異世界からチートな常識人が来るそうですよ(タイトル詐欺)
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第六話 ◯知事が替わったせいか風呂のシーンが素晴らしかった
前書き
また飛びまっせ。もうゲームが終わっちゃったよ…。
今更思ったけど、常識人みたいなことしてないな。
ゲーム終了を告げるように、木々は一斉に霧散した。樹によって支えられていた廃屋が倒壊していく音を聞いて十六夜と証と黒ウサギは一目散に走りだす。
「おい、そんな急ぐ必要ないだろ?」
「大ありです! 黒ウサギの聞き間違いでなければ、耀さんはかなりの重傷のはず……!」
「黒ウサギ! 早くこっちに! 耀さんが危険だ!」
風より速く走る三人は瞬く間にジン達の元に駆けつけた。廃屋に隠れていたジンは三人を呼び止めるために叫ぶ。黒ウサギは耀の容態を見て思わず息を呑んだ。
「すぐコミュニティの工房に運びます。あそこなら治療器が揃っていますから。十六夜さんたちは
「その必要はないよ」
「へ?」
そう言って証は耀の前に膝をつき、耀の右腕に手を翳す。すると見る間に切り裂かれた右腕の傷が塞がっていく。黒ウサギは再度息を呑んだ。
「証さん、あなたは治療のギフトが使えるのですか!?」
「まあ、これくらいならな、……それよりも血が足りないな。輸血か何かの類はないのか?」
「YES! 工房に増血のギフトが有ります。連れて行きましょう」
「結局戻るか…、このギフトゲームはどうするんだ?」
「御二人は飛鳥さんと合流してから共に帰ってください」
「わ、わかったよ」
耀を抱えると黒ウサギは十六夜を追いかけていた時とは比べ物にならないスピードで走り去った。置いてかれた証はそれを見ながら十六夜に確認した。
「あの作戦で行くんだろう?」
「ああ、期待しとけ。……御チビ、どうかしたか?」
「いえ……、僕を担いでやっていけるのでしょうか…」
「さあ?」
「これ以外いい案はないと思うけどな。けど御チビがどうしてもって言うならやめますデスヨ?」
「……いえ、やります。僕の名前を前面に出すという方法なら、僕でも皆の風よけくらいになれるかもしれない」
「…あっそ」
「へえ?」
それしかないからやるのではなくしかも自分の名前を前に出せば身代わりにもなれると口にする。本当に面白いところに来たと十六夜は笑い、意外そうに苦笑して証は黒ウサギを追いかけるように跳び去った。
▽
---"ノーネーム"本拠 談話室
「春日部の怪我は結局どうなった?」
「黒ウサギがコミュニティの工房にあったギフトを使って増血したから大丈夫だ。まあ、血が少ない状態が続いたから三日は安静にしてないといけないけど」
「そうか」
「あ、お二人共ここにいたのですか」
「黒ウサギ、あのギフトゲームはどうなった?」
「ええ、それが…」
黒ウサギから仲間が商品として出されるゲームが中止になったと聞き、十六夜はソファーに寝そべって愚痴っていたが、
「まあ、次回に期待するか。ところでその仲間ってやつはどんな奴なんだ?」
「そうですね……一言で言えばスーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです!」
「金髪か~、よさそうだなあ、見応えがありそうだ」
「それはもう! 加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。近くにいるのならせめてもう一度お話したかったのですけれど…」
「おや、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
三人ははっとして窓の外を見た。こんこんと叩くガラスの向こうで、にこやかに笑う金髪の少女が浮いていたのだ。
「レ、レティシア様!?」
「様はよせ。今の私は他人に所有される身。"箱庭の貴族"ともあろうものが、物に敬意を払っていては笑われるぞ」黒ウサギが錠を開けると、レティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しながら談話室に入る。
美麗な金のかみを特注のリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着た彼女は、黒ウサギの先輩と呼ぶには随分と幼く見えた。
「こんな場所からの入室ですまない。ジンには見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」
「そ、そうでしたか。あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ちください!」
久しぶりに仲間に会えたのが嬉しかったのか、黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室へ向かう。
十六夜と証の存在に気がついたレティシアは、彼らの奇妙な視線に小首を傾げる。
「どうした? 私の顔に何か付いているか?」
「別に。前評判通りの美人……美少女だと思って、目の保養に鑑賞してた」
「ああ、こんなに綺麗な金髪は初めてだ」
彼らの真剣な回答だったのだが、心底楽しそうな哄笑で返していた。
▽
「そこで私は一つ試したくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」
「それで結果は?」
黒ウサギが真剣な双眸で聞く。レティシアは苦笑しながら首を振った。
「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。………さて、こうして足を運んだはいいが私はお前たちになんと声をかければいいのか」
自分でも理解できない胸の内に苦笑する。十六夜は呆れたようにレティシアを笑う。
「違うね。あんたは言葉を掛けたくて古巣に来たわけじゃない。古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」
「………ああ、そうかもしれないな」
十六夜の言葉に首肯する。しかしその目的は果たされずに終わった。危険を冒してまで古巣に来たレティシアの目的は何もかもが中途半端に進行してしまっているのだ。自重が拭えないレティシアに、ずっと黙っていた証が口を開く。
「不安を払う方法ならありますよ」
「何?」
「簡単な話ですよ。その身で確かめればいい。どうです?---元・魔王さま?」
スッと立ち上がる。証の意図を理解したレティシアは一瞬唖然としたがすぐに哄笑に変わった。弾けるような笑い声を上げたレティシアは、涙目になりながら立ち上がる。
「ふふ……なるほど、それは思いつかなんだ。実にわかりやすい。下手な策を弄さずに、初めからそうすればよかったなあ」
「ちょ、ちょっと御二人様?」
「十六夜、俺がやっていいよな?」
「ああ、今回は譲ってやるよ」
「ルールはどうする?」
「どうせ力試しだ。手間ひまかける必要もない。双方が共に一撃づつ打ち合い、そして受け合う」
「地に足をつけていた方の勝ちか、分かった。楽でいいな」
二人は窓から中庭に同時に飛び出した。開け放たれていた窓は二人を遮る事無く通す。窓から十間ほど離れた中庭で向かい合う二人は天と地にいた。
「ふうん?箱庭の吸血鬼は翼があるのか」
「ああ、翼で飛んでいるわけではないがな。……制空権を支配されるのは不満か?」
「いや、飛ぼうと思えば飛べるしな」
そう言ってギフトカードから鞘ごと刀を取り出す証、そして居合の構えをとった。
(なるほど、心構えは十分。あとは実力が伴うか否か………!)
満月を背負うレティシアは微笑とともにギフトカードを取り出し、光とともに長柄の武具が出現する。
「互いにランスを一打投擲する。受け手は止められなければ敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」
「はいよ」
投擲用に作られたランスを掲げる。
「ふっ―――!」
レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げる。全身を撓らせた反動で打ち出すとその衝撃で空気中に視認できるほど巨大な波紋が広がった。
「ハァア!!!」怒号とともに放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に証に落下していく。流星の如く大気を揺らして舞い落ちる槍を前に、証は目を閉じ、
そのまま、証の目の前で槍は停止した。
「「―――は………!??」」
しかしこれまた比喩ではない。大気の壁を易々突破する速度で振り落された槍は、完全に物理法則を無視して証に触れる寸前で止まっている。そして今まで動いたように見えなかった証が棒立ちになると同時にカラン、と槍が地面に落ちて砕け散った。
(い、一体何が……!?)
「次は俺か」
レティシアは呆然としていたが、彼の声によって現実に引き戻される。そうまだ終わっていないのだ。彼の一撃を耐え、それで魔王に対抗できるか否かを見極める。それだけだ。レティシアは気を引き締める。証の手に虚空から氷の槍が出現する。逆手に持ち構えると、雷を纏い始める。いざ証が投げようとした瞬間、割って入る影があった。
「証さん、お待ちください! レティシア様!」
「く、黒ウサギ! 何を!」
レティシアが声を上げる。だが決闘を邪魔されたことではない。黒ウサギが彼女に飛びつき、その手からギフトカードを掠め取ったのだ。
「ギフトネーム〝純潔の吸血鬼″………やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」
「っ………!」
いままで見ていただけだった十六夜が近づき呆れたような表情で肩を竦ませた。
「なんだよ。元・魔王様のギフトって吸血鬼のしか残ってねえの?」
「………はい。武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵は……」
ふう、と息をついて証は近づいてくるが、別に弱った状態で相手にされたなどで不満があるわけではないようだ。疲れた様子もなく提案する。
「まあ、あれだし、話があるならとりあえず屋敷に戻らないか?」
「………そう、ですね」
二人は沈鬱そうに頷いた。中庭から屋敷に戻ろうとする黒ウサギたち四人。異変が起きたのはその時だった。
後書き
いやあ……、書いてたら余裕で千文字超えてしまった……。また彼のギフトの出番はお預けです。
次はペルセウス戦直前からです。また飛びますすいません。
総合評価が100pt超えました。ありがとうございます!
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