儚き運命の罪と罰
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第二章「クルセイド編」
第二十四話「魔法」
前書き
更新遅れてしまいました。すみません。イロイロ忙しかったんです(泣き)
「魔法は解明された技術だ。魔力は科学的な『再現性』のある力だ」
黒板を一指し棒でカンカンと小気味良い音をたてながらエレギオは言う。
「今主流になっているミッドチルダ式の四角形の魔方陣。
あれが何故あんな形をしているのかは、
この再現性のある力を四方へ均等に行き渡らせる事によって
何時でも効率よく無駄なく力を行使できるようにする事が司法を守る管理局員から重視されているからである。
……ここまでは良いか?」
「ああ」
まるで何処にでもいる学生のように鉛筆を握ってノートを取っていたリオンは顔を上げた。
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エレギオの見立て通りリオンは魔法のセンスが有った。彼の経験が後押ししているのだろう。戦術的な面ではむしろエレギオの方が学ぶ事が多かった。
とは言え戦術は実戦と言う仮定があってその上で機能する物。
力と知識がなければ机上の空論に過ぎず。
リオンはどこぞの勘で砲撃をぶっぱなす魔砲少女(誤字に非ず)の如き設定を弄くってチートしました! と言うレベルの才能までは流石に無くそんな訳で冒頭の基礎理論のお勉強中なのである。
「とは言ってもそんじょそこいらにいる連中よりかは断然に飲込みが早いけどな……」
話に聞く限り念話に並列思考のような基礎はフェイトから習ったらしい。……それを聞いたときにエレギオはじゃあ今更俺から習う必要は無いんじゃあ……と思ったがその鋭い眼光に射られて口に出す事ができなかった。何と言うへタレ。いや、そうではなく。と言った感じである。
とにもかくにも念話なんて物は魔力さえあれば誰でもできるし並列思考はそもそも魔法ではない。ついでに言うならリオンはどんな形であれ戦いを生業として来たのだから並列思考は既にある程度は会得していたであろうから後は魔法的な物事の考え方ができれば魔法の為の並列思考だって自ずとできるようになっただろう。そこまでは良い。
だがそれでも看過できない事があった。転移魔法だ。リオンはなんと独学で転移魔法をくみ上げたと言うのだ。
最近の若い魔道士は良く忘れがちだが魔法には適正と言う物が存在する。適正が無ければ仮にSSSランクの魔力を持ってたとしてもゴミ同然となってしまう。だからと言って適正があれば魔法を使えると言うのでもない。世の中の人間は魔砲少女のようなバグは発生させていないのである。そしてリオンは魔法の中でかなり面倒な部類に入る転移魔法を(魔法のプロであるエレギオの眼から見て)グチャグチャな術式ではあったが独学で使えたという事だ。空間転移の適正があるというだけでは済まない話である。恐らく晶術と言う似た力を使っていたからそれと同じ様な感覚で組んだのだろう、ある程度は術式として成立していたがそれでもあの術式では普通発動もしない。
「ふぅ……」
「(溜息ですか? 幸せが逃げますよマイロード)」
「ほっとけドラゴンソウル。エレギオさんは色々な事を考えるお年頃なの」
「(語尾に『なの』をつけてもマイロードじゃ可愛くも何ともありませんよ。
茶髪ツインテールの白とピンクが良く似合う女の子でないと)」
「……やけに具体的だなオイ」
「(万人に共通する見解だと思いますよ?)」
そうじゃなくてだな……と言い返したエレギオ。
内心でその女の子がハッキリとイメージできたのは秘密である。ちなみにそのイメージがその『設定弄くってチートしました! な魔砲少女』とピカーンと言う効果音までついてピッタリ一致したのも。余りに鮮明に浮かびすぎて俺ひょっとして前世でこんな女の子とあった事があるんじゃないかしら? と半分真剣に頭の中で議論するほどに。
(ディバィィインバスタァァァアアアア!!! ってか? うわぁ俺そんなのとは絶対戦いたくねぇ……)
「(なにを妄想してるんですかマイロード)」
「バーカ、妄想なんてしてねえよ。そんなことよりも、だ」
「(リオン君のデバイスについてですね)」
そうそう、とエレギオは相槌を打って頭をかいた。
「本格的に魔法使うならやっぱりそこそこの物は必要だろ?
間違っても最初の予定と同じに非殺傷設定しかできません! なんてのじゃあ話になんないし」
「(スプーキー君とモール君には)」
「もう言ったよ。フェイトちゃんの……バルディッシュだったけ?
インテリジェントデバイスの修理と並行して進めるからちょっと時間がかかるってさ」
デバイスと魔法は今や切っても切れない関係だ。今はミッドチルダで言う新暦0065年でその『新暦』に入る前……つまり今から七十年位前にはデバイスが存在しなかったと言う(古代ベルカのロストロギアを除く)。それでも時空管理局が成立している所から見て取れる通り魔法の使用にデバイスが絶対に必要と言う訳ではない。
だが今は違う。絶対に必要、と言うのとは少し違うがデバイスは魔道士の必須アイテムである。と言うのも今存在する魔法の約80%以上はデバイスが有る事を前提としているからだ。そしてそうでなくともデバイスがあるのと無いのとでは効率が全然違う。そして当然そう言ったデバイスを作るのは技術チート二人になるのだが彼らは今インテリジェントデバイスの修理と言う仕事の真っ最中である。シャルティエと言う相方がいることを考慮すると相棒と言うべきインテリジェントデバイスではなく武器であるアームドデバイスで済むことを考えてもその作業はやはり厳しい物があるだろう。そう思って最初はそれを頼む事を遠慮していたエレギオだったが幸いな事に天才の考えることはエレギオの斜め遥か上を飛んでいた。以下回想である。
「なあお前ら」
「え、どうしたんすか兄貴?」
「何かあったの兄貴?」
「インテリジェントデバイスの修理なんてしてるとこ悪いけどさ。
できるだけ高性能なデバイスをリオンに作ってやれない?」
「あ、兄貴それは……」
「あ、無理ならいいんだ他をあたr」
「上等だアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「…………は?」
回想終了。
エレギオは次元世界最高金額の賞金首であるだけあって彼自身相当の変わり者ではあると自覚していたがスプーキーとモールの思考は訳がわからなかった。と言うよりも『変』のベクトルが違うだけなのだが正直そんなことはエレギオは理解したくも無かった。
とは言えそんな超一流の技術者二人でも超高性能なインテリジェントデバイスの修理と平行してデバイスを新しく一機作ると言うのはそれなりに大変なのだろうなとエレギオは思う。なにせ『時間がかかる』は彼らが三番目に言わない事なのだから。そんなことを考えながらエレギオは缶コーヒーを口に含んだ。
「(……マイロード。そろそろ)」
「ん、休憩時間終了かね?」
「(ええ)」
「じゃあボチボチ仕事すっかね」
平和な会話である。またエレギオがその柔らかい体をいかして背中で両手を掴む形でストレッチするのも本人の年齢もあわさって学生のようにも見える。デバイスがあるのも先程言った様に魔法文化のある次元世界で魔力がある物に取っては非常に日常的なことなのだから。
だが忘れてはならない。
エレギオの職業が決して平和な物ではない事を。
「さあーって。どうすっかね」
のんびりした口調に決して似合わない獰猛な光を眼に湛え。
エレギオ・ツァーライトは仕事を始める。
--------
ノートを取ると言う事はそれほど懐かしいことではなかった。
天才だなんだと言われてもリオンは所詮人間。普通の人間よりは物事の飲込みが早いと言うだけで一度見たり聞いたりしただけで何もかもを記憶するなんて事はできないし、剣技にしたって他人よりは遥かに少ないがそれでも練習して自分のモノにする。既に会得している技を更に何十、何百と使ってその威力と技のキレに磨きをかけることもする。ましてや今回の相手は未知の法則だ。
とは言え。
剣を手に戦う事より慣れていないのは確かである。
「存外、疲れるものだな」
鉛筆の黒鉛で真っ黒に染まった右手を見ながらリオンはそう一人呟いた。その腰にはいつも共に居る相方の姿は無い。彼の手元にあるノートは一見して不可思議な図形と教師の語った言葉で埋め尽くされていた。
エレギオの説明は分かりやすかった。比較する相手はいないがそれでも彼は優秀なのだろうとリオンは考えている。未だに『魔法』と言う名前に引っ張られてその力の実態が実は科学的、そんなことを言われてもピンとはこなかったがそれでもその輪郭は浮き彫りになっているように思えていた。リオン自身の飲込みの早さだけでなくエレギオの説明の良さもきっと働いているのだろう。そう言った意味でリオンはエレギオに感謝していた。
……とは言えまだ蒼鷹に関する疑いはまだ解いていないが。一度疑ってしまうと中々そこから抜け出せない物である。
「よぉ」
そう声をかけられるのと同時に視界の外が白く染まった。顔も上げずにその声の主の名をリオンは告げる。
「エドワードか。何の用だ」
「用が無くちゃ話しかけちゃイカンのかね? ……っとと。ミッドチルダ式の魔方陣だなコレ」
ノートのある一点を指差しながらエドワードは言った。
「見た所効率性の話だな。懐かしい」
「知っているのか?」
「一般常識程度にはな。にしても綺麗に書けてるなぁ。コンパス使った?」
「手書きだが?」
「そうかね」
エドワードは無造作に近くの椅子を引き寄せて座った。懐から偽タバコ(その実態はニコチンもタールも0の唯のオモチャだったりする)を取り出して吸う。白衣を着ているのはフェイトの診察でもしていたのだろうか。眠そうにあくびをしながらリオンに缶を一本差し出した。
「何だコレは」
「見てわかんねえか? ココアだよ。疲れたときには甘い物が一番だって言うのが俺の持論でね」
「……一応、貰っておこう」
一応、とか言いながら受け取るのと同時にプルタブをプシュッという音を立ててココアを飲むリオン。やはり甘党である。一口飲んでリオンは再び口を開いた。
「複雑な物だな。魔法と言うのも」
フェイト、そして地球で戦った高町なのはの力程度でエース級と呼ばれる力。またプレシア・テスタロッサ如きで大魔道士等と大それた名前で呼ばれる法則性。この世界の根幹を成す力であり技術であると言うのはリオンも重々承知していたつもりだったが、それでも彼はどこか魔法を軽く見ていた。確かに戦闘と言う面で見れば晶術の方が発展しているかも知れない。次元を超えるなどと言う奇想天外な事ができる程の技術がそんなに甘い物である筈は無かったと言うのに。
エドワードもそれはそうだろう、と言う。
「戦いとか次元渡航以外にも色んな分野に浸透してるしな。医学、工学、考古学、神学、政治……数えりゃキリが無い。
魔法を習うのだって何も魔道士だけじゃねえしな」
「何?」
「オイオイ今医学って言ったろう。医者だって魔法習うんだよ。
俺みたいにリンカーコアない奴の方が珍しいんだぜ?」
若干驚いた様子のリオンにエドワードは得意げに懐から何やら筒状の物を取り出した。
「例えばコレ。こうすると……」
カチリ、そんな音と共に2cm位の長さの黄色い魔力刃が筒から伸びた。リオンにも見覚えはある。それはエドワードが手術のときに使っていた刃物だ。魔力刃メス。そうエドワードは呼んでいた気がする。
そう。魔力刃だ。
エドワードにはそれが出せる魔力は塵ほども無い筈なのに。
「それは……」
「驚いたかよ。魔力は無くても魔法の『技術』にまで手が伸ばせねえなんてことはねえ」
「一体どういう理屈で」
「良いかリオン」
もう一度ボタンを押して黄色い刃を消して魔力刃メスを懐にしまいながらエドワードは言った。
「コレだけ魔法が世の中に浸透してくるとな。世の中の出来事ほぼ全てに魔法が関わってくる。それはわかるよな」
「……ああ。それはそうだろうな。だが、それがどうした」
「考えても見ろよ。俺たち医者は怪我や病気を直すのが仕事だ。
じゃあその怪我や病気ってこんな世界じゃどうして起きる? 何が原因で怪我をする?
……そんなのは決まってるよな。これまた魔法なんだよ。
魔法って便利な技術は何も人を助けるだけじゃない。正の側面と同じだけの負の側面も抱えてる。
魔法の元になる魔力だってそうだ。扱い方を間違えれば酷いしっぺ返しを喰らう事になる。
それはお前も体験しただろう?」
もしかしなくても過剰負荷の事だとわかったリオンは首を縦に振った。
「だから俺は魔法を習ったのさ。魔法での傷は同じく魔法で持って立ち向かう。
『目には目を。歯には歯を』ってことだ。……ってもまあ俺だけが特別って訳でもないんだけどな」
「どう言う意味だ?」
「さっきも言ったろ。魔法を習うのは何も魔道士だけじゃない。
魔法文化が発達した次元世界なら仮にリンカーコアが無かったとしても半ば強制的にある程度の知識を与えられる。
ミッドチルダが代表的な例だな。学校に『魔法』って言う科目があるって言うのがミッドチルダの特色の一つだし。
ここクルセイドだって魔法の『塾』が幾つも有る。それだけ魔法の教育をプッシュされてるって訳だ。
その点では俺は全く持って特別な例って訳じゃねえ。
俺みたいにリンカーコアがねえのに魔法を学ぶ奴なんて珍しくともなんともねえんだよ。
まあ学んだからと言って魔法を生かせるかってなってくると話はちっとばっかし違ってくるがな」
「魔法を……生かせるか? リンカーコアの無い奴には魔法は使えない筈。違うのか?」
「ちょっと鉛筆貸してくれ」
言葉通りにリオンは鉛筆を差し出した。エドワードは器用にくるくると指先で回しながら懐からメモ帳を取り出す。パサパサとメモ帳をめくってそこになにやら書き始めた。一分もしない内に鉛筆をリオンに返してメモ帳をリオンに見せる。そこにはリオンのノートに書かれたのと同様のミッドチルダ式の魔法陣が精密に書き込まれていた。
「例えば魔力が無い人間でも魔法陣を鉛筆で書く事はできる。当たり前だな。
魔法陣自体は唯の幾何学的な図形。別にコレを書くこと字体に魔力が要る筈も無い。わかるだろ」
「ああ。だがそれがどうし……いや。待てよ。魔法陣自体には『意味』はあるが力は宿らない。
だがそうすると、まさか」
「気付いたみたいだな。そう言う事だよ。魔力は魔法陣の意味を現世に示す為の力って事だ。
初期理論の話をエレギオから聞いたならわかるだろ。魔力は科学的な再現性のある力。とすると」
「まさか魔力は他の力で代用できる……?」
エドワードはその通りだ、と大きく頷いた。
「勿論魔力以外の力だと相当なデメリットが付きまとう。
今の魔力刃メスは正真正銘の魔力だが世の中にはコイツと似たような道具に電気メスって物が存在するぜ。
勿論電気メスは魔法的な意味が有る道具って訳じゃあないがな。
それでもコレだけは言える。魔法陣の意味に何らかの力を篭めれば魔法陣は応える。つまり魔法は発動するって訳だ」
と言っても、と肩を竦めて言葉を切る。
「結局魔力以外の力には何らかのデメリットがあるって訳でな。
この魔力刃メスにしたって特殊な運用方法を取っているとは言え燃料は100%魔力だし。
実際に魔法みたいな現象を魔力以外の力で同等以上に操るって言うのを見たのはお前が初めてだ。
そりゃあま世の中炎なり雷なりを操れる魔道士は居るには居るがそいつら全員結局魔力変化資質に頼ってる訳だしな。
単純にバーナーで炎を出すよりも発電して電気を起こすよりも魔力変換資質の方が百倍効率が良いって事なのさ。
……そう言う意味でお前の晶術って奴には正直驚いたよ。
エレギオもお前に面と向かっては言ってないがそう考えてると思うぜ」
「……………………」
「おっと悪い。脱線したな。まあてな訳で魔力って言うのは燃料として無茶苦茶優秀でな。
だからこそ魔法=魔力で使うものって言う公式が成り立っちまってるんだ。
お陰様でリンカーコアの有る無しがイロイロな事に影響する社会になっちまってるのさ。
魔法が世界を支えてるのは変えようが無い事実だからな。
リンカーコアが無いからって力がえれない訳じゃあねえ。……もっともお前はリンカーコア有るからなぁ。
なんて言うか偉そうに語っちまったがお前は変な方向に進まずにそれを伸ばした方が効率良いよ。
スマンな。長々と話したが結局お前に役に立つ話じゃあねえかも」
若干しょげたように頭をたらした。何と言うか本当に子供のような男だ、とリオンは思う。ここまで言いたい事をペラペラと喋る大人は中々居ない。なにせさっきの話をしている間はとても嬉々としていた表情をしていたのだ。魔力が無いのに魔法の理論を操る。それは間違いなくエドワードと言う男の専門分野なのだろう。そして彼の説明には淀みらしき物が無かった。リオンにはわかる。アレは料理に調味料を入れるタイミングをアドバイスするような、そんな世間話のように当たり前の事としてエドワードは話していた。それは彼が非常に博識である事を示すのと同時にその研究をまるで玩具を自慢する子供のように自らも楽しんで話す事ができるという事。それは聞く人にとってとても分かり易く感じさせるし親しみやすい。
……そう言ったところを総評してリオンは子供っぽいと感じたのだが。
何はともあれ
「……謝る必要は無い」
「え?」
「実用性の有る無しは関係無しに興味深い話ではあった」
これまた非常に珍しい事である。
リオンと言う少年がシャルティエや『ある少女』以外の人間を褒める事はかなり珍しい事なのだ。
それはリオンはエドワードのその話を非常に自分にとって有益に感じていたという事だ。
「全く持って面倒な話だとは思うがな」
なにせ魔力を使わない魔法学(それ以外にリオンには呼び方が思いつかなかった)と言うのはかなり亜流な研究だろう。エドワード自身が語った通りに。たったそれだけの異端な話であれほどに長い講釈をする事ができるという事は魔法という文化がそれほどに広い物だと言うことを否応無くリオンに実感させる。
「……僕も随分と不可思議な技術に足を踏み入れてしまったものだ」
「おやー? ひょっとして怖気づいたのかね?」
肩を竦めたリオンにエドワードはそうおどけた調子で尋ねた。
「まさか」
短い返答。
だがそれには全てが集約されていた。リオンにとって全く未知の技術であり法則性であった魔法。簡単に極められるようなら拍子抜けも良い所だとその顔は語っていた。
とは言えリオンは内心でこうも思う。
(チンタラ時間をかけてやるつもりも無い)
リオンがこうやってツァーライト一味の保護を受けていられるのには間違いなくタイムリミットが存在する。エレギオは勿論、今やリオンもフェイトも追われる身だ。フェイトはもう襲撃を受けたしリオンだって手術が必要なダメージを負った。精々あと一年が限界だろうとリオンは推測している。
そう。リオンがエレギオのような一流の魔道士から教えを受けられる時間はたった一年しか無いのだ。やりたいことは幾らでもあるしこれからもできるだろう。
だが一年と言う時間制限は余りにもシビアだ。普通の人間ではその期間で魔法を会得するなど不可能だと匙を投げるだろう。
ただしリオン・マグナスの勘定だと少々話が異なってくるのだが。
(一年……上等だ。あと一年でこの力を必ずモノにしてやる)
-------
例えるなら浮気をされた妻の気分である。
リオンが魔法を習いだした事にシャルティエは大変不機嫌になっていた。
とは言え主の気持ちがわからないシャルティエではない。だからそれを直接口に出してリオン本人に言うような真似はしない。そう、リオン本人には。
結論から言うと。
アルフは今上司のエンドレス絡み酒に絡まれた哀れな平社員の気持ちを味わっていた。
「だからね。坊ちゃんはずっと僕と色々な事を乗り越えてきたんですよ」
「そうかい」
「晶術を使って、ね。そうし・よ・う・じ・ゆ・つを使ってね」
「うんうん」
「そうそうこれはね。坊ちゃんが13歳の時の事なんだけどね」
「へぇー」
「……んでモンスターをね。こう、デモンズランスでグサッと」
「すごいすごい」
返答の調子からわかるとおりアルフの疲労は今現在MAXに達している。無理も無い。既にこんな調子で二時間は経過していた。
(い、いつになったら終わるんだよ……)
もう何度内心でこの言葉を繰り返した事か。10を超えてからはもう数えるのも馬鹿らしくなってきていた。だと言うのにシャルティエの勢いは未だ衰えの兆しも見せない。唯一の救いはこのやる気を丸で感じさせない生返事でもシャルティエが気にしない所か。
かと言って
「あ、アタシそろそろ」
「あ、待ってください。まだあるんですよ」
……これである。
基本的にアルフはこういうノリの相手の話を打ち切らせるテクニックが使えるような器用な人間ではない。見た目に反して人生経験が浅い事も有る。更に言えばシャルティエの口調は表面こそ穏やかであったが、リオンに対する嫉妬心の鬱憤を篭めているのか有無を言わせない迫力があって、不幸にもアルフの鋭敏な勘はそれをバッチリ捉えてしまっていた。せめてそれに気付きさえしなければ無理やりにでもこのエンドレス絡みから脱出できたかも知れないのに。
(ホント……いつになったら終わるんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!)
アルフの悲痛な叫びに耳を傾け者は未だに現れそうに無い……
後書き
エレギオやエドの言っている事は原作の設定を吟味して自己解釈を加えた物です。なのはは天才設定。あ、原作通りか。まあただある程度は正しいとは思いますがそれでも原作と全く同じ理屈ではないと記憶してもらえると助かります。世界観もちょっと違うし。
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