トーゴの異世界無双
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第五十七話 一応人間になる……いや、違うか?
王国に着くと、大きな袋を買って、その中に魔物の討伐部位を入れる。
もちろん、改変魔法で元の大きさに戻しておいた。
かなりの重さだったので、少し魔力を使って筋力を上げる。
ちなみに袋を買った金は、以前クィルにもらったものだ。
闘悟が依頼を受けた理由の一つとして、この時借りた金を返すためでもある。
ギルドに到着すると、また多くの視線を受ける。
それもそのはずだ。
依頼に出たのは今日で、まだそれほど時間が経ってはいない。
それなのに、意気揚々(いきようよう)と大きな袋を担いだ少年が現れれば、誰でも不思議に思う。
「ど、どうしたんですか? やっぱり依頼はキャンセルですか?」
受付嬢のアンシーが不安そうに声を掛けてくる。
まさか、ものの数時間で依頼達成できるとは思っていなかったので、短時間で戻って来た理由として、不達成だと思ったのだ。
「いえいえ、終わったから戻って来たんですけど?」
その言葉に、聞いていた者は多大な衝撃を受ける。
もちろんアンシーも例外ではない。
「お、終わった……? 終わったって……今日受けた依頼をですか?」
「そうですよ?」
「ほ、本当ですか?」
「証拠はこの中ですよ」
闘悟は袋を下に置き、口を開く。
そこには数えきれないほどの、討伐部位があった。
「……か、確認させて頂きます」
「お願いします」
アンシーは恐る恐る、袋の中から中身を取り出していく。
「こ、これはっ!? サーベルコングの牙!? こっちはベアアントの触覚!? スクエアスネイクの鱗(うろこ)で……っ!?」
アンシーは一つ一つ取り出す度に声を張り上げる。
ちなみにこれらの部位はステリアに教えてもらい回収した。
「……え?」
そして、最後に全身を震わせて呟く。
「ガ、ガルーダの……角?」
その時、他の者達まで注目し始めた。
口々に「ガルーダ?」とか「嘘だろ?」など、現実を直視できないといった言動が耳に入ってくる。
「こ、こ、これ全部……トーゴさんが?」
「はい。あ、そのガルーダが巨大生物の正体だったみたいですよ?」
そうやって軽く発言する。
アンシーは角を手にして硬直したままだ。
その時、受付の奥からジュネイが現れた。
「もう帰って来たのかい?」
「ジュネイさん。はい、案外早く終わったので」
「そんなに簡単な依頼じゃないんだけどね……ん? アンシーどうしたんだい?」
固まってるアンシーに声を掛ける。
「こ、これ……」
アンシーは青い顔をしながら、角をジュネイに見せる。
すると、さすがのジュネイも目を開きそれを素早く手に取る。
「ガ、ガルーダの角? しかもこの色は……亜種(あしゅ)かい?」
「みたいですよ」
「……それにここにある素材……」
牙や触覚にも目をやる。
「お、驚いたね……想像以上だよ……」
「ええ、信じられません……」
二人は闘悟を見つめてくる。
う~ん、そんなに見つめられると照れるな。
「と、とにかくご苦労だったね。アンシー、鑑定に入りな」
「は、はい!」
「しばらく時間もらうよ?」
「構わないですよ」
闘悟は鑑定が終わる間、掲示板を見て時間を潰していた。
へぇ、いろんな依頼があるんだなぁ。
引越しの手伝いや草むしりなんていうのもある。
だが、中には護衛の依頼や、危険度が高い討伐依頼もある。
ヒマができたら、いろんな依頼を受けてみるかな。
そんなことを考えてると、アンシーに呼ばれた。
どうやら鑑定結果が出たようだ。
「ぜ、全部本物でした……これで依頼は完了です。お、お疲れ様でした……」
「いえいえ」
闘悟はにこやかに返事をする。
それを見たアンシーは大きな溜め息をつく。
「はぁ……こちらは、その報酬となっています」
そうやって、大きな器の中には、大量の金貨や銀貨があった。
「本来なら、この依頼達成の報酬は金貨三枚なんですが、依頼用紙にも書かれてある通り、状況に応じて報酬は変化します。今回は対象がAランクの魔物だったため、報酬も跳ね上がります」
他にも大量に魔物の部位を狩って来たので、その分の換金もしてもらった。
だからこその大量の金銀貨なのだ。
闘悟は器の中を見ると、見慣れない貨幣(かへい)があった。
「これは?」
「白金貨です」
「え? 白金貨って、一番高価の?」
「はい」
確か、日本円で百万だった。
それが、一枚だけだが混入していた。
「こ、こんなにもらっていいのかな……?」
正直言って、あまりにも高額だったため、現実味が無かったのである。
だが、アンシーは軽く頷いて答える。
「妥当な報酬です」
「はぁ……」
「信じられないのも分かりますが、それは私達も同じ気分ですよ?」
そうだろうね。
彼女の疲れたような表情を見て納得する。
「この短い時間での依頼達成もそうですが、一人でこれほどの魔物の討伐をするなんて、ハッキリ言って異常ですよ?」
「はは、そうですか?」
「そもそも『アクォース山』までは、ここからどれだけ遠いと……」
うん、往復で百六十キロ以上あるな。
それを半日もかけずに依頼を達成して戻って来た。
「それにガルーダまで……規格外過ぎますよ……」
「あまり細かいことは気にしない方がいいですよ?」
「……本当に人間なんですか?」
「そのはずですけど?」
まあ、今日改変魔法で名実ともに人外になりましたけどね、とは言わなかった。
そんなことを言ってしまえば、それこそ卒倒しそうだったからである。
アンシーは諦めたように、もう一度大きく溜め息を吐く。
「……分かりました。新たな依頼を受けますか?」
「いえ、今日はもう止めときます」
「分かりました。お疲れ様でした。またお願い致します」
「は~い。あ、そうだ! アンシーさんにこれ上げます」
闘悟はポケットの中から一枚の羽毛を取り出す。
「……えっ!? こ、これはガルーダの?」
目を大きく見開き確認する。
「そう、良かったらどうぞ?」
「え? で、でもいいんですか? これって、換金すればそれなりの……」
「ああ、いいですいいです。これは換金用に取ってきたやつじゃないですから。はい、どうぞ」
しばらく闘悟の手元を見ていたアンシーだが、微笑んでいる闘悟を見て頷く。
「あ、ありがとうございます!」
そうして、羽毛を手に取る。
「うわ~綺麗……」
彼女は嬉しそうに頬を緩ませている。
火のように赤い羽毛は、宝石みたいにキラキラと輝いている。
まるでルビーのようだ。
「それじゃ、また来ます」
「あ、ありがとうございました!」
闘悟はそれに答えるように片手をヒラヒラさせる。
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