ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第3話 リンク・スタート
2022年 11月6日(日) 12:00
少年は、ナーヴギアを片時も離さず、じっと時計を見ていた。その少年は、今日という日を、決して忘れないだろう。待ちに待った日、だから。
「いよいよだ……後1時間だっ」
……もう、開始を待ちきれないようだ。だって、時計を眺めるのが、まるで苦にならない。これは、久しく感じてなかった感情だなのだから。
それもそうだ。
「βテスト……。うんっ!当選しててよかった。ほんとに楽しかったから……これは爺やに感謝感謝、だね!」
今日からがSAOのサービス開始日なのだから。ワクワクする気持ちが、はやる気持ちが抑えられない。……あの世界がもう一度味わえるのだから。あの世界に、還れるのだから。そして、中途半端に終わった以前とは違う。心ゆくまで……遊べるのだから。
「私にとって、それは本当に誉れですな。そこまで楽しんでいただけたのであるのなら……」
「わぁっ!!」
少年は、あまりに興奮していたから、後ろに立っている気配に気づかなかったようだ。いつもなら……驚かないのに、思わず声を上げてしまっていた位だから。
「ほんっとにもぅ……、気づいたら後ろにいるよ。ニンジャなの?爺やは……」
後ろを慌てて振り向くと、呆れるようにそう言っていた。気配が感じないよ、と思ってるみたいだが、今回ばかりは違う。少年が興奮するあまり、周りに目がいってないから、と言うのが正しい。
「ふふ、それほどでもありませんよ。坊ちゃん」
爺やは、直立不動のままで、そう言い笑った。少年は、別に褒めたわけじゃないのだけれどと、苦笑いをして答える。
「あはは、まぁ いいや。爺やちょっといい?」
苦笑いを止めて爺やの正面に身体を向けた。……頼みごとがあるからだ。
「何ですかな?」
「明日からのSAO……。僕、仕事全部キャンセルして打ち込みたいんだっ!」
ずいっと、顔を前に出すようにさせ、表情を輝かせながらそう言う。そして、爺やにナーヴギアを見せる様に掲げて、続けた。
「あの世界……。本当に大したものだったよ!高性能のNPC、Mobもそう。オブジェクトだってそう。触覚・痛覚……等の五感の全ても違和感があまり無いんだ。戦闘に関してはシステム動作……そのモーション以外でも有効だって事もあった。身体能力、ステータスが上がれば上がるほどに活きて来る。運動命令、脳に働きかける力が強ければ強いほどに、ゲーム内でも比例的に向上していくみたいなんだっ!」
それは云わば。
・現実で、力をつければ、今まで上がらなかった重さの錘が持ち上がるようになる。
・必死に走って、練習すればマラソンで時間が短縮される。
・様々な記録更新が出来る。
等、と言う事だ。
このSAOという世界は、それに近い喜びもある。
その上まだまだ興奮する所はあった。
「レベルの設定は、一体何処まであるのかは分らないけど。今のところゲーム内で限界がないのも魅力的だった!」
限界がまだ見えないこと、その事に目を輝かせていた。これまで、やってきたゲームは全てを終えなくても大体理解出来ていた。でも、このゲームは、SAOはまるで先が見えない。色んな意味で、これまでやってきたゲームを遥かに凌駕していた。ここでも流石は、茅場晶彦の仕事だと思えていた
そして、爺やはその姿に少し驚いていた。
聞くところによると、戦闘に関しても行動に関しても、普通に現実で歩いたり走ったりすると体力が消耗するように、ゲーム内での行動は精神力が持っていかれる。
確かに、この少年の頭脳は明晰だ。
文句なしのS級クラス、天才と呼ばれる者だから。でも……精神力がここまで強いとは思わなかったようだ。脳の強さに比例しているのか…?とそう思った。それに、少年はβテストの際も殆どあちらの世界にいた。こっちの世界でモニターする事はできない。
……だからこそ、その身体には、かなり心配だった。
βテストの2ヶ月の期間。
仮想空間から、戻ってきた日は、時間は片手で数えるよりも短い。……身体は夢を見続けている様なものだから、変な話、栄養剤を点滴で体内送り……脳波の状態・心音に最新の注意を行っておれば、余程の年月がたっても、大丈夫だ。そう……、身体の衰えを防ぐのは不可能だが、10年たとうが20年たとうが大丈夫だ。だが、それは最新鋭の設備が要求させられる。それも日本じゃなく世界規模のもの。一般のプレイヤーならかなり厳しい環境だが……。この家はあらゆる物を集められる。
だから、大丈夫……なのだが。それでも、親を自負する自分は心配は尽きない。
「坊ちゃん……確かに、注意を払えば長期的なプレイは可能ですが。……肉体の方の衰えは侵攻してしまいますよ」
爺やはそう心配するように言った。……それもそうだろう。
今回は、βテストの時とは違う。正式サービスだ。故に2ヶ月と言う期間などは無い。構成されたステージの全部クリアするまで……無制限なのだから。
「大丈夫だよっ。知ってるよね?爺や。僕はちゃんとやるってことを。仮に衰えたってリハビリするし、そもそも僕は家から殆ど出ない。日常生活をするくらいの力は直ぐに取り戻すよ。100%リハビリに打ち込めば分けないよ! ……というより、流石にちゃんと戻ってくるよ。爺やに心配かけたくないからね」
少年はそう言って笑った。少年は興味を持った事に打ち込む集中力は驚嘆に値する。勿論、そのことは知っている。傍でずっと成長を見ていたからよく知ってる。だから、ゲームの延長でリハビリが必要なのであれば、さっき言ったとおり打ち込んでくれる。
そして、今まで自分との約束を違えた事は一度も無い。それだけ、信頼してくれているのだから。
「……ふぅ、参りました。わかりました。後の事はこの爺やにお任せください」
軽く笑うと、少年にそう答えた。それを聞いた少年は、ぱぁっ、とまるで擬音が伝わってくるかの様に笑顔に変えて。
「ッ!! ほんとにありがとう!爺やっ!」
今日一日で最高の笑顔。歳相応の最高の笑顔を自分に見せてくれた。
彼にとって 本当に、これ以上の無い誉れだった。
そして、その一時間後。
「10……9……8……」
少年はカウントを行っていた。なぜなら今の時刻は ――10月31日 PM12:59:52――
サービスが開始される十秒前のカウント。
その姿は、まるで≪新年明けましておめでとう≫を言う、新年のカウントダウンの様な勢いだろうか。そして、身を乗り出すかのようにし、表情も一気にこわばらせる。
「3……2ッ!」
身体を揺らせている。……興奮が全く抑えきれない。火照っているかの様に身体の芯が熱い。
「1ッ!!」
『ピーーーーーーー お待たせしました。SAOサービス開始でございます。リュウキ様 心ゆくまで……お楽しみください』
カウントダウンが終わった直後、予め仕掛けていた音声入りタイマーが作動した。それは、彼が片手間で創った高性能のタイマーであり、時刻は0.00001秒でもずれは無い。音声も機械的なものじゃなく人間に近しいもので、その為だけにAIも作った。そのAIは、時間を告げるだけじゃなく、万が一、体に異常等があれば、すぐさま爺やのモバイルにも伝わるようにリンクもつけてあ。
それだけの準備もしている事を爺やに伝えたら更に呆れられてしまった。けれど、とても安心したとの事。
「じゃあ!爺や!後の事……よろしくね」
少年は、振り返ると笑顔でそう告げる。
「お任せください。また、帰ってきたらお教えください。思い出を……。」
「うん!行ってきます」
そう言い≪ナーヴギア≫を頭に装着した。そして、ベッドに横になり、あの言葉を言う。
自分を異世界へと誘ってくれる魔法の言葉を。
「リンク・スタート!」
その言葉と同時に、瞼を閉じて真っ黒になっていた目の前の空間が変わった。真っ白な世界が広がり、そして様々な色が出現した。
そして、設定画面が表示される。まず初めの五感チェックが行われるのだ。
□ □ □ □ □ □ □
Touch……OK
sight……OK
Hearing……OK
Taste……OK
Smell……OK
□ □ □ □ □ □ □
『……五感チェックはまるで、問題なし……と。嫌だもんね。あの世界で五感に異常があったら……』
仮想空間内での五感のチェックを済ませ、続いて次の設定。
□ □ □ □ □ □ □
Language……。
□ □ □ □ □ □ □
『……何語でも問題ないけど。まあ、今現在は日本だし』
彼は、仕事上で必要であればと、主要の何カ国かの外国語をマスターしているのだ。が、今は日本のみのゲームだから日本語に設定をした。
□ □ □ □ □ □ □
Language……『Japanese』
□ □ □ □ □ □ □
これで本当の初期設定は終了。そしてその後に。自身の持つオンラインのログインIDとパスワードを入力する。
□ □ □ □ □ □ □
Log in_:: :account ********** :password **********
□ □ □ □ □ □ □
本来なら、この後にキャラクター登録をするのだが、βテスト時に登録したデータがある為、省略される。
□ □ □ □ □ □ □
キャラクター登録
βテスト時に登録したデータが残っていますが使用しますか?
Ryuki(M)
YES NO
□ □ □ □ □ □ □
それあ勿論 《YES》。
以前、βテストをした時のデータがあるわけでも、有利性アドバンテージがあるわけではないが、変えるつもりは無いから。
そして……ついに、幕が開く
□ □ □ □ □ □ □
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□ □ □ □ □ □ □
全ての工程が終了し、再び真っ白空間に戻った。暫く幻想的な光景を目の当たりにした後、再び目の前の空間が真っ黒になる。
……そして、ゲームが始まったのだった。
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