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ソードアート・オンライン ーコード・クリムゾンー

作者:紀陽
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第五話 赤の実力

 
前書き
ジルのレベルを修正しました。
作中でクラインが言っていたことを思い出したので……。 

 
ギルド『聖竜連合』、通称DDAのダメージディーラー隊隊長にして『刀姫』の二つ名を持つ女剣士――カズラ。
攻略組の中では『閃光』アスナと同じくらいの有名人で、攻略組一のカタナ使いとしてと名高い、紛れもないトップ剣士の一人だ。

そんなカズラに挑戦状を叩きつけられた俺は、どうしたものかとため息をついた。

「――なんなの? いきなりさぁ……俺とデュエルしたくて探し回ってたわけ?」
「概ねはその通りですね。別に狙いはありますが、私自身は、ずっとあなたと戦いたいと思ってました」
「とんだ愛の告白だわ……」

この世界で五指に入る美人から迫られるなんて、俺としては声を大にしてドンと来い! と叫びたい。こんなことでなければだが。

「三ヶ月前……あなたが誰もクリアできなかったクエストを達成したと聞いたとき、私は自分の直感が正しかったと悟りました。――やはり、あなたは紛れもない強者だった」
「……あのクエストのせいか」

どうやら、俺はとんでもないミスを犯していたらしい。こうなるくらいなら、唯一の達成者の情報を提供するのではなかった。

以前アスナに指摘されたように、俺はクエストの進行を妨害するような情報を流してしまった。そのあと、俺が対応を取らなかったわけではなかった。
ある意味間違った情報を流した手前、あの情報を俺が流したことは隠しておきたかった。
よって、俺はクエストでの被害者を出さないために、唯一のクエスト攻略者として自分の名前を広めた。その結果、わずか一日でアスナが接触してきたのだ。

結局は真実をアスナに話してしまったわけだが、彼女なら遅かれ早かれことの真相にたどり着いただろうと判断したからだ。次いで、自分から話してしまえば、勝手に口をつぐんでくれると確信していたからでもある 。
事実、あれから三ヶ月も経っているというのに、KoBからの追及は一切ない。甘いといえば甘いヤツだが、こちらとしては大助かりだ。

しかし逆に言えば、俺はあの難関クエストを唯一、単独でクリアしたプレイヤーとして名前が広がってしまうことになる。

そして三ヶ月が経った今、なんらかの口実を見つけてDDAが動き出したということなのだろう。

「……つまり、このデュエルは俺の最終審査ってとこか」

俺は呟いて、空を仰いだ。

「うっわぁ……やりたくねぇー」

このデュエル、勝っても負けてもいいことが一つもない。勝てば勧誘が激しくなるだろうし、負ければDDAに強制加入させられるだろう。
とんだ二択だよとややイラつきながら、この場を逃れる方法を模索する。
そんなとき、カズラが口を開いた。

「でも、ただ戦うだけじゃ面白味がありませんね? ――どうでしょう、勝ったほうが一つだけ、相手になんでも命令できるとするのは?」
「――へえ。……なんでも、ね……」

カズラの言葉に、俺は思わずニヤリと笑った。
直後、カズラを壁と俺とで挟むように、彼女の背後にある建物の壁に手を突いた。顔をほぼ密着させ、至近距離から覗き込む。

「じゃ、こーいうのもいいわけ?」
「どういうものかはよく分かりませんが、ジルが望むことなら」
「はぁ……ったく、いい加減箱入りぶるのはやめろっての」
「……?」

本心から分からないといった様子のカズラに、思わず舌打ちをする。これで目の前にいるのがアスナだったらボディブローの一発でももらっていただろうが、彼女は本物の箱入りのようだ。

「――ま、こっちが勝てば一晩付き合ってもらうってことさ」
「それくらいならお安いご用です」

俺の意味深な言葉も完全に流される。というかその言葉通りの意味で捉えられた。
これだからカズラのことは苦手だ。俺にとって、彼女の鈍感さというか純粋さは天敵なのだ。人を慌てさせることだけが目的の言動では、ひたすら流され続けて疲れるだけだ。

「まあいいよ。ちょっとだけ付き合ってやる」

カズラから離れて、デュエルの申請を受諾する。一対一の初撃決着モードを選択し、腰からカタナを抜いた。
このカタナは以前手に入れたインゴットから作ったものだ。アスナとクエストに行く前に、一走りして鍛冶を依頼していたのだ。普通のカタナと違って峰が赤みを帯びているところが気に入っている。

俺がデュエルを受諾したことを確認してから、カズラもカタナを構える。反りがほとんどない、片刃の直剣のような剣だった。
いい趣味してるじゃん、などと考えながらも、どこから打ち込むべきか探るのは欠かさない。
同じ武器の戦いでは、動きが読まれやすいソードスキルは厳禁だ。防がれてしまえば、どんなソードスキルでも致命的な硬直時間を強いられ、その間に勝敗が決してしまう。
そうなると、勝敗で重要となってくるのはステータスとプレイヤーの技量だ。

現在、俺のレベルはちょうど80。今の最前線が六十九層だと考えれば、攻略組の平均程度である。対してカズラはその攻略組でもトップ剣士だ。レベルはあちらのほうがわずかに上だろう。
しかし、対人戦ならばモンスター戦メインのカズラより、俺のほうが経験がある。戦力的には五分五分というところだ。

カズラはカタナを中段に構え、どこからの打ち込みにも対応できるようにしている。
それに対して、俺はカタナを右脇へと引き絞って、突きの体勢を取った。

待機時間の六十秒が経過して、俺たちの間で『DUEL!!』の文字が散った。それと同時に、俺は猛然と突進した。
俺の分かりやすい攻撃に、カズラは物足りなさそうな表情を浮かべる。それも当然だろう。このまま突きを放ったとしても十中八九避けられる。そこでカウンターを食らわせれば終わりだ。

当然、俺がこんな分かりやすい攻撃をするわけがない。
そして俺は、カズラが間合いに入った直後、カタナを左手一本で薙いだ。

「なにっ……?」

突然軌道が変わった一撃に、カズラは驚きの声を上げた。
しかしさすがは攻略組と言うべきか、カズラは胴を狙った一撃をギリギリで受け止めてみせた。
だが、まだ甘い――。
俺は滑り込むように膝を曲げ、カズラのカタナを上へと受け流しつつその右脇を潜り抜ける。
折り畳んでいた膝を、体が向かう方向と逆に伸ばし制動。同時に体を捻ってカタナを両手に持ち替えながら、カズラの脇腹を狙って振り抜いた。
風を切る音とともに、刃がなにもない空間を通り抜ける。
ギリギリで前に跳んで避けられた。その結果に舌打ちしつつ、カタナを構え直す。
俺の視線の先で、カズラがこちらに視線を向けてくる。

「あれを避けられたのは、さすがに初めてだ」

やはり今までやりあってきたようなヤツとは違う。

「私のほうこそ……あのような動きは初めて見ました」
「初見で避けた君のほうがヤバいわー」

対人戦ならば有利、というのは間違いだったかもしれない。伊達にDDAの幹部をやっていたわけではないようだ。

「さて、では続きを――」
「いや、その必要はないよ」

今度は自分からとカタナを構え直すカズラを制止して、俺は剣を引いた。

「無理、勝てる気しないわ。リザイン、降参、俺の負け!」

俺がホールドアップしながら告げると、デュエルのウィナー表示が浮かんだ。時間は約二分、勝者は当然カズラだ。

「……ジル。どういうことですか、これは」
「どう見ても俺の降参。勝ったのは君だよ、カズラ。――ああ、安心しなよ。降参でも敗けは負けだから、言うことはちゃんと聞くって」
「でも、こんなことで納得できるはずが……」
「あー、分かんないかなぁ」

俺はため息をつくと、右手を腰に伸ばしながらカズラの背後の一点を見た。

「俺はね、観客ありで戦う主義じゃねーんだよ」

右手で派手にコートの裾を払う。
翻るコートの裾でカモフラージュして、腰から抜いた投擲用のピックを投げる。
カズラの肩口を通り抜け、彼女の背後にハイディング――姿を隠蔽していた何者かに吸い込まれていく。

虹色の光が弾けた。
街中などの『アンチクリミナルコード有効圏内』では、プレイヤーはシステムに保護されてHPが減少することがない。唯一の例外は俺とカズラのように、デュエルを受諾することだが、今回は関係がない。
見えない障壁に阻まれて、ピックが地面に落ちる。しかし、相手のハイディングは看破されていた。

「お前、さっきのヤツか」

建物の影に現れた男は、先ほどいなくなったことを確認したはずのヤツだった。

「いやさ、観客ありで戦ってやらないこともないんだけどさ……覗き見の真似事はやめろよ。観戦料取り立てるのがメンドくさくなるじゃん?」

軽薄な口調、大袈裟な手振りや仕草を交えて、男との距離を少しずつ縮めていく。あと五メートルほど近づけば取り押さえられる。

「確かに、カズラみたいな美人の戦う姿ってのも来るものがあるのは分かるよ? でも、やっぱ礼儀ってもんがあるだろ?」

あと一メートル。そのとき、男が懐に手を伸ばした。

「ちっ……!」

俺は即座に反応して地面を蹴ったが、男が懐から手を出すほうがわずかに早かった。
男の手の中でカメラのフラッシュを何十倍にもしたような閃光が放たれる。これはフラッシュクリスタルというアイテムだ。暗いダンジョンを照らすときや『暗黒』のバッドステータスから回復するためのアイテムだが、近距離ならば目潰しとしても使うことができる。

眩い閃光が治まって、俺が目を開いたときには、あの男はどこにもいなかった。

「……逃がしたかぁ」

俺はため息をつくと、カズラに振り返った。

「誰だ、アイツ。そっちに心当たりある?」
「顔は知りませんが……クリスタルを使ったときに棺桶のエンブレムが見えました」

棺桶のエンブレム。そのエンブレムは、おそらくSAOでもっとも忌避されている集団のトレードマークのことだろう。

「笑う棺桶……『ラフィン・コフィン』かよ」

嫌な名前に、思わず顔をしかめる。
するとカズラは、今まで以上に真剣な表情で俺の顔を見返してきた。

「ジル。早速ですが、賭けの報酬を使わせてもらいます。――私に、少しの間だけ付き合ってください」
「その様子だと、割りとガチな話かね」
「ええ――」

カズラは頷いて、俺にとって大きな意味のある言葉を告げた。

「明日、『ラフィン・コフィン』討伐作戦が行われることになりました。あなたには――その討伐隊に入っていただきます」
 
 

 
後書き
次話もよろしくお願いいたします。 
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