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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO33-雪は解けて雫となる

 私の人生は幸福かと聞かれれば、首を振って否定をする。何故かと聞かれれば、私は言う。
 私だけが――――家族の居場所から引き裂かれたからであるからだと。
 私は双子の妹として生まれてきた。でも幼い頃、事故によって私は家族や双子の姉と生き別れてしまった。年が経ってから調べてみれば、私のことは……もう死んだ扱いとされていた。
 それは仕方がないことだった。最近まで、自分は生き別れた家族いるってことを……知ったのだから。 でも、悲しかった。自分だけが引き裂かれてしまったことに、私だけがこの数年間、ずっと角の隅っこで怯え続けてなくても済んだかもしれない。

 そして、ずっと――――独りで泣かずに済んだかもしれない。

 気がついた頃から、私は施設で私と同じ境遇の人達と一緒に暮らしていた。でも、幼少期から私は人との接し方、友達の作り方、輪に溶け込む入り方、みんなと手を繋ぐ繋ぎ方がわからない……不器用で、弱虫で、泣き虫などうしようもなかった。
 そのせいか、独りでいる時間の方が圧倒的に多かった。
 幼稚園で楽しかった思い出は忘れてしまった。印象がないからか、それとも楽しくなかったからなのか。それすらのことも忘れていた。
 いや、思い出を忘れようとしていた。楽しくないこと、嬉しいことがなくて、思いだす度に後悔をしたくないから、思いだすことで余計に自分を傷つけてしまいそうだから忘れようとしていた。だから、幼稚園の頃の自分はだいだい想像できることしか話せない。
 小学校からか、周りの人達はどうしようもない私のことをあんまり良い目で見ることはなかった。
 嫌いな食べ物が出された時の苦い顔、そのような目で私を見ていた。うじうじしていて気持ち悪いと思ったんでしょうね。
 勉強もイマイチ、運動もダメダメ、暗くて、地味で、弱虫で、泣き虫で、臆病者のどうしようもない私を見て、苛立ちを湧かせたんだわ。そしていつからか、私をいじめる人が現れた、それと同時に、私と関わらないように避ける人も現れた。
 痛かった。とても痛い思いをした。これだけはどんなに忘れたくても覚えている。避けられることはわかっているのに、心は痛み、苦しかった。体に蹴られることも殴られることもわかっていたのに、痛くて泣きそうになった。それでも、苦しくても私は助けを呼ぶことはなかった。誰かにすがりつかずに、独りで孤独の夜、私は毎晩のように泣き続けていた。
 そんな駄目な私を見過ごさない人もいたけど、接し方もわからない私は不器用にその手を振り払ってしまった。「助けて」の一言を言えば、救われたのに。あぁ、だからどうしようもないんだと……自分が嫌いで仕方がなかった。
 孤独に暗い夜の中で独り泣く――――自分になんの価値がある?
 私がいるだけで苛立ち、気味が悪いと思わせる。どうでもいいと思えば、私なんていてもいなくても同じ。そして、私は誰かのためになにもしてない。
 なにもできない。
 自分のことしか考えていない。
 改善しようとせず、泣き虫や臆病を言い訳にして何もしない自分なんて――――消えてしまえばいいと、何度思ったことか。
 それでも誰かに愛されたいと……戯言を何度願ったことだろうか。そんなんだから、何も変われずに、前に踏み出そうともせず、独りで隅っこで泣くことしかできなかった。

 ある日こと、私は誰にも言わずに真っ暗な夜のこと、施設から出て行った。
 ただ遠くに行きたくて、誰も知らない自分だけの居場所を探すように、そして先の見えない迷路の中で真っ暗な出口を探すように、自分がいた施設から、できるだけただ遠くに逃げ去りたかった。
 自分には何もない。
 自分は孤独だ。
 そして存在する意味がない。
 消えたい。
 だけど消えたくない。
 そんなどうしようもない自分は公園にたどり着くと、一人の女性の方が現れて、私に声をかけてきた。
 その人は『高道結弦(たかみちゆづる)』と言う女性の方で、今思えば、その人はキリカが大人になってかなり落ち着いて、たまに子供っぽい彼女は、お日様のようなに優しい人だった。
 私が誰もいない公園のベンチで座っていると、初対面なのにも関わらず話しかけて悩みを聞こうとしていた。それは私のことが放っておけない、私のことを心配しているんだと今ならそう思えた。でも、当時の私は人との接し方がわからず、それが恐怖にも感じた私は結弦さんの手を振り払った。
 ――自分なんかに優しくしないで。放っておいて。私を何かに利用して何かをたくらんでいるのだと、敵意を表した。
 でも、結弦さんはもう一度手を差し伸ばして、「どうしたの?」と「何か悲しいことでもあったの?」と、優しく語りかけてくれた。
 それでも私は、その言葉に裏があると思ってしまった。
 なぜなら、自分がどうしようのなくて、何も持っていないから、自分なんかに声をかける人はおかしいと思い込んでしまった。
 でも、そんな幻想は彼女の手に触れて、その幻想も包み込むように受け入れた温かさに私は惹かれてしまった。そして誰にも話したことなかった心情を結弦さんに告げた。

 『私には施設と呼ばれる場所を居場所だと思えないんです、何故だかわかりませんが、施設の人達を家族と呼ばれるのに違和感があって皆と馴染めることができませんでした。そうしたら、そのまま取り残され、孤独になっていき、私は家の中では独りでいることが多くなってしまいました私は友達なんて作り方わかりません。私は駄目だから、何やっても駄目な人だから、相手になにかすることなんて、できやしない……だって、私には何もないのだから。何もないのに、相手のためになにができますか? 何もできなくてただ迷惑をかけるだけです。そして不愉快を与えて苛立ちの原因を起こす駄目な奴って言われているのも当然なのですよ……。学校に行っても独り、帰る場所も独り、施設にいても皆の迷惑にかける、自分には何もない。弱虫で、泣き虫で、臆病で、運動も、勉強も、駄目、暗くて地味で何もできない。そんな自分が嫌いで消えてなくなりたいと思って施設から出て行きました。どうせ、私なんかいなくて良かったと思います。最近は私の扱いに慣れて存在も気にする必要もなくなってきましたから……いてもいなくても私には居場所なんてないです』

 ここまで言うと、結弦さんが『だから家出したの?』と聞かれる。私はコクリと頷いて話を続けた。

『……もう、我慢ができませんでした。私のどうしようもない理由で施設にいる自分が許されなかった。独りで消えていくのは怖かったですが、私がいることがどうしても許せなくて、施設から出て行きました。あの場所から遠くへ行きたい、あの場所から離れて行きたい、どこかにある遠い自分の居場所を探して行こうと思いました。そして今ここで休んでいると、私ごときに貴女は声をかけられました…………』

 そこまで言うと、結弦さんは私の頭を撫で始めて口にした。

『そっか……そんなことで頑張ったんだね』

 人の温もりに触れた私は、人前では流したことのない涙を流してしまった。

『だから、もう頑張んなくていいんだよ』

 どうして自分は泣き虫だからって、どうしてすぐに泣いてしまうのだろうと深く考えた。

『――怖い』

 答えは無意識に言葉に変え、結弦さんに告げた。

『怖いよ……怖いよぉ……っ』
 
 ―-怖かった。
 とても……怖かった。
 人が怖かった。
 私を見る目が怖かった。
 私を触れようとする手が怖かった。
 自分が好きになれなくて――――怖かった。
 幼い頃から違和感がしたのは見える人が黒く映ってしまったから。まるで大人の汚れを、子供の無邪気な悪意を見てしまったように、私はその意味もわからず知ってしまった、それが怖いものだと感じとってしまった。恐怖に囚われてしまった私はどうすればいいのかわからず、混乱して、これ以上自分が恐怖に取り込まれないように、耳を塞ぎ、身を守っていた。それが、救いの言葉、救いの手だったとしても、その逆と同じように否定してしまった。救いの手すらも黒く見えてしまう自分が怖い。怖くて、恐くて、痛くて、苦しくて、耐えられなくなって涙を流してしまう。泣くことが、唯一の救いだと思わせて心を閉ざしてしまった。
 いじめられるのは辛かったし、怖かった。当然、蹴られたり殴られたりされるのも痛かった。でも、どうすればいいのかわからないから、何もしようとしなかった。そして恐怖に耐えきれない私は、光を求めるように、闇を拒むように……あの場所から出て行った。
 バカみたいな話よね……自分が生み出し、思い込んだ恐怖にずっと怯えていたのだから……。
 本当にどうしようもない…………苦しむことなく、消え逝きたい……。
 結弦さんに告げると私は今まで溜めた分を全て晒しだすように人の前で泣き出した。どうしようもないくらいに、ただ涙を流すことしかしなかった。
 そんな私を結弦さんは、もう一度頭を撫でて優しい声で言ってくれた。

『行くところがないなら、わたしのところへ来ない? そこは、無理に頑張る必要はないから』

 その時の声。
 その時の手。
 その時の温もり。
 その時の優しさ。
 私は覚えている。
 結弦さんの一言がなければ、少なくとも、ずっと恐怖に呑み込まれていただろう。
 まだ恐い、結弦さんも怖い。でも、少しだけ楽になれたと思う。その言葉で私は救われた。頭を撫でてくれたことが、どれだけ嬉しかっただろうか。
 私は自分勝手に結弦さんにしがみついて、涙が枯れるまで泣き続けた。そんな私を結弦さんは優しく包み込むように抱きしめて、付き添ってくれた。
 
 少し楽になった私は改めて施設から出て、結弦さんの家で暮らすことになった。結弦さんは仕事が忙しくて家にいる時はほとんど一人だったけど、それでも、施設にいた時よりも心地よくて何よりも結弦さんは少ない時間の中で私と積極的に声をかけ、話し、手を触れ合ったことがすごく嬉しかった。でも、嫌なことがあるとすぐ泣いてしまう泣き虫だけど、少なくとも前よりかは泣かなくなったし、家で泣くこともかなり少なくなってきた。
 結弦さんのおかげで私は今ここにいる。私は恩返しをするために、泣かないことを努力し、臆病な自分を見返すように、動じない自分を作り上げ、それを根に染み込ませるような性格を変え、特に勉学を励むことをした。
 いい大学に入って、いいところへ就職して、結弦さんに恩返しする。今の自分では無理だから、時間をかけて必ず恩返しをする――はずだった。
 ある日、結弦さんが私にお願いことをされた。

『それなんですか?』
『あ、これ? ナーヴギアって言って、VRMMORPGのコントローラーみたいなものよ』
『それが、どうしたのですか?』
『協力して』
『え?』
『実は今度、ソードアート・オンラインが発売されるんだけど、全世界初フルダイブシステムが搭載されるんだよね。それでさ……雪音自身でバグがないか確かめてほしいの。大丈夫安全にできているから』
『それ、私じゃないといけないのですか?』
『本当は誰でもいいけど、わたしは雪音がいいの』
『は、はぁ……』
『ごめん、一時間から二時間の間まで、わたしに付き合って!』
 
 突然、結弦さんは私にSAOの試作に協力を頼まれた。ゲームに関しては触れていなかったので断ろうと思ったけど、恩があるので引き受けることにした。
 と言っても、試作用のSAOを単独でプレイして一・二時間ぐらいを好きなようにやるだけで終わった。どうやら、第三者から仮想空間のバグとか不自然なところがないかの確認だったらしい。そんな数時間で確認できたのかを訊ねられると、『楽しかった?』と訊ねてきた。
 私は『新鮮でした』と返すと、結弦さんは嬉しそうに笑っていた。
 結弦さんの頼みごとが終わったと思いきや、今度は二か月限定のベーターデストをプレイすることを勧められた。これも身近な第三者が体験して感想を聞きたかったそうだ。私は結弦さんの役に立ちたいと触れることがなかったオンラインゲームの知識を得て、ベータテストの参加者として私は剣を振った。ベータテスト中はタカネと名乗り、“キリト”というプレイヤーと組んで誰も到達していない十層まで行けることができた。組んだと言っても、会話なんてほとんどないに等しくて最低限の会話しかしない、目的だけの仲間、それは一般的にいう仲間とは程遠い関係だった。
 ベータテストを終えてから何ヶ月後に、今度は発売されたSAOをプレゼントされた。

『結弦さん……これは……』
『今めちゃくちゃプレミアム物だけど、雪音には手伝ってくれたかたお礼としてあげる』
『でも、私は……』
『あ、それ売ると多分、高価になるかもしれないわね。わたしのプレゼントだから好きに使っていいわよ』

 結弦さんは――――萱場晶彦に加わったSAOの開発に関わっていた一人であった。
 だから、私に試作をやらせることも、私をベータテストに当選させることも、入手困難のSAOを手に入れることなんてたやすかった。
 結弦さんが開発に協力して作ったものを、私は捨てることはできなかった。
 私は結弦さんが加わったものを台無しにさせないために、SAOの世界へフルダイブした。しかし、そこに待ち受けていたのは、萱場晶彦によるデスゲーム化。結弦さんが加わった萱場晶彦によってゲームの世界へ閉じ込まれてしまった。
 ゲームだったはずが、現実に変わってしまった。そのせいか、今まで平気だった景色が突如、黒く見えてしまった。
 この世界で死んでしまえば、私は現実世界も死んでしまう。その恐怖に私は我慢しながら、剣を振い、一刻も早く恐怖から逃れたいために現実に帰れる方法、百層のボスを倒すこと以外の隠しボスを探していた。
 瞳を開けば、結弦さんと暮らしている家ではない。ふと私は、施設にいた時と同じ――――独りになっていた。そのことにも恐怖をしていて、独りで怯えて、泣くことが多かった。
 でも、それは一時的なことだった。この世界で私は優しさに満ち溢れたキリカに出会い、穂のかで温かい手に触れて私は救われた。
 
 ようやく。
 
 私の中にある恐怖は――――優しさに包まれた。



「これが私……駄目でどうしようもないでしょ?」
「はいはい、そんなこと言わないの。大事なのはこれからなの」

 私が自分を責めることを予想していたようで、悩まずにキリカは即答して頭を撫でてくる。
 温かい……手を頭に乗せて左右に動かすだけなのに、心地よい……安心する。

「……ねぇ、キリカ」
「ん?」
「私を必要としてくれるのは……とても嬉しい」
「うん」
「貴女の手に触れて、私は救われた」
「それはお互いさまかな……私も、ドウセツに会わなければ、後悔の念にいつまでもとりついていたから」

 あの時のキリカ、『白の死神』とも呼ばれている彼女は――――私と似ていた。
 恐怖に怯えて助けての一言がいえない、施設にいた時と同じように、その時の私も助けての一言が言えないくらいに――――怯えていた。
 違っていたのは、私と違ってキリカは行動していたこと、怯えながら人のためだと思って、前に行動していた。でも前に進む道は、とてもじゃないが崩壊へと招く道を歩き出していた。

「だから、本当は貴女と一緒に前線へ戻るべきなんだけど……」
「いいよ」
「え……」

 見上げると彼女は笑顔だった。ひとつも嫌な顔せずに言ってくれた。

「まだ、戻るのは怖いんでしょ? だったら手伝うよ」

 ……敵わない。

「それに、そんなに無理に頑張る必要もないしね」

 とてもじゃないが、適わない。
 貴女の優しさには、どんなに強く偽装しても、いくら手を振り払おうと、否定しようとしても…………敵わない。
 それと同時に、私が一番欲しがっているもの。
 
「キリカ……ごめんなさい」
「そうやって、泣く時は我慢しなくて泣いてもいいんだから」

 ごめんなさい。
 まだ、貴女に言えないことがあるけど、それは……私がその人に言わなければいけないことだから、まだ貴女に言えない。

 そんな自分を優しくしてくれて。

「――――ありがとう」
「……うん」

 返事をすると、もう一度頭を撫でてくれた。少々恥ずかしいけど、受け入れたいものだから拒む必要はない。
 怖くなっても大丈夫。支えてくれる人がいるから。
 
 結弦さん。
 貴女のプレゼントは、萱場晶彦によって最悪なものにしてしまったけど、おかげで大切な人ができました。
 ありがとうございます、結弦さん。
 
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