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戦国異伝

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第八十六話 竹中の献策その十


「では戦うしかないか」
「そうじゃな。少しでも生きられる道を選ぼうぞ」
「そうするか」
 こうしてだった。止むを得なくだ。彼等は槍を取った。
 そして嫌々ながらも織田家に向かおうとする。その彼等を見てだった。
 蒲生はいよいよ己が率いる軍勢を進ませた。まずはだ。
 弓矢が放たれる。それが敵兵を次々と倒す。だがそれはお互いの挨拶程度のものだった。
 お互いに長槍を出して打ち合う。ここでは織田家の特徴にもなっている長槍がものを言った。長い分だけ三好の軍勢を先に叩いて崩したのである。
 三好家の軍勢はそのまま崩れようとする。だがだった。
 まただった。面頬の男が馬上から叫んだ。
「逃げるなと言っている!」
「!?またか!」
「またあの面頬の人か!」
 逃げようとする面頬の男がだ。また叫んだのだった。
「逃げるなというのか」
「じゃあこのまま戦うしかないのか」
「織田家のあの長槍と」
 彼等はその長槍に恐れさえ抱いていた。だがそれでもだった。 
 男は撤退を許さない。あくまで踏み止まれというのだ。
 その男を見てだ。織田家の指揮を執る蒲生は言った。
「あの男、何者か」
「面頬でわかりませんな」
「そうですな。一体誰なのか」
「随分と強い声を出しますが」
「あの者は一体」
 その彼等を見てだ。蒲生の周りの者達が彼に話してきた。
 誰もが怪訝な顔になっている。だがそのうちの一人、美濃の者が言った。
「?何か」
「どうしたのじゃ?」
「いえ、それがしの気のせいでしょうか」
 こう言うのだった。
「あの面頬の者何処かで見た様な」
「御主は美濃の出じゃったな」
「はい」
 その通りだとだ。彼も蒲生に答える。
「その通りでございます」
「ではあの者は美濃の者か」
「そうやも知れませぬが」
「ううむ。では誰か」
 蒲生もここで首を捻った。
「妙な話じゃな」
「美濃者、そういえば」
「確かに。言葉の訛りがそれですな」
「あれは美濃の訛りですぞ」
 美濃と隣国であった尾張や近江の者達もここで気付いたのだった。面頬の男の言葉に美濃の国の訛りがあることにだ。それでだった。
 蒲生はその目を鋭くさせてだ。こう言った。
「ふむ。美濃の者ならばじゃ」
「殿に国を奪われた恨みでしょうか」
「それで三好家に加わっているのでしょうか」
「それが為に」
「有り得るのう、それも」
 その可能性をだ。否定しない蒲生だった。
 だが今はそれよりもだった。彼が行うべきことは。
「しかしあの男の面頬を取るのは少し先じゃ」
「はい、まずはですな」
「我等の果たすべきことをしましょうぞ」
「既に側面に鉄砲隊が回ってくれておる」
 堀の率いるだ。彼等がだというのだ。
「ならばじゃ。もう少しじゃ」
「戦に専念しますか」
「詮索はその後ですか」
「うむ、その後でゆっくりとすればよい」
 こう言うのだった。
「戦の後でのう」
「さすれば今は」
「このまま槍で攻めましょうぞ」
 こう言ってだ。彼等はひたすら三好の兵達を槍で打つ。そうして彼等を崩していく。
 三好の陣は少しずつ崩れていく。そこにだった。
 三好の軍勢の側面に回っていた堀がだ。その場所から満足している顔で言った。 
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