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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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番外1話『ローグタウン』


 麦わら帽子のドクロが海を行く。
 グランドラインへと向かうその船は旗を見ればわかるようにもちろん海賊船。
 穏やかな日差しと波があいまって眠気すら誘われる絶好な航行日和にあって、彼らの船は非常に盛り上がっていた。

「ハント20歳、得意なことは一応狩り、になるのかな? これから宜しく!」

 新たな仲間の参入にルフィたち一行がまるで宴会でもしそうな勢いで歓迎の声をあげる。実に楽しそうな雰囲気にハントもすぐに馴染んだのか、楽しそうに息を落とした。
 
 ナミはともかくとしてルフィやサンジと面識があってもゾロやウソップにとってはこれが初めての会話だ。それで少々びくついていたハントだったのだが、気のいい海賊である彼らが小さいなことを気にすわけもなく、ハントが彼らと打ち解けるのにたいした時間はかからなかった。
 第一印象としてはまずまず、なんとなしにそう感じたハントはおもむろに甚平と黒いシャツを脱いで、船の手すり部分に手をかける。

「お、なんだなんだ?」
「芸でも披露してくれるのか!?」

 興味深々のルフィとウソップにハントは笑う。

「あぁ、折角だから美味そうな魚獲ってくる」

 と、その言葉に興味を示したのはサンジ。

「へー、新鮮な海の幸ってわけだな」
「任せろ、少し大きめの魚でも獲ってくる」

 言うや否やルフィに「これ一応持っといてくれ」と自分の体に巻きつけたロープを手渡してそのまま海へとダイブ。

「ちょ、ちょっと! 錨をおろしてないわよ!?」

 ナミが慌てて言うも、時既に遅し。
 既にハントの姿は海中へと隠れてしまった。
 船は常に風を受けて進んでいる。

 下手をすればハントが海中に潜っている間にこの船を見失ってしまう可能性だってあるのだ。一応はルフィが命綱のような縄を持ってはいるものの、それでもその縄自体頑丈な代物ではないし、なんらかの拍子に千切れてしまうことだって十分にありうる。
 そのことを伝えようとしたナミだが、残念なことに野郎共はそういった可能性をまったくもって考慮していなかった。

「どんな魚獲ってきてくれるんだろうな!?」
「そりゃきっと大物だろ、なんせ網ひとつ持ってなかったんだぞ。よっぽど自信ないと無理だろ?」
「いやしかし完全な素手で魚を捕らえられるもんなのか? 魚人じゃあるまいし」

 それどころかハントが魚を獲ってくることへの関心で一杯になっているようだ。
 へたり込むようにうなだれたナミに、ゾロが軽く言う。

「ま、ルフィがロープ持ってんだ。なんとかなるだろ」

 一応常識的なはずのゾロの言葉も、ナミにとっては非常識でしかなく、彼女はヤレヤレと天を仰いだのだった。。
 それから約5分後。

「どっこいしょお!」 

 おっさんくさい掛け声と共に一人の男が巨大な影を抱えて海中から飛び出してきた。なにもないはずの海中からどうやったのか、まるで陸上から飛んできたかのように空に跳ねて船の甲板へと着地する。
 ドンという音とともに魚がピチピチと跳ねる音が聞こえる。全長約2mといったところだろうか。
 少なくとも大人一人よりは大きいその魚に、ハントは少し残念そうに呟いた。

「あー、すまん、この辺でかいのこいつぐらいしか見当たらなかった」

 言葉から察するにこれよりももっと大きな魚を狙っていたらしいが、これでも十分な大物だろう。なにせ何の装備も準備もなく海に入ったのだ。しかもかかった時間はたったの5分。
 メンバーの中で一番器用なウソップでももっとたくさんの時間をかけて釣りをして、それでも釣れる時と釣れない時があることを考えれば上等すぎる結果だろうか。

「おー、うまほー!」
「……こいつは料理のしがいがありそうだ」

 ルフィがよだれを垂らして、サンジが感心したように魚を眺めている。

「ハントがいる分には飯にくいっぱぐれることはなさそうだな」

 ゾロの建設的な言葉がハントにとっては心地よく「役に立てそうで何よりだ」と小さく胸をなでおろした。が、それに目ざとく気づいたウソップが胸を張って笑う。

「ふふーん、俺は全長10mの魚を一本釣りした経験がある! そんな俺の名前を尊敬をこめて呼びたいのならこう呼ぶがいい。キャプテーンウソッ――」
「ああ、10mかぁ。俺もソレくらいの海王類なら何度か獲ったことならあるな……一本釣りはさすがに無理そうだけど」
「――プ……え?」
「お前すごいな」

 純粋に感心した表情で微笑むハントにウソップは「お、おおよ」と動揺を隠せずにがくがくと頷く。まさか自分の誇大な嘘を信じるだけでなくそれを実現していたとは夢にも思っていなかったに違いない。

「ハントはともかく、ウソップあんたは嘘でしょ」

 ナミがどことなく呆れた目でぼそりと呟いた。

「ばれた!?」
「って嘘だったのかよ!」
「というか明らかに嘘だっただろ」

 嘘がばれたことで落ち込むウソップと嘘に気づけなかったことに落ち込むハントが肩を落として、それをゾロがナミと同じように呆れた目で呟く。

「こ、これが海賊って奴か」
「いや、違うでしょ」

 ナミの冷静な言葉はハントには聞こえなかったらしく、ハントはゆらりと立ち上がってそのままサンジに向けて言う。

「というわけでサンジ、なんかその魚で美味いもん頼む!」
「任せろ」

 サンジもなかなか料理しごたえのある魚に上機嫌なのだろう。少しばかりわくわくした様子でそのままキッチンへと向かう。

「うおおお、もう腹が減ってきたぞ! ナミ、ハントみかんくれ!」
「いいぞ」
「絶対だめ」

 ハントの肯定とナミの否定が重なった。二人はお互いの声が信じられなかったようで驚いたように顔を見合わせる。

「え、駄目なのか?」
「絶対だめ!」
「いっぱいあるんだから一個くらいいいじゃねーか」

 目をウルウルさせて懇願するルフィに合わせて、ハントもなぜか目をウルウルとさせて懇願するようにじっとナミを見つめる。

「だめなのか?」

 その目に、ナミは一歩だけ後退。
 普段なら「だめ!」という言葉とともに暴力あたりが付け加えられそうなものだが、ナミは顔をそらして「あんたはルフィのことをまだ何にも知らないからそんなことがいえるの!」と小さく言う。
 ハントは驚いた顔を見せて「そうか、それなら仕方ないな」とばたりと倒れこんだ。

「す、すまない……ルフィ。お前に一口だけでもみかんを、と……思っていたのに、俺は……このザマさ……」
「は、ハント! だ、大丈夫か!」
「しっかりしろ、まだ傷は浅いぞ!?」

 どこか遠い目をしだしたハントを抱え込んでルフィとウソップがその顔を覗き込む。

「へ、へへ……いいんだ。俺は……ここまでの男、さグボァ!」

 赤い液体というかケチャップを口から撒き散らしてハントが力を失う。

「え、衛生兵!」
「衛生兵ーーーー!」

 ウソップとルフィが涙を流す勢いでハントを抱きかかえて叫ぶ。非常にやかましいことこの上ない。

「……ハントってあんなんだったかしら」

 ウソップやルフィと楽しそうにじゃれあうハントの姿に、ナミが頭を抱えるようにため息を落としたのは仕方のないことだろう。
 こうして、ハントは麦わらの一味へと溶け込んでいく。




 さて、彼らは順調に海原を進み続け、徐々にグランドラインへと近づいているわけだがイーストブルーからグランドラインに入る前に一つの島がある。
 そこにローグタウンという別名『始まりと終わりの町』がある。かつての海賊王ロジャーが生まれ、そして処刑された町だ。それにルフィが興味を惹かれないはずがなく、彼らはその町へと寄港することとなった。

「よし、俺は処刑台を見てくる」
「ここはいい食料が手に入りそうだ」
「俺は装備集めに行くか」
「おれも買いてぇもんがある」
「貸すわよ利子3倍ね?」

 それぞれがそれぞれの場所へと行きたいらしく、取り残されたハントは実にのんびりと困った声をあげていた。

「……さて、どうしたものか」

 遠ざかる彼らの背中とは対照的にハントはそこまで行く必要がある場所がない。あえて言うなら釣り道具がほしいくらいだが金を一銭も持っていないハントにとって買い物など夢のまた夢だ。
 ゾロがナミに金を借りていたのは見ていたが、幼いころにナミと接したことのあるハントからして、ナミから金を借りる度胸はさすがになかった。
 なにもすることがないのだから船でのんびりと留守番でもしようか、そう考えて船へと引き返そうとしたハントだったが不意に甚平をつかまれて動きを止めた。

「……」
「……?」

 振り返ると、そこにはナミが。なんとなく気まずい表情をするナミにハントが首をかしげる。

「ナミは買い物に行くんだろ?」
「……うん」
「なんか用か?」
「うん」 

 ――あれ、なんか……デジャビュ?

 一瞬だけ考えて気のせいかと首を振る。なぜかモジモジとするナミが、これまたハントにとってはどうしてもツボで、抱いてはいけない感情を思い出しそうになる。

 ――やっぱりデジャビュ?

 ふと思い、そこで気づいた。

「あぁ。荷物持ちか?」
「!?」

 ナミがなぜか驚いた顔で、はじかれたようにハントを見つめる。

「あれ、違ったか?」
「ううん、合ってる。私たち結局再会してからあんまり会話してないわけだし、さ」

 ――久しぶりに二人っきりで会話を楽しもうよ。

 小さな言葉を付け足して、そのままハントの甚平を引っ張って歩こうとするナミに慌ててハントも付いていく。

「そうだな、それぐらいなら……いいよな」

 自嘲気味にハントは微笑む。
 なにかを達観しているかのような笑みと、声色。
 それに気づけなかったナミはわずかに首をハントへと向けるが、ハントはもういつもどおりの表情で「どうした?」と逆に首を傾げてみせる。
 まるでなんでもなかったという態度に、ナミは小首を傾げつつも気のせいだと判断して「ううん」と微笑む。

 ――機嫌よさそう……かな?

「ねぇ、ハント」
「ん?」
「ルフィたち、どう?」
「……どうって?」

 ざっくりとした質問に面食らう。意図が掴めるわけもなくオウム返しになった彼の言葉を、ナミは少しばかり目をさまよわせてうつむき、ため息をついたかと思えば、自分の髪をかき乱して実にいらだたしといった様相で尋ねる。

「だから……その、楽しくやれそうかって聞いてるの! 察しなさいよ、それくらい!」
「え、えぇ!?」

 いきなりの温度差のある態度。
 ナミの言葉の裏にはハントへの配慮が多分に含まれていた。
 ココヤシ村を出る前、まだ島中の人間が宴で騒いでいる中、またハントがルフィに誘われる前のこと。

 ベルメール一家の4人でハントの過去にあったことについて話をしていた。その時のハントの経験談から聞くに、彼は海賊嫌いの海軍嫌い。そのハントがルフィに誘われて、海賊になるといってついてきた。ほとんどの迷いを見せることもなく。実に簡単にだ。

 8年も前のことだが、ハントの愛の告白をナミはもちろん忘れていない。それどころかナミにとっても大事な思い出だ。忘れられるわけもない。それに、共に世界を回ろうという約束もある。
 要するにハントが海賊になった原因は自分にあるのではないか、という想いがナミにとっては少なからずある。だから、自分のせいでハントが嫌々海賊になってしまったとして、それでハントが打ち解けずにいれるなら少なからず自分のせいもあるのではないかと、不安にかられていたのだ。

 もちろんハントが海賊になったのは自己責任のことで、ナミがどうこう考えるべきでないことだということは彼女もわかってはいる。が、やはりそれでもハントの自己責任、とそれだけで完全に自分と区別させて考えるには色々と複雑な感情が入り混ざりすぎてしまっている。

 それで心配になって先ほどの『楽しくやれそうか』という質問に結びつくわけなのだが、ただそれを実際に尋ねてしまうと自分がハントのことを心配しているということがあからさまな態度となってしまう、それが恥ずかしくてナミ自身わけもわからない感情と共に強い言葉をたたきつける、という結果になったのだ。

 まぁ、つまり。
 後半の強い言葉はナミの照れ隠しでしかなかったわけなのだが、残念ながらハントは察せるほど鋭くはない。
 これまでハントが触れ合ったことのある異性との人生経験はベルメール、ノジコ、ナミ、それにほんのちょっとの人魚と、だけだ。
 そんなわずかな経験でナミという異性の照れ隠しの言葉をハントが察せるわけもない。さっさと聞かれた問いにうなづく。

「ああ、あいつらと一緒なら楽しく世界を回れそうかな……海賊になってまだ少ししか時間経ってないし、実感もわいてないけど、でも、きっと後悔はしないと思う」

 ――っていうかナミと一緒で後悔なんてするわけもないしな。

 気軽に、なんでもないという風に小さく紡がれた言葉に、ナミは少しばかり頬を赤くさせて黙り込む。

「……」
「……あれ、ナミ?」

 返事がないことを不思議に思ったのか、顔を近づけて覗き込もうとするハントに、とりあえず拳骨を一つ。

「ったぁ……なんで俺殴られたの!?」
「顔が近い! マナー違反!」

 その言葉に、ハントは一瞬だけ驚きの表情を。それから寂しそうに「そうだな」と頷く。特に違和感のないやりとりだ。彼らの昔どおりのやりとりといえばそのまんま。変わったことといえばナミの照れ隠しに少し暴力的なスキンシップが増えたことくらい。

 笑ってやり過ごすはずの、そんなやり取り。
 なのに。
 なぜか彼の声に滲むなにかがナミにとっては距離が感じられた。

「……ハント?」

 それを不思議に思い、尋ねようとするも「そういえば何を買うんだ?」という笑顔に邪魔をされた。結局はナミも先ほどの勘違いと判断して、彼女特有の小悪魔的笑顔を向ける。

「何だとおもう?」
「……」

 ――嫌な予感がする。

 彼女が浮かべる小悪魔の笑みに、そう感じずにはいられないハントだったが、果たしてその勘は的中する。
 とある服屋に着いた。

 女性服を主に取り扱っているお店なのだろう。女性客が主に見かけられるこの店内で、ハントは気まずそうにナミの後をついて歩く。この時点で帰りたいと既に思ってしまっているハントだったが、救いとして店主が男性なため、居心地が悪すぎるというほどではなかったというところだろう。
 大量の服を抱えて試着室に入ったナミが着替えている間に、店主がこっそりとハントへと話しかける。

「お美しい彼女様でごさいますね」
「……彼女じゃないんだけど」
「ほぅ、では付き合う前といった感じでしょうか?」
「いや、それも違うかな」

 店主がグイグイと食いついてくるため、別の意味で気まずい。
 そんなやりとりを何度か繰り返した後、店主の目が光った。何かを察したかのような、そんな眼光だ。

「要するに、お客様のお連れ様と懇意になりたいのでございますね?」
「っ!?」

 まさか正解されるとは思っていなかったハントは驚きに身をよじらせるが、それが肯定であることを店主が暗に悟る。

「いえいえ、いいのです。それも当然のことでございましょう。あれだけお美しいお客様です、きっとそう簡単な道ではないでしょうとも、そうでしょうとも。ですからこそです、ここでお客様が男としての意地をどんと張ってあげることこそが彼女様をおとす第一歩ではございませんでしょうか!?」

 ズズいと営業スマイルの店主が両手に広げたアクセサリーを見せびらかす。

「これなんかはどうでございましょう」

 ハントはそこでゆっくりと首を横に振る。

「もう諦めたから……俺はいらないかな。俺はいいから彼女にいい服を見繕ってやってくれる?」
「で、ですが――」
「――いらない」
「さ、左様でございますか」

 徐々に険しくなるハントの瞳が、店主の言葉を黙らせた。もちろんハントからして無意識なのだが、こればかりは仕方ないだろう。どうしようもない空気が淀もうとしたところで、試着室のカーテンが開かれた。
 そこにいたのは毛皮服を大胆に着こなしたナミが。

「これ似合うかな?」
「……んー」
「おぉ、お似合いで、お客様!」

 大胆なスリットが入ったチャイナ服を着こなしたナミが。

「これは?」
「……んー」
「ほー、エレガントで!」

 どうも反応の悪いハントと全力でほめる店主の温度差が著しい。まるで滑稽なほどの二人だが、それが少しずつナミの機嫌を悪化させていく。

「……じゃあこれは?」
「……んー」
「エレメントで!」

 ただ、それにハントは気づかない。

「…………これは?」
「……んー」
「エレクトリカルで!」
「………………これ」
「……んー」
「エレジ――」

 そして、遂にナミが我慢の限界を迎えた。店主のほめ言葉などそもそも聞いていなかったかのように店主の言葉の途中で一度試着室へと引っ込み、最初からきていた服を着て試着室から出てきた。

「――ハント?」
「……ん?」
「ちゃんと見てる?」
「あぁ、見てる」
「さっきから『んー』しか言ってないと思うけど?」
「そうか?」
「ええ」
「……そう、かもな」
「ちゃんと意見聞かせてくれないと意味ないんだけど」
「……意見ねぇ」

 どうにも煮え切らないハントの態度だ。それに、ナミはカッとなった。

「もういいわよ! そんなにつまらないなら一人で買い物するわよ!」
「い、いやそんなことは――」
「――うるさい!」

 ぴしゃりと言葉を叩きつけてそのまま店を出る。

「お、お客様! 先ほどまでの服は全てお買い上げで?」
「ううん、いらない。私もっとラフなのがほしいからほかの店行くわ」
「またのご来店を!」

 息を切らしながらも全力の営業スマイルを浮かべる店主に内心で拍手しつつ、それどころではなかったとナミの背中を追いかける。

「待った待った、ナミ待ってくれって! ほんとにつまらないとかそういうつもりは――」
「――じゃあなんであんな態度とったのよ」

 ぴたりと立ち止まったナミがじろりとハントを睨みつける。

「あぁ……うん。まぁ、その……なんというか」

 また煮え切らない態度。それがつまりはつまらなかったということなのだろうと、既にイライラしてしまっているナミには感じられてしまう。
 今のところ、もしもこれがデートと仮定するのなら明らかにハントが悪い。

 実際、ナミはそれに近いつもりでこの買い物を楽しもうとしていたのだ。8年前のハントの言葉を信じるのなら今も彼女のことをハントは好きでい続けているわけだし、そんなハントを信じて、ナミは買い物に一緒に行こうと誘ったのだから彼女もハントのことを少なからずそういう感情をもっているのかもしれない。

 とにかく、再会して二人っきりの会話も充分といえるほどに交わせてはいないため、それもナミとしては楽しみだったのだろう。
 それが蓋を開ければ、ろくに服の感想も言おうとしない、それどころか興味すらなさそうに首をひねるだけ。
 不機嫌になるのも仕方ないだろう。

「……つまらないならそう言ってくれたらいいじゃない」
「違う、ほんとにつまらないとかそう思ってたわけじゃない。ただ、なんていえばいいかわからなかった」
「? ……思ったことを言ってくれたらいいじゃない」

 別に全肯定をしてほしいとは思っていない。ハントのセンスが悪かろうが、それがナミのセンスとかけ離れていようがナミからしてハントの意見が聞きたかった。
 むしろ、そういう会話をしたかったのだ。

「まぁ、そう……なんだろうけどさ」

 どうも言いづらそうに言葉をにごらせようとする。
 もちろん、ナミのことを好きなハントが試着室から出てくるナミの服装に興味がなかったわけは、断じてない。それどころか彼なりに必死に言葉を考えていた。
 なんといえばいいのかを。
 ハントが彼女に思った第一の感想は、どの服においても同じ。

 ――似合ってるけど、着てほしくない。

 これだった。

「じゃあ、どう思ってたか教えてよ」

 ジトっとした目でナミに見つめられ、ハントはまた言葉を詰まらせる。

 ――露出多いから着てほしくない。

 なんて、正直に言っていいわけがなかった。
 ハントからして、これはあくまでも買い物の荷物もち。もちろんナミとの会話は楽しんでいたが、この買い物もナミ曰くの『先客』に服を見せるためのものと思っていた。

 だから『着てほしくない』なんて正直にいえなかった。むしろなんでそんなことをハントに言われなければいけないのかとナミに言われるのがハントは怖かったからだ。
 ハントが感想をなかなかいえなかった理由はそれだけ、ただそれだけ。

「……」

 だが、じっと感想をひたすらに待ち続けそうなナミの態度に、このままでは埒が明かないと観念したのか、ハントはため息を吐き出した。それから顔を明後日のほうへと向けて呟く。

「似合ってた……でも、露出が多いから着てほしくなかった」
「え」
「ナミが着てた服に対する俺の感想は全部それだった」
「……それって」
「……本当につまらないとか思ってたわけじゃないぞ、どういう言い回しをしたらいいかわからなかっただけだ」

 ナミの方へ顔を向けることなく小さな声で吐き出された言葉、それが本音だということは彼を見てさえいれば一目瞭然だった。

「ねぇ、ハント?」
「……」

 ――それって独占欲?

 明後日を向いたまま、恥ずかしいのか気まずいのか、とにかくナミへと顔を向けようとしないハントがおかしくて、彼女はその言葉を呑み込んだ。

 その様子に、ハントがおずおずと話しかける。

「……黙り込まれると怖いんだけど」
「んー?」
「いやいや絶対何か言おうとしてじゃんか」
「んー?」
「さっきどこかで見た光景だな!」
「んー?」
「会話のキャッチボールしようぜ!?」

 上機嫌なナミと、そんなナミの様子にほっとしたハントがまたかしましく道を歩く。
 楽しそうな彼らのやりとりを、道行く人々が通り過ぎるたびに笑みを浮かべて見守る。

「さ、次の服を見に行くわよ!」
「へいへい」

 彼らがまるで恋人に見えているということに気づいていないのは、当人二人だけだった。



 
 

 
後書き
外伝というか本編続き?w

②はほとんど内容がないです。
①で終わると気持ちが悪い方はどうぞ。

2014.2.08
タイトルを外伝から番外に変更しました。
 
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