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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第三十三章 辰の地、戦火は走る《4》

 
前書き
 騎神が出撃し、戦場はどうなる?
 いざ、スタート。 

 
 西貿易区域周辺の一部、日来の学勢達が群れの如く迫る敵を倒していた。
 正面に貿易区域を置き、守るように陣取る黄森と辰ノ大花の者達と戦闘を行っている。
 均衡しているが時折黄森と辰ノ大花との連携が上手くいっていたいため、その穴を突くように日来勢が勢いを増して攻める。
 それが実力が劣る日来が、均衡を保てている理由だ。
「向こうは殺しに来ているのに対し、こちらは身動きを取れないようにするだけとは。縛りがきつ過ぎる気がするが」
「殺しに来てるよりも、負傷させるような動きですわ」
「ふむ、生け捕りにして責任でも負わせる気だろう。その方が少なからず利益を得て、日来は逆に損失を得ることになるからな」
「つまりは日来の再起を防ぐ役割も持つんですねー」
 前線で機竜であるトオキダニに乗るロロアは、正面に横に広がる大型の防御盾を展開しながら言う。
 呑気に話しているものの、残りの外部流魔に注意しながら慎重に使う。
 金銭のやり取りや奉納により流魔は得られるのだが、大量に流魔を得るにはそれなりの奉納が必要となる。
 それに外部流魔は基本、札に納めたり結晶化して系術や加護やらを使う時には内部流魔の変わりにそれを使う。
 しかし、問題は携帯出来る量に限りがある点である。
 持ち運びや携帯のし易さから外部流魔を札に納めて持ち運ぶのが一般的だが、札だと少量しか納められないため自分には不向きだ。
 だから、拳くらいに結晶化し持ち歩いている。制服がダボダボなのもポケットを広くし、多くの流魔結晶を持ち運ぶためだ。
 てか、それやってたら何時の間にか基礎体力とか脚力とか鍛えられていたんですよね。
 すばしっこくなったのも、大半はこれが原因だ。
 トオキダニが動くため小柄な身体を揺らしながら、両の手を前方に向けたまま後方を向く。
「防御盾が壊れそうなので皆さん急いで下さーい」
 この“急いで”とは、攻めろと言う意味ではない。今はしばしの休憩を挟んでいるところだ。
 日来の学勢達は実戦経験が無いに等しい。そのため無駄な動きをしてしまい、鍛えた体力を無駄に使い疲れが溜まり易い。
 “急いで”とは、体力を早く回復しろ、と言う意味である。
 大型の防御盾と言えども大きさには限りがあるので、守り切れない範囲から敵が沸いて出るように攻め込んで来る。
 それを外側にいる者達が内側にいる者達と交代しながら、お互い身体を休めながら戦っている。
「急いでって言われても、どうしようも出来無い状態なんだけどね」
「口動かすんだったら身体動かしてよ」
「ははは、妹はシビアだなあ。それじゃ何時まで経っても嫁にはなれないぞ」
 爽やかな表情をしていたグレイが何かの勢いで、展開していた大型の防御盾を突き破り敵陣へと吹き飛んだ。
 当然、防御盾には大きな穴が空き、敵陣前方にいた辰ノ大花の者達が向こう側から顔をひょこっと出した。
 私も壁に穴が空いてたら同じことしますよ。気になりますよね、穴の向こう側。
 何故だろう。粘る汗が額から出てくる。
 笑うも、その笑い声は徐々に小さくなっていく。
 声が止んだ時、周囲が静まり返っていたことに気付く。
 妙な空気がこの場を支配し、動く者は誰もいなかった。
 しばし間が空いた頃、
「おい、防御盾にひびが入って行くぞ」
 鎧甲に覆われた腕を挙げ、皆はトオキダニの手が指す先を見る。
 ロロアが展開していた大型の防御盾が、先程空いた穴を中心にひびが入って行き、それが全体に走っている。
 現実から目を反らそうとしたまさにその時、自分達と敵の間を遮っていた壁が砕け散った。
 盾は塵となり風に吹かれ、何処へと消えていった。
 今度は妙な沈黙がこの場を支配した。
 敵はこの事態に身体が動かなかった。今まで一度も遭遇しなかった場面であったため、その対処の動きが即座に取れなかったためだ。
 だが、そこは幾多の戦いを積んできた者達。
「と、突撃――!」
 誰かが言い、その声に目が覚めたように動き出した。
「「お、おおお――――!!」」
 正面から敵が群れで襲いに来るのを見て、休んでいた日来勢は焦りながら戦闘を開始した。
 戦闘組は別の方の敵と交戦中のため援護は頼めない。後方にいる援護組には距離を取って負傷者の手当てに専念さてもらっているため、後方支援は期待出来無い。
 そもそも援護組は幼い高等部一年生主体で組まれているため、援護が出来たとしても迷惑になることが考えられる。
「ち、違うんだよ! 別に皆に恨みがあるわけではなくて、蹴った方向に防御盾があっただけで!」
「言い訳は後で聞きますわ! ならばここは奥の手……マッチで一掃しますわ!」
 叫ぶテイルを後にして、覇王会隊長として一つのことを判断する。
 言葉に応じるように、数メートル後方から大ジャンプで地面に土煙を上げ着地する者がいた。
 布で顔全体を覆い、制服のズボンだけを身に付けたマッチが左肩に天布を背負い、日来勢と敵との間に現れた。
 二メートルを越える巨体が目の前に現れ、後退りする敵に対しマッチは右手に握っていた特注の戦闘用バットを上げ、左に大きくスイングした。
 バットだけでもマッチと同じ大きさなのだから、その攻撃範囲は広く、巨体に似合わぬ素早いスイングで回避が間に合わずに多数の敵がヒットした。
「ホームラ――ン!」
 肩に載っている天布の言葉通り、バットにヒットした敵がかなりの距離吹き飛んでいった。
 更に吹き飛んだ敵が落ちる場所にも敵がいるので、落ちる味方にヒットする者もいた。
 敵はマッチから距離を離し、逃げるように他の箇所から攻めようとするがマッチがバットを適当で乱暴に振り回し敵陣のなかを移動する。
「馬鹿野郎、こっち来んな! 巨大な奴が来るだろうが!」
「これからって時になんでこうなるんだよ!」
「幾ら怪我がすぐに治るからって痛いのは勘弁だぞ!」
「てか、あいつ鼻歌しながら襲ってくるぞ。 日来ってのはこんな化け物がいるところなのかよ!」
 これは味方から見ても、素直にその光景は喜べるものではなかった。
 逃げる敵を鼻歌を奏でる巨体が、背後からバットを振りながら追って来るのだ。布は巻かれていないが、暗くて見えない目の部分から光るマッチの眼光が恐怖を更に強くさせる。
「計画通り……! ですわ」
「デスノートブックの台詞ですよね、それ。表情も似せて悪役感たっぷりですよ」
「幾ら実力があると言っても、マッチを相手にしてはそうはいきませんわ。何故なら戦闘を行う前に倒してしまいますもの。ふお――ほっほっほっ!」
「ほんと悪役感たっぷりネ。これはさすがに引くナ」
「思い通りに行くと上機嫌になる点は母親そっくりだな」
 高らかに笑うネフィアを見て、ルヴォルフは彼女の母のことを思った。
 それはそうと、マッチ一人ではこの状況は変わら無い。むしろ前方の味方がいなくなったことにより、後方で長銃を構えている黄森が精密な射撃を放ってくる。
 殆どの者は防御系加護により負傷は免れているが、その分流魔を食うため残量が心配だ。
「マッチ! バットを振り回しながら敵陣を二つに割るように一直線に行け。半分はマッチの後に続き、後方の黄森を潰しに行くぞ」
 これを聞き、マッチは後方にいる黄森目掛けて攻めて行く。
 彼は天布により、二人共加護に守られている。何故、天布が付いて来たのかと初め見た時は思ったがこのためだったのかと理解する。
 敵を蹴散らすマッチの後ろをルヴォルフが行き、後から仲間が付いて来る。
 速度を上げ突き進むが、行き過ぎで一つの陣形を越えてしまった。
 しかし、後方には付いたので叩き潰しに行く。
「距離にしてみれば結界までまだ距離はあるが、ここら辺の敵もあらかた集まって来ているようだからな。ここを切り抜ければ距離を一気に詰められるだろう」
 余所見をしている彼の顔すれすれに実弾が飛んで来たが、地面に一蹴り入れ軽く避ける。
 そして一人の敵を目標に定め、今度は強く地面を蹴り飛ばし持っていた長銃に手を伸ばす。
 敵が逃げようとする頃には手は長銃を掴み、力任せに振り抜いて奪った。
 目の前で折り曲げ、こちらの力を見せ付ける。
「ふっ、柔らかいな」
 一部が鉄なだけで、後はプラスチックや軽量化を狙った合金などで出来ている。
 獣人族に対しては曲げ易いだけの、ただの長銃に過ぎない。
 戦闘は今や乱戦とも言えるような状態で、敵味方が目まぐるしく入り乱れている。
 こんな状況では長銃は役に立たないと、黄森の者達は片手に腰に下げていた短剣を握り戦う。
 辰ノ大花の者達は元々刀を持っているため、それで応戦していた。
 鉄と鉄がぶつかり、弾ける音が響くと同時に雄叫びの声が上がる。
 疲れを吹き飛ばすような、勢いを上げるようなそんな声が周りから聞こえる。
 これが戦闘だ。
 一瞬たりとも油断出来無い、視界を、手を、足を動かし敵を倒す。
 元々、戦いを好む獣人族特有の感覚が目覚めていく。
 敵が来て刃物を振り下ろすのならば、直線的な軌道を読み、避け、横から腹部へ拳を捩じ込ませる。
 骨の無い腹部への打撃は、瞬時に腹筋に力を入れなければ腹を押さえ、衝撃が内臓に届いてしまいしばらくは踞る程の痛みだ。
 楽しんでいるためか、自然と拳に力が入る。
 敵が男でも女でも関係無い。戦場に立っているのであれば敵は敵だ。
 女相手には手加減しろ、と言われるかもしれないがそれは間違いだ。それは相手が女と言う見た目だけで弱いと判断する、最も危険な判断だ。
 如何に弱く目えても、能ある鷹は爪を隠すと言われるように本当は強いかもしれない。
 弱そうに見えて実は強い、と言うケースの敵はかなりの実力者だ。
 実際に会ったことはないが、そう思うしそう教えられた。
 だから手加減はしない。どんな敵が来てもいいように。
 しかし、自分でも敵わないものや苦手とするものは多くいる。
 その一つが、
「この音は?」
 大気を切り進むような音が聴こえる。
 周りの音でよく聴こえないが、耳がそんなような音を捕らえている。
 答えを知らせるように、周りに映画面|《モニター》が表示された。
『緊急報告! 今、君達の元に辰ノ大花の騎神が近付いてるよ。数は三機、その内二機は量産機だけどもう一機が隊長機だ』
「ちょっと待ってくださいよ。ここで騎神と戦えるのって神具を持ってるネフィアだけですよ。一人で三機も相手にさせる気ですか」
 映るレヴァーシンクに声をぶつけるロロアに対し、もう一つの映画面が表示される。
 そこにはアストローゼとニチアが映っている。
『そんな無理なことはさせるか。日来周辺の戦闘艦は私達でどうにかする、だから入直とマギトをそっちに向かわす』
『そう時間は掛からないと思うけど、無事生き残ってね』
「他人事! 仲間なのに他人事で済まされましたよ!」
『貴重な空中戦力を渡すんだ。少しは礼を聞きたいものだな』
 はいはい、と話を無難に流す。
 睨んで来たが映画面はすぐに消えたため、続いている戦闘へ戻る、
 そんななか、レヴァーシンクはネフィアに言う。
『今いるところだと騎神との戦闘で周りにも被害が出る。だから、そこから真っ直ぐ東側へ行くと町民グラウンドがあるんだ。そこまで騎神を誘導出来るかい』
「一機なら余裕ですのに、三機となると難しいですわね。まあ、やってみますわ。日来覇王会隊長も侮れないということを思い知らせるいい機会になりますし」
『なら、宜しく頼むよ』
 そう言い、映画面は消えた。
 見届けた後に、ふう、と一息吐く。
 隙を得たネフィアに二人、黄森の者が襲い掛かって来るが、攻撃が届く前にネフィアは土を蹴り飛ばし宙へ行った。
 攻撃が抜ける音が聞こえる頃には、高く十数メートルもの大ジャンプをしていた。
 宙にいるにも関わらず姿勢は崩れず、視線を北側へと向ける。
 西貿易区域の真上か、またはそれよりも後方に三つの光るものがある。
 騎神であることは先程のことで知っている。
 光の正体は太陽光が騎神の装甲に反射して、その反射した光が今は見えているのだ。
 反射すると言うことは自分の位置を敵に知らせるようなものであるため、あれは実戦用ではないことは理解出来た。
 日来相手に実戦機を使うまでもない、と言うことか。
 ナメられて怒りが込み上げて来ますが、幸運だと喜ぶべきなのでしょう。
 ジャンプの高さがピークを向かえ、今度は落ちる時。三つの光に一つの光が加わった。
 光の後から音が聴こえ、その音は銃系統のものだ。
 一つの光は加護を得ているのか一度加速して、距離を一気に縮めて来た。
 狙いは自分だ。
 直感的に判断し、右手首に掛けていた銀輪を鞭状に変化させた。
「弾け、銀冠|《ジィルバーンクローネ》!」
 それから数秒もしないで光は流魔弾と分かる位置まで来たが、目で追えない速度ではない。
 冷静に鞭を操り、宙で振り抜いた。
 鉄が何かに思いっきりぶつかったような、高い音が響き渡った。
 ぶつかった時の衝撃で流魔弾が砕け散り、一方のネフィアが持つ銀の鞭は無傷だった。
「これで注意はわたくしに向いた筈。言われた通り町民グラウンドへと向かいましょう」
 落ちる身が地面に触れる前に、鞭を近くにあった家の屋根へと突き刺し、先端を三本の鉤爪に変形させる。
 瓦の屋根に鉤爪は食い込み、銀冠を縮ませることで宙での移動を可能にした。
 町中での戦闘は建物が密集している所、そうではない所など様々だ。
 今さっき、自分達が戦闘をしていた所は家がある程度の距離を置き建てられているが、見晴らしが良過ぎるため絶好の的だ。
 騎神はあの距離からこちらを狙ってきたのだ。当然、仲間達も射撃範囲内に入っているだろう。
 早くここから離れなければ仲間に被害が及ぶと判断し、屋根に着いた両足を素早く動かし次の屋根へと飛び移る。
 反射する光が近付いて来る。加速機を噴かせる音と大気を裂く音と共に。
 屋根から屋根へ飛び移り、その間、騎神の銃撃に会いながらも町民グラウンドを目指してネフィアは一人進んで行った。 
 

 
後書き
 ネフィアちゃんは一人、騎神の相手をしに行ってしまいました。
 と、今回は系術についての説明を。
 系術とはRPGで言う魔法です。
 MPの代わりに流魔を消費して発動し、系術によっては前払い形式のものもあります。
 系術には沢山の種類があり、“○○○系術”と表記、言われます。
 そのなかでも禁忌系術は最も使用者が少ない系術で、セーラン君が使う準禁忌系術である流魔操作の上位版ですね。
 禁忌系術なのですからとにかくデメリットがかなりでかく、命を糧とするなんて当たり前です。
 そして特別な枠に創作系術と言うものがあり、これは存在している系術と系術を合わせるやら、または術式自体を変換するなどし一から創られた系術を言います。
 パズルみたいに創れるので、得意な人は多くの創作系術を創れます。
 商品登録みたいに系術登録もでき、使うなら使用料払えよ、と脅し染みたことも出来てしまうのです。
 これを商売としている人もいますが、才能が無いとやっていけない商売ですね。
 勿論、強い系術程多くの流魔を使いますよ。
 また金銭系の神を信仰しているのであれば、流魔ではなく金と引き換えに系術を発動出来ます。
 厳密に言いますと、金を払えば信仰している金銭系の神が払った金の額と等し量の流魔を肩代わりしてくれるのです。

 MP100の魔法を使いたいけど自分、MP50しかないよ。どうしよう……。
 あ、そうだ! 後足りないMP50を50円支払って神様に足りない分のMPを肩代わりしてもらおう。

 みたいな感じです。
 そんなに安くはないですけどね、流魔は。
 足りない量以上の金銭を支払ってしまった場合でも、神はケチではないのでお釣りとしてきちんと返してくれます。
 安心してください。
 では、次回は魔法術師のあの子から始まります。
 お楽しみに。 
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