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100年後の管理局

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第十三話 結界、勧誘

 
前書き
連投。今回の話は戦闘後の事後処理。
章の最後の話にして新キャラ登場。
割とさらっと流れていきます。 

 
『テステス。誠也君聞こえとるか?』
ストライク・スターズの魔力ダメージによって気絶した男を拘束魔法で縛り上げ終わったころ、突如ひさめからの通信が入った。
「ああ。聞こえてる。それよりひさめ、ロストロギアはどうなった。」
『ロストロギアはアリスちゃんが回収してくれてん。』
「アリスも来てくれてたのか。後で礼を言っとかないとな。それよりひさめ、増援に来てくれてありがとうな。」
『気にせんでええよ。私は任務を言い渡されてきただけやし。』
「そうなのか?」
『うん。それで来てみたら誠也君の反応があっただけやから。』
「まあ、どっちにしても礼を言う。ありがとう。」
『どういたしまして。』
『仲良く二人して話しているところ悪いけどちょっといいかしら?』
するとそこへアリスが通信で割り込んできた。
「おお、アリス。増援来てくれてありがとう。」
『少し心配になったから様子を見に来ただけよ。そんなことより転移妨害は一体だれが維持しているの?ちょっと結界のレベルが高過ぎて犯人を護送転移させようとしても全く魔法が反応しないんだけど……。』
「ああ。多分研究室内で誰かが張っているんだと思う。広域念話で呼びかけてみるわ。《こちら高町一等陸尉。状況は終了しました。転移妨害の結界の解除をお願いします。》」
《こちらランディ・ロウラン一等陸士です。すぐに結界を解除します。》
「へ?」
意外すぎる名前に思わず間抜けな声を出してしまった。
しかし、相手はそれを聞いていなかったようで、すぐさま転移妨害の結界が解除されていく。
するとアリスが唐突に大きな声を張り上げた。
『なっ!?』
「アリス!?一体どうした!?」
『どないしたんや!?』
『二人とも!すぐに容疑者の身柄を拘束して!逃げられる!』
『何言うとるんや!?こっちはすでにバインドで……なんやて!?』
「一体どうした!?二人とも!」
二人が通信越しで慌てた様子を見せる。
誠也もその様子から何かが起きていると察知できたのだろう。
先ほど拘束しておいた容疑者の方に目を向ける。
「なに!?」
気絶しているはずの容疑者の下に魔法陣が現れていたのだ。
(転移魔法陣――!!)
誠也は魔法陣の正体に気付きすぐに念話を行う。
《ランディ陸士!すぐに転移妨害の再構築を!!》
《い、一体どうしたんですか?》
《いいから早く!》
《そ、そんな急に言われても無理です!》
そんな念話のやり取りの間に転移魔法は完成し、容疑者はその場から消え去っていた。


「ふう。面倒だったなぁ。」
高町誠也、アリス・T・ハラオウン、八神ひさめ、ランディ・ロウラン、そしてそのオペレーターであったグレイル・ロウランの五人は証人として呼ばれていた時空管理局本局第三大会議室において行われていた会議から、やっとの思いで解放された。
「せやねー。ああいうのほんと堅苦しくてしんどいわぁ。」
「二人とも局員なんだから多少は慣れときなさい。将来困るわよ。」
ついついと言った感じで漏れ出す誠也とひさめの愚痴。
アリスはさすがにそれはまずいと、二人の発言を窘める。
「まったく……。ここにはランディもいるんだからな。そんな発言は控えろ阿呆。」
「あはは………。」
確かにグレイルが言うことは的を射ている。初対面の人にあっけらかんと自分の駄目さ加減を暴露するとはなかなか度胸が据わっていると言えよう。
ランディも何とも言えないような表情を見せていた。
「ランディさんの名前を聞いた時に思ったけど、やっぱり二人は親戚だったんだな。」
「ああ。とはいっても割と遠い親戚だがな。」
「はとこ同士の子供だからね。又従兄弟って言うんだっけ?昔から交流はあったけど。」
誠也が最初にランディの名前を聞いた時に思った通り、ランディ・ロウランとグレイル・ロウランには血縁関係が存在していた。
とはいっても、親がはとこどうしてあるという親戚関係なので、大した血縁関係はない。
普通の家ならばこのくらい離れた親戚関係になると交流を持っていないこともままあるが、グレイルとランディの親同士はそうではなかった。
「二人の両親は仲がいいんか?」
「すごいぞ。両親同士も仲は良いが、特に父親同士だな。」
「父さん同士がはとこなんだけどね。ザ・親友みたいな言葉が似合うくらいだよね。」
「ああ。たがいの秘密をほとんど知っているらしいからな。初恋の人から女性遍歴、趣味の経歴やら何やら諸々。尤も、今となってはそのせいで迂闊に喧嘩もできないらしいが。」
父親がそんなふうに愚痴っていたのを思い出す。
お互いに秘密を握られ過ぎて、喧嘩になるとその暴露大会になってしまい、それは互いにダメージが甚大なので大分昔に喧嘩をして以来、喧嘩をぱったりとしなくなったらしい。
「そんな親同士の関係から、俺とランディは子供のころからの付き合いってわけだ。」
「魔法資質もそっくりだったからね。昔はお互い競い合ったりしてたもんだよ。」
話を聞いていくと二人の魔法資質はとても良く似ていた。
グレイルもランディも補助・結界系の魔法を最も得意とし、戦い方もそれを中心とした組み立て方をしているらしい。
ただ二人の間で異なるのは、グレイルは補助・結界系の他に威力はやや低いが、多様な攻撃魔法にも適性があり、そちらも使用した戦闘を行う。一方でランディは攻撃魔法に対する適性が全くなく、補助・結界系の魔法で戦闘を行うらしい。
またその資質の差のせいか、補助・結界系の魔法についてはランディの方が上手いらしく、妨害系、強化系にも非常に優れており、『よっぽど上手くやればって条件は付くが、相手に何もさせずに封殺ってこともできるだろうさ。』とはグレイルの談である。
「尤も、今となってはだいぶ差をつけられちゃったけどね。今じゃ二等空佐としがない一陸士だ。」
わずかに自嘲を含んだような言葉が発せられる。
それに強く反論したのは意外なことに持ち上げられたグレイルだった。
「それは適性の差だって何度も言ってるだろ。俺は人に指示を出す才能があったかもしれないけど、お前は俺にはない技術的な適性があったじゃないか。」
「それはそうだけどさ。」
グレイルの強い反論に対して、ランディの表情には苦笑を浮かんでいた。
すると意外なことにここまでさほど言葉を発していなかったアリスが話題に食いついてきた。
「ランディさんは技術系の分野が得意なんですか?」
「そうだね。どっちかって言うと人を動かしたり、戦ったりするより物作ったり解析したりする方が好きかな。」
「だからこいつは遺失物管理課を希望したんだ。その時点で多少は出世の道を捨ててるんだから、今更俺を羨むなっつーの……。」
グレイルの後半の言葉はぼそぼそしていて誰の耳にも届いていなかった。
アリスはランディの答えを聞いて顎に手を当て考え込む。
それを不思議に思ったひさめはアリスに問いかける。
「どないしたん?アリスちゃん。」
「……ねえ、ランディさん。」
「なに?」
「正史管理課の新しい部隊に興味はないですか?」
そのアリスの言葉に一番の驚きを見せたのは尋ねられたランディ本人ではなく、傍で聞いていたグレイルであった。
「なっ!?こいつを正史管理第六課に誘うのか!?」
「グレイル、なんでそんなに驚いているの?今回の事件で私はランディさんの能力の高さに本当に驚いたわ。あれほどの結界を張るのなんて管理局でも数人いるかいないか程度でしょう?」
「いやー、『黒の稲妻』にそこまで評価してもらえるなんて光栄だなぁ。」
ランディの顔にはわずかに赤みがさしていた。照れているらしい。
「今後結界を張れる人材はどうしても必要になってくるわ。相手もあの様子から考えてなりふり構わなくなると考えれば、管理外世界や過去の世界で戦闘になる可能性も出てくる。」
「でも、それは封時結界を張りながら戦えばいいんじゃ……。」
誠也の反論は正論である。
管理外世界とは魔法文化を持たない世界で管理局が原則干渉をしない世界のことである。
この世界では魔法文化が存在しないため、その世界で次元犯罪者と戦闘になる場合、封時結界と言う現実から切り離した空間を別個用意し、戦闘を行う必要があるのだ。
ただ、正論とはいえどもどんな時も通じるわけではない。
「そう。封時結界を張りながら戦わなければならない。だけど私たちの中に、封時結界を張りながら今回のような相手と戦って確実に勝つ自信のある人はいる?」
「なるほどな……。」
アリスの強い意志を込めた反論に納得する誠也。
封時結界は難度の高い特殊な結界である。
その運用には大きな集中力とセンスがどうしても必要になってくる。
「グレイルやランディさんのようにそちら側のセンスがあればいいわ。だけど私たちにそれはないでしょう?」
センスなしに運用を行おうとすると、どうしても余計な集中力と思考のリソースを割く必要がある。
誠也も今回の相手には一度苦戦させられてしまっていたし、あの状態から集中力がさらに削られれば、恐らく勝つことは不可能に近い。
「今の時間軸で戦うのならまだいいわ。バックアップとして待機しているグレイルがサポートに回ればなんとかなるでしょうけど、過去で戦うとなればそうもいかないわ。バックアップは当然ないし、その場で何とかするにも私たちだけでは無理が出るかもしれない。」
だから前線で動ける結界魔導師が必要なのよ。アリスはそう言って締めくくる。
過去の世界ではできる限り過去の住人との接触は避けなければならない。これはタイムパラドックスを防止するのに必要なことであるためどうしても優先しなければならない。
この時に封時結界を張りながら戦闘をするには、どうしても結界を得意とする魔導師の存在が必要だった。
「確かにそうだな……。なんでランディを誘うという選択肢が俺の頭の中にはなかったんだ……?」
グレイルがぶつぶつと呟くが、その内容は誰の耳にも届かない。
そしてうつむいてぶつぶつ言っていたところで、グレイルは突然顔を上げる。
「よし!グレイル、正史管理第六課で一緒に仕事しないか?もちろんお前の意思次第だが。」
ランディに向き直り、握手するように右手を差し出す。
誠也やアリス、ひさめもその様子を真剣に見つめていた。
けれども、当人であるランディは戸惑いの表情を隠せず、左手で頭を掻きながら問う。
「あのさ、色々そっちで考えているのはいいんだけど――」

「正史管理第六課って何の話だい?」

あちゃー。と言ったのは誰だっただろうか。
 
 

 
後書き
無事、一章完結。

ちなみに一章の範囲は、四話から十三話の計十話。

プロローグは一話から三話でした。

一章の名前としては危機発覚編とでも言うべき内容になっております。

次回は、間章もしくは二章となります。お楽しみに。

 
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