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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第18話 そして、イシスへ・・・

「あつい」
「あついですね」
「・・・」

何回目のやりとりだろうか。
無限ループの恐ろしさを少し味わった気分だ。
俺たちは、砂漠を歩いている。

目指す場所はイシス。
砂漠の中にある城下町だ。
この町で装備を整え、もう少し経験値をためてから、ロマリアとポルトガとの交渉を行う予定であった。

それにしてもとおもう。
「みかわしの服で正解だったな」
「そうね、アーベル。見直したわ」
「ありがとう、テルル」
俺は見直したという言葉に対して、評価を落とした覚えがない事を指摘しようと思ったが、やめた。
相手が俺のことをどう思っているかわからない。
まあ、今は素直に喜ぼう。
鉄の鎧やくさりかたびらなどを身につけた日には、ゆであがることだろう。
ゲームでは関係なかった要素が、現実の世界では十分に影響を及ぼすのだ。


「焼いたら食べられるかな?」
「父さんは、うまくないと言っていたけど」
「そうか、残念だ」
地獄のハサミと呼ばれるカニのモンスターをベギラマで倒した俺は、セレンに質問していた。
セレンは父親からもらった本を読みながら確認している。

ちなみにセレンの父親は、元冒険者で、いろいろなモンスターを倒しては食べられるかどうかを自分の舌で確かめていた。
セレンの父親は「モンスターを食す」という著書を書き記し、冒険者ギルドの刊行物としては異例のロングセラーとなっていた。
セレンの家族は印税収入だけでもある程度裕福な暮らしができたが、セレンの父親は冒険者を引退してから、剣術の講師として後進の指導にあたっていた。

ちなみに、セレンが持っている「モンスターを食す」を読んでも「おおぐらい」にはならないようだ。
セレンが残念がったことは秘密だ。

前の世界での俺はカニが大好物であったが、セレンの言葉を聞いて食べるのをあきらめることにする。
前の世界の常識が、すべて通用するとは思っていなかった。
カニ料理はあきらめて旅を続けることにする。

最短距離を進めば、日が暮れる前にイシスに到着するはずである。
方向を間違えないように、気をつけながら俺たちは砂漠を越えていった。


「うっ、冷たい!」
「おいしいですね」
「・・・ごくり」

イシスの井戸水を飲んだ俺たちの感想である。
「ごくりは感想ではないでしょう!」
テルルの指摘に反論する。
「そうかもしれない。でも、ちがうかもしれない」
「なに、ソクラスみたいなことをいっているの」

ソクラスとは、この町にすむ哲学者のことだ。
彼とは一度、ソリテスパラドックスについて質問をしたかった。
しかし、下手に質問すると半日ぐらい彼と議論しなければならないという、大変親切な町の人の忠告により実行されていない。

「この冒険が終わったら、」
「な、なにを言っているの、アーベル」
俺は声にだすつもりなどなかったのだが、テルルの強い指摘に我にかえる。
「いや、ただのひとりごとなのだが、まずかったのか」
俺はテルルに質問する。

「ば、ばか。ひとがいるところで、恥ずかしいことを言わないの!」
「何を怒っているのだテルル。それに、ソクラスと話をすることがそんなに恥ずかしいことなのか」
「え!ちがうの?」
テルルは何か勘違いをしたらしい。

なにを勘違いしたのかテルルに問いただそうとおもったが、テルルの真っ赤な表情から答えは返ってこないと確信してあきらめた。
「いまのは、アーベルが悪いです」
セレンはアーベルに指摘した。

「え?俺のせい」
「そうです」
セレンは珍しく断言すると、防具屋に向けて歩き出した。
俺とテルルはセレンの後をついていった。 
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