| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

SAO編-白百合の刃-
  SAO34-それぞれの一日

「悪いね、愛しの奥さんとイチャイチャチュッチュッできなっちゃって」
「その単語好きだな」
「だって事実じゃん」
「まぁ、否定はしないがな」
「兄のくせに生意気だ」
「うっせ」

 私達は他愛のない話を繰り返しながら二十二層にある広くて人気がない場所を探していた。
 その理由は前線へ戻るための準備というウォーミングアップ。
 今は前線から引き、休暇を取っている身である私はドウセツと一緒に心地よい休みを満喫している。このまま安らぎの時間の中だけで生きていたいと思う程に充実しているつもりだ。でもそれは願望でしかない。いつか必ず私達は前線へ戻り、死と隣り合わせの現実世界へ帰る戦いが始まる。その時になって、休暇を取る前の私よりも弱くなってしまうのは嫌なので、兄を誘って前線へ戻るためのウォーミングアップに付き合わせることにした。
 残り二十五層、約二年かけて一分の四までなんとか攻略することができた。
 もう少しで現実世界へ帰れる。そのもう少しの道のりが険しくて厳しいに違いない。これまで以上に脅威を増していき、当然敵も強くなってくる。少しミスだけで死に繋がることだってあり得ない話ではない。
 実際、エックスから七十五層の攻略状況を訊ねると、難航していると険しい表情で答えてくれた。強気な姿勢を取っているエックスの口から難航という言葉が出てくるのは、強気を沈ませる程の重い二十五層分ってことになるんだろう。

「それで……どれくらいやるんだ?」
「あー……うーん……決めてないや」
「適当だな」
「回数なんて関係ないよ。どうせぶっ倒れるくらいやるつもりだし」

 精神的に披露は溜まるんだろうけど、体力の限界で足が動かないなんてことはSAOでは関係ない。それを有効活用して強くなればいい。時間は常に有限。都合良く待ってくれはしない。

「さて、やりますかね」

 人気がいなくて戦闘するには十分な広さを見つけた私はすぐさまウインドウを操作して武器を十層以下で買える武器に変更、同時に下級のカタナと長棍を薙刀スキルで装着完了する。
 もう薙刀を隠す必要はない。
 それに相手は薙刀でなければ準備を蓄え切れないだろうと思うし、私も相手が二刀流でないと不十分になっちゃうからね。

「デュエルは初撃決着モードでいいか?」
「いいよー」

 私はデュエルメッセージを送ると早々に兄はオプションを決めて受諾する。
 現実ではゲームばかりやっていた引きこもり近かったけど、ゲームの中だと生き生きしている。そしてこの世界では最強とも呼べる二刀流使い。
 それが私の兄、キリトである。
 まったく……いろいろと参っちゃうわね。
 でも……不思議。

「ねぇ、兄」
「なんだよ」

 不思議と緊張とか焦りとか不安がない。心がスッキリする。

「私……兄に負ける気がしないんだよね」

 兄に薙刀を向けて発する。
 きっと挑発ではない。自信過剰でもないと思う。よくわかないけど兄には負ける気がしないし、負けたくない。
 対する兄は強気な表情で笑い、右に持つ片手剣をこちらに向けて発言した。

「奇遇だな。俺もキリカに負ける気がしないな」

 なんだよ、兄も同じなのかよ……。
 ほんと私達双子なのね……いや、それ関係なしにこの人には負けたくない気持ちでいっぱいなんだろう。

「生意気」
「お前もな」
「兄こそ、鏡でも見たら?」
「そっちもだろ」

 カウントダウンが一桁を切る。その直後に兄と刃が交じり合う。
 もう、前線へ戻る準備とか関係なしに何回も戦って勝敗を決めちゃうんだろうな。
 それでもいいか。

「さて行きますかね」
「言っておくけど、今更手加減しては聞かないからな」
「何言っているの、私に手加減する気なんてないくせに」
「そうだろう、な!」

 カウントダウンがゼロになり、お互いに攻めに前進して武器を振い、交差してにらみ合って笑うと同時に距離を置いた。
 さて、私の回避が兄に通じるか、そして自分はもっと強くなれるかを兄に勝つことで証明でもしましょうかね。



 曇りのち快晴。誰がどう見ても今日も良い天気。季節は冬なみだけどお外は暖かい絶好のお出かけ日和。きっと誰もが良いことが多い一日になりそうね。
 わたしはわたしで好きなアッサムに似た紅茶を、鳥が気持よさそうに翼を広げられる空を見ながら飲んで楽しみましょう。
 それと可愛い可愛い部下の成長をお助けするのはお休みにして、ちょっとだけ人とのお話会でも楽しみましょう。それが良い気がするわ。

「こんな日は、いつも見慣れている空を見上げながら紅茶を飲む……なんて言う日だと思わない?」

 青空を見上げて紅茶を口にしてから後ろを振り返る。
 今日はお客さんが二人招き入れている。

「お、おれはそういうのは、良くわからないので」
 
 一人は目立った特徴はないけど、背が高いのが印象な好青年は苦笑いをしていて、

「わかんなくていいってルージュ。つか、俺コーヒー派だからいらない」

 もう一人は金髪の少年顔の今時の子がぶっきらそうな態度をとっている。
 それでいい。みんながみんな同じだなんてつまらないもの。

「あら、ナリヤはコーヒー飲めなかったじゃなかったっけ?」
「の、飲めるようになったんだよ! なぁ、ルージュ」
「ああ、確か……ナリヤがコーヒー飲めれば大人っぽくてカッコイイって信じたから飲み始めたのだな」
「そんなんじゃねぇよ! 俺だって克服したい時期になったんだよ!」

 あらあら、ナリヤはわたしが微笑んでいることが気に食わなかったのか、「俺はコーヒー派だから、紅茶は知らねぇ」と拗ねてしまい、ブスッとした|形相(けいそう)で視線を反らしてしまった。

「でも、俺はそんなナリヤのこと好きだぜ」
「うっせ」
「それに可愛いし、愛嬌がある」
「やめろ」

 ルージュが拗ねたナリヤを褒めつつ手を伸ばして頭を撫でようとするも、差し伸ばした手は払い除けている。
 なるほど、耳にした通りの人だわ。
 ルージュ。『ソロ十六士』と言う、ソロの中でも飛び抜けて十六人の中でのまとめ役。見た目通りの好青年で人当たりもよく、一時的に多くのギルドから助っ人として参加するなど攻略組の中でも頼れる人材。正統派の片手剣士ヒットアンドアウェイのお手本となる程の安定感のあるバランスの良さがルージュの強みだと聞いている。
 それに加えて彼にはもう一つの噂がある。

「つか、よく好きとか可愛いとか男に向かって平気で言えるよな」
「そうか? 俺は心の底から可愛いと思うし、好きだぜ」
「やめろ気持ち悪い!」
「その反応、可愛いな。やっぱナリヤは可愛いよ」
「だから! それをやめろって言っているんだよ! 今すぐに、喋るな!」

 怒鳴りながら引いているナリヤに対して、その原因であるルージュは至って純粋で微笑んでいた。まるで人間独特の汚れを知らない無邪気の子供のように。でもそれがナリヤにとっては恐怖しかないのがわかるわね。
 噂に聞いていたけど……そっち系の匂いが全面的に漂わせているわね。一応……まだ、そっち系の人ではないのよね。そこのところはわからないけど、背中を軽く押すだけで行ってしまいそうだわ。
 でも、面白い人。わたしは好きよ、個性があることは素晴らしいわ。
 
「ふふっ」
「……なに笑っているんだよ!」
「面白いからよ」
「俺は面白くねぇんだよ!」

 ナリヤはソロになっても、『ソロ十六士』と呼ばれる一人になっても、血聖騎士団に入っていた頃から変わらないわね。変わったのは前よりも強くなったことからしらね。
 ドウセツと同じくいろいろと問題を起こしていたけど、訓練やわたしと一対一の訓練は真面目に受けていた。盾無しの片手剣を起用に右持ちと左持ちを切り替えて戦うスタイルは新鮮で、独特の感覚が彼の強さを持っている。血聖騎士団にいればその強さに磨きがかかるから張り切っちゃったけど、いろいろあって脱退してしまったことはちょっぴり悲しかったな。でも、あの日の彼が決断した瞳は一度も見たことがなくて、いつか見て見たかった目をしていた。そんな彼を止めるのは無粋よね。
 何はともあれ、ナリヤが元気なだけでわたしは嬉しいわ。

「たく……」

 ナリヤは頭を掻きながらぶっきらぼうに口にする。

「なに考えているか想像つくけどよ。俺は前よりも強くなっているからな。入っていた頃よりもずっとな」

 それでいい。

「そうでないと困るわ」

 元教え子でも成長して強くなっていることは笑ましいことだわ。これからもずっと強くなって、そして生きてお家に帰ることを強く願っているわ。

「さて、そろそろ来るかしらね」
「ん、誰かくるのか?」

 ナリヤの疑問に答えるようにコンコン、コンっと、三回叩いた音が鳴る。

「グッドタイミングね。入っていいわよ」
「失礼します」

 部屋の中に入ってきたのはここにいる人なら誰もが知っているプレイヤー。

「おわっ!? あ、アスナ――っ!?」
「アスナ君!?」
「ええ!? な、ナリヤ君に、ルージュさん!?」

 知っているからこそ、三者同様に驚愕していた。それは三人は誰が来るなんて知らなかったから、まさか知っている人がここに来るとは思いもしなかったのだろう。ナリヤはわたしに用があったからルージュとアスナも訪れることは知らない。ルージュとアスナはわたしが呼び寄せたけど他に来る来客のことを教えていなかったからそうなったのね。
 さて、ここで顔見知りのプレイヤーに出会った縁を剥がそうとするのは野暮だろうけど……仕方ないね。

「はい、アスナが来たのでナリヤとルージュはご退場をお願いするわ」
「え? ど」
「アスナと二人っきりの話をするからよ」

 誰でも急に思い浮かべていないことを言われると戸惑うことも承知。なので、すかさず理由を告げる。後は少し時間を経てば自然と受け入れつつ納得もする……はず。

「そういうことだから、じゃあね」
「おい、ちょっと待て! 俺は聞きたいことがあるのに聞けず退場できるか!」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってねぇよ! 俺はお茶して駄弁りに来たんじゃねぇよ!」
「でも楽しかったでしょ?」
「うっせ!」

 じゃあ、ナリヤは楽しかったってことでいいね。なんて言うと怒るから、言いたいことを言ってもらいましょうね。

「それでナリヤはわたしに何を聞きたいの? 恋愛相談だったら応援するよ」
「そんなことでわざわざこんなところにこねぇよ」
「失礼しちゃうわね」

 ナリヤは何を思ってか、呆れつつため息をつく。空気を変えるように一息ついた後のナリヤの表情は真剣そのもの。まるでこれからわたしに斬りかかろうとしそうなくらい鋭い目でわたしを見つめていた。 

「この前のことだ。キリトVSヒースクリフが戦ったことだ」
「あら、ヒースクリフの活躍を見ていたのね。かっこよかったでしょ、ヒースクリフ」
「ノロケはいいんだよ。俺が言いたいのは、キリトと戦っていた時のヒースクリフの動きが“妙”だったってことだよ!」
「妙?」

 ナリヤの口から出たキーワードは“妙”の一言。

「それはどういう意味?」

 ナリヤに意味を求めると、隣に聞いていたルージュもナリヤに訊ねる。

「普通じゃなかったってことなのか?」
「そうだよ、ラグとかそんなんじゃねぇ。なんというか……とにかくヒースクリフが妙だった。それしか言えねぇ……」

 話だけ聞けば、明確なものはない。これだけでは単にナリヤが思い過ごしているという結論で終わり。わたしもナリヤの見間違いだと思っている。
 問題なのは見間違いかもしれない話をわざわざ会って話す内容なのかしら。それも本人には告げずに……。

「アスナは見ていたのよね。ヒースクリフになにか妙だったことはあった?」
「えっと……」

 アスナはその時のことを思い出していたものの、

「いいえ、なにもなかったです……」

 なにも無かったと答える。

「愛しの愛しの愛しのキリトをずっと見ていたからわからなかったとかかしら?」
「なんでそこでキリト君が出てくるんですか!」

 案外言った通りかもしれないわね。恋人ができることで言いところが新しく見られたり変わったりするから微笑ましいことだわ。
 まぁ、アスナのことは一先ず置いとくとしましょう。

「ではナリヤの件は、ナリヤの見間違いで解決してもいいかな?」
「言いわけねぇだろ……って言いたいけど、そうなると思っていたよ」

 ナリヤは思い通りにいかなかったように舌打ちをする。

「……ムカつくけど、キリトが強いことは知っている。ヒースクリフも強いことは知っている。その二人が戦ったらどちらが強いかだなんてわからない。そんでやっぱりムカつくけど俺はキリトが勝つと思った。そして七十五層の闘技場で実現した。で、結果はヒースクリフの勝ち。途中まではどうなるかわかんなかったけど、後半になってキリトが押していたけど、ヒースクリフがあっさりと勝ちやがった」
「それはだって、ヒースクリフですもの」
「あぁ、そうだろうな。あんたはそう言うよな。だが、俺は違う。最後までキリトが勝つと思った」
「……なるほど」

 ナリヤの言いたいことはわかった。では答え合わせをしよう。


「つまり“妙”って言うのは……ヒースクリフが勝ったことに違和感があるっていうことでいいの?」
「そうだ。それともう一つ」

 ナリヤは立ち上がって、近くに寄ってくる。そしてバンッとデスクを叩いて真相を掴むように訊ねてきた。

「イリーナ……イエローゾーンにならない確実な方法…………“なにか知っているだろ?”」

 ……参っちゃうわね。
 ヒースクリフだからとしか、わたしには言えないもの。でも、ナリヤはそれで納得するはずがない。それは聞いていた同じ副団長であるアスナも、血聖騎士団と関わりのないルージュも同じ気持ちになるはず。誰もが一度は疑問に思うヒースクリフの強さの疑問を、ナリヤがぶつけてきた。
 確かにこんなこと、本人には言えないわね。
 それでも……。

「わたしが知っているのは強くてかっこよくて、時にお茶目な最強の騎士よ」
「お茶目って……」

 お茶目の言葉にアスナは反応して苦笑いする。

「ああ見えてもお茶目なところあるのよ。彼はそういうところを見せていないだけ」
「団長は副団長の時だけ見せているのですか?」

 私は首を振って、笑顔で答えた。

「わたしがお茶目なところを引き出しているだけよ」
「はいはい、そうですか」

 ナリヤはうっとうしそうな素振りを見せ、背を向けて始めた。

「な、ナリヤ帰っちゃうのか?」
「そうだよ。これ以上問い詰めてもイリーナの口からはヒースクリフのことを褒めるだけだ。知っていたとしても簡単には話してくれねぇだろうしな」
「あら、そんなことないわよ?」
「いえ、そんなことありますよ」
「アスナと同意見だ。一つや二つぐらい話せぇねことがあるのはわかっているんだよ」

 あらあら、元一員と副団長からそんなこと言われるなんてね。自分ではそんなつもりはなかったけど、そうらしいわね。

「それに俺が妙に思っていても、イリ―ナはヒースクリフのこと凄いしか思わないだろ?」
「わたしは観てないからわからないけど……ヒースクリフが勝つと断言できるから、勝ったのは当然みたいなものなの、わたしにとって」
「だろうな。そういうことだから行くぞ、ルージュ」
「そ、そうか。じゃあ、俺も退室します。ではイリ―ナさん、アスナさん、ごきげんよう」
「え、ご、ごきげんよう……」

 言いなれない別れの言葉を交わしたアスナを残し、ナリヤとルージュは出て行った。そしてそこからはわたしの知らない二人しか見えていないそれぞれの道を歩み出す。次会う時が楽しみね。
 
「さて、二人っきりで乙女トークでもしましょうか」
「あ、あの、副団長……一ついいですか?」
「何かしら?」

 アスナには副団長として攻略組として帰ってくるとは言っていない。それを込みでメールしてアスナは受諾し、本部へ訪れた。
 だから今日は攻略に関することは話さない……つもりでいる。
 なら、どんな話が切り開かれるのだろうか。それはそれで楽しみ。
 
「ナリヤ君とルージュさんは……どうしてここに来たのですか?」
「ナリヤはさっきのヒースクリフに関してのことで訪れたのよ」
「ナリヤ君から? 脱退してから一度もここに来てなかったですよね? なんでまた急に……」
「そうね。彼の性格を考えればもうここには来ないかと思っていたけど……そうでもなくて、それが嬉しかったわ」

 なにせ、かつての部下だった人ともう会えないとわりと本気で思い込んでいた。でもまた会えた時、彼がどんな顔をしているのか楽しみでもあった。それが実現するだけでも価値はあった。

「それじゃあ、ルージュさんは?」
「今後の血聖騎士団のことで招いたの」
「え、ソロのルージュさんが血聖騎士団の今後のことを話したんですか? 所属していないですよね?」
「“今は”ね」
「“今は”ってことは……」
「そうよ。一区切りが終わったら血聖騎士団に入ってもらうようにお願いしたのよ」
「ええ!? な、なんでですか?」
「必要だったから」
「そ、それだけですか?」
「それだけでも十分だと思うけど……やっぱり理由は必要よね。ちょっと変えて見たかったのよ」
「えっと……」

 理解が追いつかないアスナを追いつけるように理由を教えた。

「ヒースクリフから聞いたんだけど、彼はソロの中でも仲間を引っ張る先導力が長けているのよ。癖の強い『ソロ十六士』に入るキリトやキリカ、元一員だったドウセツとナリヤ、その他の人達をまとめるだけではなく、攻略組のソロプレイヤーまでも引っ張ることができる。まさにソロの団長とも呼べるような人だわ」
「それは……そうですね」

 アスナも納得する。例えソロではなく、ギルドに所属しているプレイヤーでもルージュがソロをまとめ、それを先導する姿を見て来たに違いない。
 ソロは不自由ではないが独りだ。自分の力しか、自分を守ることしかできない。孤独だけど自由な存在。ルージュはその中でも独りさせないながらも自由にすることができる存在。けど、ソロプレイヤーにとって必要な存在かというとそうでもない。
 何故なら、ソロは孤独で自由な存在だ。いてもいなくてもどっちでもいいのだろう。
 それに大概の人は成長する。『ソロ十六士』の何名かがギルドを結成したり、共に歩んで行ったりする人達もいる。
 だったら……。

「そのソロをまとめる人がうちに入ったら、血聖騎士団はもっと強くなると思うし、ソロプレイヤー達もいろいろと考えることになると思うのよね」

 変化を加えてみんな成長して強くなればいいじゃない。難しいって思う人が多いと思うけど、きっと乗り越えて強くなるとわたしは信じている。

「あの……うちのギルドが強くなるのはわかっているのですが、ソロプレイヤー達もいろいろと考えるって言うのは……」
「ソロの団長から外せば、他も変わるんじゃないかと思って」
「それはなんとも言えないですよ」 
「確かにね……でも、変わらないといけないわ」

 ここから先はアスナのために告げる。

「ソロプレイヤーもわたし達も良い意味で変わらないといけない。残りはあと二十五層分。たったの二十五層分を制覇すれば現実世界へ帰宅できる。でも、今まで通りにはいかないし、今までの常識が通用すると思えない。今となっては致命的な初見殺しで大勢の犠牲を出すことだってある。その変化に対応するには、わたし達も変わらないといけないのよ。わたしも、ヒースクリフも、キリトも、キリカも、ドウセツも…………貴女自身も」
「副団長……」
「さて、本題に入りましょうか」
「今のが本題っぽい気がするのですが……」
「いいの、いいのよ。帰ったらキリトと一緒に悩んで考えて、答えを出して変えていければいいんだから」

 人はそう簡単に綺麗さっぱりと変えることなど不可能だ。だからこそ確かな時間を使ってでも良い意味で変えていければいいのよ。それはわたしの願いであり、見て見たい景色。次会う時が楽しみなのは、その人の成長した姿が綺麗だからなのよ。

「まったく……良い意味で変わっても、副団長はいつも通りな気がしますね」
「そうかもね」
「それで……わたしを招いた理由はなんですか?」
「それはね……」

 ……実はナリヤにもルージュにもアスナの用件を教えたら仰天したのよね。そうなるとアスナはどんな反応するのかしらね。多分、アスナも驚愕するんだろうけど、まぁいいわ。
 わたしは正直な気持ちを込めてアスナに相談をする。

「実はこの後ね、ヒースクリフとデートなんだけど、素敵な場所とか知っているかな?」
「団長とデー…………え?」
「だから」

 わたしはわざとらしく、何度も口にして伝える。

「ヒースクリフとデートよ、デート。フフッ、初めてヒースクリフとデートするから、どこか素敵な場所教えてくれるかな?」
「…………」
「ヒースクリフとデート」
「……え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして数秒後、アスナはその言葉を理解して予想通り仰天した。
 言ったでしょ? 彼、お茶目なところあるってさ。デートをお願いすれば、してくれるような人でもあるのよ。

「だ、だだだ団長と、ふ、ふく、副団長って、そ、そんな関係だったんですか!?」
「どうかしらね」

 動揺して慌てふためくアスナをわたしはちょっといじわるして見たくなった。
 今日も楽しめる一日になりそうだわ。できれば、わたしもずっとこんな一日が続けば良いと思うんだけどね…………流石にそれは難しいね。
 だったら、今日を楽しみましょう。ヒースクリフとのデートも楽しみだけどね。



「いらっしゃいませ!」
「……すみません、誰ですか?」
「それどういう意味よ!」

 私は何週間ぶりに四十八層『リンダース』にある『リズベット武具店』へやってきた。中に入ると、そこは最大級の営業スマイルで出迎えたリズは私の一言で怪訝な顔になった。

「言葉の意味よ。私の知っているリズはうあおーうあおーって誤った狂喜乱舞するような人なのよ」
「あたしを狂人だと確定するな! それにどちらかというと、ドウセツの方が狂人よ!」
「人を狂人って、酷いこと言うのね」
「あんたが言うな、あんたが!」

 怒り狂うリズはもはや私のことを客として扱うことはなかった。

「それで何しに来たの? 黒椿の強化?」
「それもある」
「それも?」

 私は自分の愛刀である『黒椿』をカウンターに置く。次にウインドウを開いてキリカから預かった物の『道雪』をオブジェクト化し、それも『黒椿』と同様にカウンターに置く。そして強化に必要な素材をたくさん出してウインドウを閉じた。

「この二つを強化と砥ぎしてね」
「これ、ドウセツがキリカにあげたカタナじゃない。なんでドウセツが持っているの? ま、まさか……もういらないとか……」
「なに? 送ったものを預かっていたら悪いわけ?」
「あ、預かっているのか」
「バカ」
「うっさいわね! てっきりキリカがもういらないかと思ったのよ!」
「バカ」
「二度も言うな!」

 またもリズは怒りだす。キリカの性格を考えて、人の貰った物をすぐに捨てたりあげたりするとは思えないわね……。

「でも、なんで預けてあるの?」
「別に……『黒椿』のついでよ」
「そうです、か……」

 なんか不満そうな顔して呟かれると、なんか気になるわね。と言っても、面白味がないとか簡潔すぎるとか思っているのでしょうね。その思った通り、リズは覗くように再度訊ねて来た。

「…………ほんとにそれだけ? あんたのことだから、なにかあるでしょ?」
「他になにがある? あ……あったわ。リズに負担をかけさせることできるわ」
「なんであんたはそう言うことしか言えないのよ!」
「そうね。リズを見ていると不思議とどうやって罵ろうかと考えてしまうわ」
「なんであたしのせいみたいに言っているのよ」

 またまたリズは怒り出す。そしてこちらの意志を読み取ったのか、呆れて訊くのをやめてしまった。てっきり吐き出すまで訊ねるかと思ったけど、そんなことはなかった。私としては食い下がった方が楽で助かる。実際、『黒椿』のついでなのは事実であるから。

「あんたってさ……キリカみたいに元気丸出しのお人好しになればまだ可愛気あるのに……」
「なにそれ、いつも以上に気持ち悪いわよ。槍でも降るわよ」
「今すぐその性格を改めろ!」

 急になにを言い出すかと思えば、そんなこと…………絶対に無理。記憶焼失をしない限り、自分の性格を変えることなど絶対にない。今の自分も、所詮強い鎧を纏っているに過ぎない弱い泣き虫。
 更に言えば、私が可愛いとかまずない。そうね……本当に気持ち悪いわ。

「急にリズが気持ち悪いこと言うのが悪い。罰として私に支払ってもらうわ」
「強盗なクレーマーね、ほんと! さっさと作るからさっさと金払って帰れ!」

 リズが二本のカタナの砥ぎと強化の作業に移ろうとした時だった。

「桃髪! オレの相棒を研いでくれ!」

 余計なバカが、ここ『リズベット武具店』に来場してきやがった。そして私はその声に反応。

「帰って」

 ただ一言、願いが叶うようにお願いした。
 お願いです神様。これくらいの安い願い、どうが叶えてください。神様もあのバカは好かれないと思うので、なにとぞよろしくお願いします。

「おわっ、ど、清ましブス野郎! なんでてめぇがここにいる! くんじゃねぇよ!」
「帰って」
「誰が帰るか! お前が帰れよ、清ましブス野郎!」
「え、エックス! 暴言もお店の迷惑をかけるのも駄目だよ」

 なにかと騒がしくするエックスの後ろからイチが止めに入ってきた。

「ドウセツさんもいきなり帰れなんて言っちゃ駄目ですよ」
「……善処するわ」

 言葉通りに善処するつもりでいる。私はイチに嘘を言ってはいない。ただ、エックスがバカな発言をしたらどうなるかはだいたい決まっている。そもそもの話、エックスがあまりにも脳筋バカでうるさくてデリカシーがないのがいけないのよ。一応私のせいではないつもりでいるわ。

「あんたも相変わらずよね……」

 リズが呆れながらエックスに近寄ってきた。

「よう桃髪」
「桃髪言うな」
「なら、ハンマー女」
「名前で言いなさいよ」
「うっせな、特徴捉えているからいいだろ」
「だからってハンマー女はないから、あたしが筋肉女だと思われるじゃない」

 どうやらエックスとリズ会話からして、知り合い同士の関係のようだ。対応の仕方も考えれば専属スミスをつけているのだろう。

「それで、何しに来たの?」
「いつものだよ!」
「はいはい、じゃあさっさとあたしに渡しなさいな」
「言われなくてもやるっつうの」

 エックスはぶっきらぼうに愛用しているのであろう片手斧をリズに渡した。私と同様に研いだり鍛えたりするのでしょうね。

「あ、そうだ。イチもやってあげる?」
「え、あ、わ、私は……」
「遠慮しなくてもいいよ。お金のことなら、エックスに払わせればいいんだから」
「ふざけんな桃ハンマー!」
「わかりました」
「イチテメェ!!」

 イチも私達と同様に愛用の片手槍をリズに渡した。心なしかイチが喜んで見える。でも、それも日ごろ迷惑をかけているエックスがいけないんだわ。ざまぁ。
 
「さっさと仕上げろよな、桃ハンマー」
「その呼び方はともかく、ドウセツの分もあるから少し時間かかるわよ」
「ならさっさとしろよ」
「言われなくてもわかっているわよ」

 そう言ってリズは作業に取り掛かりに入った。

「んじゃ、戻って昼飯でも食おうぜ」
「そうですね」
「戻るの?」

 思わず私は店を出ようとする二人に咄嗟に声をかけてしまった。

「あ、はい。あのですね、ここ『リンダース』には私達のギルドハウスがあるのですよ」
「そうなの。でも近いから戻る必要あるのかしら? それともエックスが我慢強くないからかしら」
「一々オレをディスらなければ気が済まないのかよ、おめぇは」
「そうじゃないです。毎回リズベットさんがありがたいことに、わたし達の家に持ってきてくれるんですよ」
「そういうこと」
 
 これでエックスとイチがリズと親しい理由が判明できた。律儀というか、そこまでする必要があるというか……私には関係ないことだけど、それが私にはない人と人との関係性なのでしょうね。

「それで……ですね。もう、お昼なのですよ……ドウセツさん」
「そうね」
「その……あの……その……」

 急にイチはもじもじと両人差し指を上下に擦り、なにか口に出すのを躊躇い始めた。急におかしくなったのかと思えば、それを取り払うように発した。

「私達のギルドへ来ませんか!」
「嫌よ」
「はぅ」

 イチは私が断ったせいで涙目になり、怯えてしまった。だいたい察していたけど、やっぱりそういうお誘いだったのね。そうじゃなければ、私なんか放って置けばいいもの。誘う前に断っても良かったけど、それは人による。ちゃんと最後まで訊いて即決に断った。

「おい、てめえ!! イチが誘っているのに断るのかよ! 頭おかしんじゃねぇのか!」
「貴女に一番言われたくないんだけど」
「なんだど!」
「抑えて抑えて!」

 エックスは当然のようにキレ始め、殴りかかろうとするけどイチに止められてしまう。
 誘いを断ったって……言われてもね、私なんかが言っても場の空気を悪くするだけで、誰にも得にはならないと思う。誰かに対して、冷たくて強いイメージを脳に埋め込ませるような態度を取らないと保てられない。弱い私を見せるのはやっぱり抵抗がある。今はキリカとイリーナさん以外は見られたくない。

「す、すみません、ドウセツさん。出しゃばってしまいまして。また会いましょう」

 イチはエックスを抑えながら謝った。エックスがお前が謝る必要はねぇと怒鳴るように励ましていた。
 ……今まで、私のこと怖がっていたのにもかかわらず、自分から誘うことなんてやろうともしなかった。
 …………。
 ……本当にいいの?
 
「……気が変わった」
「ふぇ?」

 こういうのはあんまり変な風に考えない方がいいし、気を使う必要はない。それを承知で言っているイチのせいにしよう。それに誘いを拒む理由がない。うるさいのがいるけど、問題はないわ。

「だから案内してくれないかしら? 貴女達のギルドハウスへ」 
 

 
後書き
SAOツインズ追加。
ルージュ
ここで作ったソロ十六士の中ではリータ―的存在。ぶっちゃけ名前のあるホモ疑惑のあるモブ。いつか彼を含めたオリキャラのエピソードをかかればいいなーと思っています。

ナリヤ。
同じくソロ十六士の一人。キリトのライバルっぽい立ち位置だけど今のところ名前のあるモブ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧