ドン=カルロ
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第三幕その三
第三幕その三
「自分が何故ここにいたかわかってしまうぞ」
「どういう意味ですの!?」
「貴様が殿下を誘惑しようとしていたということは容易に想像がつくということだ」
「フフフ」
公女はその言葉を鼻であしらった。
「それは貴方もそうではなくて!?」
「何!?」
「貴方が殿下をフランドルへお送りしようとしていることも知っていますのよ」
「クッ・・・・・・」
ロドリーゴはその言葉に一瞬怯んだ。だがすぐに態勢を取り戻した。
「私は殿下を王として正しき道に御導きしているだけだ。貴様の様に卑しい道へ誘おうとしているわけではない」
「卑しい道ですって!?」
公女はその言葉に対し眉を吊り上げた。
「そうだ、貴様のその心と同じくな」
彼は気付かなかったが言葉が過ぎた。それが取り返しのつかないことになろうとは神ならぬ彼はこの時気付いていなかったのだ。
「今の言葉、よく覚えてなさい」
彼女は怒りに満ちた眼差しで彼を睨んだ。
「牝獅子の心臓を傷つけたこと、必ず後悔させてやるわ」
「フン、何が牝獅子だ」
ロドリーゴはその言葉を蹴り飛ばした。
「貴様は狐に過ぎん。狡賢い女狐だ」
「女狐ですって!?」
彼女はその言葉に顔を紅潮させた。闇夜の中でもそれがはっきりとわかった。
「その言葉、許せませんわ!」
「許す!?私をか!?」
ロドリーゴはそれに対し睨み返した。
「私は貴様などに許しを乞ういわれはないがな」
「フン、それはどうでしょうね」
だが公女も負けてはいない。
「いずれ貴方と殿下は私の前に跪くでしょうね」
「まだ殿下に危害を及ぼすつもりか!」
彼の怒りは頂点に達した。腰の剣を抜いた。
「あら、どうするつもりですの!?」
「そこになおれ、成敗してくれる!」
彼は公女に剣を突き付けて叫んだ。
「ロドリーゴ、止めろ!」
そこにカルロが割って入った。
「殿下、止めないで下さい、この女は殿下に危害を加えようとしているのですぞ!」
「だが相手は女性だぞ!」
「そのようなことは関係ありません、殿下を御守りする為です!」
「あら、麗しい忠誠心ですこと」
公女そんな彼をせせら笑ってそう言った。
「クッ、減らず口を!」
「ロドリーゴ、落ち着け!」
だがそんな彼をカルロが制止した。その言葉にロドリーゴも次第に落ち着きを取り戻してきた。
「はい・・・・・・」
彼は剣を収めた。そして公女を睨んだまま言った。
「その命、今は預けておこう。殿下に免じてな」
「有り難き幸せ」
彼女は悪びれもせずに昂然と顔を上げてそう言った。
「殿下」
そしてカルロに対して顔を向けた。
「お気の毒に。もうすぐ貴方は奈落の底に落ちますわよ」
「・・・・・・・・・」
カルロはそれに対して顔を青くさせたままであった。
「言ってみろ」
ロドリーゴはそんな彼を庇い公女を睨んだまま怒気を含んだ声で言った。
「そうすれば貴様は神の裁きを受けるだろう。そして一生後悔することになるだろう」
この言葉も奇しくも的中する、だが公女もロドリーゴもそれはこの時は知らなかった。
「それはどうかしら」
彼女はロドリーゴのその言葉を鼻で笑った。この時は。
「精々今はその忠誠心を誇りにしてらっしゃい」
そして激しい炎を口から吐き出した。
「今のうちだけね」
そしてその場を立ち去った。あとにはカルロとロドリーゴが残った。
「殿下」
ロドリーゴはカルロに歩み寄った。
「何か大事なものをお持ちでしたら私に預けて下さいませんか?」
「君にか!?」
「はい」
「しかし君は父上の腹心なのだろう」
「私を疑うのですか!?」
彼はそれを聞いて哀しい顔をした。
「いや」
カルロは首を横に振ってそれを否定した。
「君の心は今見せてもらった」
彼は先程のロドリーゴの行動を見て言った。
「君は私の本当の意味での友人だ。今の君の行動を見てそれがわかった」
「殿下・・・・・・」
ロドリーゴはその言葉に深い感銘を受けた。
「僕は何があろうと君を信じる。だから君のこれを授けよう」
そう言うと懐からあるものを出した。それは一枚の書類であった。
「有り難うございます」
ロドリーゴはそれを受け取ると感謝の言葉を述べた。
「殿下の御心、確かに受け取りました」
「頼んだよ、僕は全てを君に預けた」
「はい!」
二人は強く抱き締め合った。それは友情の熱い抱擁であった。
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