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管理局の問題児

作者:くま吉
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第5話 問題児達が訓練をするそうですよ?



 それから30分後、リクはライトニング分隊、レイとアキはスターズ分隊という風に別れた。
 完全に面倒な奴をフェイトがなのはに押し付けた構図になっているのだが、人に何かを教えるのが本職であるなのはと、教官資格を取得しているヴィータがいるというのを全面に押し出したフェイトの勝ちといえる。
 押し付けられたなのはとヴィータは顔面蒼白していたが。

「じゃあ早速訓練を始めようか」

 結構無駄な時間を浪費した気もしないでもないリクだったが、空気を呼んで自重する。折角レイやアキが率先して面倒や奴ポジションを構築していっているのだから、リクはあの二人に比べれば大分マシ…というか結構いい奴じゃね?的なポジションを狙っていた。
 まあ、酒に酔わなければ比較的まともなので、リク自身が思うよりも、隊長陣(特になのは、はやて、フェイト)からの印象は既にかなり友好的だ。

「今回の訓練は、新たに人員が加わったから、スターズ分隊、ライトニング分隊に分かれてやろっか」

 なのはのその言葉で、それぞれの分隊で別れ、訓練が始まった。







 ライトニング分隊の訓練は、まずは基礎的な訓練から始まっていた。
 基礎体力を作るランニングや、戦闘における基本的な動きなど、様々だ。

「はあ、はあ、はあ」

「はう~、き、きついよぉ」

 エリオ、キャロのようにまだ身体が出来上っていない二人には、この訓練はきつい様で、玉のような汗をかいている。

「確かにこの基礎訓練はきついな」

 と、息切れ所か、汗一つかいていないリクが、二人を慮りそう言う。が、まるで堪えていないその姿を見ると、馬鹿にされているようにしか思えない。
 確かにこの訓練は新人用で、フェイトやシグナムも難なくこなせるレベルのものだが、流石に汗一つかかないというわけにはいかない。

「なんでリクさんはそんなに余裕なんですか?」

「わ、わたしも…き、気になります…はふぅ…」

 既に復活したエリオと、未だ「ゼーハー」いっているキャロ。そんな二人からの質問。

「そんなもん俺が人生経験豊富だからに決まってんだろ」

 意味不明な事を言いだしたリク。
 しかし、純粋無垢な心もっているエリオとキャロは、そんな意味不明なリクを言葉を「何か意味深…」と、無駄にプラスに捉える。

「人生経験ですか…?」

 特に、似たようなポジションであり、同じ男であるエリオは興味津々である。

「ああ。特に女をだ―――」

「特に女をだ―――、続き…なに?」

 無機質な声で詰め寄るフェイト。眼は当然笑っていない。

「えーと…それは…」

 言葉に詰まる。それと同時にリクの頭で警鐘がガンガン鳴り響く。

(ど、どうす―――はっ、そうだ。ここは上手くフェイトを褒める流れに持っていけば―――ッ)

 ちなみにだが、リクは内心では全員呼び捨てである。何だかんだで心の底からの敬意を払わない所は別の所にいる問題児二人と違いは無い。

「フェ、フェイト隊長のように綺麗な人を大事にする事が大切だと言いたかったんですよ」

 全然上手くなく、かなり不自然に、そして強引に褒める流れに持っていったリク。しかし本人はこれ以上ないくらいに上手くいったと思っており、

(どうだっ。完璧な持っていきかた)

 盛大な勘違いをしていた。
 肝心なフェイトは。

「え…ふぇ!?き、きれい!?わ、私がっ!?」

 顔を真っ赤にして盛大に照れまくっていた。
 異性から「綺麗」などと言われた経験が無いに等しいフェイト。そもそも仲の良い異性がユーノというなのはと友達以上恋人未満のような人しかいない為、仕方ないのかもしれない。もう一人義理の兄がいるが、既に結婚しているし、義理とはいえ兄から「綺麗だ…」なんて言われた日には「は、恥ずかしいよ…(テレテレ)」よりかは、「え、何言ってんの?シスコンキモっ」となるだろう。それに義兄であるクロノはそんなキャラではない。
 そして更に加えるなら、フェイトは中学時代は女子校で、男子と接する機会がなく、その時期から管理局で忙しく働いていた為、他校の男子と遊ぶ事もなかった。高校に関してはそもそも行ってすらいない。小学生の時で考えても、小学生の男子が女子を口説くはずもなく、その結果、十九歳になって初恋もまだというギャルゲーに出てくるヒロインのような女の子が完成したのである。

 まあ、それでも褒められた事はあるにはあるのだが、それでもフェイトは全部の言葉を「お世辞」だと認識していたので、別段気にはしなかった。
 にもかかわらず今回のリクの言葉に、妙に反応したのはもしかたらもしかしたらなのかもしれない。と、少し離れた所で見ていたシグナムが楽しそうにニヤリと笑う。

(ふっ、久々に面白いものを見れたな)

 シグナムが面白がっている事などしらないフェイトは盛大な混乱をみせていた。

「ねえねえエリオ君。今日の晩御飯一緒に食べようね」

「あ、うん。わかったよキャロ」

 そんな感じに、午後の訓練inライトニング分隊の時間は過ぎて行く。







 スターズ分隊は、カオスという言葉がピッタリな様相を呈していた。
 始まりはレイとアキが「模擬戦しようぜ」と言い始めたとこからだ。
 当然なのはは「基礎訓練が終わってから」と、至極まともな事を言い始めたのだが、それに対して、

「なにクソ真面目で詰まらない事いってんすか?そんなんだから未だに処女なんですよ」

 と、レイが言い放ち、

「ぶはははは!!十九になって彼氏すら出来た事ないとか雑魚すぎんだろ。アタシが応援してあげようか乙女ななのは隊長。あははははは!!!」

 とアキがメチャクチャにバカにし始めた。
 この時点で、新人二人は「帰りたい」と本気で思い始め、ヴィータに関しては既に帰る準備を始めていた。
 なのはは泣きそうな心に叱咤し、半ば自棄に二人の提案を受け入れる。
 その後の模擬戦で、アキが再び上半身裸で暴れたり、レイが〈千本桜〉でなのはとヴィータのバリアジャケットだけを切り裂こうとしたりと、かなりなカオスを極めていた。
 そして、そんなとんでも人間達の戦闘に新人二人が入れる筈も無く、スバルとティアナは意味のない時間を過ごしていくのだった。







「どうだった?初日の訓練は」

 夜、リクに与えられた部屋に、レイとアキが集まっていた。
 リクとアキはジャージに着替えているが、アキは下着姿だ。が、そんなアキの姿を見慣れており、かつアキを異性として認識していない二人は、全くきにした様子を見せない。まあ、気にしてないのだから当たり前なのだが。

「どーもこーもねえよ。温過ぎだろ。あんなん訓練って言わねえよ。お遊びだお遊び」

 リクの問いに辛辣な言葉で返すレイ。
 その答えに、アキも同意なのか、黙って頷く。

「まあ、アレは新人用だし、慣れてくれば徐々にメニューは増えてくだろ。それに俺はアレぐらいが丁度良いと思うが」

「そりゃ俺達がしてきた訓練が異常だってのはあるだろうよ。けどそれとこれとは別問題だ」

「このクソ金髪に同意するのは癪だがアタシも同意見だ」

 リク自身も、言葉では肯定しているが、やはり内心ではなのはの訓練は生温いと感じていた。
 しかし、未だ経験も浅く、発展途上である新人を鍛えるにはあのレベルの訓練で丁度良いし、無理をし過ぎれば、最悪大参事になりかねない。

「まあ、お前らの言い分は分かった。―――けどな、今日の訓練はやり過ぎだ。いくらお前らが六課の人間を嫌っててもな」

 そう、今日の訓練、ライトニング隊は、多少の問題はあったが滞りなく訓練は終わった。リクも、フェイトを含めたライトニング分隊から一応であるが認められた。特にエリオはリクを尊敬の眼差しで見るくらいだ。
 しかし、スターズ分隊は違った。午後の訓練は、レイとアキが好き勝手暴れ、本来新人であるティアナとスバルを最優先しなければならない筈が、二人が全く訓練を行えないという事態に陥ったのだ。そして、訓練が終わった後の、なのはとヴィータの疲労もかなりのものだった。
 流石に、それはリクとしても見過ごすわけにはいかず、結果的にこうして二人をリクの部屋に招くという事にいきついた。

「別に俺は六課を嫌ってるわけじゃねーよ。ただ単に温い訓練が嫌なだけ」

 リクはレイの言葉を聞きながら、自分が思うレイの性格について考える。

(レイ…、こいつは基本的に利己的で快楽主義だ。自分の事を最優先にし、他者を気に掛けない。そして常に自分が楽しみたいと思う方へ物事を持っていこうとする。まあ、簡単に言えばめんど臭い奴ってことだな)

 と、基本的に真面目なリクがそう考察する。
 リクとレイは似ている所が多々ある。例えば、自分の戦闘力にかなりの自信を持っている所や、自分が面倒だと思った事に対してやる気を見せなかったり。まあ、後半は、リクは何だかんだ真面目にやるので似通った点とは正確には言えないが。

「アタシはこの六課の空気が気に入らないんだよ。仲良く強くなっていこうなんて」

 アキは吐き捨てるように言う。
 リクも、アキがこの機動六課を良く思ってない事は分かっていた。というより、はやて達隊長陣と会った時に感じた印象等から、アキが六課に馴染めないであろう事は薄々感じていた。

 ―――厳格な規律の下にこそ強靭な部隊は生まれる。

 それがアキの思う部隊の理想だ。現に今までの部隊は、訓練こそ六課以下だったが、六課より和気藹々とはしていなかった。そのせいか、アキが訓練をメチャクチャにする等という暴挙を取った事は無かったのだ。
 男関連での問題は多々あったが。

(だからってなんの理由にもなってはいないがな)

 内心でリクは独りごちる。
 リク自身、アキを無理矢理にでもこの六課に誘ったのは、昔からの付き合いである友人を無職にしたくなかったという単なるお節介だ。
 正直に言えば、それはアキにとって現状たんなる有難迷惑にしかなっていないし、結果として六課に大きな迷惑をかけている。
 リクのお節介は単に迷惑と被害を六課に与えただけだった。

(どうするか…)

 今の状況はリク自身が引き起こしたものだ。だからこそリクは考える。
 単純な解決案ならある。二人を訓練に参加させなければいいのだ。遊撃隊みたいな立ち位置に置いておけばいい。幸い…と言って良いかは分からないが、二人の戦闘能力は極めて高い。訓練させなくても予想以上の成果は上げるだろう。

 しかし、それでいいのか?

 そんな思いも、リクの中にはあった。
 二人を無理矢理入れたのはリクだ。にもかかわらず「馴染めないから訓練から外す」では余りに無責任である。
 とはいっても明確な解決方法が思い浮かぶわけでもないので、堂々巡りとなってしまうのだが。

「別に俺達を訓練から外してくれていーぞ」

「ああ、アタシもそれには賛成だ。つかアタシはその方がいいしな。雑魚と遊ぶのは今日だけで十分だ」

 リクの考えを読んだのか、それとも単に自分の考えを述べただけなのか。どちらにせよ、リクにしてみればそれを簡単に受け入れるわけにはいかない。
 この辺りが無剣リクの面倒くさい所だ。

「いやだが、俺がお前らを無理矢理入れて、それでお前らが合わないからってく―――」

「っち、一々クソ面倒くせえ野郎だなテメエは。黙ってアタシ等の提案受け入れとけアホ」

「そーそ。俺等にしてみてもあんなタルーイ訓練やらなくてラッキーなんだからさ。あ、隊長たちへの説明はお前がやっといて」

 アキは心底ウザそうに、レイは感情を読み取らせない笑みを浮かべながら、そう言った。そして、言ったと同時に二人は立ち上がる。
 もう話す事はない、という意思表示だろう。

「じゃ、俺今日はさっさとねるから」

「アタシも今から寝るから(性的な意味で)」

「いや最後のちょっと待て」

 が、二人はさっさと出て行った。
 そして、自分の部屋にポツンと突っ立ているリクは暫く立っていた後、ボリボリと頭を掻きながら、自分も部屋を出て行くのだった。
 目的は隊長達の自室。レイとアキの件を説明する為だ。勿論上手い言い訳は考えていない。ありのままを言うつもりである。

(仲間に言い訳とか出来ないしな…)

 と、真面目な事を内心で思う。

「それに―――」

 廊下を歩きながら、「フッ」と小さく笑う。

「風呂上りの隊長達を見れるかもしれないしな」

 結局、なんだかんだで問題児は問題児であった。

 
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