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万華鏡

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第四話 緑の葉その五


「聴いてみることだよ」
「聴くんですか」
「そうしてみるんですか」
「そう。聴くんだよ」
 言うのはこの言葉だった。
「いいね。そしてそれからね」
「演奏ですか」
「それもしてみるんですね」
「そう。聴いて演奏してみる」
 この二つをしてみるべきだというのだ。
「わかったね」
「じゃあまずはですか」
「作曲よりもですか」
「まずは聴いて演奏ですね」
「それがいいんですね」
「そう。僕はそう思うよ」
 先生はこう言うのだった。
「まずはそこからだよ」
「じゃあまずは」
「聴いてみます」
「それで演奏してみます」
「作曲よりも」
「うん、じゃあね」
 先生は笑顔で頷いて五人の背中を押した。手ではそうしていないが。
 五人はあらためてバンドを組んでみた。その中でだ。
 美優は部室にある色々な曲、それぞれの歌手の歌の楽譜を開いていた。アイドルの歌の割合がかなり多い。
 その曲の一つを観ながらだ。美優はメンバーに言った。
「なあ。ちょっと思うけれどな」
「ちょっと?」
「ちょっとっていうと?」
「いや、何かな」
 首を捻りながらの言葉だった。ドラムの前に座ったうえで。
「桜の歌ってアイドルの曲多いよな」
「バンドの曲にはない?」
「そうなのね」
「それも女性アイドルのが多いな」
 楽譜を読みながらの言葉だった。
「しかも別れとか悲しい曲じゃなくてな」
「出会い?」
「そういうの?」
「春の歌だからか?」
 美優は言いながらまた首を捻った。
「それでか?」
「春だから?」
「それでなの」
「そんな気がするけれどな」
 美優の言葉を聞いてだ。景子と彩夏が彼女のところに来た。そのうえで彼女が今開いているその楽譜を読んでそれぞれ言った。
「ああ、その曲ね」
「その曲なんか特にそうよね」
 その楽譜を読んでの言葉だ。
「あのアイドルグループの曲じゃない」
「四十八人どころか百人以上はいる」
 研修生を含めてだ。
「総選挙もやるね」
「そのグループの曲じゃない」
「この曲いいよな」
 美優は曲の感想も言った。
「あたし好きだぜ」
「そうね。ちょっとバンド向きの曲じゃないけれど」
「いいわね」
「バンドで歌うには。そうね」
「バラードみたいにしてからしら」
「そうだよな。まあとにかくな」
 美優は楽譜を開いたままメンバーに言う。
「とりあえず歌うか」
「うん、誰がメインで歌うの?」
 そのことは里香が問うた。
「それで」
「ううん、メインは琴乃ちゃんだからな」
 それでだとだ。美優は里香に返した。 
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