真・恋姫†無双~俺の従姉は孫伯符~
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雪蓮×俺=本当の気持ちって気付くのに随分と時間がかかるよな……。
暇つぶし兼城内散策もいよいよ大詰め。
すでに時刻は日の入りを迎えていた。
徐々に暗さを増していく城内を、俺はとある人物を探すためにやや小走りで駆け抜けている。
「……多分、この時間ならあそこにいるはず……」
いつも冥琳に「護衛をつけろ」と耳にタコができるほど言われているのに、それでも一人っきりで必ずその場所にやってくる。
こんな夜中だと彼女を狙う刺客の一人や二人潜んでいるだろうに……相変わらず危ない橋を渡る奴だ。
「はぁっ……はぁっ……。…………いた」
走り続けて約十分。
城内の森を抜けた見晴らしのいい丘の上に、その場所はあった。そして、俺の探し人も案の定その前に立っている。
俺はソイツに気付かれないように、忍び足でそっと死角に回り込む。
ソイツは石造りの粗末な物体―――――俺と、雪蓮の母親の墓の前で、黙祷するように目を瞑り、跪いていた。
「……ねぇ、お母さん」
そして、ソイツ―――――雪蓮の呟きが風に乗って俺の耳に運ばれてくる。
「私、ちゃんとお母さんの代わりができているのかな? お母さんが守り抜いてきたこの孫呉の民草達を、私は幸せにできているのかな……?」
「…………」
「この間もね、山賊の集団が攻めてきたんだ。そのときはなんとか撃退して、荒らされるのとかは防いだんだけど……でも、やっぱり何十人かの私の部下や民達は殺されちゃった。……今度こそ、守れると思ったのに……誰一人死なせないって決めていたのに……」
「雪蓮……」
雪蓮のあまりにも悲しそうな表情に、思わず彼女の名前を呟く。
お前、いつもここでそんなこと考えていたのか……。周りには言えないような弱音を、伯母さんや母さんの前で、一人寂しく漏らしていたのか……。
それはおそらく、彼女が『王』であるがゆえの行動。
自分がしっかりしていなければ、他の者に示しがつかない。
自分が弱音を吐いたりなんてしたら、周囲の人を心配させてしまう。
国を治めるものなのだから、いつも毅然に堂々としていなければ……。
そんなことを思っていたから、こんな夜中に一人きりでこの墓まで来たりするのだろう。
「お母さんがまだ生きていたら……今の私を見て、どう思う……?」
だからこそ、今の彼女の姿はとても弱弱しく、儚い。
雪蓮だってまだ年頃の少女なのだ。『王』という肩書にのしかかる重圧に耐えきれなくなってもなんら不思議ではない。
「お母さん……なんで死んじゃったのよぉ……」
そして、とうとう雪蓮は泣き出してしまった。
アイツ……伯母さんのことはもう吹っ切ったって言ってただろうが……バカ野郎。
俺は溜息を一つつくと、雪蓮に聞こえるくらいの音を出しながらバッと立ち上がった。
「ひ、雹霞!? な、なんでこんなところに……」
「…………」
いきなり現れた俺に目を白黒させている雪蓮を無視し、スタスタと雪蓮の方へ。
整っていた顔は既に涙でグシャグシャに歪んでいて、子供の泣き顔のようになっている。澄んだ蒼色の瞳も、泣きはらしたせいで真っ赤に充血してしまっていた。
「ったく……せっかくの美人が台無しだろうがよ」
「う、うるさいわね……アンタには関係ないでしょ……早く帰りなさいよ」
「…………はぁ」
「な、なによその人を小馬鹿にしたようなため息は!」
「……お前さ、馬鹿だろ」
「……は?」
おぉー、見事にポカンと大口開けているぜ。
……つーか、コイツ本当にバカだ。なんでいつもいつもコイツは……。
「俺を、頼らねえんだよ……」
「はぇっ!?」
言葉と同時に、ギュッと雪蓮の身体をきつく抱きしめる。
あー……やっぱ雪蓮はいい匂いだな……頭がクラクラしてきた。
当の雪蓮は突然すぎる展開に頭が追いついていない様子で、ただひたすらに顔中を真っ赤に染め、頭から湯気を出していた。
混乱している雪蓮を他所に、俺は再び口を開く。
「……お前、辛いんだろ? 王様っていう重圧に、耐えられなくなりそうなんだろ?」
「……そ、そんなことは……なぃ……」
「嘘つくんじゃねえよこのバカが。俺がお前と何年間一緒にいると思っているんだ? 雪蓮の様子なんて一瞬で把握できるっつうの」
従弟、なんだからよ……。
俺が話している間に少し気持ちが落ち着いたのか、雪蓮は普段通りの調子で、俺の言葉に答えてきた。
「…………そう、だったわね。貴方はいつも私のことをお見通しだった。私がどんな気持ちでも、いつもちゃんと汲み取ってくれてたものね」
「当たり前だ。俺はお前の傍で、お前を一生支え続けるって決めてんだからよ。伯母さん達に言われただろ?」
傍から聞けば明らかにプロポーズっぽい台詞だが、状況が状況だ。そんなことなりふり構ってられねえよ。
「……ねぇ、雹霞」
「……なんだよ」
「雹霞はさ……お母さんに言われたから、私の傍にいるの?」
「……は?」
「だからさ。雹霞は、お母さんに私を支えるように頼まれたから、私の傍にいるの? 貴方個人の考えとか、そういうのじゃないの……?」
何を思ったのか、少し悲しそうな表情で言う雪蓮。
しかし……言われてみれば、俺はどうしてこいつの傍にいるのだろう。
母さんや伯母さんに言われたから。
…………違う。そんな義務的な気持ちじゃない。
雪蓮を放っておくと、碌なことにならないから。
……それも、なんか違うなぁ。別に保護者的な立場でいるわけじゃないし。
だったら……。
しばらく考え込む。
その間に頭に浮かんでくる、数々の映像。
太陽のように輝いた笑顔で駆け寄ってくる雪蓮。
酒に酔っぱらって、俺を道連れに城中を駆け回る雪蓮。
小さな頃に、雷にビビッて泣きながら俺に抱きついてきた、雪蓮。
…………あ。
そういう、ことか。
「雪蓮。俺の話を聞いてくれるか?」
「……? なによ、私の質問にはまだ答えてないわよ?」
「……わかったんだよ。俺が、お前の傍にいる理由が」
「ぇ……?」
キョトンとする雪蓮を見つめながら、俺はいたって真面目な顔で、今しがた判明した俺の気持ちを、目の前の少女に伝えた。
「俺が……お前のことを、好きだからだよ」
「…………!!」
「ずっと不思議だったんだ。お前といると何故だか幸せな気持ちだったし、いつもとは違う、素直な気持ちになれた。お前と話しているときは、いつだって心からの本音を言い合えた。……それは、相手がお前だからだったんだよ」
「…………」
「母さんに言われたからとか、そんなの関係ない。俺はただ純粋に、大好きなお前の傍にいたい。いつまでも、隣でお前を支えていきたいんだ。…………そんな理由じゃ、駄目か?」
「……ひょう、かぁ……!!」
そして、雪蓮は泣きじゃくる子供の様に、俺の背中に回している腕に力を込めてくる。
答えの言葉なんて、いらなかった。
俺は涙を止めるように軽く背中をポンポンと叩くと、雪蓮の顎を指でそっと持ち上げた。
「…………ん」
俺の考えを読み取った雪蓮が、そっと目を閉じ、顔を俺の方へと突き出す。
俺はそれに釣られるように――――――――――
彼女の唇へと、そっと顔を近づけていったのだった。
☆
そして次の日。
俺は仲間達と一緒に、城の出口へと集まっている。
あの後、俺は雪蓮に自分の考えを話し、決心を伝えた。
とある事情で若干疲れ切っていた様子の雪蓮だったが、いつものように俺の考えをすぐに理解し、軽い返事でOKしてくれたのだ。…………おい、今『夜の営みお疲れ♪』って言った奴誰だコラ。
「やっぱり、行くのね?」
「あぁ。世の中の情勢とか、他の武将たちの様子とかをこの目で確かめてきたいからな。……やっぱ、嫌か?」
「少しはね。でも、これは雹霞が私たちの為にやってくれることなんだから、とことん応援するわよっ♪」
「そう言ってくれると、助かる」
あはは、と二人で笑いあう俺達。同時に、お互いの腕に付けている腕輪が振動でカンカンと金属音を上げている。
これは、俺と雪蓮がお互いを忘れないための絆だ。……ぶっちゃけて言うとペアルックだよ悪いか畜生。
雪蓮に続くように、他の仲間達も俺に声をかけてきていた。
「まったく。貴方がいなくなると雪蓮の世話が大変になるじゃない」
「う。ま、まぁそれはいつか埋め合わせるさ。だから今回は見逃してくれよな、冥琳」
「お主も成長したのう。いっぱしの男の顔をしておるぞ」
「褒め言葉として受け取っておくよ、祭」
「雹霞さん、いっちゃうんですかぁ~? 寂しくなりますぅ~」
「心配すんなって。絶対帰ってくるからよ、穏」
「うぐっ、ひぐっ……せっかく、仲良くなれましたのにぃ……ぐずっ」
「そんなに泣くなよ……帰ってきたらもっと仲良くするって、楠根」
「道中気を付けて。雹霞様」
「お前は相変わらず言葉足らずだな、流那」
全員と握手と言葉を交わし終えると、感慨深さのせいかなんだか涙があふれてきた。
俺は、恋姫達に泣き顔を見られないように背中を見せると、大声で叫びながら駆け出したのだった。
「それじゃ! 行ってきます!!」
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