蒼き夢の果てに
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第1章 やって来ました剣と魔法の世界
第8話 式神契約
前書き
第8話更新します。
「精霊と契約を交わすのは、エルフの使用する先住魔法と呼ばれる魔法」
タバサがそれまでと同じような口調で淡々とそう告げて来る。但し、口調とは裏腹に、かなり彼女自身が緊張している事は判りました。
ただ、彼女が何故、緊張しているのかまでは判らなかったのですが。
「ならば、俺の魔法はその先住魔法に分類される魔法だな。
但し、タバサ達が使っている魔法も俺から見るとそんなに大差はない。
要は、精霊の友と成って力を貸して貰うか、意志の力で精霊をねじ伏せて、無理矢理魔法を発動させているか、……の違いでしかない」
彼女の緊張の理由は判りませんが、それでも、その緊張を解くように、両方の魔法の類似点と相違点を簡潔に口にする俺。
もっとも、その為に必要とする能力に関してはかなり違うのですが。ねじ伏せるだけなら、呪文の中にそう言う作用をする術式を組み込むだけで良いのですが、精霊を友とする場合は、その術者の才能に左右されますから。
そして、更に続けて。
「さっきの悲鳴は、タバサの魔法を発動させる為に消費させられた精霊達の断末魔の悲鳴やからな」
流石に、その俺の言葉に驚いたのか、タバサから再び、かなり驚いたような気が発せられる。
但し、表面上は冷静な仮面を被り、眉ひとつ動かす事は無かった。
う~む。しかし、相変わらずの雰囲気ですね。
確かに、あまり喜怒哀楽を表面に表せない魔法使いも多く居るのですが、駆け出しの魔法使いでは珍しい事だと思いますね。
何故ならば、魔法とは精神によって結果が左右されますから。
その時の術者の喜怒哀楽によっては、魔法が発動したり、逆にしなかったり、その魔法の威力自体が変わって来る場合も有ります。
確かに、怒りで頭に血が昇っている状態では、効果的な魔法を行使する事は出来ませんが、精神が高揚した状態ならば、その分、魔法の発動確率や威力などに良い影響を与える事も有るとは思うのですが……。
「なるほど、知らずに為していたと言う事か。
但し、これは事実や。先住魔法だろうが、タバサ達の魔法だろうが、精霊の力で魔法が発動されている事に違いはない」
少し、思考が明後日に行き掛かった為か、俺が感じていた事を、少し直線的な表現のままで告げて仕舞う俺。
おっと、イカン。これでは、タバサの魔法を否定しているようにも聞こえるな。
確かに、こんな発動方法を行う魔法を積極的に肯定する心算は有りません。但し、否定する心算も有りません。
おそらく、この魔法の成立と広がって行った過程に何らかの事情が有るのでしょう。
それに、この魔法が一般に知られている魔法で、別の魔法を教えてくれる先達がいないのなら、魔法を覚えるには、この精霊の生命を消費する魔法を覚えるしかないのですから、ある意味仕方がない事だとも思います。
但し、俺にならば、タバサに対して別の選択肢を提示してやる事も可能です。
何故ならば、俺の仙術がこの世界でも発動した以上、タバサにも俺と同じように、精霊の生命を消費しなくとも良い魔法……つまり、俺の仙術を教える事が出来るはずだと思いますから。
もっとも、その為には、少々の小細工を行う必要が有りますけどね。
「勘違いしないで欲しいんやけど、俺は別にタバサの魔法を否定する訳やないで。
それに、生命体が他者の生命を奪いながら生きて行くのは当たり前。その部分を否定しても意味は無い」
先ずは、その部分の肯定から入るべきですか。それに、他者の生命を奪わずに生きて行けるモノなど存在しないでしょう。
其処まで考えてから、少しの違和感。この違和感は……。
あ、そう言えば、ひとつだけ他者の命を奪わずに存在している生命体も居るらしいのですが、未だに俺は出会った事がないので、それは考慮に入れなくとも良いと思いますね。
伝説上の存在。麒麟と言う存在に、俺は未だに遭遇した事は有りませんから。
もっとも、不必要なまでに奪うと言うのは問題ですし、更に、その奪った多くの生命に対して無関心と言う、生命を大量消費し続けるよりも更に大きな問題も、タバサの使用している魔法には残って居ます。
矢張り、自らの生命を奪いながら、その存在に対して無関心な相手と言うのは、生命を奪われた方からして見ると一番問題が有るでしょう。タバサや、この世界の魔法使い達は、その一番問題が有る行為を、それこそ無意識の内に為していた、と言う事なのです。
これは、陰の気が大量に発生して、其処から澱みを作る原因と成ります。
「でも、わたしには、わたしの魔法が必要。
例え、それが、多くの生命を奪う事によって発動させる魔法で有ったとしても」
タバサが、やや強い調子でそう答えた。
俺に対しての言葉で、初めて明確に彼女の心情が判る言葉で。
……って言うか、矢張り否定的に取っているな。もともと、そうフレンドリーな対応を取る女の子では無かったけど、今はかなり頑なな態度と思えます。
ただ、あの悲鳴を聞いた上での台詞ですから、おそらく俺に対する言葉と言うよりも、自分自身を納得させる為に必要な台詞と言う事なのでしょう。
つまり、彼女に取っては、それほどまでに魔法が必要と言う訳で、その魔法を学ぶ上に置いては、それなりの覚悟は既に完了していると言う事なのでしょうね。
「当然、魔法が必要やから魔法学院に通って、その魔法を学んでいるんやろう。その辺りについては理解出来るから、どうこう言う心算はないで。
俺としては、必要以上に精霊の生命を奪うような状況に成らなかったら良いだけなんやから」
先ずは、タバサや、彼女の魔法の肯定を行ってから、現状で、改善すべき問題を提示する。それに、俺の傍で陰の気の強い魔法を連発されては、陽の気の神獣たる俺の体調にも影響が出ますから。
まして、それが俺だけに留まる訳は有りません。間違いなくタバサにも何らかの影響が出て来ると思います。
いや、もしかすると、既に何らかの悪影響が出ている可能性も有りますか。
余りにも状況が陰の気に偏り過ぎると、不幸な事が連続して起きたり、体調を崩したりと言う事が起き続け、最終的には死に至る事も有り得ますから。
俺は再び笛を取り出し、有る音楽を奏で始めた。
この泉の雰囲気は悪く有りません。更に、先ほど進んで来た林自体も人の手が加えられ、ちゃんと生命力に溢れた、里山と言う状態を維持している林で有りました。
そう、ここは十分に水が循環している不自然に澱んだトコロのない泉で有り、昼間には、十分な陽光が差し込み、木々の間を十分な風が通り抜ける明るい雰囲気の林で有るのだと思います。
こう言う林や泉なら、必ず某かの妖精と言う存在が居ます。俺の経験通りならば。
高く、低く鳴り響く笛の音。
そう、これはただ音楽を奏でている訳では有りません。近くに存在する妖精や妖魔の類の内、交渉可能な個体を呼び出す仙術。そう言う種類の魔法。
俺の笛の音に魂を揺さぶられた存在を呼び寄せる為の、長嘯と言う仙術。
やがて、俺の見ている目の前で、泉の中から蒼を基調としたドレスを着た一人の少女が。
そして、林の中からは緑を基調としたドレスを着た、花の冠を被った少女が一人、顕われた。
俺は、新たに現れた少女達に、笑顔を魅せる。
そして、
「初めまして、この世界の、泉の乙女に森の乙女。
私は、異世界より訪れた龍族の端に連なる者。名を武神忍と申します」
泉の乙女。西洋風に表現すると妖精ニンフと、森の乙女。つまり、妖精ドリアードにそう自己紹介を行う俺。
今度は本当に驚いた表情を浮かべるタバサ。
しかし、おそらくこれは、新たに顕われた二柱の妖精に対して驚いた訳ではなく、俺の自己紹介の部分が大きかったのだと思いますが。
ただ、ここに居るのは俺と、俺の式神たち。それに、自らの主のタバサだけですから、もう隠す必要は有りません。まして、タバサには周りにギャラリーが居なくなった時点で話す心算でしたから。
但し、龍種とは言っても、人間離れした身体能力や神通力は持ってはいますが、龍体への変化は出来ない、非常に中途半端な龍でしかないのですが。
それに、式神契約を結ぶ際は、俺の場合は正体を明かした方が良好な関係を築く事が出来ますから。純然たる人間よりは、荒ぶる自然の象徴、龍の血を引く者の方が、異界の存在に対しては親近感を持たれて当然ですからね。
まして、俺は木行に属する神獣。水との相性は良く、同じ木行に属する樹精との相性も悪くは有りません。
「タバサ、紹介するな。
泉の乙女。西洋風に表現するならば、妖精ニンフ。水行に属する魔法を得意とする」
俺の紹介に泉の乙女が優雅に礼を行う。
片や、少しぎこちない仕草ながら、礼を返すタバサ。
「そして、こっちが、森の乙女。西洋風に表現すると妖精ドリアード。木行に属する魔法を得意とする」
こちらも同じく、タバサに対して礼を行った。
俺の紹介に対して、ややぎこちない雰囲気で礼を返したタバサが、俺の顔を真っ直ぐに見つめる。これは、間違いなく説明を要求しているのでしょう。
但し、これから先の会話は、もしかすると少し問題が有る可能性も有りますか。何故ならば、おそらく、この世界……と言うか、この国のルール。使い魔は一人に付き一体と言うルールに明らかに抵触する事を為す心算ですから。
「アガレス。俺達だけを時空結界に包んでくれるか?」
俺が、タバサに取っては意味不明な依頼をアガレスに依頼する。
無言で首肯いてくれるアガレス。
そして、その刹那。
周囲の風景及び雰囲気が一変した。え~と、何と表現したら良いのか……。そうですね。俺達、その場にいる者達以外すべての存在の気配がしなくなった、とでも説明したらしっくり来ますかね。
そう。それは、人間や生物だけではなく、植物たちの発する微かな気配さえも全て感じなくなって仕舞ったと言う、死……もしくは静寂の雰囲気が周囲を包んだと言う事です。
何を為したのか説明を求めるかのような雰囲気で、俺を見つめる蒼き御主人様。但し、表情はそれまでとまったく変わりは有りません。
それに、説明を要求されて当然でしょう。俺が彼女と同じ立場なら、同じような気を発しますから。
「この現象は昼間に話した魔将アガレスの能力の中で、あの場で話す事の出来なかった能力と言うのがこれ。時間神としての能力や。つまり、彼女は時間を止めたり、逆に進めたりする事が出来ると言う事。
但し、敵対する存在に対しては当然、抵抗される可能性が有り、百パーセント成功する魔法と言う訳でもない。
せやけど、抵抗しない存在に関しては、問題なく行使出来る魔法でも有る。
そして、外からの覗き見や盗聴対策として、俺達自身の時間を外界から切り離して仕舞えば、ほぼ全ての盗聴や覗き見に属する魔法を排除する事が可能となる魔法、と言う事やな」
つまり、現在、すべての存在の気配を感じる事が出来ないのは、この俺達が存在している空間が、完全に世界……時間から切り離されているから。こんな空間を覗き見や盗聴出来る魔法など存在していなくて当然です。この空間を覗き見や盗聴する為には、普通に考えるとこの空間内に侵入するしか方法はないでしょう。
但し、俺やアガレスの探知……この俺達以外に何の気配も感じる事の出来ない空間で、気を操る存在の探知能力を騙すのはとてもでは有りませんが不可能……とまでは言わないけど、かなり難しい事だとは思いますから。
「そうしたら質問。タバサには、どうしても魔法が必要なんやな?」
先ずは大前提についての質問を行う俺。但し、この質問は本来不要ですか。先ほどの彼女自身の台詞がそれを物語っていますから。
予想通り、コクリとひとつ首肯く事によって、俺の質問を肯定するタバサ。
「そうしたら、その為になら、使い魔は一人一体のみと言う、この国の決まりを破る覚悟は有るか?」
更に質問を続ける俺。しかし、
「わたしには、使い魔とわたしの魔法の関係が理解出来ない」
そう、それまでと同じ調子で聞いて来るタバサ。但し、苛立ちや不快な気を感じる事は無く、どちらかと言うと興味が有ると言う雰囲気を発している。
う~む、成るほど。もう少し、詳しい説明が必要と言う訳ですか。
それならば……。
「ウィンディーネ。それに、サラマンダー。二柱に聞く。
現在、及び未来に置いて、タバサと契約を結ぶ事は可能か?」
タバサから、俺の後ろに付き従う、こちらの世界に来てからずっと現界しっぱなしの式神に視線を移してから、そう問い掛ける俺。
そして、その俺の問いに対して、首を横に振って答える式神達。
「未来に関しては判りませんが、彼女はシノブの主人では有りますが、すみませんが、例え、シノブの命令で有ったとしてもお受け出来る事と出来ない事が有ります」
そう、サラマンダーの方が代表して答えた。
想定通りの答えなのですが、これは仕方がない事でしょう。いくら、知らずに行使していたとは言っても、実際に魔法を発動する際には、かなりの数の精霊を犠牲にしていた可能性が有るのですから。
これを精霊の側から考えて見ると、そんな相手とは、契約を結びたがる訳は有りません。
「俺が、魔法……仙術が行使可能なのは、四大精霊と直接契約して、この場の精霊を間接的に支配する事によって仙術を発動させているから。
確かに、場に存在する精霊と直接交渉して支配する方法も有る。せやけど、少々時間が掛かるし、俺が契約している精霊達は、それぞれの精霊界でも上位に当たる精霊やから、これでも十分な魔法の効果が得られるからな」
昼間に実演して見せた仙術。樹木の成長を早める仙術を、俺の霊力だけで時間を一年近くも進める、などと言う事は出来ない……事もないけど、かなりの霊力を消耗します。
その場合、その後のレンのクモとの戦闘がかなりキツくなったでしょうね。
それに、俺の場合には、もうひとつ厄介な事情と言うヤツが有りますから……。
「せやけど、現状のタバサとは、四大精霊どころか、もっと格の低いそれぞれのエレメントと言うべき精霊とも契約は難しい。
せやから、精霊と直接契約をする代わりに、妖精や妖魔と契約を交わす事に因って、彼ら、彼女らの支配する精霊を間接的に支配して、魔法を発動して貰おうと思ったんや」
もっとも、それは、この場に顕われた妖精達の答えひとつで、簡単に白紙に戻される考え方なのですが。
「こう言う理由から、使い魔は一人に付き一体のみ、と言うこの国のルールを破る事になっても平気か、と聞いたんや。
さて、どうする、タバサ。複数の式神と契約を交わして魔法を発動させるか、
それとも、今まで通り、精霊の生命を消費して魔法を発動させ続けるか」
但し、ここまで説明したら、こんな質問など無意味でしょう。
その理由は、最初に自分には魔法が必要と言った台詞も、俺に対する答えと言うよりは、自分自身を納得させる為に必要だった台詞だと感じましたから。ならば、これが為せるのなら、彼女に取ってデメリットは何も有りません。
成功するかどうかは判らないけど、試して見る価値は有ると思いますからね。
「貴方の言う事が為せるのなら、わたしも試して見たい」
未だ表面上からは心の動きを感じさせない表情及び口調なのですが、それでも、頑なだった雰囲気からは大分変わっているし、前向きな態度でも有ると思います。
それならば、
「泉の乙女。そして、森の乙女よ。聞いての通り、契約を交わして貰いたいのは俺では無く、この少女の方なのだが、どうだろう、契約を交わして貰う訳には行かないだろうか」
俺の問いに、それぞれの妖精が肯定を示す。これで契約の意志の確認は完了です。
ならば、次の段階は……。頭の中で、慣れた作業を思い浮かべながら、泉の乙女の方に向き直る俺。そして、
「そうしたら、先ずは泉の乙女。オマエさんは、以後、この青玉に居を移して貰う事になるけど構わないな?」
俺は、財布の中から取り出した大粒のサファイアを差し出しながら、そう聞いた。
「はい、構いません」
泉の乙女ニンフがそう答えた。もっとも、断られるとは思っていませんでしたが。
その理由は、このサファイアが、かなり良質な天然のサファイアですから。このサファイアを持ち出して、それでも尚、この申し出を断られたとしたら、俺の交渉技術のへぼさと魅力の無さに気付かされて立ち直れなく成ります。
それに、この宝石は、俺からタバサへの最初の贈り物となります。それならば、それなりの代物を準備する必要があるでしょう。
「そうしたら、タバサ。このサファイアを左手の手の平の上に。右手は、俺の右手の動きをトレースしながら、封印と唱えてくれるか。
目の前の泉の乙女を、この宝石の中に移動させるイメージを行いながら」
俺は、そうタバサの左手の上にサファイアを乗せてやりながら説明を行った。
……って言うか、少し抽象的なのですけど、そうとしか説明しようがないですし、最初の契約の時は俺もこんな感じでも有ったから問題はない、とは思います。
それに、これが成功したのならば、この世界のルール、使い魔は一人に付き一体のみと言うルールが絶対の条件と成っている訳ではないと言う事にも成りますから。
もっとも、俺が行っているのは使い魔契約では無く、式神契約。更にルーン文字を使った魔法を使用していない以上、タバサが今まで縛られて来たルールとは別のルールが適応されるようになる可能性が高いと思いますが。
まぁ、仙術に関しては、あまり厳しい戒律のようなモノもないですから大丈夫でしょう。少なくとも、彼女自身が極端に陰の気に偏るような状況に成らない限りは行使可能だと思いますから。
当然、そうならない為に、俺が居るのですけどね。
それに、そんな邪仙か陰気の塊の妖怪や妖物のような存在に、人間が簡単に変わる訳はないはずですから。
「封印」
俺の右手の動きを真似て、タバサが口訣を唱えると同時に導引を結ぶ。
すると、目の前に居たはずの泉の乙女が、吸い込まれるようにタバサの左の手の平の上に置かれたサファイアの中へと消えて行った。
うむ。想定通りの結果です。使い魔は一体しか契約出来ないと言うルールは、この式神契約には適用されないと言う事が証明された瞬間ですね。
但し、おそらくは、現在のタバサでは、同時に現界させて置ける使い魔の数がそう多くないとも思うのですが。
ただ、俺も、そしてタバサにしても、以後は宝石に封じた数体の式神を常に身に付けて置くと言う、半分、式神を現界させた状態で行動する心算なので、受肉させて現界させて置くよりは、余程、消費する霊力も少なくて済むはずです。故に、消費する霊力については問題無くなると思いますし、大丈夫でしょう。
尚、宝石や貴金属に式神を封じると言うのは、式神達が常に現世に留まり続けると言う事。つまり、式神達の家を常に持ち歩いていて、必要な時に現界させる。つまり、玄関のドアを開けて、出て来て貰うと言う事に成ります。
そして、昼間に行ったカードからの召喚と言うのは、式神達は、彼らの神界に身を置いて居り、必要な時に召喚ゲートを開いて、神界より召喚していると言う事になるのです。
ですから、カードから召喚した時には召喚円が開いて、それぞれの式神を示す納章が大地なり、空中なりに映し出されたと言う訳なのですよね。
つまり、宝石に封じた場合は、常に少しずつですが、霊力を契約者が式神に対して供給し続けなければならないのに対して、カードからの召喚の場合は、召喚してから以降にしか霊力の供給が必要ではないと言う事です。
但し、宝石に封じた場合は、その封印した宝石を契約者が常に身に着けて置けば、危険を察知した式神達の意志で契約者を守ってくれる事も有りますし、タバサが急に魔法を使用する際にも、いちいち神界から式神を召喚していたのでは緊急時に対応出来ないので宝石に封じる方を採用したのです。
さてと。そうしたら、次は……。
【タバサ、聞こえるか?】
行き成り、タバサに対して【念話】のチャンネルを開く俺。
これには流石に驚いたのか、少し、驚いたような表情で、俺を見つめるタバサ。
……何故か、その瞬間に勝者の気分を味わう俺。もっとも、彼女を驚かせるのが俺の目的ではないので、即座に
【俺とタバサの間に通った霊道を通じて、心の声を直にタバサに伝えている。念話、心の声、テレパシーなどと表現されるモンや。
やり方は簡単。霊道の繋がった相手に心の声だけで少し強く話し掛けたら良い】
……と、【念話】で続ける。
更にそれ以外にも、直接、肌が触れ合った相手に【念話】を送る方法も有りますし、相手の気を掴んでいるのなら、離れた相手にも【念話】を伝える事は可能なのですが、そんなモノは追い追い覚えて行くし、教えて行ったら良いだけの事。
今は、タバサと泉の乙女の間にちゃんと霊道が繋がっている事を確認出来たら良いだけですから。
【シノブ】
少し躊躇いながら、タバサがそう【念話】で話し掛けて来た。
尚、彼女が俺の名前を呼んだのは、おそらく、これが最初だったと思います。
その瞬間、何故だかすごく嬉しいような気がしたのですが……。これは、彼女の使い魔と言う属性を与えられたから感じている心の動きなのか。それとも……。
【そうしたら、今度は、泉の乙女との間でちゃんと霊道が繋がっているか知りたいから、彼女に対して念話で話し掛けて見てくれるか?】
またもや、思考が他所に行きかかるのを無理矢理軌道修正を行い、タバサに対して【念話】でそう告げる俺。それに、これで霊道が繋がっていたら、タバサも問題なく、俺と同じような形で魔法を発動させる事が出来ると言う事です。
それも、自らの霊力を行使して発動させるパターンと、式神の能力を行使して発動させるパターンの二種類の魔法を会得したと言う事に成ります。
但し、式神の能力発動の場合でも、某かの対価は必要と成ります。例えば、自らの霊力とか、お金。貴金属など。正当な対価を払う事により為される対等な契約。それが、俺の行っている式神契約です。
流石に、魂を要求して来るようなヤツとの契約は、俺が許しませんけどね。
まして、正当な対価と言うのは、式神たちから見て、仕事の対価として吊り合うと言う事で有って、人間界のレートに左右される物では有りません。
例えば、アガレスの時空結界などは、人間界のレートに換算する事など不可能でしょう。それに、昼間に召喚して、現在、宝石や貴金属を探しているノームに対しても、俺は数枚の金貨しか渡しては居ませんが、彼はそれだけでも喜んで仕事を行ってくれていますからね。
俺が、そんな事を考えて居る最中に広がるしばしの空白。これは、タバサが泉の乙女との【念話】による会話を為している間。
そして、
【大丈夫。彼女との念話も使用可能】
今までのタバサとまったく変わりない口調の【念話】が届けられる。
しかし、少し、気分的に高揚しているような気がするのは間違いない。
「そうしたら、次は森の乙女ドリアードとの契約を最初からやってみようか」
後書き
この第8話は完全に魔法の、と言うか、世界観のねつ造設定と言う部分に当たりますか。
ただ、召喚ゲートを潜る必要が無く、その場に顕われた存在と直接言葉を交わした上で、このハルケギニア世界のルールに縛られる事の無い契約ですから、この世界のルール。一人に一体の使い魔と言うルールは適応される事が無いとも思いますし。
それに、使い魔は一人に付き一体までと言うルールを作った人が、既に四体分の使い魔を連れていたように私は記憶していますしね。
あ、いや、彼自身がそのルールを決めたとは限らないですか。
まして、この世界は平行世界ですから、完全に原作世界と一致している訳では有りません。
それでは次回タイトルは、『この世界の時代区分は……』です。
尚、私としては、このゼロ魔関係の世界は、未だ完全に絶対王政の時代に入っている訳ではないと思っているのですが……。
曖昧な感じですか。
最後。何処か、気になった点が有れば、感想で指摘して下さい。
悪い点を指摘されたら、直せる部分ならば必ず手直しを行います。
元々は、地の文の部分も、全て関西弁風の口調で表記して有ったのを書き直したりもしていますから。
本来は、全ての文章が主人公と言うフィルターを通した上での物語だったのです。ですから、すべて主人公視点のみの一人称で描いていますから。
まして、三人称にして仕舞うと……。
大きなネタバレに成りますが、タバサが主人公の名前は呼ぶのは、この第8話以降、現在書き上がっている第57話まで一度も有りません。この不自然な態度の説明などを為さねば成らなくなりますから。
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