IS ~インフィニット・ストラトス 漆黒と純白と紅の狼~
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後の祭り
~真紅狼side~
転校初日の夜、初めての夜だ。
そんな最中、俺はというと……………
「いや、あのさ、つい………な」
「ついじゃないのよ、真紅狼?」
氷華の前で正座させられていました。
ちなみに氷華は腰に手を当てている。
「すまん。いや、事前に言ったんだけどよ、聞こえていないバカが居たらしくてさ」
「それでも全く………。まぁ、いいわ。毎朝、真紅狼が朝ご飯を創ってくれるなら許してあげる」
「どこで創るんだよ?」
「調理場があるから、食材は置いてあるし勝手に作っていいみたいだから、そこで創ってね」
「はーい」
俺は、もっと酷い罰が来ると思ったが、そんなんだったので快く了承した。
…………この時はこれで終わったと思っていたが、その考えは甘かった。
「あと、私と一緒に寝ること!」
「はー……………………マテマテマテ!!!」
「そのまま返事してくれればよかったのに…………」
「いやいやいや、しねーよ!? っていうか、それを誰かに見られたら弁明の余地ねぇじゃん!! やめてくんない!? マジで!!」
「大丈夫よ、私の発言は絶対だから!」
「おい馬鹿やめろ。露骨なフラグ建てんな!!」
なんだろう、俺の頭の中で物凄い勢いで旗の建設音が聞こえてくるのは何故?
そんなことを考えていたら、予想通りに回収してしまった。
コンコン………
『蒼騎くん、いますかー?』
この声は、山田先生!?
『失礼しますよー?』
「あ、ちょっ………!?」
「失礼s………え?」
先生が入って最初に見る光景は、ベッドに押し倒されているように見える氷華と氷華を押し倒しているように見える俺。
………ああ、この後の惨状が目に見える。………泣きてぇ。
「え、あの、その………!!」
「先生、落ち着いて………」
「夜も遅いですし、そうですね!! 失礼しました!!」
バタンッ!!
山田先生は、勘違い率100%で出ていった。
俺は急いで、追い掛けたがすでに人影すらなかった。
無駄に足速いな、オイ!!
「え、何? この運の無さ? 初日から最悪過ぎるだろ、コレェ!!」
「あは♪ 間違いなく、明日には噂が流れてるわよ?」
「そんな早く流れないだろ。今から約十一時間後には学校中大騒ぎなんかあり得ないな。仮にも山田先生は教師だぞ? 個人情報を漏らす様なことはないだろうよ」
「………そういうことなら、その認識でいいわ。明日になれば分かることだし♪」
え、マジ?
マジなのか?
やめてよ?
マジでやめてよ?
俺は心の中で、必死に祈るがその祈りが届かなかったのは、次の日の朝、すぐに分かった。
次の日………
早朝五時………
欠伸を噛み殺しながら、一年生の厨房に向かう俺。
氷華といると毎晩が決戦である。
というのも、隙あれば俺のベッドだろうが布団だろうが潜り込んでくる。
しかも、下は履かない状態で………。
その為か、色々とマズイものが競り上がって来るのだ。
俺は「はふっ」と欠伸をして、睡眠を求めている体を動かした。
「くそ~~、油断した。寝た後に入ってきやがって………」
殺気とかには、反応出来るんだが………どうも悪戯心には反応できないらしい。
何度か反応出来ているが、100%ではない。
俺は「どうしたもんか………」と頭を捻りながらも氷華の朝ご飯と昼食を創っていると………………いつの間にか、七時半を回っていた。
どうりで、廊下の方から声が聞こえるわけだ。
すると、厨房から好い匂いが流れていったのか、やたらと人が集まって来ていた。
「早めに去らないと面倒なことになるな、これ」
俺は右手に創った朝食をトレーに乗せて、左手に風呂敷で包んだ弁当を持ち、厨房を出た。
「あー、蒼騎くんが手料理を運んでる!」
「「「え、嘘!!?」」」
一部始終を見ていた本音が、わざわざ廊下にいる女子全員に聞こえる様に声を上げる。
本音ェ………!!
「蒼騎くんって、料理出来るんだ!!」
「ねー、その手料理を誰に食べさせるの~~?」
「………もしかして、生徒会長の更識さんなの?」
ち ょ っ と ま て !!
どうして、そんなことを知っている!?
「なんで、楯無に食べさせることを知ってるんだ?」
「え? 皆知ってるよ? 生徒会長の更識さんと蒼騎くんって付き合ってるんでしょ?」
………氷華が言ってたのはコレか。
女子の情報収集、恐るべし。
というか、どこかで情報が捻子曲がってるぞ?
どうして、“押し倒されている”から“付き合ってる”という状態に変わるんだ?
お か し い だ ろ !?
俺が悩みながら歩いていると、周りの女子は『やっぱり、呼び捨てしてるし本当かもよ!?』などとキャッキャッと騒いでいた。
その女子集団を軽やかに避けながら、氷華の元に向かう。
「氷華、起きてるか~? ………って、さすがに起きてたか」
「当り前でしょ? それよりもご飯!」
「はいはい」
俺はトレーを氷華の前に置く。
メニューは、更識家でも創ったダシとき卵のメニューだが、味噌汁をお吸い物に変えてみた。
「いただきまーす!」
「はい、召し上がれ」
さすが名家のお嬢様とあって、綺麗に食べる。
そんなこんなで20分後………
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。さてと………俺も朝ご飯食いに行くか」
「あら、まだ食べてなかったの?」
「謹慎食らってるからな、時間をズラした方がいいと思ってな。それと、ほら………」
左手に持っていた弁当を氷華に手渡す。
「これ………お弁当?」
「ああ。ついでに創った。というより、気が付いてたら創ってた」
「あ、有難う」
「おう。もし、量が少ないと思ったら今日言ってくれ。多めに創るからよ」
「………真紅狼は良い旦那さんになれるわね。………主に私の!」
「なってほしいなら、毎晩布団の中に潜り込んでくることをやめれば、なってやってもいいぞ?」
「むむむ………!」
すると、氷華は痛い所を突かれたのか、返答がすぐに来なかった。
つーか、何が『むむむ………』だ。
「ほら、早く行った。遅刻するぞ?」
「じゃあ、真紅狼行ってくるわね」
氷華は機嫌が好さそうに学校に向かった。
食器を片づけて、俺も食堂に向かうと未だにちらほら女子生徒が居た。
俺は日替わり定食を頼み、空いてる席に座り朝食を取る。
む………、この野菜炒め、なかなか美味い。
味付けは、塩………? いや、多少みりんも入ってるな。
そう言えば、今日の夕食どうしようっかな……………
中華にも手を伸ばしてみるか………、ホイコーローでも創るか。
そんな風に謹慎をものともせずに至って普通に頭であれこれ考えながら、食事をしていると、後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、キミ?」
「え? あ、はいはい、なんですか?」
「キミって、初日早々、謹慎を受けた上、イギリス代表候補生と戦う男の子でしょ?」
「ええ、まぁ………」
俺は、胸元のリボンの色が氷華や一夏と違うから………この人三年生か。
「私がISの事、手とり足とり教えてあげようか?」
「興味本位で近づくついでなら、教えなくて結構です。それに後方50mに織斑先生が見えてますよ?」
「あ、あら、そう! じゃあ、私達はこれで………!!」
三年生の先輩は、そそくさと逃げていった。
………居るわけないに。
そう思っていたら………
「呼んだか、蒼騎?」
「………なんで居るんですか?」
居たんだよ、後ろに。
表情には出てないが、内心、超ビックリ。
声を掛けられた時は、心臓止まるかと思ったぜ。
まぁ、止まっても死なないけどさ。
お互い背を向けた状態で話す。
「……私とて人間だ、食事ぐらいはする。間違っているか?」
「いいえ。当り前ですね」
「ところで、お前は何故こんなギリギリの時間帯に食堂に居る?」
「謹慎を受けた身なので、皆と一緒に食事するのはマズイかと思い、時間をズラしました」
「なるほど、理にかなっているな。もう一つ聞きたいことがあるのが、いいか?」
「なんですかね?」
おい、教師、仕事しろよ。
というか、結構この人も喋るな。
「オルコットが気になっていたのだが、お前は専用機を持っているのか?」
「あのガキが何を言ってましたか?」
「オルコット曰く、『私が専用機で貴方が訓練機では、勝負にはならないでしょうから専用機の一つぐらい用意してあげてくださいな』だそうだ」
ほほぅ、舐めた口聞いてくれるじゃねぇか。
なら、俺も教師に伝言を頼むのはマズイ気がするが、謹慎を受けている身だし頼むしかない。
「専用機は持ってますよ。この首飾りがそうです」
俺はそう言って首飾りを見える様に持ち上げる。
首飾りには、黒い牙と白い牙、そしていつの間にか増えていた色の付いていない透明の牙が右から黒、透明、白と順に並んでいる。
「それが貴様の待機状態なのか?」
「ええ。まぁ、機体名や姿は一週間後のお楽しみということで………。それと、織斑先生にこんなことを頼むのは気が引けるんですが、謹慎を受けている身なのであのガキに伝言よろしいですか?」
「ああ。伝えておこう」
「では………『今から負けた時の言い訳とは、さすがエリート。プライドだけ守ることに関しては一人前だな。実はハリボテでした。と言う事が無いことを祈ってるよ』と伝えてください」
「蒼騎………お前、結構外道だな」
「何言ってるんですか、売り言葉に買い言葉ですよ? 売られた喧嘩は買いますよ? 利子含めてきっちりとお返しします。それに売ってきた奴が女だろうが子供だろうが何だろうが、俺に喧嘩を売るなら容赦なく叩き潰します………“<r絶望の化身:オルガロン>”として」
「まぁ、伝えておこう」
「どうも有難うございます。では、俺は大人しく部屋に戻りますので………」
「おう。しっかりと謹慎しておけ」
俺は一礼して、トレーを片付けて厨房に戻り、食器を片づけて部屋に戻った。
~真紅狼side out~
~千冬side~
蒼騎が食堂から出ていき、私もクラスに向かう。
しかし、蒼騎と話していた時の表情は何とも言えない不気味さを感じていた。
あの時の表情は心の底から愉しんでいた。
幼い子供が新しい玩具を手に入れたように……………。
………試合の時は蒼騎の動向を監視しておくことにしよう。
私は、クラスに戻った時にはどうやら一時限目が終わりに近く、クラスに入ろうとドアに手を掛けた瞬間、鐘が鳴ったので手間だが職員室に戻ることにした。
休憩時間、終了!
授業中………
そんなこんなで、今日一日が終わった。
SHRが終わる直前で、蒼騎の伝言があったことに気が付き、オルコットの名を呼ぶ。
「オルコット」
「はい、なんでしょう?」
「蒼騎には専用機があるらしい。よかったな、ちゃんとした試合が出来るぞ」
「それはよかったですわ! あそこまでこの私に言いだしといて、専用機が無くては本末転倒でしたわ!」
「ついでに、伝言も預かっている」
「………伝言ですか? もしかして、今頃になって『ハンデを付けて欲しい』とかじゃないでしょうね? まぁ、皆さんの前で土下座してくださるなら、考えなくても………」
オルコットは勝手な憶測を言って夢中になっており、周りの女子共は『やっぱりだよね~』や『候補生相手だし~』という表情をしていたが、中身を聞いたらオルコットは間違いなく激怒するだろうな。
「よく聞け、オルコット。蒼騎からの伝言だ。『今から負けた時の言い訳とは、さすがエリート。プライドだけ守ることに関しては一人前だな。実はハリボテでした。と言う事が無いことを祈ってるよ』」
その伝言にオルコットの優越感は止まり、周りの女子達も『え?!』という表情だった。
「お、織斑先生、今なんとおっしゃいましたか?」
「だから、『今から負けた時の言い訳とは、さすがエリート。プライドだけ守ることに関しては一人前だな。実はハリボテでした。と言う事が無いことを祈ってるよ』と蒼騎からの伝言を一字一句伝えたぞ」
すると、オルコットはわなわなと震えだした。
「な、な、なんですってぇぇぇぇぇえええ~~~!!!?」
蒼騎の奴も酷い言い回しをしてるもんだ。
「このッ! この私をッ! イギリス代表候補生のセシリア・オルコットに対して、なんたる侮辱を!!」
「“ハリボテ”ってどういう意味なんだろう………?」
誰かが呟いたので、私が教えてやった。
「そのまんまの意味だろうな。つまり、外見は豪勢でも内側はすっからかんという意味だろう」
その意味が分かったのか、オルコットの怒りはさらに爆発した。
「織斑先生、その無礼者の部屋はどこですか!!」
「聞いてどうする?」
「もちろん引っ叩きに………」
「セシリア・オルコット、決着をつけたいなら試合でといった筈だが、忘れてはいないだろうな? それに、再びお前が試合以外で蒼騎に手を出したら、今度こそアイツに殺されるぞ?」
「~~~~~ッ! 分かりましたわ、我慢しますわ!!」
「それでいい。では、SHRをこれで終わりにする」
『有難うございましたー』
私達は職員室に帰るときまで、オルコットの叫び声は聞こえていた。
まったく、蒼騎も余計な伝言を残してくれたもんだ。
~千冬side out~
~真紅狼side~
俺は部屋でモニターを開き、“双響狼(ツヴァイ・オルガロン)”の武装データを眺めてた。
今のところ、基本装備のみだけになっているが、この機体には特殊装備枠というのがあるらしく、そこには結構枠が余っていた。
一応、一つは埋まっていてそれは“天狼月牙”である。
四スタイルの機能に、特殊機能も付いているのに枠がたった一つで充分って言うのはおかしいと思うんだよね。
てっきり、二つぐらい使っていると思っていたんだが…………
「だいたい武装データって言われても、創り方自体知らないのにどうすりゃいいんだよ!」
そう、そこが問題点だった。
整備科の人間が入れば、多少は話が変って来るが、今現在ここに居るわけでもないのでどうしようもないのである。
その状態にもかかわらずだ、モニターの表示には【名称を入力してください】と表示されている。
名称を入力してくれって言われてもよ、武器の形状すらわからないのになんて入れればいいんだ?
まぁ、考えてもしょうがないし。
狼に所縁のあるやつがいいな。
う~~~~ん……………! 確か、神話の中にも二匹の狼の名があったな、それを試しに入れてみるか。
「……っと、“月天狼 ハティ”と“日蝕狼 スコル”」
と、俺はキーボードを叩き、エンターキーを押してみた。
すると…………
【名称を認識しました】
という表示が出てから、なにも起こらなかったので俺は電源を切って、夕飯の準備をする為、厨房に向かった。
~真紅狼side out~
ブウン…………!
【………………………………………………起動します】
【…………467機のコア・ネットワークに接続完了】
【その中から、名称に適したフォルム、武器の形状、性能のデータの作成・向上に成功。データを保存します】
【操縦者の想像を元に武装を創造する工程の手前まで終了】
【操縦者と接続されていない為、今までの作業を保存したのち電源を切ります】
【……………保存完了。これにて終了します】
ブツッ…………!
この時、俺は知らなかった。
この機体が特異能力を持っていたことを。
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