ふわふわ時間
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第三章
「だからね」
「全く、本当にね」
「けれどお話したわよ」
「何度かだけでしょ、三時間で」
「だから駄目なの」
「そう、もっとひっきりなしに会話のキャッチボールしないとね」
「ううん、そうなの」
いつも通りつついてもこんな反応だった。
「じゃあ今度からね」
「もうちょっと喋りなさいよ・・・・・・って」
ここで気付いた、彼女の今の言葉に。
「あんた今今度からって言ったけれど」
「うん、今度また会うの」
「あれで終わりじゃなかったの」
「またあのファミレスで会うの」
そうなったというのだ。
「式君とね」
「何時の間にそうなったのよ」
唖然となった、本当に。
「あんた達って」
「メールアドレスも交換したから」
「それもなの」
「そうなの、駄目?」
「駄目っていうか。もう」
私は呆然としたまま応える。
「超絶展開じゃない」
「漫画みたいな?」
「ええ、そうよ」
普通の漫画じゃこんな展開はないと思った、三時間一緒にいて殆ど会話しなくてまた会う約束をしてメールアドレスも交換したから。
「そんなのね」
「ないのね」
「奇跡ね」
それとしか思えなかった、心の奥底から。
「というか異常事態よこれは」
「そこまでいくの?」
「全く、どうなのよ」
私は聡美にこうも言った。
「あんた達って」
「とにかくね、今度またあそこで会うから」
「じゃあ後は?」
「陽子ちゃん有り難うね」
その癒し系の笑顔で私にお礼を言ってきた。
「お陰で式君と仲良くなれそうよ」
「私は確かにセッティングはしたけれど」
それだけだった、本当に。
「後はね」
「私がなのね」
「そう、私は何もしてないから」
まさかあんな牧場みたいな状況で次に至るとは思いも寄らなかった。
「有り得ないわよ」
「だから私がなの」
「そう、あんたがしたし」
そしてだった。
「後もね、あんたに言う言葉じゃないけれど」
「その言葉は?」
「頑張りなさいよ」
とにかく頑張らないから言う言葉じゃない、これで成績はそれなりにいいから世の中本当にわからない。
「いいわね」
「わかったわ」
「釈然としないことが多いけれど」
もっと言えばそれしかないのが今だ。
「この奇跡の展開、大事にしなさいね」
「そうするね」
こうして聡美と式君の交際がはじまった、時々見る二人は。
ただ一緒にいるだけだ、校庭のベンチに二人並んで座っていても。
二人共にこにことして座っているだけで何もない、本当に何もない。
けれど聡美は幸せで私が聞くとだった。
「本当にこんなに幸せいいのかってね」
「そう思ってるのね」
「一緒にいられてね」
それでだというのだ。
「仲良く出来てるから」
「それ以上は求めないの?」
「自然にね」
またこの言葉が出た、聡美の口から。
「そうなればなあって」
「ならないわよ。けれどね」
「けれど?」
「まああんたはそれでいいわね」
彼女にやれやれといった口調で言った。今も部活で休憩の時に話をしている、やっぱり紅茶を手にして。
「あんたらしくね」
「私力入れるとか熱血とかって」
「柄じゃないわよね」
「何か違うから」
「そうよね、昔からね」
「なるようになればなって」
自然、成り行きだというのだ。
「そう考えてるから」
「実際になったわね」
「凄く嬉しいの、だから」
「じゃあね」
私はやれやれといった口調だったけれどそれでも笑顔で言った。
「これから楽しくやりなさいね」
「うん、このままね」
「二人でいるだけでいいのね」
「それだけで嬉しいから」
「若しかしてそう考えてるから」
ここで私はふと気付いたことがあった、それは何かというと。
「かえっていいのかもね」
「自然体ってこと?」
「うん、それがいいのかもね」
「そうなの」
「かえってね。今だってね」
こうして二人でのどかに紅茶を飲んで話をしている、この時もだった。
「こうしてるだけで落ち着いてくるし」
「力入れるの好きじゃないから」
「それもありね、何にでもね」
こういった娘だから好きでいつも一緒にいる、私はこのことに気付いた。
それでお茶を飲んでまた言った。
「私も力抜いていこうかしら」
「そうするとかえってね」
「ええ、いいみたいね」
聡美と一緒にいて見てきてやっとわかってきた、このことが。それはとてもふわふわした気持ちのいいものだということを。
ふわふわ時間 完
2013・3・3
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