので、この辺で使うのが一番正しかろう。しかし出世払いって。コイツもう既に領主だぞ、これ以上どう出世しろってんだ、と内心では自分で自分に突っ込みを入れてしまうところだ。

 「帰り次第、《天牛車》でレプラコーン領まで向かう。確か今いる飛竜は全部で十頭、あれだけの巨大な金属鎧なら流石に運搬手段が無いと困るだろうしな。多分一日そこそこあれば『虹の谷』を経由してそのままアルンに入れるはずだ。そっちも準備が出来たら向かってくれ」
 「《天牛車》はいいけド、……い、一日ダヨ?一晩中ログインするつもり?」
 「んなくらい、なんともねーよ」

 何ともない。あの世界で俺は二年ログインしていたのだ。たかが一晩など論じるまでもない。

 それに、キリトのこともある。さっきはそれほどでもなかったが、あいつはあのキリトなのだ。アルンに着いたらよほどのことがない限り一気に世界樹へと突っ込んでいくだろうことは、想像に難くない。出来れば何とかして誰か一日ほど足止めしてほしいものだが、今更そうも言えない。

 (リーファが、一日休もうとか言ってくれればな……)

 キリトと行動を共にしていたシルフの少女に想いを馳せるが、それもまあ今更だ。

 とにかく、今は急ぐしかない。やるべきことは多い。
 送ったメッセはすぐに帰ってきた。流石ブロッサム、タイプが速いな。

 『了解しました。急ぎであるならこちらで先に《天牛車》を借りて出発致しましょう。貴方は途中の中立村で追いついて貰う方がいいかもしれません。モモカさんも喜んで同行してくれるそうですので、道中は問題ないでしょう』

 よし。「了解」とだけ書いたメッセージを返す。

 ブロッサムはステータス構成は典型的な魔法使い(メイジ)だが、初めて俺と会った日に見せたその身のこなしと杖を使った打撃もそれなり……いや、かなりのレベルだ。モモカの音楽での支援があれば、道中のMobやそこらの雑魚PK野郎達には遅れは取らないだろう。

 そして、心配そうにこちらを見るアリシャに一礼して、徐々に高度を落としていく。
 落として、落として、そのまま。

 「おおおおっ!!!」

 足を使ってスピードを保ったまま着地、勢いそのままに走りだし、一気に加速。やっぱり俺にはどうもこっちの方が性に合っているらしい。限界までスピードを振り絞っている訳ではない上空のケットシー・シルフ混合部隊よりも速い速度で駆けだし、彼らを置き去りにしていく。

 「お、おいっ、大丈夫なのかーっ!?」
 「こ、ココー、『蝶の谷』のMobもーっ、弱くは無いヨーっ!?」

 後ろから聞こえる、領主二人の声。その慌てた問いかけに、俺は。

 「全部避けてく! トレインしてたらスマン!!!」

 振りかえらずに、叫び声だけを返した。

 
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