茨の王冠を抱く偽りの王
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15.果てに
一通りのヴォイドの調査は行ったが俺たちは八尋のヴォイドランクの提案を受け入れることはできなかった。学内の問題がけして全て解決されたわけでもないし、レッドラインは刻々と迫ってきている。
しかもまだ、俺の右腕の能力が全てわかったわけではない......俺が自分の意志で取り出せるヴォイドは限られているし.....この右腕が触れたものはキャンサー化する。........なのに何故かシオンと綾瀬のヴォイドは取り出すことができ、触れてもキャンサー化することはない。
ーー結局俺の右腕は何なんだ。
「ダメだ。ワクチンや武器弾薬の確保もバリケードの設立も予定の半分も進んでない」
「だからランク制をしけと言ってるんだ。上下関係を徹底すれば人は倍働く」
「そんなこと急に受け入れられるわけねぇよ。ヴォイドで差別するなんて」
「差別じゃない.....区別だ」
八尋のその言葉が妙に俺の心に残った。
《差別じゃない.....区別だ》
その言葉が頭の中を回る。
一人でいつもの場所で考え込む。
「どうしろって言うんだよ........ガイ」
「やっぱりここにいた.....王様」
声のした方に顔を向けるとそこにはいつものように笑顔でこちらにくるシオンの姿が。
「.......シオンか」
「なに、その反応。ちょっと傷つくなぁ。綾瀬さんが来た方が良かった?」
彼女はそういいながら俺の隣に座る。
「何で綾瀬の名前がここで出るんだよ」
別に!!、暗闇であまり見えないがシオンが少し怒ってるように見えた。
俺は地面に仰向けになり夜空を見上げる。夜空に散らばる光の点.......星が今日は綺麗に見える。
「ねぇ、王様......何に悩んでるか知らないけど王様が........カイが正しいと思う道を進んで。私は例えそれがどんな険しい道だとしてもカイについて行くから」
シオンの言葉で全てとは言えないけど心にかかっていたモヤが晴れた気がした。
「ありがとな、シオン」
次の日、事件はまたも起きることとなった。
「大変だ、シュウ、カイ!!ワクチンが足りない」
生徒会室に八尋、供奉院、草間が深刻そうな顔をしている。
「とりあえず、桜満君と茨君の分は確保していかないとね」
「そんな、僕らだけ特別だなんて」
「お前らが発症したら、誰がこの学校を守るんだ。お前だけじゃない。この状況で役に立つヴォイドは優先されるベキだ」
八尋はそう言ってFランクと書かれた紙を俺たちに提示してくる。
そこにはクラスと顔写真、名前、ヴォイドの数値が書かれている。
「ヴォイドのランク順になっている。こいつに従って不平等にワクチンを配るんだ」
その紙には見知った顔がいた。
2年A組 魂館 颯太 46
颯太が最低のFランク!?
確か颯太のヴォイドって全てを開けられるカメラだったよな。
何で最低のFランクに!?
「生き残るためにはしれしかない」
供奉院が立ち上がりその紙を集に渡す。
「決めなさい、桜満会長。決断するのは上に立つものの仕事です」
結局、この問題にぶち当たる。
ワクチンが足りない......いずれ食料も足りなくなる。
つまり、何処かで誰かを切り捨てなければならない。
それが今この時なのか!?
それなら今、俺にできることは......
電子端末が鳴り響く。
「あっ!集か」
『壊!!今どこにいるの!?』
「今、病院に向かってる」
『なにしてるの!?』
「これが俺に出来ることなんだ。ワクチンを持って必ず帰る。それじゃあ」
『待って!!壊!!今、そっちに颯太たちが向かってると思う。颯太たちヴォイドを持って病院に向かおうとしてるみたい。お願い、壊!!颯太たちを止めて!!』
「......あのバカ!!わかった。絶対に止める」
『僕もあとで向かうから』
集との通信を切る。
「.......あいつら」
後ろに引き返し、少しいったところに5人の生徒が片手にヴォイドを持ちこちらに歩いてくる。
「カイ.....何でお前が!!」
「お前らどうするつもりだ」
「お前には関係ないだろ」
「関係ない......か」
俺は右腕に巻かれてる包帯を外して行く。
そして右腕から槍のヴォイドを取り出す。
「この先に行きたいなら俺を殺して行け」
槍を颯太たちに突きつける。
「どうやら迎えがきたようだな」
颯太たちの後ろから車が現れる。
「颯太、バカなことはよせよ!!」
車から集が降りてくる。
「バカってなんだよ!!Fランクだからバカって言いたいのか!!俺たちはワクチンを持って帰って最低ランクじゃないって証明する」
「もしかして、最初からそのつもりで僕にヴォイドを」
「お前だって嘘ついてたんだからこれでおあいこだろ」
「違う!!僕は嘘なんか!!」
俺たちの後ろで爆発が起きる。
「集!!アンチボディーズだ!!」
空にはアンチボディーズの銃装備がされたヘリコプターが......
「みんな逃げて建物に隠れるんだ!!」
颯太たちは急いで逃げて行く。
銃が俺たちめがけて連射......それをヴォイドチェンジ!!マントに変え、みんなを守る。
だが、乗ってきた車が爆発されてしまう。
「うわぁぁ!!囲まれてる!!」
彼らが逃げた先にエンドレイヴが現れる。
「みんなヴォイドを使って戦うんだ!!」
彼らは躊躇う。
だが、躊躇ってる時間はもうない。
躊躇ってるうちに女生徒に流れ弾が手に当たり気絶し、ヴォイドが元に戻る。
「大丈夫!!」
祭が彼女に駆け寄る。
「俺があいつらを引きつける!!集はみんなと逃げろ!!」
わざと目立つ場所に出て行く。
「クッソ!!戦うしかねぇか!!」
マントのヴォイドを取り出した状態で俺は新たなヴォイドを取り出す。
「こい!!ロンギヌス!!」
後ろからエンドレイヴが接近してくる。
「失せろ!!!」
槍のヴォイドをエンドレイヴに向かいブン投げる。
槍はエンドレイヴの腹部を貫通して爆発する。
「きゃぁぁぁぁ!!」
「祭っ!!!」
祭の叫び声と集の声が聞こえたと同時に向こうの方で爆発が!!
「嘘だろ!!」
そっちに向かおうとするが上空からの降り注ぐ銃弾のせいで向かえない。
「クッソ!!どうすりゃ!!」
「王様!!」
「カイ!!」
すると後ろから声が.....
そこにはシオンと綾瀬、ツグミ、八尋、いのりの姿が。
「綾瀬!!シオン!!力を貸してくれ!!」
「うん!」
「私を使って!!」
二人のヴォイドを仕様する。
綾瀬のエアスケーター、シオンの新たなるヴォイド......グローブ状のヴォイド、そして俺のヴォイド、マントの3つのヴォイドの同時使用。
「行くぜ!!」
綾瀬のエアスケーターで空中に飛び上がる。
ヘリコプターから銃弾が無数飛んでくる。それをマントのヴォイドで全て守り、シオンのグローブのヴォイドでヘリコプターをぶん殴る。
すると、殴った部分に穴があき、ヘリコプターは大爆発を起こす。
爆発をマントで防ぎながら地上に降りる。
どうやらこのヴォイドは衝撃波を作り出すヴォイドらしい。
「はぁ.......はぁ.......はぁ......」
「大丈夫、カイ?」
「王様、大丈夫?」
「大丈夫だ」
「うぁっっぁっぁぁぁ」
どこからか集の声がしたような気がした。
だが、その声は掠れた声にもならない叫びのような声だ。
「........集」
日暮れ迫り徐々に暗くなっていくがまだ戦いは続く。
「クッソ!!敵の数が多すぎる!!」
残るエンドレイヴは3機......だが俺のヴォイドも限界だ。
「あれって、シュウ?」
そこには生気が全く感じられない集の姿が。
「なんか様子がおかしいぞ」
集はいのりを地面に抑え込み無理やりヴォイドを取り出す。
『でたな、桜満シュウ!』
そして剣を取り出すと向かってくるエンドレイヴを一撃で真っ二つにする。
『うぉっ!!なん....だと』
そしてエンドレイヴに剣を突き刺す。
『うわぁぁぁぁっ!!!』
エンドレイヴは悲鳴と共に動かなくなる。
「あれがシュウ!?」
いつもの集じゃないのは確かだ。
『き、貴様っ!!』
2機のエンドレイヴが集に銃口を向けるが集は動じることなく剣を振る。
剣から放たれた銀色の斬撃は2機のエンドレイヴを切り裂き、爆発する。
八尋から衝撃の事実が知らされることとなった。
........祭が死んだ
誰もその事実を受け入れることができなかった。
「シュウ!シュウ!!ゴメン!!俺のせいだ!!俺が祭にクルマを直してなんて言ったから!!」
「........そうだよ」
集の声からは生気が感じられない。
「シュウ!!」
「祭が死んだのは君のせいだ.....君がくだらない理由で祭を連れ出したからだ」
「シュウ!!」
「だから言っただろうがっ!!!!」
シュウは声を上げ、颯太をぶん殴る。
「シュウ!!やめなさい!!」
綾瀬の声が集に届くことはない。
「お前のせいで祭が死んだ!!!生き返らせろ!!!お前が生き返らせろ!!!」
集は颯太を殴り続ける。
「ゴメン!ゴメン、シュウ!」
「祭は.....僕を信じて......いいとこいっぱいあるって......祭」
集は目からは涙が溢れ出ている。
「ほら、もういいだろ」
颯太の上に乗っていた集を八尋が退かす。
集は八尋を少し飛ばす。
「シュウ!?」
「僕が間違っていた。優しさになんか何の意味もない。......クズは区別しなくちゃならない」
集の目からは涙は消え、その目は全てを軽蔑するような冷たい目をしている。
「.........僕は王になる」
またもヴォイドランク制の時、同様に俺の右腕が疼いた。
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