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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第19話 そして、精算へ・・・

俺たちは再びノアニールの西にある洞窟にいた。
防具を強化した俺たちは、集中攻撃にさえ注意すれば、ここで全滅することはないだろう。
俺が唱える炎の呪文「ベギラマ」は強力であり、決まればほとんどのモンスターは倒される。
一部効かないモンスターは、テルルとセレンの打撃攻撃でしとめられる。
俺たちの魔力が尽きれば、魔法陣に戻ればすむ。

魔法陣の力で、俺たちのHP、MPが瞬時に完全回復するからだ。
いまのところ、魔法陣の力は尽きることがない。

俺が、火の呪文「メラミ」を覚えるまで訓練をつづける。
そこまで訓練すれば、もう一つの目的を果たすことができるだろう。
借りた金を返すことだ。
俺はキセノン商会から10,000Gの大金を借り、装備を整えた。
俺たちが快適な旅を送ることが出来た原因でもあるが、借りた金は返す必要がある。

ちなみに、利息は最初の一ヶ月までは無利息で、1ヶ月ごとに1割の利息が加算される。
複利計算ではないとはいえ、前の世界の金利に比べれば高いと思われるかもしれないが、俺には担保がないのだ。
戦力として、体で返すことしかできない。
このような相手に10,000Gを貸すこと自体大きなリスクがあるのだ。
当然リスクに伴うリターンも過大になるというものだ。

「さて」
俺は、テルルとセレンに声をかける。
目標がすでに達したことを報告し、帰還呪文「リレミト」を唱える。
俺たちは、すでに親しみを覚えたこの場所から離れることにした。


「さて、どうしようか」
「どうするの」
「いただきます」
「ちょっとまて」
俺は、テルルがテーブルに置いてある種をつかもうとする手を、つかんで止めた。
俺たちは、アリアハンにあるルイーダの酒場で話をしていた。

ここで話をしているのは、獲得した種の分配についてであった。
洞窟の中でモンスターが落とした種がある。
かしこさの種が1個と、ラックの種が3個だ。
戦ったモンスターの数と落とした種の個数、そして、種を落とす確率を考えると、俺たちのリアルラックは、ふつうかもしれない。

さて、この4個の種、食べるとその名称のステータスが上昇する貴重なアイテムである。
どのように使用するか、慎重に決める必要がある。
冗談であるとはいえ、お酒のおつまみの感覚で食べるものではないのだ。

分配方法にはいろいろな考え方がある。
恐らくパーティの数ほどあるだろう。
均等に分ける方法。パーティの弱点の強化を補う方法。リーダー1人に集中投入する方法。などなど。

今回は、パーティの戦力強化の観点から種を使用することで、3人の意見は一致した。
まずは、かしこさの種であるが、僧侶のセレンが使用することになった。
俺のMPは120を越えており、セレンのMPに比べると50ほど違いがある。かしこさの値はMPの値に影響を及ぼすのでセレンのMP増加のために使用することにした。
ちなみに、ステータスの「かしこさ」と、頭の良さとは関係がないらしい。

「わたしも欲しいな~」
「普段、使わないだろう」
テルルがMPを消費して使う呪文は1つしかない。
しかも、用途が限定されている。
「残念、結構おいしそうだったのに」
味で選ぶな、味で。
「食べ物の価値は、味で決まるでしょ!味で」

「残りは、ラックの種だが」
ラックの種は、運の良さがあがる。
このドラクエ3の世界での運の良さがどのような効果をもたらすのかは、あまりはっきりしていない。
現在のところ明らかになっているのは、アイテムドロップ率には影響をしないこと、闘技場の的中率には関係しないこと、敵からの攻撃補助呪文等からの回避率に影響すること程度だ。
「かなりわかっているじゃない」
「いや、攻撃の回避率や、会心の一撃の発生確率、逃走成功確率、デートの成功率、すごろく場における落とし穴の発生確率・・・」
「はいはい、アーベル。わかりました。わかりました」
俺が解説モードに移行したのを確認したのか、テルルはあわてて止めに入る。
俺も、話を先に進めるために、ラックの種の分配提案をおこなった。
「わたしに、全部なの?」
「ああ、そうだ。遠慮することはない」
「なんか、ふくざつな気分」
テルルは正直な気持ちを示した。
俺は、ラックの種の分配方法は、弱点を補強する意味合いで分配した。
集中して分配されるということは、運の良さが低いということだ。
事実、俺とセレンの運の良さは50代であり、テルルの20代と比べると差が大きいのだ。

「わかってはいたけれど」
テルルは、しかたがないという表情をしながら、ラックの種を食べ始めた。


「ひさしぶりだな、アーベル」
「・・・、久しぶりです」
俺は、キセノン商会の来賓室にいた。
キセノンに金を返すためだ。
普通であれば、お金を渡せば済むのだが、キセノンは俺を来賓室に招いた。
なにか俺に、依頼をするつもりなのか。

「まさか、利息を受けることなく全額返すとは思わなかったぞ」
「順調にいきましたから」
俺自身驚いていた。俺も、最初の1回分ぐらいは利息を払うつもりでいた。
「本音をいえば、毎月利子を受けたかったがな」
「そうでしょうね」
1年かからずに、元手が帰ってくるならこれほどよい商売はないだろう。
「まあ、金貸しは本業ではないのでね」
キセノン商会は、金融部門を持っていない。

テルルから聞いた話では、商人達との短期の掛け売りを除き、現金での商売にしか手をつけないことを基本にしているという。
「では、どうして」
俺に金を貸したのか。
「なあに、俺は身内に甘いだけだ」
キセノンは簡潔に答える。

俺は、キセノンの言葉に違和感を覚えた。
キセノンはあからさまな冗談を除いて嘘は言わない。
「嘘をついた商売人は信用を落とす」は、この世界でも絶対のルールだ。
特に、国家に影響力を持つ商人となれば、信用を落とすことは致命傷になる。

だが、「真実を話さない」ことや、「自分の言葉を、相手が勝手な思いこみで誤って解釈する」ことは、「嘘をつく」ことにはならない。
キセノンの「身内に甘い」という言葉も嘘ではないが、すべてを語っている訳ではない。

俺に与えられた情報は少ないが、自分なりに推測してキセノンに質問する。
「この契約は口外しないと約束しているが、この契約について質問した人はいますか」
「直接はないな。テルルなら気がついているかもしれないが」
キセノンは言葉を選ぶように慎重に答える。

俺はさらに質問する。
「そうですか。俺の母ソフィアとあなたとで、俺たちのような契約をしていましたか?」
キセノンは苦笑した。
そして、キセノンからの答えはなかった。

恐らく、事実だろう。
俺とキセノンとの契約と同様に、この契約の事を口外しない約束があるのだろう。
だから、沈黙を続けたのだ。
それでも、キセノンは話はじめた。
「ソフィアは、お前が冒険にでてからすぐに、俺のところに来て、みかわしの服の事を聞いた」

ソフィアは俺の服をみて、みかわしの服と確信したのだろう。
だから、キセノン商会に行って確認したのだろう。
キセノンも「冒険者が何を買ったかは商売上の秘密でいえないのはご存じでしょう」などと言って答えて、契約の事を口外しないよう努力はしたはずだ。
それでも、ソフィアは俺がみかわしの服を入手した経過を理解したはずだ。
そのうえで、ソフィアが俺とキセノンとの契約と同様の契約をキセノンと結ぶよう提案したのだ。
ソフィアがキセノンに対して、俺が借りたお金と同じ金額のお金を貸すことで、実質俺を支援していたのだと。

金額などは、俺たちのパーティ装備と所持金を俺に質問することで把握していたはずだ。
俺は自分の失敗を確信した。
ソフィアに隠し事はできないことを。

キセノンは追い打ちをかける。
「俺もソフィアも、親ばかなのだよ」
キセノンは、ソフィアにこの契約が知られることを確信していたようだ。
それでも、俺には一言も言わずに契約を結んだのだ。
「かないませんね、おふたりには」
俺はため息をつく。

「がっかりするな、アーベル。これは経験の違いだ」
「それなら、一生追いつけないですね」
「そんなことはない。俺がお前ぐらいのときは、お前ほどしっかりはしていなかった」
「ようするに努力ですね。精進します」
「がんばれよ、アーベル」
キセノンは俺の肩を叩きながら答える。
どこか嬉しそうな顔で。

そして、俺は思ったことを口にする。
「俺の母は、昔からこんなかんじですか」
「最初に出会った頃からだ」
「とすれば、10歳のときから」
「ああ」

キセノンもため息をついた。キセノンはおそらく、一度もソフィアに勝ったことはないのだろう。
「・・・、そうですか」
俺もおもわずため息をつく。
願わくは、今後のロマリアやポルトガの交渉相手が、ソフィアほど手強くないことを祈りながら。 
 

 
後書き
第2章終了です。
第3章は交渉が中心となりますが、一応冒険はします。 
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