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管理局の問題児

作者:くま吉
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第4話 機動6課に入ろう。



「君ら、機動六課に入らへんか?」

 はやての言葉を聞いた三人は―――。


「「是非お願いしますッ!!!」」


 と、リクとレイの二人はとんでもない速さで頭を下げた。
 リクはとりあえず無職という社会最底辺から脱却したいが為、レイは無職だと女が寄り付かない為である。

「はあ?なんでアタシがお前らの部下に―――」

「おいバカ女!黙って頭下げとけ!!」

「そうだぞ。お前みたいなクソビッチを雇い入れる狂った職場なんてここ以外ないぞ」

 アキが唯一反論しようとすると、それをリクが即座に遮り、そのついでにレイがさりげなくこれでもかと罵倒の言葉を並べる。
 そのレイの言葉に、アキが過剰に反応する。

「んだとコラ!!誰がクソビッチだ腐れ金髪が!!」

「金髪は俺の誇りだバカにすんな!!それに金髪は女子受けが良いんだよ、舐めんなメスゴリラ」

 アキの言葉にレイも引けなくなったのか、更に暴言を重ねていく。
 そしてみるみるウチに口喧嘩へと発展していった。とうぜんはやて達がいる前でだ。

「はあ!?アタシは一ミリも心ときめかねえぞ!!」

「聞いてなかったのか!?“女子”っつたろうが!!“女子”って!!つーか何か!?お前は自分の事を女子だと思ってたのか!?」

「あぁ!?どっからどうみても見目麗しいおにゃのこだろうが!!」

「ワオ!!俺の人生の中で最大の衝撃が襲いやがった!!おいリク!このメスゴリラは自分を女子だと思ってたらしいぜ!?」

「てめえ第三者引き入れるのは卑怯だろうが!!二対一とか勝ち目ねえだろ!!」

「知った事かボケ!!」

 こうして二人の喧嘩は続いていく。
 リクはそんなに二人に一切関わる素振りをみせない。レイとアキの喧嘩は放置しておくのが一番いいのだと経験で知っているからだ。
 だが、それを知らないはやて達は、オロオロしっぱなしだ。まあ、彼女達の知り合いに、ここまで汚い言葉で罵り合う人はいないので、圧倒されていると言った方が正しいか。それでも普段なら絶対に止めるのだが、レイとアキの実力がはやて達と同等かそれ以上なので迂闊に手出し出来ないのと、二人の余りのマジ具合に動けないのである。
 そしてそうなれば必然的にこの中で一番二人と付き合いの長いリクに白羽の矢が立つ。
 それを即座に理解したリクは、二人の喧嘩の仲裁に入る。

「おいお前ら、上官の前だぞ。いくら何でも無礼が過ぎ―――」

「「うるせえ引っ込んでろ!!」」

「―――ごはっ!!」

 ヒートアップし過ぎた二人は、同時にリクの顔面に拳を叩き込む。しかも本気の拳をだ。
 殴られたリクは体勢を崩し、数歩分後ろにぶっ飛ぶ。ついでに鼻血も流れる。

「大丈夫!?」

 フェイトが思わずリクの傍に駆け寄る。
 痛む鼻を押さえながら、フェイトの優しさに少しだけ感動しながら、リクは再び立ち上がる。先程とは違って鼻血が出ているのと、青筋が浮いているが特徴的か。ああ、それともう一つ。はやて達が引き攣る程の怒気を噴射しているのを加えておく。

「テメーら―――」

 その迫力に、レイもアキも動きを止めてリクを見る。

「―――静かにしていろ」

「「はい」」

 二人はあっけなく黙り込むのだった。
 その余りの威圧に、レイとアキ以外にも、はやて達も黙り込む。最悪の空気に隊長室が包まれている。

「八神三佐」

 そんな事を理解しているのかいないのか、リクははやてに視線を向ける。

「は、はいっ!」

 普段から管理局の古狸と相対する機会の多いはやてでも、今だけはリクに完全に呑まれている。
 それを何となく肌で感じ取ったのか、リクは無駄な事を言わず、丁寧に頭を下げる。
 その姿からは、問題児と呼ばれる姿は微塵も感じられない。

「無剣リク、そして横に並ぶ二人を含め、機動六課へのお誘い、有り難くお受けします」

 そんな形式ばった挨拶を述べた。
 流石にリクが頭を下げているのだから、下げないわけにはいかず、残りの二人…レイとアキも頭を下げた。

 こうして、元陸士245部隊の三人は、晴れて機動六課のメンバーとなった。

 まあ、色々と面倒な問題を片づける必要があるが、それは部隊長である八神はやての仕事なので、リクやレイ、アキの三人は特に思う所はなく、心の中は、特にリクは内心、「仕事得たぜヒャッハー!!」と思っていた。
 何だかんだでやっぱり問題児な三人なのだった。







 その後三人は、六課隊舎にある食堂に来ていた。はやてが、「皆に紹介せんとな」と言ったので、その為だ。ついでに一緒に食事を取って親睦を深めようとか、そんな事も考えているらしい。

「えー、突然やけど今日から新しく三名の局員がこの機動六課に入ります。皆、仲良くしたってなー」

 はやての言葉に、元気よく返事したのはキャロ、エリオ、スバルの三人の管理局内で流れる噂を知らない、又はそういうのに疎い三人だけ。残りの人間は、三人に対して懐疑的な視線を送る。
 もちろん露骨に反応こそしないが、送られる拍手はどこか空虚なものだった。
 三人にしてみれば元気よく返事した三人以外の反応こそが普通だったので、特に気にはしていない。逆に元気よく返事した三人に対しては、無意識下で好感を抱いた。
 そして三人は自己紹介を行う。

「無剣リク二等陸士です。よろしくお願いします」

「御剣レイ二等陸士です。かっわいこちゃんはドンドン俺の所に来てねー。夜は寝かせないぞー」

「剣葉アキ一等陸士」

 と、リクは至って普通な、レイは相変わらず軽薄な、アキに至っては名前しか言っていない、そんな自己紹介をした。
 自己紹介も終わったので、食事が始まった。
 本来なら全員が一緒に食事を取る事など有り得ないのだが、常日頃六課の人達が文字通り粉骨砕身しながら働いたので、このような時間が取れた。
 そう聞かされたリクは、俺達のような問題児の為集められるなんてなんて申し訳ない事を、と、一人内心で呟く。基本的に世間一般…というか管理局内では問題児扱いされているが、リクと同じ部隊員になった者は概ね彼に好印象を抱いている。

「あの…僕エリオ=モンディアルって言います。フォワード陣で男は僕だけだったので、リクさんとレイさんが入ってくれて嬉しいです」

 三人は現在、六課フォワード陣と一緒に食事を取っていた。
 これから最も接する機会が多いからというのが理由である。

「ああ、よろしくなエリオ」

 リクは軽く笑いながらそう返す。レイも親しげに「おう、チビッ子よろしく」という。アキはどこか獲物を見つけたような眼で見ているが。
 レイの「チビッ子」という言葉に、エリオは「ち、チビッ子…」と、少しだけ落ち込んでいた。

「えっと、キャロ=ル=ルシエです。よ、よろしくお願いします」

 ピンク色の髪の少女も、エリオに自己紹介に乗っかり、そう言った。

「ああ、よろしく」

「よろしくなロリっ子」

「ろ、ロリ…?」

 レイの言葉の意味が分からないのか、キャロははてなを浮かべる。

「ちょ、ちょっとキャロに変な言葉教えないで」

 キャロの保護者的な立場にいるフェイトは、少しだけ怒ったような表情をしながらレイに注意を促す。
 それを「へーい」と適当な返事で返し、真面目なフェイトは少しムッとするが、これ以上場の空気を悪くしたくないのかそのまま食事を再開した。
 その後、元気一杯のスバル、そして、三人の入隊が納得出来ないのか、少々冷たい態度のティアナの自己紹介をし合った。







 またまた場所は変わり、六課のフォワード陣は訓練場に来ていた。

「さて、早速訓練といきたいんだけど、その前に新しく入った三人をどこの隊に入れるか考えないとね」

 機動六課のフォワードは二つの隊に別けられている。
 高町なのはが隊長、ヴィータが副隊長を努めるスターズ分隊。フェイト=T=ハラオウンが隊長を務め、シグナムが副隊長を努めるライトニング分隊である。

(正直どの隊に入っても大して変りないしな…)

 リクは内心でそう呟く。
 だからなのはに任せる。そう言おうとした時、一人の女好きが口を開いた。

「ライトニング分隊がいいです!!」

 完全に下心があると思わせる態度に、流石のなのはも見過ごすわけにはいかなかったのか、「えーと、理由を聞いてもいいかな?」と、尋ねる。

「そんなもんライトニング分隊の方が隊長と副隊長のレベルが高いからに決まってるじゃないですか!!隊長はパツキン巨乳で、副隊長も巨乳ときた!!それに比べてスターズは…副隊長が…不憫で…、しかも隊長も魔王だし…」

 嘘泣きまでし始めるレイ。
 しかし、レイは気付いていない。後ろに並んでいる新人四人が、どこからか漂ってくる凄まじい怒気…いや、殺気に顔を青くしている事を。

「それ…どういうことかな…」

「てめえ…死にたいようだな…」

 スターズの隊長、副隊長は何かの力が働いているのか、前髪で目が完全に隠れ、見ようと思っても影で一切見えない。
 これから起こる惨劇を想像し、レイの事を「バカだな」と思いながら、リクはフェイトの元へと向かう。何を隠そうリクもフェイトの下が良いと思っていたからだ。

(空気の読めない馬鹿が予想通りに動いてくれて良かった)

 少しだけ腹黒い事を考える。
 そして、フェイトの近くに行き、軽く頭を下げる。

「フェイト隊長、これからよろしくお願いします」

「え?あ…うん。よろしくねリク」

 リクの言葉の意味を、執務官故か…どうかは分からない勘の良さで読み取ったフェイトは、一瞬戸惑うが、脳内でリクかレイかで考え、一瞬でリクの方が万倍マシだという結論を叩きだしたフェイトは微笑みながらそう返す。
 しかし、リクに対しても、噂になっている不祥事の件もあるので、すぐに信頼は置けない。が、フェイト自身は少しずつ感じ取っていた。リクは悪い人ではないということを。

「え、ちょ、ま…ぎゃーーーー!!!」

 少し離れた所から聞こえるレイの絶叫を聞きながら、フェイトは再度、「何としてもリクをこの隊に入れよう」と固く誓うのだった。

 
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