100年後の管理局
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第一話 最終兵器、登場
前書き
キャラ、展開共にほぼオリジナルで構成しています。主要な設定のみ拝借し、二次創作として投稿しております。
細身の男は走る。走る。走る。
ただひたすらに走り続ける。
森の中ゆえに足場が悪く、何度足を取られそうになってもひたすら走る。
どんなに体が傷つこうともその程度のことと割り切って、がむしゃらに走る。
心臓が悲鳴を上げ、もう無理だと足が叫んでも、無視して走る。
一体何がそうさせるのか。
決まっている。
『最終兵器』である。
『白い最終兵器』である。
その存在が男をひたすらに走らせる。
あるいは生死すらも無視させかねないほどに。
走りながら男はふと考える。
何故だ。何故だ。何故だ。
考え出すと止まらない。
何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。
こんなことになるはずではなかった。
こんなことになるはずでは………。
男は回想する。
時間遡航をしよう。
男たちの中でふと話題に上がった。
一人は小太りな男。一人は筋肉質の男。そしてもう一人は細身の男である。
三人は普段は小市民としてせっせと働き日々の糧を得て、時々三人で集まっては飲んで騒いでバカ話をする仲だった。
そんな三人の中でふと出たバカ話のひとつだった。
時間遡航。
今の魔法科学の粋を以てすれば実際問題として不可能ではない、そんな技術。
次元と言う名の第四軸に直交する時間軸。これを遡る技術。
知性あるもの全てが望み、そして不可能だとされてきた技術。
それが現代では可能になった。
しかし、それが実用化されることはなかった。
なぜなら、時間遡航による弊害は現代社会を揺るがしかねないほど――いや、それ以上のものであったからだ。
故に時間遡航はただ、技術が出来上がったと発表されただけで、決してそれ以上表に出ることはなかった。
だからこそだろう。
時間遡航はバカ話の一つとして話題に上がった。
それをきっかけに、それぞれが話をしだす。
もし、あの頃ああしていれば。
もし、あの時あの子に告白していれば。
もし、きちんと努力していれば。
もし、ああすれば―。もし、こうすれば―。もし、もし、もし。
所詮たらればである。
妄想するだけならタダである。
犯罪にすらならない。
本当ならそうなるはずだった………。
時間遡航、やってみないか。
いつぞやのバカ話から時間がたって次に集まった時、そんなふうに問いかけられた。
三人はすぐさま、バカバカしいと切って捨てた。
しかし、問いかけた女は切り返す。
もし、時間遡航できるのなら………?
三人は今度こそ大笑いをした。
アホくさい。と否定をする。
なぜなら、それを管理しているのは時空管理局だったからだ。
そして時空管理局は時間遡航を決して許しはしない。よほどのことがない限りは。
しかし、女の表情は変わらない。最初から最後まで真剣そのものだった。
………本当か?
男の内の誰かが問いかけた。
………ああ。
女は答えた。
そこから男たちの歯車は狂い始める。
男たちは時間遡航の準備を始めた。
いつどんな時に戻りたいのか、自分の思い出せる限り明確に思い出す。
時間遡航には戻りたい時間の明確な情報が必要なのだ。
だからこそ全力で思い出す。
自分の人生をやり直すために。
計画決行前日。
女によって集められた三人は、事前の打ち合わせをしていた。
女が実際の物を持ってきていたわけではないが、女によって写真を見せられ、細かい使い方をレクチャーされる。
何故、今ここでそれをされるのか。三人は疑問に思った。
当日でもいいじゃないかと。
男たちは女に問う。
女は答えた。
当日は管理局に見つかる前に実行してしまいたい。だからこそレクチャーをする時間なんてない。と。
男たちは納得する。
もし管理局にばれれば、一生ものの重罪である。
そして管理局は常に時間遡航に対して厳戒態勢である。
その程度の配慮は当然であった。
男たちは一通り女からレクチャーを受け、そこで当日の最後の打ち合わせをして解散した。
帰り道、男たちは想像をしていた。
やりなおした後どうやって生きるのかを。
筋肉質の男は勉学に力を注ぐと誓った。
小太りの男は運動に力を注ぐと誓った。
細身の男は魔法に力を注ぐと誓った。
男たちは眠る。
やり直した後の自分を夢見て。
計画決行当日。
男たちは女に指定された場所に向かっていた。
しかしその途中、小さな栗毛の少年に出会う。
栗毛の少年は男たちに問う。
こんな装置を見なかったか。と。
そう言って差し出された写真には、何と時間遡航装置の姿があった。
三人は驚きつつも、知らないと答えた。
内心の動揺を隠しきれたかは分からないが、三人の額には冷や汗が流れていた。
そう。
少年はそう答えて去っていった。
少年が見えなくなった後、三人は大きく息をつく。
そして止まっていた足取りを再開する。
向かう先は時間遡航装置の在り処。
自分たちの夢をかなえる場所である。
三人の足取りは軽くなっていく。それは三人が気付かないほど徐々にだ。
はやる心が押さえきれないのだろう。しまいには三人とも早歩きになっていた。
そして待ち合わせの場所にたどり着く。
そこに女がいないため、間違ったかと思いつつも、男は待ち合わせの場所である小屋の扉を開く。
するとそこには待ち望んでいた時間遡航装置の姿があった。
男たちは歓喜した。
夢が現実になる時が来たと。
やり直す時が来たと。
三人は口々に喜びを表す。
しかし、三人はすぐに思い返す。管理局にいつばれないとも分からないのだ。
すぐに行動に移さなければ。
そう思いたって、装置に触れようとした瞬間。
「へえ。やっぱりおじさんたちだったんだな。」
桜色が全てを埋め尽くす。
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