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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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26,良かった

 
前書き
キリが悪いから、ここまで掲載。
文章量はちょい少なめ? 

 
「It's shooooooow time」

振り下ろされた刃は俺の右足へと伸びていく。

グシャン――生理的に受け付けられない鈍い音。視線の端をくるくると見覚えのあるブーツが飛んでいった。
視界の端を見てみると、俺のゲージはとうとうレッドゾーンにまで減少していた。

生命力はあと10%。たったの一撃で、俺の体はこの薄暗い空間にポリゴン片として解き放たれる。

死ぬのか、俺は。
不思議と、恐怖は湧いて来なかった。俺は負けたのだ。敗者は死ぬのがこの世界の掟。
それが、モンスターではなくプレイヤーになった――それは想定外だけど。

首筋にナイフがつきつけられた。
金属のヒヤリとした感触が俺の大動脈から伝わってくる。
人体の急所が引き裂かることは、このゲームでもクリティカル判定だ。
どうしようもないほどのオーバーキル。

ゴメンな、心のなかで一言だけそう呟いた。

「blah,チビってないで反応しろよ。死ぬんだぞ?感想は無いのか?ああ?」
「……」
相変わらず、聞き取れないほど大量のスラングを口にした後、持っていた短剣をぐっと振りかぶった。
「そーかよ、じゃあ死ね」

これまでだな。目を瞑ると、走馬灯のように今までの人生が頭をよぎる。
直前に見えた刃はあの時の煌めきに似ていて、まるで8年前のあの時へと舞い戻ったようだ。

すいません。心のなかで静かに告げた。
俺は、何にも――

「ァァァァッァァァァァ」

頭上で響く悲鳴と、甲高い金属音。

目を開けると、首筋よりわずか数センチ外れたところに短剣が突き刺さり、それを金属製のメタルクローがしっかりと押さえ込んでいた。
「クロちゃんから離れロ」

逆の手での一撃を避けるために、PoHは短剣を捨てて、飛び退いた。
アルゴは俺の横に座り込んでポーチの中からヒールクリスタルを取り出すと、「ヒール」と唱えた。
ピンク色の結晶は俺の代わりにポリゴン片となって崩れ、生命力を示すゲージは見る見るうちに完全回復した。

「アル…ゴ……どうして?」
「扉の間から少しだけ見えたンダ。もー大丈夫ダゾ」

ちょっと、待っててくれヨ。アルゴはややしくほほ笑み、そして恐ろしいほどの怒りの形相を浮かべて立ち上がった。

「許さない………絶対に許さないゾ」
「Hey dudette!デートの誘いならそんな危なっかしいものをしまおうぜ」

PoHは予備の剣を取り出すと、クックックと含み笑いを浮かべた。
安い挑発だが、今のアルゴには十分だ。
突風が吹き荒れ、弾丸のようにアルゴが加速していく。

ヒールしたもののわずかに残る痺れる舌で、「行くなぁ」と叫ぼうとしたが、もう遅い。

戦いは凄まじい速度で行われたが、俺の目にはまるでコマ送りの様に写っていた。

アルゴが振るった一撃を掴み、アルゴの背中へと回りこむ。
前方へ転がって距離をとるアルゴ――最善策だが、コンマ何秒かの死角。
その隙にPoHは自分の短剣を道端にかかっている松明の炎で炙った。

ボォっと一瞬にして炎が刀身を包み込み、色が赤から青へと変わってゆく。

「――っ!!」

目の前でPoHはライトエフェクトが発動したかのようなモーションでアルゴに突っ込んでいく。
構えだけなら、あれは四連撃の《ファッドエッジ》だ。
アルゴはそれを見ると、タイミングを取るかのように体を揺らした。

一発目の突きが繰り出され、それをアルゴはかいくぐる。
《ファッドエッジ》の二発目なら突き――この間にがら空きの腹にカウンターを打てる。
だけど、今回は違う。
誘い込まれた。
叫ぼうとするが、間に合わない。
懐に入ったアルゴの頭上へ突如として起動を変えたナイフが襲いかかった。

アルゴの目から勝利の確信が消え驚愕へと変わる。

ズパン。
肩口を切り裂かれ、アルゴは地面へと倒れこんだ。立ち上がろうと藻掻くが、体の自由が全くきいてない。

俺の時と同じ――麻痺毒だ。

「な……ん……でだヨ?」
アルゴが悔しさを滲ませてうめいた。
PoHはそんなアルゴを見て、愉しそうにナイフをくるくると振り回した。
やがて、腰にあるポーチをガサガサと漁り、中にある結晶を全て回収していく。

「まさか……炎色反応?」
「collect。麻痺毒は燃やすと炎が青く染まるって知らなかったのか?情報屋」

大笑いしながら、大きくアルゴの腹を蹴りだした。うめき声と共にアルゴがゴロゴロと転がり、俺の傍らで止まった。
追いついてきたPoHは持っている短剣を大きく振りかぶる。

「ヤメロ、おい。ヤメロ!!」

這いつくばってでも動こうとする俺の背中に何か重いものがドスン、と重なった。

「そこで、見ていろ。大切な、仲間が、お前のせいで、殺されるのを」
「!!!頼む、やめろ、やめてくれ」

PoHはこちらを見て、唇をニッと吊り上げた。
ブルン、そうやって振るった剣がアルゴの体を引き裂いてゆく。

「アアアアアアァァァァァァァ」
悲鳴は三人から起きた。

アルゴは痛みで
俺は絶望と怒りで
――そしてPoHは悦びのあまり

それぞれの叫びが通路の中を木霊していく。

「いいねぇ、この声。最高だぜ《旋風》。そんないい声で鳴けるなら、もっと最初っからやってくれよ!!」

ズシャン、切り裂くごとに溢れ出るエフェクトはまるで血しぶきのようだ。
アルゴのHPは見る見るうちに減っていく。その顔は恐怖で凍りついていた。

「クロちゃん、ゴメン……」
震える唇は気のせいか、そんな言葉を口にした気がした。

涙で視界が歪む。謝るのは俺の方だ。
俺を助けようとしたばっかりに。俺を救おうとしたばっかりに。

こんな俺のために、人がまた死ぬ。

「あああああああああ」
無理矢理にでも動こうと、残る手足をばたつかせる。虚しい抵抗は、残る手足に剣を突き刺され、呆気無く終了した。

「やめてくれ、頼む。俺の命でも何で好きにしてくれ。だから、だから……」
「It's show time 。よく見とけ。今生の別れなんだ!!」

最後の一撃のために一際、刀が振り上げられた。

グッと頭の片隅で浮かべていた最後の光景が現実味を帯びた。
刀が加速していき、残像は短剣のようではなく、一本の鎌のよう。
その一撃はアルゴの体に深々と突き刺さり、アルゴの体はガラスの割れるように幾千万の星屑と――

なっていない。

最悪のシナリオは刀が加速することなく、終わりを迎えていた。
PoHは刀を止めて、一方の方向を見つめている。
俺の上に座っていたオレンジもそんなリーダーの様子を見て、立ち上がり、俺の右腕から自分のエストックをヒュン、と引きぬいた。

暗闇から、カタンカタンと音がする。
出てきたのは背景と代わり映えのしない黒一色のプレイヤー。

手に携える片手剣とその瞳だけがギラギラと光輝いていた。

「D'oh!さっきからお楽しみタイムを邪魔しやがって。B級のヒーローショーじゃねえんだぞ!!」
「俺はそういうの好きだぜ。決まって遅れてきた主人公は悪の親玉を斬り伏せる」

そう言って、キリトは剣をしっかりと構えた。

「キリト……」
「クロウ、心配するな。俺はひとりじゃないから」

そういえば、先程から地鳴りのような振動が下層から響きわたってきている。
それがキリトの指す援軍だとすれば、その数20は下るまい。

「お前らだって2対20はゴメンだろ?それでもというなら相手になるぜ。オレンジ野郎」

「……god damn」
そう言って、PoHは剣を引いた。
後ろで同じくエストックを構えていた仲間に「XAXA」と短く告げると、二人して落とし穴の中に飛び込んでいった。

「……んな」
キリトが驚愕の表情を浮かべ、すぐに落とし穴の縁へと走りこむ。
そして、しばらくして苦笑いを浮かべ、俺達の元へと歩いてきた。
「穴の中に、いくつかの剣の跡があったよ。上手く逃げられた」
そう言って、俺の手足に残されていた剣を引き抜いていく。

再びレッドゲージにまで到達していた俺だったが、最後の剣が抜けた瞬間にズルズルと這い進んだ。

「アルゴ!!?アルゴ!!?」
アルゴの胸は上下している。一秒後にポリゴン片になる、ということはあるまい。
それでも、持ち合わせていた最後のヒールクリスタルを使う。

「……アルゴ?」

頬を、そっと触れる。三本線のフェイスプリントを切り裂いていた傷はもう無い。
アルゴは、ビクリと肩を震わせた。
恐怖に固まる瞳が俺を捉え、ようやくその瞳から涙がこぼれ落ちた。

「生きてるノ?」
「……ああ」
「良かっタ――」

ああ、本当に。抱き起こそうとした所で、次の言葉が聞こえてきた。

「――クロちゃんが無事で本当に良かった」


その声はあの時の声に似て、心底俺の無事を安堵してくれていた。

「――ァァ」
だから、こそ、だからこ、そ。

「ァァァアアアアア」
アルゴから手を放し、両手を見る。

ついてない、ついてないはずなのに――なぜこんなにも両の腕が血に染まって見えるんだ?

地面が揺れた。
近く幾人もの足音が通り過ぎていく。
怒号の中で、揺れているのは俺だと気づいたけど、為す術もなく倒れこんだ。
目の前を幾つもの靴が通りすぎてゆく。代わりに引きづられて下がってくる黒鉄色のプレイヤー。

止まらない、呼吸が苦しい。頭が痛い。
叫ぶ声――アルゴ?キリトの声??

違う、これはあの時の声だ。
慈愛に満ちた死者の声。

ぐにゃりと曲がった世界で、俺は意識を失った。
 
 

 
後書き
久々にランキング乗ってんのに気づいた。みなさん、ありがとうございます。

しかし肝心のお話の方は、こんなにも鬱展開……書いてて想定外の方向に25層攻略戦が流れちゃいました。

結局、ボスとは一瞬も戦ってない&PoH無双。なんか私の小説ってイイ所を本家キャラ達が持っていくんだよな~

色々な残り物は次回以降の話で回収する……筈だ…… 
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