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ペルソナ4~覚醒のゼロの力~

作者:Rabbit
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4/14 謎の生物と場所

翌日。今日の朝食は和食。

日本人が古くから慣れ親しんだ定番メニューだ。

白米、味噌汁、魚、たくあん、ほうれん草のごま和えだ。

魚は鮭。味噌汁の具は、ワカメと豆腐だ。鮭にしたのは、単純に俺が好きだから。安かったっていうのもある。

今晩はアジの塩焼きを予定している。

菜々子ちゃんには、俺が作った弁当を持たせた。栄養は完璧だ。

俺の昼は、オニギリ。具は多種多様だがな。旨いと自負している。

今日は朝から、雨が降っている 。このまま降り続けると、今日も“マヨナカテレビ”が映るんじゃないか。

「ナーイス・タイミング!ごめん、入れて」

そんなことを考えていると突然、千枝が傘に入って来た。ちょっと驚いた。

俺は差していた傘を、千枝の方に差し出す。

「いや~、最近見たカンフー映画で、傘使ったアクションがあってさ。真似してたら折っちゃった…傘」

何やっているんだ……。

「そういえば…アレ見た!?」
「見た」
「そっか、見たんだ。でも、映ってたのって…。いいや、みんないる時に話そ?遅刻しちゃうし」

確かにそうだ。周囲の生徒の数も減って来た。

相合傘で歩いていると、数歩歩くと急に千枝が立ち止まった。

「あ…え、えーっと…。い、今さらだけどさ、ちょっと近い…よね、これって。あ、あたしさ!やっぱ走ってくわ、うん」

相合傘で恥ずかしがる歳でも無いでしょ。俺だけか?

「気にしなくていいよ。風邪ひくし」
「あ…そ、そっか。そーだよね!風邪引くとうつっちゃうし、みんなに迷惑かけるもんね!うん、やっぱ入れてもらおっかな。…あはは」
「可愛い子と歩けるのも嬉しいし」
「えっ!?えっ、いや、ちょっ……」

あっ……。またやっちゃった……。

「えっ、と……。は、早く行こ!」

千枝は顔を紅潮させながら強引に話を終わらせると、ズンズン歩いて行ってしまう。

そんなに照れんでも…。

俺は1人で歩いて行く千枝を追いかけると、校内に入るまで相合傘で歩いた。

千枝は靴を履き替えると、走って教室まで行ってしまった。…そんなに恥ずかしいか。





何とかHRには間に合い、世界史の時間。

昔から歴史は好きだから、歴史系の点は良い。

それにしても世界史の教師、祖父江(そふえ) 貴美子(きみこ)

すごい格好だな。ファラオが被るような仮面に、黒と黄の杖?みたいなやつ。

この学校の教師、奇抜すぎるだろ。

特技がダウジングで、好物はロマンって……。

「では、転校生の鳴月氏や。お立ちあれ」

ツッコミどころ満載の教師に心の中でツッコンでいると、いきなり指名された。

「西暦とは、キリストが誕生した頃を基準にして始まったものであるが…。西暦1年の前は、何と呼ばれる?」
「紀元前1年です」
「その通りじゃ。よく理解しておるようじゃの。数学のように考えると西暦0年が自然じゃが、そこが世界史の面白いところでの。西暦が定められた当時は0の概念がまだ無く、西暦は1年から始まったのじゃ。その結果、西暦1年の前年は紀元前1年となっておる」

突然の指名に驚いたが、ちゃんと正解した。ちゃんと知ってたぞ。

そこからは俺が指名されることもなく、順調に授業は進んだ。





あっという間に授業は終了し、放課後。

授業も終わったので、必要最低限の物だけを鞄に入れていると、窓際の列の生徒の話し声が聞こえてくる。

「逆さにぶら下がってたって何なの?ヤバくない」
「処刑とか、そういうアピール?怖すぎ~」
「死体を見つけたの、3年の小西って人らしいよ。先輩が行ってて~…」

当然だけど、他人事だな。どこでも一緒か、ああいうのは。

「よ、よう。あのさ……」

すると、どことなくおかしい陽介が話しかけてきた。そういや、今朝から何か様子がおかしかったな。

「や、その、大したことじゃないんだけど…。実は俺、昨日テレビで…。あ、やっぱその…今度でいいや。あはは…」
「花村ー、噂聞いた?」

乾いた笑いを浮かべて立ち去ろうとするが、千枝に話しかけられて立ち止まる。

噂って何だ。

「事件の第一発見者って、小西先輩らしいって」

あっ、それか。俺もほんの数十秒前に知ったばっかだ。

「だから、元気無かったのかな…。今日、学校着てないっぽいし」

そうなのか。それは気付かなかったな。

それはやっぱり、彼女を知っている陽介しか気付かなかったのか。

「あれ?雪子、今日も家の手伝い?」
「今、ちょっと大変だから…。ごめんね」

雪子は暗い表情でそう答えると、教室を出て行ってしまった。

何かあったのか。

「何か天城。今日とっくべつ、テンション低くね?」

特別を強調したな。テンションが低いって言うか、何か嫌なことでもあったかな。

…だから、テンション低いのか。

「忙しそうだよね、最近…。ところでさ、昨日の夜…見た?」
「えっ……?や、まあその…お前はどうだったんだよ」
「見た!見えたんだって!女の子!…けど、運命の人が女って、どゆことよ」

レズってことか……。まさか、そっちの気があったとは。予想外すぎるな。

いや、だが本人の口振りからすると、自覚は無い。将来の話か?

「…ちょっと、鳴月君。何考えてるの」
「いや、驚愕の事実に打ちひしがれているところだ」
「何考えてるのか知らないけど、絶対違うってことは分かるよ」

それなら良かった。

「……。誰かまでは分かんなかったけど、明らかに女の子でさ。髪がね、ふわっとしてて、肩ぐらい。で、ウチの制服で…」
「それ……。もしかしたら、俺が見たのと同じかも。俺にはもっと、ぼんやりとしか見えなかったけど…」

俺がスルーされたまま、話が進んでいる。ちょっとしたアメリカンジョークだったんだが。

「え、じゃあ花村も結局見えたの!?しかも、同じ子…?運命の相手が同じってこと?」
「知るかよ…。で、お前は見た?」
「俺も見たよ。俺も2人が見たの子と、多分同じだと思う。それに…」
「それに、何だよ」
「それに、変な声も聞こえた。テレビに触ったら、テレビの中に吸い込まれたんだ。テレビが小さかったら良かったけど、でかいのだったら入ってた」

俺は昨夜、俺が体験した事実を話す。まあ、普通に考えたらテレビになんて信じるような話じゃない。

「お前が見たのも、同じ人っぽいな…。しっかし、変な声ってのはともかく、テレビに吸い込まれたってのはお前…。動揺しすぎ?…じゃなきゃ、寝オチだな」
「けど、夢にしても面白い話だね、それ。“テレビが小さいから入れない”ってとことか、変にリアルでさ。もし大きかったら…」

まぁ、当然の反応だな。逆の立場だったら、俺も信じないだろう。

千枝の言うとおり、でかいテレビだったら確実に入ってた。

「そういえばさウチ、テレビ大きいの買おうかって話してんだ」
「へぇ。今、買い替えスゲー多いからな。何なら、帰りに見てくか?ウチの店、品揃え強化月間だし」
「見てく、見てく!親、家電疎いし、早く大画面でカンフー映画見たい!チョアー、ハイッ!」

そういうと、千枝は片足を上げ、俗に言う鶴の構えを取る。

「パンツ見えるよ、里中」
「えっ!?あっ、いや、でも大丈夫」
「スパッツ履いててもな。喜ぶぞ…花村が」
「俺かよ!喜ばねぇよ!俺は生パンの方が…!って、何言ってんだ俺はー!」
「この、ド変態ーッ!!」
「ぎゃぶらっ!!」

千枝の飛び蹴りが炸裂。陽介は教室後ろまで吹っ飛んで行くと、吹っ飛んだ拍子に机の角に股間を直撃した。

「おっ、おおっ……。お、俺のジュニアに……」

原因の俺が言うのもアレだが、可哀想に……。






股間を押さえて蹲る花村を引きずり、俺たちはジュネスの家電売り場に向かった。

俺たちは横幅が、俺たちの身長くらいはありそうなテレビを前にしていた。

「でか!しかも高っ!こんなの、誰が買うの?」
「さあ…金持ちなんじゃん?」
「花村とか?」
「無茶言うな……」

さすがに無理か。

「家でテレビ買うお客とか少なくてさ、この辺店員も置かれてないんだよね」
「ふぅん…やる気無い売り場だねぇ。ずっと見てられるのは嬉しいけど」

2人はそう言うと、急に周囲を注意深く見渡し始める。人がいないことを確認すると、2人は大型液晶テレビに触った。

「…やっぱ、入れるワケないよな」
「はは。寝オチ確定だね」
「大体入るったって、今のテレビ薄型だから、裏に突き抜けちまうだろ…。ってか、何の話してんだっつの!」
「で、里中。お前んち、どんなテレビ買うわけ?」
「とりあえず安いヤツって言ってた。おススメある?」

2人は横に移動すると、花村はこのテレビより幾分か縮小したテレビを勧める。

「こちらなどいかがでしょうか、お客様。この春発売されたばかりの最新型で…」
「ちょ、全然安くないじゃん!ゼロ1個多いだろって」
「てか、まずお前の“安い”が、どんぐらいか聞かないと」
「花村のコネで、安くしてよ。そんなら、ここで買うからさ」
「そーいうのは無理だって…。じゃ、こっちとかどうだ?展示品でちょっと古いけど、これなら…」

さらに2人は俺から離れ、別のテレビへと歩いて行く。

そんな2人を他所に、俺は目の前の大型液晶テレビを見る。

これだけ大きければ、本当に入れそうだな。湧き上がる好奇心を抑えられない。

俺はゆっくりを手を伸ばすと、テレビに入れた。

「そういやさー、鳴月。お前んちのテレビって…!」
「なに?どしたの、花村」
「あ、あいつの腕…ささってない…?」
「うわ…。えっとー…あれ…最新型?新機能とか?ど、どんな機能?」
「ねーよっ!」

俺が右腕を突っ込んでいる状況に、2人は動揺しっぱなしだ。

逆に俺は、昨日体験済みのため落ち着くことが出来ている。

「ウソ…マジでささってんの!?」
「マジだ…ホントにささってる…。すげーよ、どんなイリュージョンだよ!?で、どうなってんだ!?タネは!?」

2人は俺の腕がささっているこの状況を、食い入るように見ている。手だけでなく、もっと入りそうだ。

俺はテレビの縁に手を掛けると、頭をテレビに突っ込んでみる。

「バ、バカ、よせって!何してんだ、お前ー!」
「す、すげぇーっ!」

中には空間が広がっている。だが、それだけだ。

どんなものがあるのかは、深い霧で見ることが出来ない。何で、テレビの中に霧が…。

それはとにかく、意外と広いことを2人に伝える。

「な、中って何!?」
「く、空間って何!?」

霧ではっきりとは見えないが、結構広いことが分かる。再び、この状況を伝える。

「ひ、広いって何!?」
「っていうか、何!?」
「やっべ、ビックリし過ぎて、モレそう…」
「は?モレる?」
「行き時なくて、我慢してたってか…。うお、ダメだ!限界!!」

顔はテレビに突っ込んでいるので見えないが、陽介が相当焦っていることはわかる。

トイレに行ったかと思えば、すぐ戻って来たようだ。

「客来る!客、客!」
「えっ!?ちょっ、ここに、半分テレビにささった人いんですけど!!ど、どうしよ!?」
「客来た?じゃあ、今出るか…。って、うわっ!!」

後ろから何かがぶつかったと思ったら、落下の浮遊感を感じたと思ったら、全身に衝撃が走った。

「ねえ、何なのコレ…」
「2人とも、怪我はないか?」
「若干、ケツが割れた…」
「もともとだろうが!」

ごもっとも。ケツが割れてなかったら、大はどっから出すんだって話だ。

「うおっ!」
「な、なに、ついに漏らした?」
「恥ずかしいな、花村」
「ちっがうわ!!周り、見てみろって!」

周りを見渡してみると、テレビで見たようなスタジオのような風景が広がっていた。

同時に、俺が見たように濃霧が視界を覆い尽くしていた。視界は2・3mってところか。

それに何より、出口が見当たらない。この場所に無いだけで別の場所にあるのか、あるいは…。

いや、現に入ることが出来たんだ。出ることも可能なはず。…多分。

「出口が無いな」
「えっ!?」
「マジかよ!どどどどど、どーすんだよ!」

どもりすぎだ。しかし、俺は予想以上に冷静だ。これも、前世を体験した影響か?

陽介の慌てっぷりに影響されてか、千枝も慌て始めた。

これは良くない状況だ。まずは落ち着かなきゃな。


「まずは落ち着こう。そして、出口を探してみよう」
「そ、そうだな…。うん、それしかない…。出口を探してみよう」
「本当に出口とかあんの…?」
「入ることが出来たんだ。出ることも出来るはずだ。探してみよう」
「それはそうだけど…」
「てか、無きゃ帰れないだろ!探すしかないだろ!」
「花村の言うとおりだ。探してみよう」

何とか2人とも落ち着くと、出口を探すという目的を共有する。

この霧だから、極力離れないように注意しながら出口を探し始める。

探しまわって着いたのは、さっきまで居た場所とは何となく雰囲気の違う場所だった。

確かにそうかもしれない。知らない場所をカンで歩くのも危険な気もするが、今の俺たちにはそれしかない。

霧もすごくてよく見えないし。

―――――我は汝、汝は我。汝、目覚めの時は近し。我、汝の目覚めを感じる。

うっ……!

突然、昨日も体験した頭痛が俺を襲い、“声”が俺に語りかけて来る。

「何ここ……。さっきんとトコと、雰囲気違うけど……」
「建物の中っぽい感じあるけど…。くっそ、霧がスゴくてよく見えねぇ…」
「大丈夫?却って、遠ざかったりしてない?」
「分かんねぇよ。けど、ある程度カンで行くしかないだろ」
「そうだけど……」

声が響く間も、陽介と千枝は普通に会話している。2人には、この“声”は聞こえていない。何で、俺だけに…!

だが、今回の頭痛は昨日とは何かが違う。どこが違うとはハッキリ言えないけど、漠然とそう感じる。

「鳴月、どうした?」

陽介の声がした瞬間、頭痛と“声”が嘘のように消え失せた。

「い、いや、何でもない」
「そうか」

俺たちは再び歩きはじめると、ある一室に入った。

「お、この辺ちょっと霧薄くない?…圏外か。ま、当然か」
「テレビの中まで電波が来るとは、さすがにな」
「だな」

陽介は一応携帯を確認するが、当然ながら圏外。

さすがに、こんな異常な場所まで電波を届けてはくれないよな。さすがの、あの3社でも。

「さっさと行かないでよ。よく見えないんだから」

あっ、そういえば千枝を置いて行っちゃってた。後ろから文句を言いながら歩いていくる千枝に謝るため振り返ると、そこには異様な光景が広がっていた。

「絵…なに、ここ…。行き止まりだよ?出口なんてないじゃん!」

出口があると言った覚えもないが。

それはともかく、壁には何枚ものポスターが貼られており、そのポスター1枚1枚が顔の部分がはぎ取られていた。

さらに、壁の所々には黒く変色した赤いものがべっとりと付いていた。

…これは血、だな……。誰の血かは…知りたくないな。

「見た目も気味悪くなる一方だな…。! アーッ!つか、もう無理だぜ…!俺のボーコーは限界だ…!」

花村は部屋の隅の方に走っていくと、壁と向かい合って立った。

「ちょ、花村!何してんの!?」
「出さなきゃ、漏れんだろうが!」
「そこでやんの!?勘弁してよ…」

確かに。せめて、この部屋の外でやってくれよ…。

女の子の千枝がいる前でも出来るとは…。陽介、オトコだな。

「み、見んなよ…!見られてっと出ないだろ!ああああ~出ねえええ!!膀胱炎なったら、お前らのせいだぞ!」
「知らねーっつの…」

陽介は社会の窓を閉めると、振り返る。

「にしても…何なの、この部屋?このポスター、全部、顔無いよ?切り抜かれてる…。メチャメチャ恨まれてる…とかってこと?」

そして部屋の中央には、天井からは吊るされた輪っかのある赤いスカーフ?と、その真下には椅子。

「この椅子とロープ…。あからさまにマズイ配置だよな…」
「ああ」
「輪っかまであるし…。これ、スカーフか?」
「ね、戻ろ…さっきんトコ戻って、もっかい出口探した方がいいよ…」

千枝の提案に俺たちは頷く。行き止まりだと分かった以上、ここにいる理由は無い。

それに、この部屋は精神衛生的にもよくなさそうだ。

ドアをくぐって戻ろうとした時、陽介がポスターを指差す。

「なあ、あのポスターってさ、どっかで……」
「いいから、行くよもう!やだ、こんな場所!それに、なんか、ちょっと気分悪い……」
「そういや、俺も……」

確かに、身体が重い気がする……。この場所の異常さのせいか。

「わかった、戻ろう。何か、マジで気持ち悪くなってきた…」




来た道を慎重に進み、最初の場所まで何とか戻ることが出来た。

問題なのは、未だに出口が見つからないと言うことなんだけど…。

「ふぅ…。やっと戻って来れたよ…。って、何あれ…?」
「な、何かいる!」

霧の奥へと視線を向けると、確かに霧の中に影が確認出来る。

しかも、こっちに近付いてきている。緊張しながら身構えていると、霧の中から現れたのは…何だろう、これは。

「何これ?サル…じゃない、クマ?」
「何なんだ、こいつ…」
「き、キミらこそ誰クマ?」
「喋った!?」

こいつ、喋れるのかよ…。…って、クマじゃん。

あ~、そういやテレビの中に住んでたんだっけ。

「だ、誰よあんた!?や、やる気!?」
「そ、そ、そんなに大きな声出さないでよ…」

千枝の声に、クマはその身を丸めて怯えている。

優しく訊かなきゃいけないらしい。

「君は誰?」
「クマはクマだよ?ココにひとりで住んでるクマ。ココは、ボクがずっと住んでるところ。名前なんてないクマ」
「ずっと住んでるところ…?」
「とにかく、キミたちは早くアッチに帰るクマ。最近、誰かがココに人を放り込むから、クマ、迷惑してるクマよ」
「は?人を放り込む?何の話だ?」

人を放り込む……。意味深な言葉だな。

「誰の仕業か知らないけど、アッチの人にも少しは考えて欲しいって言ってんの!」

腹立たしいのか、クマは地団駄を踏みながら眉?を歪めながら言った。

「ちょっと、何なワケ?いきなり出てきて、何言ってんのよ!あんた、誰よ!ココはどこよ!何がどうなってんの!?」

再び千枝がキレ、クマを怒鳴りつける。

はぁ、少しは落ちつけよ。怒鳴り付けたって何も変わらん。

って、おい。

「さっき、言ったクマよ…。と、とにかく早く帰った方がいいクマ」

何で俺の後ろに隠れる。何だ、最初に優しく訊いたのが良かったのか?

「要はココから出てけってんだろ?俺らだってそうしたいんだよ。けど、出方が分からねーっつってんの!」
「落ち着け、花村。えーと、クマだっけ?お前が、ここから出してくれるってことか?」
「おほーっ!キミはこの2人とは違うクマね。その通りクマ」
「へっ?マジで?」

千枝に引き続き、陽介までキレる。だから、落ち着けと言うのに。

俺は陽介を落ち着かせると、クマに問いかける。

俺の問いに何故かクマはテンションが上がると、ウィンクしながら肯定する。若干、キモイ。

クマは床をその短い足で数度叩くと、3つに重なったテレビが出現する。

「んだこりゃ!?」
「テ、テレビ!?どうなってんの!?」

テレビ画面側に回り込むと、その後ろからクマが強引に押し始める。

「さー、行って行って、行ってクマ。ボクは、忙しいクマだクマ」

忙しいクマって、どんなクマだよ。…あっ、こんなクマか。

気が付くと、俺たちはジュネスの家電売り場に戻っていた。

あの、大型液晶テレビの前だ。

「あれ、ここって…」
「戻って来た…のか?」
「そうみたいだな」

その時、店内にタイムサービスを告げる放送が流れる。

朝採り山菜セットだと!?

「げっ、もうそんな時間かよ!」
「結構長く居たんだ…」
「そうか…。思い出した、あのポスター…。ほら、見ろよ。向こうで見たの、あのポスターだろ!」
「“(ひいらぎ) みすず”か…。不倫騒動で騒がれている、旦那がこの前の山野アナと不倫してたとか」
「おい、じゃあ何か…?さっきのワケ分かんない部屋…。山野アナが死んだ件と、何か関係が…?そういや、あの部屋…。ヤバい“輪っか”がぶら下がってたりしたけど…」

訪れる沈黙。一瞬の静寂。

「わー、わー、やめやめ!おい、やめようぜ、この話。つか、今日のことまとめて忘れることにするね、俺。何か、ハート的に無理だから、うん」
「今日はもう解散しよう。話すのは、また明日にでも」
「だな。そうすっか。気分も悪いし…」

陽介の言葉を最後に、今日はこれで解散となった。

山菜セットを買いに行きたかったが、俺の体調もよくなかったので泣く泣く変えることに。

主夫か、俺は…。




家に帰ると、数日ぶりに叔父さんが帰っていた。

「おう、おかえり」
「おかえりなさい」
「ただいま」

叔父さんと菜々子の目の前には、インスタントのラーメンが置かれている。

俺はいつもの場所に腰を下ろすと、叔父さんが迷いながらも口を開いた。

「あー…のな、まあ、知らんとは思うが…。小西早紀って生徒のこと…何か聞いてないか?」
「今日は休んでるらしいけど」
「ああ、そうなのか…。実は…行方が分からなくなったと連絡があってな。ウチの連中で捜しているんだが、まだ見つからない…」

行方不明、か……。

「はぁ…。仕事が増える一方でな…」

そしてテレビのニュースでは、亡くなった山野アナが“天城屋旅館”に泊まっていたことなど、コメンテーターがその話に喰いついて間接的に雪子の話をした。

仕事しろよ……。

続けての天気予報では、雨足は徐々に弱まってきているが、朝にかけて霧が出やすい状況になっているらしい。

「ラーメン、もういい?」
「まだ早いだろ」

俺は夕食は食ってないが、食欲が無いからな。

考え事をしていると、くしゃみが出た。おまけに、寒気もする…。

「風邪か?いかんな。新しい環境で疲れが溜まってるんだろ。菜々子、薬。薬飲んだら、今日はもう寝ろ」
「そうする」

俺は今朝作った残りのおにぎりを食べると、薬を飲む。ちなみに、カプセルだ。粉は飲みにくい。

寝間着に着替えると、今日は早めに就寝することにした。

自分の思っている以上に疲れていたのか、布団に入るとすぐに眠りに落ちて行った。






―――――目覚めよ、我らが主。我ら、汝の目覚めを待ちし者。

声が聞こえる。聞いたことのある声だ。

いつ聞いた?…昨夜、そしてテレビの中でだ。

誰なんだ、お前は。

―――――我は汝、汝は我。我と汝は表裏一体。汝が目覚めし時、我らは汝の大きな力となることだろう。

目覚め?力?

―――――未だ時は満ちず。まだ時が足りない。今しばらく、時を待とう。

その声を最後に、声は聞こえなくなった。 
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