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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第九話 王と謁見か……まさにファンタジー

「姫様っ! クィル様!」
「ミ、ミラニ!?」


 クィルは驚きの表情でミラニと呼んだ女性を見ている。
 闘悟も同じように視線を向ける。
 緑色の髪の毛がとても印象的だ。
 少し釣り目だが、スタイルは抜群だ。
 そう、胸部的な所が特に抜群である。
 鎧に包まれていてもそれが認識できるくらいふくよかなのである。
 ついつい視線がそこに向かうのは、男として仕方無い。
 だが、少し見過ぎてしまったのか、ミラニはキッと睨みつけてきた。
 闘悟はすかさず目を逸らす。
 誤魔化せたかなと思っていると、クィルが話し出す。


「ミ、ミラニ、これはですね」
「言い訳は聞きません! 勝手に宮殿を抜け出すなど、何を考えておられるのですか!」
「そ、それは……」
「我々がどれほど心配したと思ってらっしゃるのですか!」


 よく通る声で怒声を浴びせる。
 クィルも言い返せないのか、項垂(うなだ)れてしまっている。
 闘悟はそんな彼女を苦笑してみる。
 クィルに非があるとはいえ、情が湧くくらいは彼女を気に入ってしまっていた。
 仕方ねえな。


「まあちょっと待て」
「何だ貴様は?」


 鋭い視線をぶつけてくる。
 闘悟はそれに意を返さないように話す。


「何もこんなところで怒鳴らなくたっていいだろ? 注目も浴びちまうし、何よりいつまで姫をこんな格好させとくつもりだ?」


 クィルは未だにフードを被ったままだった。
 体を覆(おお)っているローブも決して綺麗とは言い難いものだ。
 とても、一国の姫がする格好ではない。
 それに気づいたのか、ミラニはハッとなる。


「う、うむ、それも一理ある。さ、姫様、宮殿にお戻り下さい」


 少し柔らかくなった言い方で先導する。
 案外物分りはいい方なのかもしれない。


「トーゴ様……」
「早くその実を持ってってやれ」
「は、はいです!」


 花が咲いたようにパアっと笑顔になる。


「あ、トーゴ様も是非宮殿に来て下さいです!」
「え?」


 突然の勧誘に闘悟だけでなくミラニもキョトンとする。


「ク、クィル様! 何を仰っておられるのですか! そんなどこの馬の骨とも分からないような輩を宮殿に招くなど!」


 馬の骨で悪かったな。
 煮込めばいいダシがとれるかもしれないだろ?


「トーゴ様は私の命の恩人なのです! そのような言い方しないで下さいです!」


 一際大きな声で怒鳴るクィルを見て、その場にいた全員が言葉を失う。


「さ、トーゴ様。行きましょうです!」


 そう言って、闘悟に声を掛ける。


「え? い、いやでも……」


 すぐ近くに凄い視線を送ってくるポニーテール所持者がいるんだが……殺されないよな?
 いきなり後ろから切りかかられそうな感じがする。
 闘悟は警戒しながら城へと向かう。





 宮殿はやはり大きい。
 まさに白亜(はくあ)の宮殿と呼ぶのに相応しい建物だ。
 闘悟は客間に案内され、ここでしばらく待っているように言われた。
 すると、しばらくしてメイドらしき人が現れた。
 メイドが言うには、王の間まで来てほしいとのことだった。
 ということは、これからこの国の王、つまりグレイハーツ王に謁見(えっけん)するということだ。
 闘悟は事態を素早く理解して、王の間に案内された。


「ほう、本当に黒い髪に黒い目だな」


 声を出した人物を見て最初に思ったことは、若いなということだった。
 玉座に座っているので王には違いないだろう。
 だが、外見は二十代だ。
 とてもクィルのような娘がいるとは思えないほどの外見をしている。
 闘悟が黙って観察していたせいかは分からないが、王はフッと笑って答える。


「いや、悪い。どうか楽にしてくれていい。俺もその方がいい」


 片膝をついていた闘悟は言葉通り、楽にしようとそのまま立ち上がる。


「ふむ、クーに聞いたが、危ないとこを救ってくれたんだってな?」


 クー? ああ、クィルのことだな。


「はい、まあ成り行きで」
「ついでにパムのために『フワの実』まで見つけてくれたそうじゃないか」
「……パム?」
「ん? ああ、クーのペットだよ」


 ああ、世話してるって言ってた生物のことか。


「ところで、タイガラスを一発で倒したと聞いたんだが?」


 王の目がキラッと光る。
 子供がおもちゃを見つけた時のような目だ。


「ええ、まあそうですね」
「しかしよ、どうも信じられないんだよな。見たところ、冒険者には見えねえ。というか、戦いに準じる者には到底思えねえ。それなのに、あのタイガラスを一発で吹き飛ばした。…………一体何者なんだお前さん」
「答える義務は無いと思いますが?」
「き、貴様っ! グレイハーツ王の前だぞ!」


 知ってるよ。
 でもよ、王の前だから何だっての。


「オレはこの国の民じゃない。王に屈する理由は見当たらないが?」
「な、何だと……?」


 さっきから声を掛けてきてたのは、やはりミラニだった。
 闘悟の発言で、今にも飛びかかって来そうな勢いだ。


「まあ待てって」

 制止をかけたのは王だった。


「で、ですが!」
「確かに、得体が知れない男だが、クーを助けてくれたのも事実だ。下心があっても無くってもな」


 闘悟は苦笑する。
 この王は、自分が国に取り入ろうとしてクィルを助けた可能性を示唆(しさ)している。
 それとも、この国を内部調査するスパイの可能性も持っているのかもしれない。
 なるほど、ただのお飾りの王とは違うというわけだ。
 王は王らしく、強(したた)かさも用心深さもしっかりと持ち合わせているということだ。
 これがクィルの父であり、このグレイハーツの国王。


「そうですね、下心ならありますよ」


 闘悟の言葉に周囲に緊張が走る。
 兵士やミラニは剣の柄に手を掛ける。
 王も真剣な表情でこちらを見つめる。


「……聞こうか?」


 闘悟は笑って答える。


「この世界の……知識が欲しいんです」

 
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