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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第二十話 交渉

 翌日、学校が終わり、一度家に戻り着替える。
 さすがに黒の戦闘用の服と赤竜布を纏っていくのもどうかと思うので、ジーンズに、シャツに、上着を羽織る。
 要するに普通の私服だ。
 それでも

「念のためもっていっておくか」

 ジーンズの腰にホルスターを身に付けて、グロックを納める。
 さすがにレイジングブルは大き過ぎるし、身につければコートサイズの上着を着なければ隠すのも難しい。
 鞄に入れてはいざという時に取り出す手間もかかる。
 グロックでは元の銃の口径上威力は落ちるが牽制には十分だろう。

 そして、首元に手をやるがいつもの感触はない。

「時間を見つけて新たに作った方がいいかな」

 いつも身に付けていた魔力殺しのアミュレットだが、ジュエルシードを破壊する際に外す暇もなく付けたまま膨大な魔力を使用したため、耐えきれずに破損してしまったのだ。
 魔術師という事がばれているので不要かもしれないが、俺の魔力量を知られないためにも持つのは悪くない。

 家の戸締りをして、家を出る。
 この時間なら約束の時間の十分前には余裕を持って着けるだろう

 そして、俺の予想通り約束の時間の十分前に到着したが、なのはとユーノはもう来ていた。

「少し待たせたか?」
「ううん。私達もさっき来たところだよ」
「なら、よかった」

 なのはの横に座る。
 海からの風が心地よい。
 今日は天気も良かったからのんびり過ごすにはぴったしの場所だろうな。
 ジュエルシードの件に片がついたらフェイト達も誘ってのんびり過ごすのもいいかもしれない。
 その時

「……来たか」

 恐らくクロノが使っていた空間転移と同じものだろう。
 感知結界にいきなり魔力反応を感知した。
 すぐ近くだ。
 俺の予想通り、魔力を感知した方から二人こちらに向かって歩いて来る。
 一人はクロノ。
 そしてもう一人は映像で見た女性、リンディ・ハラオウン。
 俺が立ち上がるとなのはも俺の視線を追って慌てて立ち上がる。
 そして、俺たちと向かい合う。

「昨日は名乗っていなかったな。衛宮士郎。この世界の魔術師だ」
「ご丁寧にありがとうございます。改めて自己紹介させていただきます。
 時空管理局巡察艦艦長のリンディ・ハラオウンです」
「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ」
「高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」

 軽く自己紹介をしてベンチに腰掛けて向かい合う。
 リンディ・ハラオウン提督。
 恐らく今この世界に来ている管理局の最高責任者。
 ここでの話し合いがジュエルシードの事に関わるのは当然だが、俺と管理局の関係にも影響するので少し、気合いを入れておく。

「では早速だが本題に入ろう。
 あの宝石については私も知識として足りないことが多い」
「ロストロギア、ジュエルシードね」
「ならその説明は僕が」

 俺とリンディ提督の言葉にユーノが手を挙げた。
 ユーノの言葉が俺には意外だったが

「……あれを発掘したのは僕達ですから」

 その言葉に納得した。
 ユーノの説明を要約すると

 ・ジュエルシードを発掘したのはユーノの一族、スクライア
 ・ジュエルシードは全21個存在している
 ・輸送中の原因不明の事故により海鳴市に落ちた
 ・ジュエルシード回収を単独で行おうとするも力不足によりなのはに協力をしてもらう

 との事らしい。

「だが無謀すぎる」

 クロノの言葉にユーノが落ち込んでいる。
 ユーノには申し訳ないが、仲間の協力も得ず、単独で行動した事についてはクロノに同感だ。
 だがそれと同時にクロノの言葉もどうかと思う。

 一つは時空管理局の行動が遅すぎる。
 もしユーノが来なければ、なのはは関わることもなくフェイトの独壇場だ。
 そうなればほぼすべてのジュエルシードをフェイトに回収されることになる。
 そういう意味では管理局は感謝しても責める筋合いはない。

 それにしても、あんな厄介な物が21個も存在してるというのもとんでもない。
 さらに気になるのが輸送中の事故。
 フェイト達がいなければただの事故と判断してもいいが、フェイト達、特にフェイトのバックが存在する状況、この事故も故意的に起こされた可能性も考えたほうがいいだろう。
 それに管理局の説明の時にも出てきた言葉

「ロストロギア、確か過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称でしたか」
「え? ええ、その解釈で間違ってないわ」

 初めて会った時にユーノから聞いた知識が役に立ったな。
 それにしてもジュエルシードは余りにも不安定だ。
 何の目的で造られたのかは解らないがあれほど不安定であれば不良品とも思える。

「それにジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体、いくつか集めて特定の方法で起動させれば、次元空間内に次元震を引き起こし、最悪次元断層さえ引き起こす危険物。
 それに四日前には小規模ながら次元震も観測しました」

 四日前?
 つまりはジュエルシードを破壊した日。
 あの魔力の咆哮が次元震というわけか。

「仮に次元断層が起きたらどうなる?」
「この世界は消えてしまいます」

 リンディ提督の言葉になのはが呆然となっている。
 無理もない。
 いきなり世界が滅ぶかもしれないという話だ。
 理解が追いつかないのだろう。

「私達からも質問はよろしいかしら?」

 リンディ提督の言葉に、俺もなのはもユーノも頷く。

「先日の次元震ですが、何らかの高魔力の影響を受けて消滅したのを観測しました。
 その時、何があったか教えてほしいの」

 リンディ提督の言葉になのはもユーノも俺の方を見る。

 その行動は口に出さなくても俺が何かしたと言っているのと同じだぞ。
 もう少し隠し事がうまくできるようになろうな。

 まあ、これが交渉の材料にはなるか、それとも俺を実験材料としてみるのかでリンディさんの性格も少しはわかるか。

「次元震を消滅させたのは私だ」
「ふざけたこと言うな! アレは一個人でどうにかなるようなものじゃない!」
「そうかもしれないな。というわけで嘘という事で勝手に想像してくれて構わない」

 クロノが否定したので俺は特に反論せずに嘘という事にしておく。

 自身の常識や知識からかけ離れたモノを否定したいという気持ちはわかる。
 だが魔術という自分達が全く知らない未知の技術と直面しているのだ。
 それを詳しく聞こうともせず否定するのは問題だぞ。

「クロノ。ごめんなさいね。頭が固い息子で」
「構わないさ。
 クロノの気持ちはわからなくもない。
 だが自身にとって未知のモノを自身の物差しだけで測り、考察もせず否定する事は致命的な状況判断の誤りを生むぞ」

 当たり前だがリンディ提督が黙っていない。
 そして俺の言葉にムッとはしているが、俺の言葉を聞いて考えようとしている。
 執務官という肩書はお飾りではないようだな。

「さて、話に戻るとしよう。
 といってもやり方はとてもシンプルな方法だ。
 ジュエルシードが次元震を引き起こすというのなら」
「というのなら」

 リンディ提督とクロノがどのような対処を執ったのかと息をのむ。

「原因を潰せばいい」
「え?」
「は?」

 俺の言葉にリンディ提督もクロノも固まった。
 ここまでシンプルだとさすがに俺が何をしたか予測がついたらしい。

「ね、念のために確認するが、まさか」
「恐らくクロノの予測は間違っていない。現存するジュエルシードは21個ではない。
 20個だ」

 クロノは口をぽかんと開いて呆然として、リンディ提督は頭が痛そうに指で眉間あたりを揉んでいる。
 さすがに破壊したとは思っていなかったらしい。

「……その、どうやってジュエルシードを破壊したのか聞いても?」
「どうやってと聞かれても、やった事といえば槍を投げてジュエルシードに当てたとしか言いようがないのだが」

 故意的にはぐらかした様な返事をしているのだが、さすがにこのような返答は予想外だったのかどう反応するべきか困惑している。
 そんな時

「し、士郎君。あんまり誤魔化した言い方もどうかと思うよ」
「うん。確かに槍を投げたのは事実だけど、その槍が音速を超えるような速さで魔力が最低でもSランクぐらいはあるってことを伝えないと」

 さすがに見かねたのか、なのはとユーノが俺を嗜める。
 む、予想外のところからのリンディ提督とクロノへの援護だ。

「そ、その槍というのは君の魔法、いや魔術なのか?」
「半分正解だ。正確には槍を私の手元に転送させたのと、槍を投げるための身体強化は魔術。
 ジュエルシードを破壊した威力は槍の能力的なものだ」

 俺の言葉にリンディ提督もようやく思考がまとまったらしい。
 眉間を揉んでいた手を離して

「それが士郎君の魔術?」
「他にも多少使えますが、魔術師としては三流ですので転送と肉体の強化ぐらいしかできません」

 当たり前だが魔術に関しては嘘だ。
 ちなみに肉体に大きなダメージもなければ、この死徒の身体能力だけでゲイ・ボルクの投擲は可能である。
 先日の時は助走距離の問題で左手を使って一気に最高速度を出すために損傷した左腕に強化の魔術を使用したのだ。

 それと投影に関しては絶対的に隠し通さないとまずいことになる。
 俺の魔力があればジュエルシードを破壊した槍をいくらでも創り出せる、などと知られた時には下手をすれば俺自身がロストロギアになりかねない。
 余計な面倒は避けるに限る。

「士郎君、その槍を渡していただくことは」
「断る」

 即答する。
 余りの即答にリンディ提督が悲しそうにするがこれは許可できない。
 誰が好き好んで自分の魔術がばれかねない代物を渡さなければならないのだ。

「わかりました。
 ですがジュエルシードの件につきましてはこれより時空管理局が全権を持ちます」
「君達はそれぞれの日常に戻るんだ」
「そんな!」

 リンディ提督とクロノの言葉になのはが抗議しようとする。
 だが

「反論は認めない」

 その一言で押し黙らせてしまった。
 だがそれは無理だぞ。
 時空管理局。

「別にそれで構わんよ。
 私は私の日常である魔術師として海鳴にあるジュエルシードの回収または破壊を行う。
 ああ、念のために言っておくが間違っても海鳴に入るな。
 外敵として排除されたくなければな」
「なっ! お前、自分の言っていることをわかっているのか!?」
「十二分に理解しているさ。君達時空管理局と関わることなく魔術師として行動する。
 君達が望んだとおりだろう」
「ぐっ!」

 クロノは唸り、なのははぽかんとしている。
 時空管理局が本当になのは達を関わらせるつもりがなかったのかは知らないが、そちらに主導権を握らせるようなまねはさせない。
 さてどうする?
 今、海鳴を管理していると自称する魔導師ではない魔術師。
 君達の行動、発言一つで俺は味方にも敵にもなりかねない場所いる。

「海鳴市に管理局員の派遣は許可していただけませんか?」
「断る。魔術師の地に無関係の組織が我が物顔で動かれては面倒にしかならん。
 勿論、この会話を監視している監視機械の侵入も禁ずる」

 それに先ほどからこちらを監視している機械。
 何らかの形で監視していると思って周囲に意識を向けていて正解だった。
 迷彩で見えにくくなっているが目視出来たし、解析もおおよそできた。
 これならば結界を少し弄ればこの監視機械の侵入も感知できる。




side リンディ

 厄介なことになってきたわね。
 その中の極め付きが

「海鳴市に管理局員の派遣は許可していただけませんか?」
「断る。魔術師の地に無関係の組織が我が物顔で動かれては面倒にしかならん。
 勿論、この会話を監視している監視機械の侵入も禁ずる」

 これだ。
 サーチャーの存在もばれている。
 つまりここで手を引けばこのジュエルシードがある海鳴市には入ることができない。

 かといって士郎君をここで捕縛しようとすれば間違いなく戦闘になる。
 エイミィが私達が転送する前に確認して、腰のところに金属反応があることは分かっている。
 形状と大きさから昨日使っていたモノとは違うみたいだけど、隠し持つ事が出来るサイズだから威力が弱いなんて断言できない。

 それに戦闘になった場合、クロノがバリアジャケットを纏い、デバイスを構える前に彼が腰の武器を抜き引き金を引く事は難しくないだろう。
 そして、士郎君は宣言通り躊躇わない。
 この話し合い、私達の負けね。




side 士郎

 しばらく何か考え事をしていたリンディ提督だが

「士郎君の条件は何ですか?」

 そう言葉を紡いだ。
 つまりは

「その言葉、私とジュエルシードの件に関して協力関係を結ぶと判断してよろしいですね」

 俺と手を組むことを意味する。

「はい」

 俺の問いにリンディ提督がしっかりと返事をする。
 これで海鳴市において管理局と対等の立場を得ることができた。
 第一段階は終了。
 ここからは第二段階だ。
 といってもこちらはリンディ提督たちではない。

「なのは、ユーノ、二人はどうする?
 ここで手を引いて全てを忘れるか?
 それとも命が危うくなるかもしれない非日常に居続けるか?」

 俺が確かめねばならないのはなのはとユーノの意思。
 俺の問いかけに

「私は忘れることなんてできない。
 私は……一緒に戦いたい。
 フェイトちゃんとちゃんと話をしたい」
「僕も忘れたくなんてありません。
 ほんの少しでも手伝いたいです」

 二人は迷うことなく、俺の眼を見つめ、答える。
 覚悟ができた二人にわざわざ確認することでもなかったのかもしれない。
 ならば第二段階も完了。
 で後残るは第三段階のみ。

「では私からの条件ですが、
 一つ、私となのはとユーノと管理局は協力してジュエルシードの捜査すること
 二つ、私となのはとユーノの緊急時の現場判断及び行動を認めること
 三つ、魔術の知識、技術提供の強制の禁止
 四つ、ジュエルシードの件が終わった後の私たち三人の身柄と自由の保障
 この四点になります」

 俺からの条件を提示する。
 一つ目は今回の件があくまで協力体制であり、対等だとするもの。

 二つ目は俺達という個人の力と管理局という組織の力では人数、機材共に管理局が圧倒する事が根本にある。
 ならばジュエルシードの捜索では管理局に従った方が見つけやすいだろう。
 だが管理局は組織であるがゆえにフェイト達よりもジュエルシードの封印、確保を優先する事が考えられる。
 その時、俺やなのは、ユーノが優先するモノが管理局と違う場合に自由に動けるようにするためだ。

 三つ目は協力するが俺の魔術の知識や技術提供を強制させないためのもの。
 戦闘などを見られれば能力的な事はどうしても隠しきれない部分は存在する。
 それらの情報から推測するのも質問するのも勝手だが、答えるのも答えないのも俺の自由というわけだ。

 四つ目は今回の協力はあくまで期間的なものであり、今回の件以降の協力関係などについては別途話しあいという意味合いも含めている。

「二つ目の緊急時の現場判断及び行動を認めることということは」
「ああ、 基本的には我々は管理局の指示に従って行動するつもりだ。
 人員も機材もそちらの方が豊富だ。
 それなら管理局の指示に従った方が効率がいいだろう。
 それにリンディ提督にとっても管理局員で今回動ける腕利きはいざという時に備えておきたいでしょうから」

 恐らくは昨日のなのはとフェイトの戦闘に介入したことといい、今回リンディ提督の護衛をしていることといい、恐らくは今回のジュエルシードの件で動ける一番の腕利きはクロノだろう。
 そうとなればクロノを表に出さず、いざという時の切り札としてとっておきたいはずだ。

「なら緊急時にも私達と行動した方が」
「私やなのはにとってジュエルシードと並行して、いや下手をすればそれ以上に優先する存在がいる」

 俺の言葉になのはが眼を丸くする。
 それに応えるように、なのはにしっかりと頷いて見せる。
 それだけでなのはも俺の意思を感じ取ったのかしっかりと頷いてくれた。

「万が一の時に、管理局という組織として最優先のジュエルシードと私達にとっての最優先対象が共にある時、私達は私達のやり方をする必要があるという事だよ」
「ずいぶんと勝手ですね」
「我が儘を言っているのはわかっている。
 だが、俺が優先すべき事はジュエルシードではないという事だ」
「それは私達と敵対する事はないのですか?」

 俺の言葉に意見が変わる事はないと察したのかため息をつきながら、言葉を紡いだ。
 確かに別行動が管理局への敵対行動になれば、内部に敵を抱えるのと同じ事でありリスクが高い。
 だが

「最優先対象が若干違うが、目指す方向は同じだ。
 ぶつかることはないと断言していいだろう。
 もっとも敵対する様な事になったら今回の話し合いが自体が意味をなさないが」

 ジュエルシードを確保するのが目的の管理局とジュエルシードとフェイトが目的の俺達。
 ぶつかる必要性は感じられない。
 もっとも管理局がフェイトにジュエルシードの隠し場所を吐かせるために拷問の類を行った場合は敵対しないとは言えないが、ここまで話す限りその心配もないだろう。

「わかりました。その条件で協力関係を結ばせていただきます。
 魔術師、衛宮士郎君」
「条件を呑んでいただき感謝いたします。
 時空管理局、リンディ・ハラオウン提督」

 うまく条件を呑んでもらえた事に内心安堵する。

「なのさんとユーノ君もよろしいですか?」
「は、はい! 勿論です」
「はい!」

 リンディ提督の言葉に今までずっと話を聞いていた二人も慌てて返事をする。

「あとなのはさんとユーノ君は士郎君の管理下という形でよろしいですか?」

 俺の管理下か。
 いざとなった時の管理局側の責任を軽くするためというのもあるのかもしれないが、俺と共に行動する事になるだろうからそれでいいだろう。

「私は構いません。なのは達が良ければですが」
「私はいいよ」
「僕も」

 これでとりあえずは話がまとまった。

「あとこちらから一つ要望なのだけど、私達の船、アースラに来てもらえないかしら。
 情報共有やジュエルシードに対処する際、こちらから転送させた方が早く対処もできますし、こちらに滞在してもらえると助かるのだけど、どうかしら?」

 管理局の船か。
 海鳴を出たら街に張っている感知結界が何かを捉えた時、わからないが今回は仕方がないか。
 あんまり距離をおきすぎると相手から信用されなくなる。
 管理局全体はともかくリンディ提督個人は信用における人のようだしな。
 どちらかというと問題は俺というよりなのはだろう。

「私は構いませんが、なのははどうだ?」

 俺は一人暮らしだし、家族の事などは気にする必要はない。
 だがなのはは家族がいる。
 それも小学三年生がどれぐらいかは具体的にはわからないが、親元を離れて、学校も休むとなると親の同意が必ずいるだろう。

「お母さんとちゃんと話してみる。
 私の思いや覚悟を」

 俺を見つめる強い瞳。
 覚悟は出来ているなら俺は何も言わない。

「そちらへの連絡はどのように行えばよろしいですか?」
「それはレイジングハートを通して僕が」

 ユーノが行えるなら問題はないか。

「今晩になのはの両親の返事が出次第、ユーノよりそちらに連絡をします。
 その後、そちらに転送していただく。
 それでよろしいですか?」
「わかりました。それでは今晩連絡をお待ちしますね」
「よろしくお願いします」

 話しあいはここで一旦おしまいとなり、リンディ提督とクロノは自らの船に戻って行った。
 二人が海鳴からいなくなってから少し肩の力を抜く。

「なのは、管理局の船に行けるにしろ、行けないにしろ答えが出たら連絡がほしいんだが、どうやって連絡を取ればいい?」

 俺は携帯など資金的な問題で持っていないし、固定電話もない。
 ちなみに月村家とのやり取りは直接会ってやるか、学校ですずかを通して行っていた。
 翠屋についても似たような感じだ。

「士郎は念話とかは?」
「そんな便利なものは使えないな」

 ユーノの言葉に苦笑しながら答える。
 こういうときは自身の魔術の才能のなさが悲しくなるな。

「じゃあ、これ。
 私の携帯を貸してあげる。
 答えが出たらうちから電話するから」
「了解。ありがたくお借りするよ」

 なのはの携帯を借りて、なのはとも別れる。
 そして、なのはの後ろ姿を見送る。
 さて、近くの公衆電話から月村と高町家に連絡を入れないとな。
 しばらくアルバイトに行けなくなるって。

 そして、勘だが、なのはは来る。
 なのはの覚悟がわかれば高町家の両親はおそらく背中を押してやるだろう。
 俺はそれを信じて、荷物の準備をするだけだ。




side リンディ

 ある意味私達にとっても悪くない話でまとまった。
 切り札であるクロノを手札に残したまま、高い能力を持つなのはさんやユーノ君を使う事が出来る。
 だけど一番の不確定要素は衛宮士郎君

「エイミィ、どうかしら?」

 クロノとアースラに戻り、その足でエイミィの下に向かった。
 エイミィには私達が地上に降りている間になのはさんや士郎君の、そしてもう一人の女の子の事を調べてもらっていた。

「あ、艦長、クロノ君、おかえりなさい。
 白い服の子と黒い服の子の事はこの前の戦闘データから魔力値などはわかりました」

 エイミィが操作をして、この前の戦闘映像とデータを表示する。

「二人ともAAAクラスの魔導師で、魔力だけならクロノ君を上回っちゃてますね」
「魔法は魔力値の大きさだけじゃない。
 状況に合わせた応用力と的確に使用できる判断力だろ」

 ムキになる辺り、まだまだ子供という事なのかしらね。
 私の息子も。

「エイミィ、士郎君のデータは?」
「えっと、赤い外套の子ですよね。この子はこれだけですね」

 表示されたのはなのはさん達よりも遙かに少ない情報。

「魔法を使ってないので魔力値も不明ですし、わかったのは手に持っている質量兵器についてぐらいですかね。
 この世界の拳銃、タウルス レイジングブル。
 構造はリボルバー型で装弾数は五発から使用弾は454カスール弾か、500S&Wマグナム。
 どちらにしてもこの世界の拳銃の中でも大口径かつ高威力のモノですね」

 ずいぶんと物騒な武器ね。
 そしてそれを使う事を想定している士郎君自身も。

「おそらく何らかの改造をしているのか弾が発射された時、魔力も測定してます」
「魔力を持った質量兵器……というわけね」

 一般人でも魔導師と対等に戦う事が出来る武器。
 それを持っているだけでも厄介といえるでしょうね。
 それに武器を転送をさせただけと言っていたけど転送可能な武器にどんなモノがあるか見当もつかない。

「それだけじゃない。昨日と今日直接会って改めて思うけど、なのはととても同い年には思えない。
 交渉だってかなり場馴れしてた」
「そうね。クロノと向かい合ってこんな拳銃を使っても平然としていたし、体もかなり鍛えて経験もあるんでしょうね」

 それに大人でさえまともに扱えるか怪しいレベルの質量兵器を片手で平然と扱う技量に身体能力。
 正体もわからない、得体の知れない謎の人物。
 衛宮士郎という名前でさえ偽名の可能性はある。
 少しでも情報がほしいところね。
 そうとなると

「アースラに来てもらったら試験という事で模擬戦をしてみるのもいいかもね」

 少しでも手の内を知るという意味でもこれは必要になるでしょうしね。

 もっとも小声でつぶやいたためか、クロノとエイミィには聞こえなかったみたい。
 それに士郎君と敵対する事が絶対にないと断言できない。
 ならばクロノが士郎君と戦った場合に勝つことが可能なのか、勝てなくても応援を呼ぶ時間を稼げるのか判断基準は絶対必要となる。
 だけど叶うのならば、あの子達と敵対することなくこの事件を終えたい。




side なのは

 お父さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんが裏山に出かけて、食器の洗い物も片付け終わった。

「大事なお話ってなに?」
「うん」

 お母さんにしっかりと私の思いを伝えるために私は話し始めた。
 ユーノ君に出会ってから今日までの事。
 魔法の事など話せないことはあるけど話せることは全部話した。

「もしかしたら危ないかもしれないことなんだけど、大切な友達と始めたこと最後までやり通したいの。
 心配かけちゃうかもしれないけど」
「それはもういつだって心配よ。お母さんはなのはのお母さんなんだから」

 お母さんの顔を見ればわかる。
 私の事を心配していることも全部。
 だけど

「なのはがまだ迷ってるなら止めるのだけど、もう決めちゃってるんでしょ」
「うん」
「なら……いってらっしゃい。後悔しないように。
 お父さんとお兄ちゃんはちゃんと説得しておいてあげる」

 頭を撫でて、背中を押してくれた。
 私の事を信じてくれた。
 それが何よりもうれしかった。

 それから私は着替えとシーツに包まれた赤い槍を持って外に出る。

 私が決めた道を突き進むために。




side 士郎(父)

 家を出て、走るなのはの後ろ姿を見送る。

「強くなったな」
「ええ」

 なのはが桃子に大切な話があるらしいので隠れていたが話しは全て聞かせてもらった。
 それにしても本当に強くなった。
 覚悟を決めて、道を見据えたまっすぐの瞳。
 どうも血は争えないらしい。

「ちょっと出てくるよ」
「はい。気をつけて」

 そう言い、俺も家をあとにする。
 だけど向かう先は恭也と美由希が待つ裏山と逆の方向に向かって歩く。
 なぜなら先ほどからこちらを見ている視線があるからだ。
 だがその視線には敵意はない。
 ただ自分の居場所を教えようとしているだけ。
 ちょうど街灯がないところに差し掛かった時、何かが降りてきた。

 いや、何かとは正しくない。
 先ほどからこちらを見ていた相手、赤い外套を纏った白髪の少年。
 魔術師、衛宮士郎。
 そして、外套を纏うその姿は戦う者の姿。

「こんなところまで呼び出して申し訳ありません」
「いや、かまわないよ。
 あのタイミングだ。シロ君も関わってるんだろう?」

 俺の言葉にシロ君は静かにうなずく。

「俺に関してもすべてをお教えすることはできません。
 でもなのはを信じて待っていてください。彼女は必ず無事に戻ってきます」

 その言葉は親になのはを信じてほしいという願い。
 そして、遠回しになのはを守るという誓い。

「ああ、わかった。だけどシロ君も必ず戻ってきてくれよ。
 もしいなくなったらなのはも美由紀も悲しむ」

 なのはもそうだが、美由紀もかなりシロ君を気に入っている。
 おそらくなのはがいなかったらアプローチしているかもしれない。
 いや、さすがに小学生に手を出すのはどうかと葛藤しているだけだ。
 もう数年もすれば間違いなくアプローチしてくるだろう。

「はい。またお会いしましょう」

 シロ君はそう言い残し、外套をなびかせ、闇に消えていった。
 恭也から話は聞いていたが初めて目にする魔術師としてのシロ君の姿。
 シロ君の知っている裏の世界は俺などが知っている闇などよりさらに深い最も暗い場所なのだろう。
 だけど彼は折れない。
 ただまっすぐ走り続けるのだろう。

「シロ君なら美由紀でもなのはでもどちらの婿になってもいいんだけどな」

 あの子なら安心して任せていられる。
 シロ君が帰ってきたらなのはと美由希をからかってみるか。
 そんなことを思いながら恭也と美由希が待つ裏山に向かう。

 それにしてもどうやってあの恭也を説得したものか。
 俺はそんな事を考えていた。 
 

 
後書き
今週の二話目でした。

次回更新も来週の日曜の夜です。

ではでは 
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