戦国異伝
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第六十八話 足利義昭その十一
真剣にだ。こう言うのである。
「織田殿がどうされるかですが」
「その義昭様にですな」
「厄介なことに義昭様は義輝様とは違います」
具体的にどう違うかというと。
「剣で直接なさらず文で挑まれる方ですから」
「将軍となられればその権威を使い」
「織田殿の敵にあれこれと言われるでしょう」
義昭のそうした性質を見抜いてだ。明智は言うのだった。
「そして織田殿の周りで戦となるでしょう」
「厄介なことですな。ではその時は」
「織田殿と義昭様が衝突した時はですな」
「その時はどうするかです」
そのことがだ。明智の今の懸念だった。今からそうなっているのだ。
「我々としてもです」
「それがしはです」
細川は少しあらたまって答える。
「幕府にお仕えしているのはあくまで、です」
「幕府が天下を治めるに相応しいからですか」
「はい、そうです」
だからだというのだ。
「若し幕府がそうでないのなら」
「その時は」
「私は他の家に向かうでしょう」
これが細川の考えだった。
「そうなれば」
「左様ですか」
「では明智殿はどうされますか」
ひいてはだ。明智はどうかともいうのだ。
「その場合は」
「難しいですな。ただ」
「ただ、ですか」
「それがしも細川殿と同じくです」
「天下を治められる方にですな」
「仕えたいと思います」
明智も同じだった。その考えはだ。
そのうえでだ。彼はこんなことを話した。
「若し織田殿がそうした方ならば」
「織田殿にですか」
「はい、お仕えしたいと思います」
「織田殿というと」
細川はその信長について考え言うのだった。
「どうしても奇矯な印象がありますな」
「ですが実際は違うでしょうな」
明智は信長についてこう述べた。
「瞬く間にあそこまで為されたのはまぐれではないでしょう。ですから」
「相応しい器の方ですか」
「そう見ています」
信長の話もするのだった。信長も義昭もそれぞれ動いていた。
だがそれを見つつだ。ある者達が闇の中で話していた。
彼等はだ。闇の中でこう言っていた。
「将軍は消しましたがな」
「しかし弟がいますが」
「あの男は結構利用しやすいですしな」
「では術にかけますか」
「そうしますか」
「さて、どうするかじゃな」
ここでだ。闇の中にある声がしてだった。
そしてだ。こう言うのだった。
「先の公方様は殺めたが」
「しかしそれでもまだ幕府はある」
「そうなっているぞ」
「わかっておるわ」
余裕の声が返ってきた。
「それもな」
「しかしそれでもじゃ」
「御主は足利義昭には会えぬと思うが」
「それでもよいのか」
「ははは、気にすることはない」
その声は笑って言うのだった。
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