ふわふわ時間
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第一章
ふわふわ時間
全く、この娘を見ていつも思う。
今私の目の前にいる峯岸聡美はとても呑気な娘だ、好きな相手がいても。
「何とかならないかなあ」
こんなことを言うばかりでのんびりとしている、それだけで何もしない。草食系という言葉があるけれどこの娘は脱力系だ。
その聡美に私はいつも言う。
「あんたから声かけたら?」
「私から?」
「そう、あんたからね」
部活の合間に紅茶を飲みながら言う、私達の部活は文芸部でいつも何かを書いている、その休憩の時に向かい側に座る彼女に言った。
「言ったら?」
「私からって」
「ううん、何かね」
「気が進まない?」
「自然にいけたらなって」
こうのどかな感じで返してきた。
「そう思うけれど」
「自然ってね、あんた」
「ほら、果報は寝て待てっていうし」
いつもこの言葉を出す。
「そう思うけれど」
「あのね、好きな相手がいたらね」
「積極的にアタックしろっていうのね」
「女の子の方からね」
私は私の持論を言う。
「そうしなさいよ」
「ううん、それもね」
「嫌だっていうの?」
「何かね」
休憩時間なので机の上にのっぺりとした感じでうっ伏している、両手をカバーにしてそこに顎をついている。
「そういうのってね」
「やれやれね」
「やれやれって」
「そう、だからもう少し積極的に動いたら?」
こう聡美に言う、見れば垂れ目でのどかな顔立ちをしている、小柄で可愛らしくて髪の毛は茶色でふわふわした感じだ。
その何もかもがふわふわとした彼女に言う。
「好きな相手にね。その相手って誰?」
「三組の式君」
「ああ、あいつね」
「そう、美術部のね」
「美術部って佐藤君がいるところでしょ」
イタリアから来た転校生だ、いつも白い詰襟の制服を着ている金髪の綺麗な子だ、学校の中でも評判だ。
「あの子じゃなくて」
「そうなの、式君なの」
「彼ねえ。外見は普通ね」
「凄く親切な子だから」
「性格ね」
「うん、凄くいい子だから」
それで好きになったというのだ。
「私的にね」
「成程ね、けれどなのね」
「自然とね」
「全く、絶対に動かないわね」
「自然に成り行きでね」
やはり机の上にねっぷしたまま言う。
「そうなればいいわよね」
「そんなこと言っても何も動かないわよ」
「動かないの?」
「そう、あんたが動かないとね」
「じゃあどうすればいいの?」
「何なら助けてあげるわよ」
私は見るに見かねて彼女に言った。
「そうしてあげるわよ」
「陽子ちゃんが?」
「そう、私がね」
私の名前は水橋陽子という、自他共に認める聡美の親友だ。子供の頃からこの娘と一緒にいてかなり知っているつもりだ。
だから放っておけなくてこう言ったのだ。
「あんた達が合う場所をね」
「セッティングしてくれるの?」
「さもないとあんた動かないでしょ」
それがわかっているから言った。
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