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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic2君が差し出す手は私の心を惑わせる~Reverse:The SuN~

 
前書き
Reverse:The Sun/太陽の逆位置/その道を行くのが良いだろう。その道こそ王道で、最も自分の為になり、自分自身の本質が、何より望んでいるのだと判っているのかもしれないのだから。

前回は逃げ道を封鎖し、そして今回は土台作り。
遅々として進んでいないために飽いてしまうかもしれません。
 

 
†††Sideルシリオン†††

「あ、カート・・・」

私が振り向いたことで、私の背中に密着していたカートが明後日の方へ進んで行ったため、はやてが手を伸ばそうとする。しかし距離があり進んで行った方向も真横なため、一度車椅子を操作しなければならない手間が生まれる。だから「待った。私が戻すよ」カートの取っ手を掴み、ふと「ぶつかったお詫びに、お手伝いしようか?」とはやてに尋ねてみた。

「え? あ、いえ、いいです! ぶつかったんはわたしですし、よそ見してたのもわたしですし、それに悪いですからっ」

両手を突き出してわたわた手を降るはやて。そう、ここで私は引き下がればよかったんだ。必要以上に関わってはいけない。心の片隅ではそういう警告が鳴り続けてくると言うのに。なのに、「遠慮なら手伝わせてほしい。本当に迷惑なら去るよ」止められずに続けて話しかけてしまう。徐々に客足が増えてきた店内。はやてのようなまだ幼い子供にとって、カートや他の客に注意を払いながら車椅子を動かすという行為は、激しく力を消費する。

「迷惑どころか助かりますけど・・・。ホンマにええんですか?」

はやてもそれが判っているからか、私の提案を呑むという方に天秤が傾きつつある。そして「じゃあお願いします」はやては微笑みを浮かべ、私の提案を呑んでくれた。まずは私が持っていた籠と、はやてが押していたカートを戻し、改めてはやての籠を手に、「それじゃあ行こうか」私の後ろで待っていたはやてに告げる。

「あ、はい。お願いします」

「敬語はいいよ。そんなに歳も離れていないだろうし」

「それじゃあ・・・うん、お願いな。えっと・・・あ、自己紹介がまだやったね。わたし、八神はやて」

入口で立ち止まっていては来店する客や出て行く客の邪魔になるため、まずは店内の外周をぐるりと回るコースをはやてと2人で行く。その途中、笑顔で自己紹介をしたはやて。私も自己紹介に応じるために名乗ろうと口を開きかけ・・・・声を出さずに噤んだ。
ベルカではオーディンと騙った。この時代でもセインテスト王家の歴代の王の名を騙ろうと思った。なのに、心が軋みを上げる。私が黙ったことで「どうしたん・・・?」はやてが小首を傾げた。言うんだ。私の名は・・・歴代セインテスト王の1人で、私の祖父の名でもあるヴィーザル・セインテスト、と。だが、私の口から出て来たのは、用意した偽名であるヴィーザルという名前ではなくて・・・。

「ルシリオン。私の名前は、ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード」

ルシリオンという、本当の名前だった。私は、はやてを騙すことが出来なかった。ああ、私は・・・最低野郎だ。どんな理由であれ私はエリーゼ達を騙したと言うのに。今の私は、はやてに偽りの名前で呼ばれたくないと考えてしまった。おそらくフェイトやなのは達と出会っていたとしても同じように思っていたはずだ。想像してみる。フェイトやなのは達に、ヴィーザルと偽りの名前で呼ばれたらと思うと。

(何を馬鹿な事を・・・! 今の私は、あの子たちと親しくなる必要はないだろうが・・・!)

思っていた以上にショックを受けている自分と、はやてを含めたあの子たちとまた親しくなろうと考えている自分に呆れ果てる。

「ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード・・・。なんや貴族さまみたいな名前やな~。それじゃあよろしく頼むな、ルシリオンちゃん」

「え?」

「ん?」

今、はやては私の名前への敬称に、ちゃん、と付けなかったか? いや付けたよな。

「あーっと・・・はやて、と下の名前で呼んでいいかな?」

「うん、ええよ。わたしもルシリオンちゃんって呼ぶけど・・・ええかな?」

間違いない。ルシリオンちゃん(・・・)だ。男につける敬称じゃない。せめて君付けだろう。これは早々に訂正しなければ。コホンと咳ばらいをした後、「はやて。ちゃんではなく君だ」と告げる。するとはやては呆けた後、「それやったら男の子みたいやよ~♪」とコロコロと笑った。ダメだ、完全に女と思われている。
何が原因だ? やっぱり外見か? それともルシリオンという名前か? ルシリオンとは、花のユリの一種でもある。花の名前イコール女の名前というわけか? いや、さすがにはやてがそこまでぶっ飛んだ思考をするはずもない。

「勘違いしているみたいだけど。私は男だよ」

「あはは。そんなすぐにバレるような冗談は通じへんよ。だってルシリオンちゃん。自分のこと、私、って言うてるし」

(それかぁぁぁあああああああああああああ!!)

一人称に問題があったか。ああ、確かにこの外見で一人称が私となれば、女と間違われるのは当然の帰結だ。そう言えば、かつてフェイトにも同じように勘違いされたっけ。だから一人称を私から俺に変えたんだった。

「それに、どう見ても女の子やん。男の子には見えへんよ。もし本当にルシリオンちゃんが男の子なら、女の子のわたしの立場はどうなんの?」

ほら、やっぱり来た。外見の問題。あと、君の立場がどうのこうのというのは知らんわ。改めて私が男であるということを告げる。するとようやく「ホンマに・・・?」信じてきた。真剣さや本気度を示すために真顔で「ああ、ホンマに」そう答えた。はやてのが移ってしまった。

「ルシリオンちゃんやなくてルシリオン君・・・?」

「イエス、ルシリオン君」

「・・・・嘘や信じられへん! 目も大きくて赤と青で綺麗やしっ、髪の毛も銀色でキラキラでサラサラやしっ、お肌だって白くてスベスベやし!」

「お、大きい! 声が大きいぞ、はやて!」

私の目を覗きこみ、髪や手に触れながら心底驚愕と言った感じで声を荒げるはやて。入店してからずっと目を引いていた私の容姿だが、今のはやての大声でさらに視線を集めることに。籠の取っ手を前腕に提げ、車椅子のグリップを握って押し、その場から即時撤退。
いきなりの急発進ではやては「おわっ?」と身を竦ませたが、元凶は君だから謝らないぞ。店の奥、精肉コーナーへと来た。「おお、面白かったわぁ」とはやてが感嘆の声を漏らす。こちらとしては面白くはないんだが。「ほら、買い物を続けよう、はやて」そう言ってやる。

「もう一度確認するけど、ホンマに男の子なん?」

「本当に男だよ。あ、もしかして女の子と思っから私の提案を呑んでくれたのか・・・? もし嫌だったらこのまま去るけど・・・」

「あ、ううん。ルシリオンちゃ――やなくて、ルシリオン君が男の子でも構わへんよ。わたし、同い年くらいの子とあんまりお話したことあらへんから・・・こうして一緒に買い物出来て、すごく嬉しい」

本心からそう言っているのが判るほどにはやての表情には寂しさが溢れていた。下手にはやての事情に踏み込むつもりはないため、「そうか」と短く応じておく。それからはやてと目玉焼きには何を掛けるか、好物は何か、などなど、料理関係の他愛のない話をしながら店内を回る。これが結構楽しい。そう、買い物をするというよりは話だけをしているという状況だ。

「――なあ、ルシリオン君。わたしのこと、なんも訊かへんの・・・?」

ふと、はやてが突然そんなことを言ってきた。車椅子の少女が1人で買い物。確かにこの状況を傍から見れば気になって、家族のことを訊いてしまうかもしれないな。しかし私ははやての家庭の事情を知ってしまっている。だから訊かなかった。それ以前に、

「私は会って間もない子の家庭事情に踏み込むような礼儀知らずじゃないから。まぁ、独り言として聞こえて来たなら仕方ないけどね」

いきなり事情を訊くような奴はどうかしている。心配なら様子を見、困っているようなら協力を申し出、了承なら手を貸し、用が済めば早々に去る。拒否なら、これまた去ればいい。それが最善なはずだ。興味心から下手に事情を訊いて、そして同情するなんてド級の阿呆のすることだ。

「・・・あはは。そうか。・・・それにしてもやっぱり女の子みたいやよ? その喋り方やったら」

「むぅ・・・変えた方が好いか・・・?」

「う~ん・・・でも、違和感が無さ過ぎるしなぁ~。試しに私を変えてみればええんちゃう? 一人称を変えて自己紹介、みたいな?」

「俺はルシリオン」

「違和感が半端やないな~」

苦笑いしつつ即答したはやて。「え? 変なのか・・・?」以前の次元世界では、俺、で通していたんだが。はやてやなのは達も何も言わなかったから、一人称が俺でも問題と思っていたが、もしかして心の内では似合わないとか思っていたのか・・・? そう思うと少しヘコむ。「ルシリオン君、ごめんな・・・?」私が肩を落としているのが自分の所為だと思い込んだはやてが謝ってきた。

「あ、違う違う。はやての所為じゃないから気にしないでくれ」

「ホンマに?」

「もちろんだとも。・・・じゃあ、僕はルシリオン」

「う~ん・・・それもなんかちゃうな~」

「え゛?」

俺でもダメで僕でもダメ? じゃあ他に一般的な一人称って何がある? 仕方がない。知識に在る一人称を片っ端から言って行くか。私にピッタリなものがあるかもしれない。

「儂はルシリオン」

「ぶはっ。いきなりなんでやっ?♪」

「わだす、ルシリオン」

「ぶふっ!」

「おいら、ルシリオン」

「んんー・・・ちゃうな~」

これでOKを貰った日には私は咽び泣く。

「おいどん」

「ちゃう」

「うら」

「それもちゃう」

「ぼくちん、ルシリオン」

「なんやイラッとするなぁ~」

「私もそう思う」

(それがし)ルシリオン。拙者はルシリオン。麻呂」

「過去に行き過ぎやな~」

「余はルシリオンである」

「なあ、ルシリオン君。それ、使う気ある・・・?」

「まったくと言っていい程に無い」

「そやろね。実際にそれ使おてたら、ちょう頭を疑うかもしれへん」

「他と言ったら、吾輩はルシリオンである」

「あはっ。閣下やなぁ~」

デーモンさんの方をイメージするのか・・・。“吾輩は猫である”辺りかと思ったが。結局。私の一人称は決定することなく流れてしまった。別段困ることもないから気にしない。とまぁ、こんな話をしながらも私とはやての買い物も無事に終わり、スーパーを後にして私たちはバス停へと向かう。
スーパーとさほど離れていないため、1分もあれば十分だ。その途中、はやてが「これ、独り言なんやけどな」とそう前置きして話し始めた。独り言なら黙って聞いていよう。返事をすればそれはもう会話だからな。

「さっき、同い年くらいの子とお話ししてへんって言うたやんか。わたし、両親が居らんくて、脚もこんなんやし・・・学校は休学中で行ってへん。今は何とか、おじさんのおかげで財産面とかは問題あれへんけど・・・。そうゆうわけで友達も居らんくて・・・。だから今日、ルシリオン君と会えて、お話が出来てホンマに嬉しくて、楽しくて・・・」

はやての言葉の端々には寂しいという感情が多分に含まれていた。私も最愛の姉ゼフィランサス姉様を喪った時は狂気に落ち、果てに寂しさに襲われた。だが、妹のシエルが居て、仲間も居たからすぐに寂しさなんてものは無くなった。しかしはやては違う。はやての周りには誰も居なかった。
おじさん・・・おそらくギル・グレアム提督の情報操作などによるものだろう。無言になったはやてに私は何も言わず、ただ車椅子を押し続けるのみ。バス停が見えて来て、「ここでお別れだな、はやて」と声を掛ける。

「っ! あ、あんなルシリオン君。わたし――」

「私もはやてと話すことが出来て楽しかったよ。ありがとう」

バス停へと辿り着くと同時にバスが停車した。グッドタイミングだ。ドライバーの人が降りて来て、車椅子乗車用のスロープを設置。エコバッグが掛けられた車椅子のグリップを「お願いします」ドライバーに預ける。

「はい、畏まりました。お預かりします」

「あ、あのなっ、ルシリオン君! また会えるかなっ!?」

私は返事をせず、笑顔で手を小さく振るだけ。はやての目に悲しみの色が浮かぶ。ドライバーがスロープを片付ける間も「ルシリオン君!」はやてに何度も呼ばれる。

「・・・・また会えるかもしれないし、もう会えないかもしれない。すべては流れるままに」

「えっ? それってどうゆう――」

最後まで言い切る前に扉が閉まった。バスははやてを乗せて走り去っていく。はやてと会えただけでなく話すことが出来たことは、本当に嬉しかったし楽しかった。これは認める。だが、はやてと会うためにこちらが行動を起こそうとは思わない。すべては流れるまま――偶然の再会だったら・・・・。

「本当は避けないといけないところだろうが、私は・・・」

――どうかご自分の御心に正直に――

マリアの言葉が脳裏を過ぎった。正直になったところでどうする。私は「自分のことで精いっぱいの愚か者だ」そう吐き捨て、今夜の住まい探しに彷徨うことにした。

†††Sideルシリオン⇒????†††

いつもは父さんの遺品のパソコンを使って食材を買って、家まで届けてもらうんやけど。それやのに今日はどうしてかスーパーにまで行ってしもた。でもそのおかげで、とても綺麗な男の子と出会えた。
ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード君。名前はどこかの国の貴族さまみたい。すごいんは名前だけやなくて、その外見がすっっっごく綺麗なことや。サラサラな長い銀色の髪。目の色も青と赤で。肌も白くてスベスベ。本当に綺麗で、男の子に言うんはちょう失礼かも知れへんけど、すごく可愛い男の子やった。

「また会えたらええな~」

ホンマに偶然な出会いやったけど、出来ればもう一度会って話してみたい。バス停での別れ際に、流れるままに、とか言うてたけど。

(どうゆう意味なんやろ・・?

夕ご飯の後片付けをしながら、スーパーでのルシリオン君とのお話を思い出す。外国の子やのに日本語は上手やし、昔の日本の一人称とかもいろいろ知ってたし。すごく優しい声で、温かい笑顔やったルシリオン君。わたしは・・・「友達になりたいなぁ」ポツリと漏らす。どこに住んどるんやろ・・・? 海鳴市は結構外国の人とか居るし、またあのスーパーに行けば会えるやろか・・・。
とゆうわけで、それから4日。あのスーパーに足を運んでみたんやけど、ルシリオン君とは会えんかった。

(もしかして偶然この町に来てただけなんかな~・・・)

そう思うと、ため息が出る。けど、もうちょっとだけ探してみよう。そう思うて外出。外国の人が行きそうなところを探してみることにした。でもやっぱり見つからへん。もうそろそろ諦めかけた時、

「あの銀髪の女の子、可愛かったね♪」

「だな。でもさ、臨海公園で釣りって・・・魚釣れんのかなぁ~?」

道の向こうから歩いて来た男の人と女の人の話が、わたしの行き先を決めさせた。銀髪。女の子。ルシリオン君のことやとすぐに判った。やっぱり女の子に間違われてる。バスに揺られて数分。着いたんは海を一望できる、海鳴臨海公園。ここのどこかにルシリオン君が居るはず。釣りをしとるって話やったから、海沿いを進んでみる。そして「見つけた!」太陽の光で余計にキラキラ輝いてる銀色の髪が見えた。

「そんな髪型やと余計に女の子に見えるよ・・・」

長い銀髪をリボンでポニーテールにしてるから。風で髪が靡いてて、まるで尻尾みたいや。ルシリオン君は釣り竿をひゅんひゅん振るって、「よっと!」ものすごい勢いで釣り糸を海に向かって伸ばした。それから当たりが来るまでルシリオン君は待つみたい。声を掛けるなら今の内や。

「こんにちは、ルシリオン君」

「っ! あ、ああ・・・はやてか。こんにちは。少しぶりだな」

わたしに気付いてすごく驚いた顔をしたルシリオン君。

(えっと、何もそこまで驚かんでも・・・。なんや、ちょうショックかも・・・)

ルシリオン君が「はやては度々ここに訪れるのか?」って訊いて来たから、「あんましや」嘘ついて嫌われるようなことになっても嫌やから正直に答える。

「そうか」

「・・・もしかしてやけど・・・わたしと会いたくなかったか・・・?」

「そんなわけがあるか!」

「っ!?」

「あ、すまない。・・・とにかく私は、はやてと会いたくないなんて思って・・・いないから・・・」

ルシリオン君は怒鳴るように即答してくれた。ビックリしたけど「よかったわぁ」それが嬉しくて、安心できた。もっとルシリオン君の傍まで近寄る。上下黒色のジャージを着たルシリオン君の足元には、「大量やなぁ」魚が5匹も入った小さいクーラーボックスがあった。

「なあ、ルシリオン君。コレ、どないすんの?」

「もちろん食べる。昼ご飯のおかずだからな」

「お昼ご飯? ルシリオン君って・・・あ」

そこまで言って口を噤む。ルシリオン君は言うてた。

――会って間もない子の家庭事情に踏み込むような礼儀知らずじゃないから――

そやからわたしもルシリオン君の事情を訊かへん。でも、もっとルシリオン君のことを知りたいなぁなんて思たりする。そんな考えが顔に出てたようで。ルシリオン君は「はい、もう一匹」魚を釣ってクーラーボックスに入れた後、

「これは独り言なんだけどな」

蓋を閉じて、手摺にもたれ掛って海を眺めた。わたしも車椅子を動かして海の方へ体を向ける。わたしの時と同じ。ならわたしも黙って聴いとかんとな。ルシリオン君は最初に「私も家族は居ない」そう教えてくれた。えっ!?て声が出そうになったけど、口を両手で押さえてなんとか止めることが出来た。

(ルシリオン君にも家族が居らんのか・・・!?)

「家族も居ない。住む家も無い。帰る場所も無い。私はある探し物をするためだけに旅をしているんだ」

「そ・・・んな・・・」

わたしに振り向いたルシリオン君の顔は真剣やった。なんとなくやけど判る。嘘やないことくらい。ルシリオン君はわたしより酷い状態やったんやな・・・。それやのに・・「どうして笑ってられるん?」さっきまでの真剣な顔から、綺麗な笑顔になったルシリオン君に訊ねる。見てるこっちが代わりに悲しくなってまう。わたしは知らずルシリオン君の手を取って握ってた。

「はやてだって先日、笑顔になったじゃないか」

「それはルシリオン君とお話が出来たからで・・・!」

「・・・ありがとう、はやて。私が笑っていられるのは、どれだけ探しても見つけられなかった終わりへと続く道標を、ようやく捉えることが出来たから」

「えっと、どうゆうこと・・・?」

ルシリオン君はただ笑みを浮かべるだけやった。それはまだ話せへんいうことなんやね。

「・・・そう言えばルシリオン君。家が無いって言うてたけど・・・どこに住んどんの?」

釣った魚がご飯のおかずらしいし。わたしの質問に、ルシリオン君は山の方を指すことで答えてくれた。釣られてそっちに目を向ける。確かあの辺りには「森林公園・・・? あそこ・・・?」があったはずや。そう尋ねると、ルシリオン君は「ああ」って頷いた。

「森林公園付近に在る木々の上で寝泊まりしているんだ」

「へぇ、木の上で寝てるんかぁ~・・・・はあ!?」

木の上で眠ってるて言うたか!? ルシリオン君、サバイバル生活してるんかっ!? いくらなんでも「それはやり過ぎちゃう!?」ルシリオン君、子供としての生活捨てすぎや!

「やり過ぎ? どういう意味だ・・・?」

「探し物のためかも知れへんけど、旅してるから言うんも判るけど、もうちょっと自分のことを考えても・・・!」

「宿代も馬鹿にならないし、それに野宿だって慣れてるから」

野宿に慣れてるなんて。ルシリオン君・・・一体いつからこんな生活してるんやろ? わたしに何か出来ることないんかなぁ。それに、出来ればもっと仲良うなれる方法があれば・・・。腕を組んでうんうん悩んでると、「それじゃあ、はやて。またな」ルシリオン君はいつの間にか竿を片付け終えてて、クーラーボックスを肩に提げてた。

「ちょっ、ちょう待って!」

「ん? もうちょっと話でもするか・・・?」

「それもええねんけど! でもそうやなくて! えっと、そのな・・・!」

答えも出てへんのに呼び止めて、でもルシリオン君は嫌な顔1つせんで待ってくれてる。けどそれが余計にわたしを焦らせる。そやから「うちに来ぇへんか!?」なんて突拍子もないことを言うてしまうことに・・・。ルシリオン君かて「はい?」って首を傾げてるし。とゆうか可愛すぎや、その仕草!

「お金の心配で泊まるとこが無いんなら、わたしの家に来たらええよ! タダやし! やっぱり野宿はアカンて! ルシリオン君、男の子やのにめっちゃ可愛えし! もし変な人に襲われでもしたら大変や!」

「・・・・たった今、可愛いって言葉による精神口撃をされたけどな・・・」

「ぅあ・・・! やっぱり嫌なんやね。ごめんな。怒ってる?」

「ううん、怒ってない。はやての家に厄介になるって話だけど、さすがにそれはダメだろ」

「わたし1人だけやから気を張らんでもええし、一軒家やから部屋も余っとるし、プライバシーも――」

「いやいや。そうじゃなくて。はやては女の子。私は見た目が少女でも男だ(涙)。金銭面とは言え君の世話をしているおじさんという人に何か言われないか?」

「あー、そうゆう心配は大丈夫やと思う。おじさんとは手紙のやり取りくらいやし。それに、な。わたし、ルシリオン君のことがホンマに心配なんよ。ちょっとの間でもええから、わたしの家においで? わたしに、ルシリオン君のことを手伝わせて。手伝い言うても探し物の手伝いは出来へんけど、住むところとか食事くらいなら手伝える」

どうしたんやろ、わたし。こんなに必死になってルシリオン君を引き止めようとしてる。なんでかは判らへん。判らへんけど、ルシリオン君を独りにするんはアカン、そう思えてまう。もしかしたら同情なんかも知れへん。わたしと同じで家族が居らんくて、でも住むとこも無いルシリオン君よりはマシかもしれん、て。あぁ、でもこれが一番大きい感情かも。ルシリオン君の手を今度は両手で取って、「・・・独りは・・・寂しいしな」そう呟く。

「寂しい・・・?」

「うん。独りはやっぱり寂しい。・・・それにわたし、ルシリオン君と友達になりたいんや。出来ればもっと会いたいし、お話ししたいし。そやから一緒に住めれば、その2つがいっぺんに解決できるな~なんて」

こんな体のわたしの話し相手って、通てる病院の石田先生くらいや。携帯電話の番号やアドレスかて石田先生とか友達やない人や店の物ばかり。寂しい。口には出さへんけど、孤独はやっぱり寂しい。それに心が寒い。ルシリオン君はずっと黙ったまま。どんな返事になるか、わたしはジッと待つ。

「・・・はやて」

「は、はいっ!」

「お世話になります」

ルシリオン君はそう言うてお辞儀した。するとなんでか「へ?」目から涙が溢れて来た。あれ? おかしいな。なんでわたしが泣くんやろ。袖で涙を拭う。あ、そうか・・・これ・・・。

(嬉し涙なんや・・・)

久しぶりに泣いたからかしばらく嬉し涙は止まらんかった。その間、ルシリオン君はずっとわたしの手を握っててくれた。それがまたわたしの心を温かくしてくれて、余計に涙が止まらんくなったもうた。散々泣いたおかげでなんとか涙も止まって、「それじゃあ家に案内するな」ルシリオン君を連れてこうとした。

「あ、その前に荷物を取りに行きたいから、森林公園に向かいたいんだ」

そうゆうわけで一度森林公園に行ったんやけど、ホンマにルシリオン君は樹の上で寝泊まりしてた。一本の樹の真下に来て、ルシリオン君が木登り。それにつられて見上げてみると、私物らしいボストンバッグが樹のてっぺん付近に固定されてた。
ルシリオン君は、その、何と言うか・・・失礼やけどお猿さんみたいに軽快に木を登って、バッグを取って、また降りて来た。そして今度こそわたしの家に向かう。バスに揺られて数分。海鳴市・中岡町に在る自宅に到着。

「ただいま~」

「お邪魔します」

「はい、どうぞ~♪」

この家に石田先生や宅配屋さん以外を招き入れるなんて何年振りやろ。ルシリオン君に車椅子を押してもらって、まずはリビングに案内する。ここまで押してもらったことに礼を言った後、「ちょう休んでから他の部屋を案内するな」お茶の用意を始める。

「手伝おうか・・・?」

「ええよ。ルシリオン君はお客さまやしな。ゆっくり休んでてな」

「手伝えることがあれば遠慮なく言ってほしい。居候が何もせずにいるのは、結構肩身が狭いからな」

ルシリオン君は優しいなぁ。でも「今日だけは、わたしにやらせてな♪」張り切って用意を続ける。初めての友達や。家主としても美味しいお茶を振る舞わんとな。これはやりがいがある仕事や!

「どうぞ。日本のお茶やからお口に合うか判らへんけど」

途中で気が付いたけど、家には紅茶もコーヒーも無いから緑茶しか用意できんかった。するとルシリオン君は「緑茶は好きだよ。いただきます」って微笑んで、湯呑みを煽った。綺麗な飲み方やなぁ。ちゃんと片手を湯呑みの底に添えとるし。

「美味しい。・・・はやて。忘れているかもしれないが初めて会ったとき、私は日本茶のペットボトルを買ったぞ」

「へ? あ、そう言えばそうやったな。・・・ところでルシリオン君って日本に来てどれくらいなん?」

「はやてと初めて会った日だよ、日本に来たのは」

「そうなん!? 日本語も上手やし、てっきり・・・」

「勉学が好きだからね。知識と情報は財産だ。蓄えて損はないし、蓄えた分、必ず自分や人を活かすことが出来る」

「おお。なんやルシリオン君、カッコええなぁ」

「ありがとう。男にとって最高の褒め言葉だよ」

確かに語ってたルシリオン君がすごくカッコよかった。ドキッとするくらいに。でも、そう笑顔を浮かべると、「やっぱり可愛ええなぁ」ホンマに女の子に見えてまう。ルシリオン君の表情が固まった。あ、やってもうた。今さらやけど口を両手で押さえる。

「上げて落とす精神口撃とは・・・やるな、はやて」

「ご、ごめん・・・」

そんなやり取りをしながらお茶休みも終えて、さっそくルシリオン君を連れて家の中を案内する。まずはリビング横のわたしの部屋。あんまりジロジロ見られるんも恥ずかしいからすぐに別のところへ。次が客室。そんでお風呂にトイレ。小さいながらも在る庭も案内。そして2階やけど・・・。
2階は父さんと母さんの部屋がある。ほとんど使おうてないから汚れとるかも知れへんな。2階への案内はやめて、最後にもう一度客室にルシリオン君を案内してからリビングに戻って来た。

「今日からあの客室がルシリオン君の部屋や。好きに使ってくれてええからな」

「ありがとう。あんな立派な部屋を用意してくれて。お礼に夕飯は私が用意するよ」

「そんなええよ、今日くらいは全部わたしに・・・!」

「はやてって、魚を捌けるか?」

「えっと・・・捌けへんな・・・」

ついさっきまで生きてた魚を捌くにはちょう勇気が要る。確かに捌けへんけど、全部任せっきりはなぁ・・・う~ん、じゃあ「一緒に作らへん?」そう提案してみる。

「そうだな。じゃあ今晩は一緒に作ろうか」

「うんっ♪」

ホンマに嬉しいことばっかりやな今日は。いきなりこんな幸せになって、わたしの運使い切ってないやろな。嬉しすぎてルシリオン君の笑顔から目を逸らす。と、「あっ!」カレンダーが目に留まった。今日14日のマスに、病院って赤いペンで書いてあるカレンダー。わ、忘れてた・・・。

「どうした? はやて」

「今日病院に行く日やった・・・!」

「じゃあすぐに用意しないと」

とは言うてもこのまま病院に行くだけなんやけど。石田先生にルシリオン君のことを紹介したいから「ルシリオン君も用意してな」そう言う。のんびりお茶を飲んでるルシリオン君が「私もか?」って訊いてくる。

「わたしの脚を診てくれてる石田先生に、一応ルシリオン君のことを紹介したいなぁ思てな」

「それはいいんだけど。私と一緒に暮らすということも話す、のか?」

「それはもちろん」

友達が出来たことを石田先生にもちゃんと教えておきたい。きっと喜んでくれるはずや。でもルシリオン君の表情がどんどん険しいものに変わってくのが判った。

「さすがに変に思われるだろう。赤の他人で、いくら同い年くらいだからと言っても男と一緒に暮らすとなると。と言うか通報されそうだ。外国の子供が1人で旅して、いきなりはやての家に住む。怪しさ爆発だと思うけど・・・」

「そうゆうもんかなぁ~。・・・それやったら、外国の親戚って紹介したらどうやろ?」

財産管理をしてくれてるグレアムおじさん。その親戚って・・・。これ、思いっきり嘘やなぁ。あ、でも親戚って紹介しても、男の子と一緒ってゆうんがルシリオン君が悩んでることやしな。わたしとしてはルシリオン君を友達としてありのまま紹介したいのに。でもそれがルシリオン君を困らせるゆうんならしょうがない。

「判った。それじゃあルシリオン君。ちょう待っててな」

「ん?」

わたしは自分の部屋に戻って、クローゼットから着替えを取り出す。石田先生を騙すんは心苦しいけど、ルシリオン君の言う通り歳とか関係なく男の子と一緒に暮らすんはアカンことなのかも知れへんし。じゃあどうやってルシリオン君を紹介するか。もうこの方法しかあらへん。

「ルシリオン君。この服に着替えてな」

「っ!!・・・・ま、まさか・・・!」

信じられないって顔のルシリオン君にわたしの服(・・・・・)を差し出す。そう。ルシリオン君を女装させるしか。わたしが「親戚の女の子にすれば問題ないやろ?」そう言うて近づくと、「勘弁してくれ」ルシリオン君が逃げようとする。
ルシリオン君のスカート姿。髪型も女の子っぽくする。それをするんがわたし。想像しただけで「アカン。楽しいかも知れへん」なんやドキドキする。

「はやてっ。今の君の表情、かなりまずいぞ!」

「そうか? 別にルシリオン君を女装させるんが楽しみなわけやないよ? ほら、早く病院に行きたいから準備してな。大丈夫や。可愛くしたげるから♪」

「い、嫌だぁぁぁああああああああああああああッッ!!」

逃げるルシリオン君(それでも2階やわたしの部屋には入らへん)やったけど、泣き落としでなんとか説得完了。渋々わたしの提案を呑んでくれたルシリオン君に裾の長い白いワンピースを着せて、長い銀髪をおさげにしてみた。結論から言うと、

「ルシリオン君」

「なんだ・・・?(涙)」

「・・・・めっちゃ可愛ええ!! 何なんっ、何でそんなに可愛ええの!?」

「知らんわ・・・(号泣)」

女装したルシリオン君は、もうこれでもかってくらいにすっっっっごく可愛いかった!!


 
 

 
後書き
グ・モロン。グ・ダー。グ・アフテン。
ルシルの逃れられない運命その1、その名は女装。
前作、『魔法少女リリカルなのはANSUR』でも彼を襲った運命ですが、今作でももちろん彼を襲います。
さて、すでに決定している最終話までに、ルシルはどれだけ女装する羽目になるんでしょうね(笑)。
そして次回から本格的にジュエルシード回収へと入っていく予定です。

 
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