DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 一~四章
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一章 王宮の女戦士
1-14最期
いよいよここしか無いというところに、階段があった。
側に、深手を負った王宮戦士が倒れている。
駆け寄り、抱き起こす。
「ラ、ライアンか……。わ、私は、もう、だめだ。いいか、よく、聞け……。」
ライアンはホイミンを見る。
ホイミンは悲しそうに首を振る。
「世界のどこかで、地獄の帝王が、復活しつつ、あるらしい。
しかし、魔物たちの予言では、帝王を滅ぼす、勇者もまた、育ちつつあるらしい、のだ。
勇者がまだ、力を付けぬ子供のうちに、見つけ出し、闇に、葬る。
それが、魔物どもの狙い、だ。
ライアン!子供たちをっ!子供たちを、守ってくれ……!」
地獄の帝王を滅ぼす、まだ子供の、予言の勇者。
それでは 、行方不明の子供たちを助け出して終わり、では無いのか。
ならば自分は、王宮戦士はどうするべきか。
いや、ことはバトランドだけでは無い、自分は、ライアンは
――今は、目の前のことだ。
「……ふっ、ライアン。私は、使命を果たしたら、言おうと思っていたことが……。
ラ、ライア、ン、あ、い……ぐふっ」
戦士は事切れた。
いち早く真実に辿り着いた彼は、王宮に帰ることも無く、大切な誰かに伝える言葉を預けることも無く、逝ってしまった。
ライアンの名を言い直そうとするばかりで、最期の言葉は言いかけてもいなかった。
これでは、言葉を伝えることは愚か、伝えるべき誰かを探すこともできない。
こんな無骨な自分の腕の中で無く、愛する者の腕の中で、せめてもっと美しい誰かの腕の中で逝ければ良かったろうに。
自分が看取れただけでも良かったと思うべきなのか、しかし余りにも報われない。
ところで彼の名は何と言ったか。
などとライアンが思っていると、ホイミンが複雑な顔でライアンを見ていた。
衝撃が大きかったためか、声が出ていたようだ。
「ライアンさん、悲しいけど、報われないけれど。この人は、幸せな最期だったと思うよ」
自分が不甲斐ないばかりに、自分の無力感の一部を、ホイミンに背負わせてしまった。
しかし言われてみれば、彼の死に顔は安らかだ。
ライアンが聞き取れなかっただけで、彼は最後まで言い切っていたのかも知れない。
言い切った満足感の中で逝けたなら、ライアンが思い、声に出したことよりも、随分ましだったろう。
それに、今は目の前のこと。
「ありがとう、ホイミン。行こう。彼の死を、無駄にしてはいけない」
ライアンは彼の、名も知らぬ同僚の亡骸を、そっと床に横たえると、静かに目を閉じさせた。
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