魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―
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第二章
九話 異世界へお出かけ!
前書き
電車の偉大さを感じた九話
さて、それから少しして、本日はテストの返却日。学校から帰って来た高町ヴィヴィオとその親友二名のチビッ子三名、通称チビーズは(ロリーズでも良いが、何となく流石に憚られるのでやめておく)全員で高町家へとやって来ていた。
今日から合宿に出発するのだがその前に、試験結果を旅行中の全員の保護者であるなのはとフェイトに報告する為だ。
「試験終了お疲れ様」
「皆、どうだった?」
並んで座るなのはとフェイトが、それぞれの順序で聞くと、三人は一斉に自分の成績表をとりだして答えた。
「花丸評価頂きました!」
と、リオ。
「三人そろって!」
とヴィヴィオが言って、
「優等生です!」
コロナが締めた。
此処で其々の成績を発表しておこう。
リオ・ウェズリー
基本五教科:100点満点中
ミッドチルダ言語 90点
ベルカ言語 85点
数学 88点
史学 98点
理科 90点
Physical 235人中3位 Rank:S
コロナ・ティミル
基本五教科
全教科 100点
Physical 235人中87位 Rank B
高町ヴィヴィオ
基本五教科
ミッドチルダ言語 97点
ベルカ言語 100点
数学 100点
史学 92点
理科 90点
Physical 235人中22位 Rank A
見ての通り、コロナは圧倒的に勉強に強い。初等科とは言え、学力的にミッドチルダでもかなり上位に立つStヒルデ魔法学院に置いて、全教科で満点を取ると言うのは正直相当に難しいのだ。無論、ペーパーテストのみの成績で言うならば、コロナは学年でもトップである。
対し、運動系に強いのはリオだ。学院初等科には現在235人の少年少女が在籍しているが、それを混ぜこぜで出したその中で3位。ちなみに、この成績は女子ではぶっちぎりのトップである。
ヴィヴィオは両方の中間、より少し上くらいだろうか。なんだかんだで、色々な事に対して努力家なヴィヴィオらしい成績であると言えよう。
と、成績表を確認した大人二人が、嬉しそうに笑ってパチパチと拍手をする。
「わー、みんなすごいすごーい!」
「これならもう堂々とお出かけできるね!」
照れたように、三人はソファの上でニコニコ顔だ。
と、ならばとばかりになのはが立ち上がりながら言った。
「それじゃー、リオちゃんとコロナちゃんは一旦おうちに戻って準備しないとね」
「「はいっ」」
コロナとリオはそろって立ち上がりながら元気に返事を返す。その横で……
[good job]
「ありがと、レイジングハート」
魔力の翼を用いて宙に浮いて居たレイジングハートが、ヴィヴィオにねぎらいの言葉を述べて、ヴィヴィオは元気にそれに返した。
「おうちの方にもご挨拶したいから、車出すね」
「あ、じゃあわたしも準備して一緒に……は、駄目だよね。お兄ちゃんまだだし……」
気が付いたように苦笑して言ったヴィヴィオに、ついでに。と言った風になのはが人差し指を立てて言った。
「そうそう。それに、お客様もまだだしね」
「お客さま?」
ヴィヴィオがそう言った丁度その時、玄関のドアが開く音が響いた。
────
明るい昼前の陽光が差し込み、立ち並ぶ大きな屋敷の壁を黄色く照らす住宅街の中を、二人の人影がテクテクと歩いていた。
「いやぁ、にしてもまさかお前がちゃんと行こうとするとはなぁ……しかも俺まで誘って!」
少し大袈裟な動作でそんな事を言うのは、明るい金髪を揺らした長身の青年。ライノスティード・ドルクである。そのとなりを歩いていたクラナが、ライノの言葉に肩をすくめて答えた。
「別に……ライノは前から行きたいってうるさかったし」
「お、ツンデレか?ツンデレなのか?」
「意味わかんないし……」
面白がるようにいうライノに、クラナは溜め息を吐きながら応じる。
「っはは。ま、クラナにもようやく少しは心の余裕が出来てきたっつー事だな。良いこと良いこと!」
「あのねぇ……」
何とも大ざっぱなその意見に苦笑しつつ嘆息しつつ、そのまま二人は歩き続ける。
「今回行くのって……カルナージっつったっけ?」
「ん?うん」
「どういう所なんだ?」
「……んー……」
ライノの問いに、クラナは少し考え込むように視線を上向けた。クラナが今までに、無人世界(まあ実際は一応有人だが)カルナージを訪れた事は、実は一度もない。色々あって意図的に避けていた性だが、まあしかしだからと言ってあちらに付いて何も知らないかと言われると、実はそうでもない。映像やなんやである程度の知識は有るからだ。
「……まあ、気候も穏やかで目立った危険生物も居ない。典型的な自然観光地、って所かな」
[彼方の方が訓練施設や遊び場、その他必要施設等は用意して下さってますし、滞在中のあれこれにも特に問題なく対応出来るかと]
クラナに続けてアルが答えると、納得したようにライノが頷く。
「なーる。正に理想的な合宿地ってわけね」
[あの高町教導官達が推奨する位ですから、有る意味当然なのかも知れませんね]
ライノに続いたのは、彼のデバイス、ウォーロックだ。と、そんな事を話している内に……
「着いた」
「だなぁ」
クラナとライノは、目的地……高町家の前へとたどり着き、二人は小さく呟く。玄関先まで歩き、ドアを押し開ける。と……
「――さま?」
奥からヴィヴィオの声が聞こえ、既にちびっ子三名が揃って居ることを察しつつ。クラナは内部へと入って行く。
「……ただいま」
「あ!お帰りお兄ちゃん!」
「お帰り。クラナ」
「クラナお帰り」
「「お邪魔してます!」」
かなり小さい声量で言ったにも関わらず、一気に五人から元気のよい挨拶が帰って来てクラナは若干身を引く。と、後ろから更に元気な声が響いた。
「おっ邪魔しま〜す!!」
「あ、いらっしゃい。ライノ君」
「久しぶり」
勢いよくリビングの入り口に出て来たライノを、なのはとフェイトはにこやかに迎える。快活に笑いながら、ライノは答えた。
「いやあ、なのはさんもフェイトさんも、っとにご無沙汰してます!また一段とお綺麗になられて!」
「にゃははは。ライノ君相変わらずだね」
「うん、お世辞でも嬉しいかな」
「(いや、世辞じゃ無いっすけどね)」
なのは達の軽めの返しに、内心苦笑しつつ突っ込みつつしたライノの目に、不意に、突然出て来たハイテンション高等部に付いていけずにポカーンとしている。初等部三名が目に入る。
「おっ!お前さん達は、ヴィヴィオと……そのお友達の……えーと、リオちゃんと、コロナちゃんで有ってたかい?」
聞いたライノに、ヴィヴィオ達三人は驚いたように返す。
「え!?あ、はいっ!」
「え、えっと。コロナ・ティミルです!」
「リオ・ウェズリーです!」
「「「はじめまして!」」」
わたわたしながらも揃って頭を下げたちびっ子達に、ライノは苦笑しつつ返す。
「おー元気良いね。俺はライノスティード・ドルク。好きに呼んでくれて構わんよ。今回、クラナ繋がりでこの合宿に参加するので、どうぞ宜しく」
「はいっ!」
「宜しくお願いします!」
ライノの言葉に、リオとコロナは元気よく返事を返す。と、少し考え込むような表情を見せたヴィヴィオが、不意に訪ねた。
「あ、あの、ドルク先輩」
「ん?」
「間違ってたらすみません、その、先輩に私、どこかで一度お会いした事が有るような気がするんですけど……」
「おっ」
ヴィヴィオの言葉に、ライノは嬉しそうに微笑むと、返した。
「覚えてて貰えたとは光栄。確かに、前に俺はヴィヴィオと会ったこと有るよ」
「え、そうなんですか?」
ライノの言葉に訪ねたのはリオだ。どちらかと言うとその顔は、ライノの話と言うよりはヴィヴィオの昔話に興味がある。と告げている。
「あぁ。四年前……ヴィヴィオがちゃんと物心付くより前の話だから、よく覚えて無いのは無理無いけど」
「へぇ〜……はい先輩!昔のヴィヴィオって、どんな子だったんですか!?」
「り、リオ!?」
興味津々と言った様子で聞いてきたリオに、ヴィヴィオが慌てる。誰しも、自分の過去を掘り下げされると言うのは恥ずかしい物だ。
「あ、それは私も興味あるかも……」
「こ、コロナまで!」
楽しげに笑って言ったコロナに、ヴィヴィオは慌てたようにわたわたと腕を振る。
が、そういう反応をされると喋りたくなってしまうのがライノと言う男で……
「そうだなぁ……「ライノ」おっ、と……」
口を開きかけたライノの言葉に、彼の聞き慣れた声が、少々威圧感を普段の二割り増しで割り込んだ。
「……余計な事話すなよ」
暗に、「聞くな」のニュアンスも含んだその言葉に、リオとコロナ、ヴィヴィオまでもがクラナを恐れるように少し俯く。
と、一気に沈んだ雰囲気をぶち壊すように、ライノはケラケラと笑った。
「分かってる分かってる。そんな怖い顔すんなって、ビビられてんじゃん?……てわけで、この話はまた今度な」
「あははは……はぃ……」
「すみません〜……」
冷や汗を掻きながらコクコクと頷いたちびっ子達を見ながらクラナは内心でライノに突っ込んだ。
「(分かってないじゃん……)」
と、クラナは一度なのはとフェイトの方を向く。
「……えっと」
状況を尋ねるように困ったような表情をした
「あ、うん。今、ヴィヴィオ達の成績の発表会してた所」
「三人とも花丸だったよ~」
「……あー」
一度チビッ子達を見て、クラナは頭を掻く。と、其処にいつもの声が割り込んだ。
[ちなみになのはさんフェイトさん!相棒の成績表、ご覧になりますか!?]
「っ……」
「あ、そう言えば……」
アルの言葉に、クラナは少々緊張したように体を硬直させ、なのはは思い出したように天井を仰ぐ。何しろついこの前まで殆ど干渉していなかったために、母親でありながらもクラナの定期テストの点数など殆ど知らない事を、今更思い出したからだ。まぁとはいっても、学期末に返される通知表に関しては流石に毎回見せてもらっていたので、決して何も知らないと言う訳ではないのだが。
しかし今回に関してはあくまでもテストを滞りなく終えて居なければ、流石に……その場合かなり口惜しくはある物の、連れていく事は出来ない。
と、言う訳で……
「クラナ、テスト、どうだった?」
「…………」
なのはが笑顔で聞くと、クラナは一瞬身を引いた後、観念したように持っていたカバンの中を探り始める。
そんな一連の流れに何となく普通の親子のような感覚を覚えて、少々なのはやその場にいたフェイトは嬉しくなった。
と、ようやく見つけたのか一枚の紙を取り出して、クラナはなのはにそれを差し出す。
この時代、クリアウィンドウへの表示でも良いのはよいのだが、それだと一部の学生がデータの表示を改ざんして親に見せてしまう云々の理由により、未だにこう言った部分の事は紙に魔力印刷で行われている。
「これ……」
「えーっと……」
印刷されていた成績は、以下のとおりである。
高町クラナ
基本五教科
ミッドチルダ言語 95点
ベルカ言語 98点
数学 100点
総合魔法理科 97点
ミッド史 100点
選択教科
次元世界史 96点
物理学 98点
魔法物理学 97点
化学 98点
魔法化学 99点
芸術
音楽 100点
Physical 364人中2位 Rank SS
「…………」
「凄いね……」
全教科95点以上。其処にはそうそうたる数字達が並んでいた。まさかこれほどとは思っていなかったなのは達は一瞬絶句する。
[いやぁ、実際今回の相棒は異常でしたよ!一日目二日目は得意な理数系強化だったからまだしも、後半の文系教科までこの点数ですからね!]
「ちょ……っ!?」
「え……」
「えっと、それって……」
「……っ!」
アルの言葉で、なのはとフェイトが同時に顔を上げてクラナを見る。その視線にたじろいだような動きを見せて、即座にクラナが下した決断は撤退だった。
全速力で振り向き、階段へと急ぐ。
[相棒!?えっと、準備してきます!あぁ、相棒、そんな急がなくても、なぁぁ!?]
ドタドタバタンっ!と音がして、クラナは自分の部屋へと引っ込んだ。
その様子をみて、ポカーンと、なのはとフェイトはその場に立ち尽くす。と、そんな様子を見ていたライノは人知れず苦笑した。
『変な家族だよな……』
『“複雑な”と言うべきかと。少なくともマスターの思考パターンほど単純で無い事は確かですね』
『それこそ“ストレート”に言い直すべきじゃないか?』
『何を馬鹿な』
『ひどっ!?』
そんな念話を交わしていた彼等に、ようやく正気に戻った大人二人が近寄った。
「ライノ君」
「はぃ?」
「言い忘れてたけど、ライノのも確認するよ」
「え゛……」
ギクッ、と言ったように一歩引いたライノの顔を、なのはとフェイトがニコリと覗き込んだ。
────
何やら急いだように二階へと去って行ったクラナの背中を見ながら、ヴィヴィオは先程の会話を思い出していた。
『四年前……ヴィヴィオがちゃんと物心付くより前の話だから──』
『昔のヴィヴィオって、どんな子──』
「…………」
昔の自分がどんな子供だったか。それは……何となくだが、覚えている。何時も誰かの陰に隠れていて、怖がりで、臆病で、泣き虫で……そう。少なくとも、今の自分よりは弱い少女だったと記憶していた。それは見方を変えてみれば、今の彼女が、自分は以前の自分より強いのだと思い込みたいだけなのかも知れなかったが、其処までの事に思い当るには彼女はまだ幼かった。
と、何故ヴィヴィオがそんな事を思っていたかと言うと……少しだけ、思い出したからだ。ライノに出会った、その時の事を。
確かに、ヴィヴィオの記憶のかなたには、うっすらと今目の前に居る青年を幾分か幼くしたような、金色短髪の少年の顔を記憶している。
記憶の中のその顔は困ったように笑っていて、自分の視界は誰かの後ろに隠れたようになっていた。ただ……その記憶の中で、どうしても思い出せない事があった。
その視界はそのうち、ふと、誰かに呼ばれたように上向く。そうしてその視界には、“誰か”の顔が映るのだ。それは母、なのはである割には少し自分の視線に近い場所にある顔。きっと、自分の知る、あの頃の自分が心から信じ、頼っていた“誰か”の顔……しかし……
『どうして……』
それがどんな顔をしていたのか、どんな眼差しで自分を見つめ、どんな表情で自分を見ていたのか。その一切を、ヴィヴィオはどうしても思い出す事が出来なかった。
それが“誰の”顔なのかは、よく分かっているにも関わらず、だ……
「……お兄ちゃん」
一体あの時、兄はどんな顔をしていたのだろう。四年前、あの事件が起こる前まで、自分と兄は、一体どれだけ通じ会えていたのだろう……今となってはもう記憶の彼方に埋もれ、忘れてしまったそれをヴィヴィオがどれだけ思い出そうとしても、その記憶が浮上することは、ついぞ無かった。
────
「そう言えばママ」
少しして、思考の海からようやく浮上したヴィヴィオは、後ろ頭を掻いて成績表を見せているライノに苦笑しながら何かを言っているなのはに、後ろから尋ねた。
「?どうしたの?ヴィヴィオ」
「えっと、さっきお客様がどうって……」
「あ、そうだった!」
と、なのはが言った直後、玄関でピンポーン。というチャイムの音が鳴った。
[It seems to have come.(いらっしゃったようです)]
レイジングハートの言葉に、ヴィヴィオはてけてけと玄関に向かう。鍵を開け、扉が開くと、其処には意外な人物が立っていた。
珍しく私服姿で肩に小ぶりな旅行鞄を掛けた、アインハルトと、同じく私服(と言ってもヴィヴィオ達の前では殆ど私服だが)に、肩に円柱状のカバンを掛けたノーヴェだ。
「おっす」
「こんにちは」
「アインハルトさん!!?……と、ノーヴェ!」
駆け寄ったヴィヴィオと結構な至近距離で向き合いながら、アインハルトは何処か緊張したような面持ちで言った。
「異世界での訓練合宿との事で、ノーヴェさんからお誘いいただきました……」
そこまで言って何故か、アインハルトは顔を若干赤らめる。
「同行させていただいても、宜しいでしょうか」
そこで朱くなると他人に色々勘違いされそうなもんなのだが、まぁそんな事は此方側の話である。対して、ヴィヴィオの返事はそれはもう速かった。
肉眼では見えないようなスピードでアインハルトの手を掴むと、それをブンブンと振る。
「ハイッッ!もー全力で大歓迎ですっ!!」
本当に凄まじい歓迎ぶりだ。眼の中に星が宿ってる。というか輝いている。
「ほらヴィヴィオ、上がってもらって」
「あ、うんっ!」
と、夢中になってアインハルトの手を握っているヴィヴィオの後ろから、フェイトの落ち着いた声が響いた。ヴィヴィオは客人を玄関先で立ち止まらせている事にようやく気がついたらしく、慌てて返事をする。
ちなみに、既にアインハルトは顔が真っ赤だ。
「アインハルトさん、どーぞ!(ドキドキ」
「お邪魔します」
何故友人を招き入れるだけでやたらドキドキしているのかまったくもって理解不能なのだが、それは良い。と、意外なサプライズに大興奮なヴィヴィオを見て、二人の後ろでフェイトがノーヴェにそっと耳打ちをした。
「あの子が同行するって教えなかったの正解だね、ノーヴェ」
「はい。予想外に」
苦笑しながら答えたノーヴェの前で、アインハルトは奥へと招かれる。
「「こんにちはー」」
「はい!」
リビングに入ると、ソファの奥でコロナとリオがそろってアインハルトに頭を下げた。と、その前でヴィヴィオが、どうぞどうぞと言うようにソファーをパンパンと叩く。と……
「始めまして、アインハルトちゃん」
家長であるなのはがひょっこりと顔を出した。
「ヴィヴィオの母です。娘がいつもお世話になってます」
「いえ……あの、こちらこそ……」
突然目上の人間が現れたせいか、戸惑ったようにアインハルトは応答する。
と、そんな彼女にお構いなしと言ったように、なのはは興味深々の様子でアインハルトに迫る。
「格闘技、強いんだよね?すごいねぇ……」
「は、はい……」
ドンドン顔が近くなるなのはに、ますます戸惑ったようにアインハルトは朱くなる。光景だけ見れば完全に……アレだ。
まぁ、とは言え、なのはにしてみればその気がある訳ではない。どちらかというと、注目しているのはアインハルトの“強さ”の方だ。
以前にも説明した通り、高町家の人間は原則的に強い人間にかなり強く興味を持ってしまう癖がある。見ようによっては悪癖だが、それによって彼女は何度も頼れる友人を得て来た事も事実では有るので、今は其処を追求することはやめておこう。
さて、彼女達高町家の人間の特性、この症状には、幾つかパターンが有る。それを全て説明する事は現時点では控えさせていただくが、今のなのはの場合は、「育てたくなっちゃうの症候群」だった。
まぁ症状としては単純。伸びしろのある人間や、成長楽しみな人材を見つけてしまうと、自然に教導官としての血が騒ぐのか、そう言った人材を自分の手で育ててみたくなってしまうのだ。
今はまだ症状としては落ち着いているが、実はこの症状、この先数年がたつと少々悪化、というか、激化する事になる。その犠牲者……もとい、対象となる人物にも物語が有るのだが、まぁそちらについては時がたつのを待つ事にしよう。
さて、そんななのはのスキンシップにどぎまぎしているアインハルトに助け船を出したのは、傍らでその様子を見ていたヴィヴィオだった。
「ちょ、ママ!アインハルトさん物静かな方だから!」
「えー?」
娘に止められ、少し残念そうになのははアインハルトから離れた。
と、その時不意に、アインハルトの耳に聞いた事のある声が響く。
「おー?なんか人増えて、あ、ノーヴェさん、どうもッス!」
「おう、ライノ。お前もちゃんと来れたか」
「はは。いやぁ、マジでアイツが行く気になってくれるか分かんなかったんであれですけど、ラッキーっつーか、アイツの変化に感謝ですよマジで」
「確かにな……しかしお前も居るとなると……今回は結構ハードな模擬戦になるかもな」
「期待してくれて良いっすよ」
笑いながら話す二人の声にアインハルトが振り向くと、其処に見覚えのある短い金髪の男が立っていた。
「お?おー!アインハルトじゃねぇか!こないだぶり~」
ニッ、と笑ってそう言った青年の顔を、アインハルトは確かに知っていた。
「ドルクさん!?」
驚いたように目を見開くアインハルトに、ライノは笑いながら歩み寄る。
「っはは。やっぱそんなに時間置かないで会えたな。テストどうだった?」
「あ、はい。滞りなく……」
「え?アインハルトさんとドルク先輩、お知合いなんですか?」
少し戸惑ったようなアインハルトの言葉に続くように、リオが尋ねる。ライノは肩をすくめて返した。
「ん?あぁ、まぁな。強いて言うなら道端で体が衝突した程度の関係」
「そ、その節は大変申し訳ありませんでした……」
「いえいえ、こちらこそ」
慌てて頭を下げたアインハルトに、ライノは笑いながら返すように頭を下げた。ライノが顔を上げ、と丁度その時、上から足音がして、クラナが降りて来た。
「……ノーヴェさん『あ、こんにちは、よろしくお願いしますね』」
「おう」
クラナの簡潔な(実は少し長い)挨拶に、ノーヴェは五指をそろえた手をピッと掲げて答える。と、クラナがアインハルトに気が付いた。
「……アインハルト」
「あ、く、クラナさん、今回、私も同行させていただく事になりました。よろしくお願いします」
少し焦り気味ながらも頭を下げたアインハルトに、クラナはコクリと頷いて返す。
と、そんな子供たちの様子を見て、なのはは微笑みながら並んでいたフェイトとノーヴェに話しかけた。
「今回も、にぎやかになりそうだね」
「うん♪」
「賑やかなだけじゃなく、ハードになりますよ。さっきライノと話してましたけど……アインハルトや、男子二人の強さは正直チビ達とは別格ですから」
「うん。私達も、気を引き締めなきゃね。なのは」
「もっちろん!」
そんな風に会話をして、いよいよ、一行は出発となった。
「……おい」
「え!?何!?お兄ちゃん!?」
「……格好」
「え?あっ!?そだ、着変えなきゃ!クリス、手伝って!」
[ピッ!]
────
高町家から、フェイトの運転する車で、リオとコロナの家を経由しつつ(クラナ達は初めからライノの家で着替えてから来ていた)ミッドチルダの首都次元港に向かう。ちなみに現在人数が九人居る為少し八人乗りの車の中が狭い。
三列あるシートの内、一列に四人乗る事になる訳だが、まぁその場合は必然的に……
「っはは!美少女四人詰め。こりゃ眼福だねぇ」
[馬鹿丸出しですね、マスター]
「ぐっ……」
「ごめんね、少しせまくなっちゃって」
「「「「大丈夫です!」」」」
チビッ子三人と、アインハルトが最高尾の座席に四人でぎゅうぎゅう詰めになっていた。まぁ狭いは狭いが、ワンボックスであるうえに四人とも小柄な為其処まできつくは無いようだ。
窓側の席に座ったヴィヴィオは、これからゆく旅行に思いをはせる。
前にも行った旅行、けれど、今回の旅行は初めてが一杯だ。
自らのデバイスである、クリスとの遠出は初めてだし、リオも合宿参加は初。それに……
『アインハルトさんが一緒だし』
そして、何より……
『お兄ちゃん……』
ずっと共に行きたかった、けれど、行けなかった人が、今回は自分の前に座っている。
きっと、素晴しい旅行になる。そんな予感に、彼女は胸を高鳴らせ、そんな期待を吐き出すように、隣にいたアインハルトに言った。
「アインハルトさん、四日間、よろしくお願いしますね」
コクリと頷いて、彼女は返す。
「はい。軽い手合わせの機械などあればお願い出来ればと」
「はいっ!こちらこそ是非!」
これから四日間の、素晴しく、そして波乱に満ちたイベントが、今、始まろうとしていた。
後書き
はい!いかがでしたか?
今回は、高町家での話だけでほとんど一話使ってしまいましたw
ちなみに、原作だと立った八ページしかありませんこのあたり。どうしてこうなったw
なんとなく、心理的な部分や自由に冗談交じりの説明が書ける部分だと長くなってしまう癖が有るんですよね……いかんいかん。
さて、では予告です。
ア「アルです!そして今回は……」
ウ「あ、私ですか」
ア「ウォーロック!ようやく二人で登場出来ましたね!」
ウ「えぇ。アル。頑張りましょう」
ア「はいっ!さて、今回は旅行へとお出かけ編でした!それはそうと、旅行に出かける時ってワクワクしますよね!ウォーロックはどうですか!?」
ウ「え?まぁ、確かにいつもよりも少し浮ついては居るかもしれませんね。まぁ私の場合、今回もマスターが騒ぎすぎてうるさい限りでしたが」
ア「そう言えば着替えてる時もすっごい色々言ってましたね。これじゃないとかこっちは違うとか」
ウ「さっさと決めれば良い物を……前日も服や持ち物の事ばかりで深夜までうるさかったのですから、迷惑千万ですあの人は本当に……」
ア「まぁ、それもライノさんの良い所であるとは思いますよ?」
ウ「限度が有ります。もう少しクラナさんを見習って、落ち着きを持ってほしい物です」
ア「あははは……って、そんなライノさん、作者さんによれば、“第二の主人公的な奴”だそうですね」
ウ「あんなのがですか?考え直すことを激しくお勧めします」
ア「そこまでですか」
ウ「そこまでです」
ア「あははは……では次回、「消えがたき心」」
ウ「ぜひご覧ください」
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