魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―
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第一章
六話 歩み寄る事
前書き
ギリギリの六話
「それじゃ此処に名前と……」
担当の事務局員の指示に従って、クラナは書類を書く。
現在いるのは管理局湾岸第六警防署。通称、「湾岸署」である。……?どこかで聞いたことが有る?気のせいだ。
さて、必要書類を書き終え、溜息を付きつつクラナは外に出る。朝方フェイトがスバルの家の近くまで制服などを届けてくれたため、学校に行ける準備はある。これで少し待てば開放されるだろう。その後はとりあえず学校だ。
『新学期二日目から遅刻になってしまいましたね』
『それを言うなって……』
苦笑調子に飛んできたアルからの念話を、クラナはため息交じりに返す。
扉から出ると、すぐ横の自販機の前でノーヴェが立っていた。
「よっ」
『ども』
対外的にはぺこりと頭を下げるだけで済ませたクラナだが、ノーヴェが空き缶を自販機横のごみ箱にぶち込み、少し離れた壁際の長椅子で缶を両手に抱えるようにしたアインハルトが俯いて居るのを見て、状況を察した。
『どうですか?彼女……』
「ん?あぁ……」
念話でクラナが聞くと、ノーヴェは一瞬驚いたような顔をした後、すぐに気が付いたように頷いた。
『彼奴も彼奴で……難しい問題抱えてるみてえだな……』
『……』
横目にクラナはアインハルトを見る。彼女は座りこんだまま動かず……否。此方を見た。と、ノーヴェが思い出したように言いだす。
『あぁ、そうだ。なぁクラナ』
『はい?』
表情は変えずに、念話のみで返す。
『その事でさ、お前に一つ相談が有るんだよな』
『俺に……ですか?って、彼奴の抱えてる事俺は知りませんけど……』
『あぁ。アインハルトにはちゃんと許可もらってる。あのよ……』
それからノーヴェが語ったのは、アインハルトの抱えている、彼女の宿命……とも言うべき事の話であった。
────
今より約600年前。
現代に置いて、古代ベルカ諸王戦乱期と呼ばれる時代に、武技に置いて史上最強を誇った一人の王女が居た。
その名を、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。
後世に置いては、聖王家「最後のゆりかごの聖王」の名で知られる女性であり、クラナやノーヴェにとっては、ヴィヴィオの複製母体としての印象が強い人物である。
そして、アインハルトの遥か昔の先祖である人物。
クラウス・G・S・イングヴァルト。
後の世に置いては「シュトゥラの覇王」の異名で知られ、此方も非常に武技に秀でていたと言われている王である。
さて、歴史研究の分野に置いてもこれについては諸説あるのだが、一般的に、「聖王女」と「覇王」は、親交が有った。と言うのが一つの定説とされている。これは、クラウス・イングヴァルト本人の回顧録等、幾つかの文書記録を読み解いた結果から得られた、ほぼ確定的な仮説なのだが、どうやらその仮説を定説に変える能力が、アインハルトにはあるようだった。
彼女の家系……所謂、覇王イングヴァルトの一族の中で、その血は徐々に薄れつつあるらしいのだが……どうやら時折それ……初代覇王の血が、濃く蘇ることがあるらしい。
身体的特徴である、碧銀の髪や、光彩異色。覇王の身体資質や、覇王流と呼ばれるクラウス・イングヴァルト本人が考案されたとされる古流武道の才能。
そして最も興味深い部分が……同時に、初代覇王本人の「記憶」すらも、彼女が受け継いでいるという点である。
祖先の記憶を受け継ぐ。一般的にはあり得ないとされる事だが、こう言った事例は、次元世界に置いては実は少数ながら確認されている例が有る。
ただし、そのメカニズム等は殆どが不明で、学会に置いては所謂「勘違い」や「思い込み」と言った表現によって余り注目されてはいない。
ただし、一部の学者はこう言った現象を、「遺伝子に刻まれた記憶が有る」とか、「強い思いを持つと自身の魔力にその記憶が“何らかの形”で記録され、“何らかの理由”によってその魔力資質を受けついでいる祖先にその記憶がよみがえる場合が有る」等と言った仮説を立て、それを証明しようと躍起になっている。
閑話休題
そんな彼女の記憶……否。クラウス・イングヴァルトの記憶の中で、彼が悲願としていた事が有った。すなわち、“天地に覇を持って和を為せる王である”事。力を持っての平和。それをかなえる事の出来る王である事こそが「覇王」たる彼の悲願であったと言うのだ。
そしてそれは、「無念」としてアインハルトの記憶の中に残っていると言う。
これはどうした事であろうか。「覇王」として君臨し、後の世にまでその名を残した彼が、その悲願を果たせなかった無念を残し、生涯を終えたと言う。
……それは、彼が覇王と呼ばれるにいたる原因に関係している。
『勝てなかった?』
『あぁ。覇王は、聖王女には勝てなかったんだとさ』
そして、それを原因として……
クラウスは、オリヴィエよりも弱かった……強く無かったがゆえに、彼は彼女を救えなかった……守れなかったと、アインハルトは言うのである。
少なくとも彼女がそう感じていると言う事は、クラウス本人はそう感じていたと言う事だろう。
そう。クラウスにとってオリヴィエは、他に代え難い……かけがえの無い存在であり、“そうであったにも関わらず”彼は彼女を守る事が出来なかった。
故に、彼は覇王となった。
失う事をもう繰り返したくなかったが故に、全てを投げ打ち、武道にのみその身を置いて、一騎当千の力を手に入れ……しかし失ったものは戻る事は無く、そうして、彼は自身の悲願を満たすこと無く、その生涯を終えた。
『…………』
『覇王の無念はそのまま、数百年分の後悔として彼奴にのしかかってる。彼奴はその無念を晴らそうと必死なんだよ』
『けど……』
そう、しかし今の時代にはその無念をぶつける相手がいないのだ。
救うべき相手は既におらず、守るべき国は歴史の彼方へと消え去り、世界はとうの昔に“覇王”を必要としない時代へと移り変わっている。
彼の無念も、彼女の願いも、この世界は全て無視して回って行く。
『だから……お前に相談なんだよ』
『え……?』
今の話から、どうやって自分の方へと繋がってくるのか分からず、クラナは内心で首をかしげる。
『彼奴の思いを受け止める事は、アタシには出来ねぇ。けど……本当に勝手で嫌になるんだけどよ……“彼奴”なら、受け止められるんじゃないかって、な……』
『あ……』
聖王女オリヴィエの遺伝子複製体、つまり、ヴィヴィオならば確かに……彼女の思いを受け止められるかもしれない。
『ただ、昨日の事が有るからな……お前の意見はどうかって思ってよ』『……』
成程。なんだかんだで、自分は完全にこの女性にシスコン認定されてしまった訳だ。
「(まいったなぁ……)」
内心クラナは頭を掻きたくなる。
確かに、少々でも妹を危険にさらすことには矢張り抵抗が無いと言えば完全に嘘になる。そんな心境を見破られているようで、少し居心地が悪かった。だが……
『……俺に聞くよりも、行動してみる方が良いと思います』
『ん……?』
『彼奴も、なのはさんの子ですから。なのはさんもそうですけど、ウチの人間って難しい人間関係には、結構当たって砕けろなんですよ。俺は何とかかわしてますけど……ぶつかってみれば、ヴィヴィオも自然と、アインハルトから何か感じ取って、それだけ何かが繋がると思います』
所謂有名な、“O☆HA☆NA☆SHI”と呼ばれるコミュニケーション技法である。高町なのはから強烈な攻撃(物理及び魔法)を受けた敵対関係の人間は、どういう訳か彼女と仲が深まってしまうのだ。これのメカニズムに関しては諸説あり……?もう良い?それもそうか、では話を続けよう。
『へぇ……』
ノーヴェは感心したような……あるいはからかうような声で念話を発する。
『なんだかんだで、彼奴の事信頼してるじゃねぇか』
『そ、そうですか?』
『そうですよ。ヴィヴィオさんなら出来ると思うからそう言う事をおっしゃるんでしょう?』
『う……』
言葉に……否、念話に詰まるクラナに、ノーヴェは苦笑すると、ふたたびアインハルトの方へと歩いて行った。
────
「ふぁ……」
校門まで送ってもらい、校舎に歩きながらクラナは小さく欠伸をする。
『なんだか急に色々な事が起きてますねぇ……』
『そうだね……まぁ、悪い事が起きてる訳じゃないし……様子見が得策かな』
『そうですね……あれ?相棒、メールです』
アルの報告に、クラナは首をかしげる、
『誰から?』
『ノーヴェさんからですね』
『え……』
昨日の今日ならぬ、さっきの今で、クラナは悪い予感が自分の中に満ちるのを感じていた。
────
さて、所変わって此方はStヒルデ魔法学院初等科校舎図書室。
初等科の校舎であるにもかかわらず、大学並みの広さの敷地と高さの本棚が多数並んでいるこの図書室。どうでも良いが、小学生であるにも関わらず歴史の専門書やその他いくつもの学術書を読む生徒等居るのだろうか?
「あったあった!これがお勧め!」
と、そんな図書室の中に清楚な少女の声が響いた。ヴィヴィオの友人、コロナ・ティミルである。
少々分厚い本をもってヴィヴィオの元へと彼女は歩いて行く。
「「覇王イングヴァルト伝」と、「雄王列記」。後は当時の歴史書!」
居たよ此処に……失礼。小学生ながらここまで分厚い歴史書を読めるとは、少々驚きである。真面目な話、Stヒルデ魔法学院の学力レベルを知るのが少し怖い。
と言うかクリスが自分の体積の三倍以上は有りそうな分厚い本を運んでいるのだが、重くないのだろうか……
「ありがと、コロナ」
ヴィヴィオが笑顔で言うと、コロナはニコリと笑って返す。
「前にルーちゃんにおすすめして貰ったんだ」
ルーちゃんと言うのは彼女達三人の共通の友人であり、故あって今は母親と共に無人世界、“カルナージ”に住んでいる。
クラナとの仲?まあそれはまたいずれ語るべき時も来るだろう。
「でも、どーしたの?急にシュトゥラの昔話なんて」
と、本を読み始めたヴィヴィオに、両頬杖をついたリオが問う。
「うん。ノーヴェからのメールでね?この辺の歴史について一緒に勉強したいって」
齢10の少女に600年前の……それも特定の一国の歴史を詳しく紐解いて行きたいと言い出すとは中々どうしてハイレベルな話では無かろうか。
まぁそれに対しさして疑問を持つでもなく、素直に勉強しだすヴィヴィオや、それに付き合えるコロナ等も中々どうしてハイレベル初等科だが。
「あ、それから今日の放課後ね」
と、ヴィヴィオが嬉しそうに笑いながらもう一言。
「ノーヴェが新しく格闘技やってる子と知り合ったから、一緒に練習してみないかって!」
――――
「…………」
クラナは今にも付きそうになる溜息を押し殺しつつ、ノーヴェに呼び出された場所……区民センター内の廊下を歩いて居た。
呼び出しのメールによればこの奥のスポーツコート内にノーヴェ達が居るはずだが……
と、廊下の端に大きめの扉を見つけ、クラナはそれを押しあけて中に入る。
「おっ、来たか」
「あ!クラナ先輩!」
「お兄ちゃん!」
「…………」
一歩踏み言った瞬間、いくつもの視線がクラナに向いた。コートの中央には、既にアインハルトとヴィヴィオが其々トレーニングウェア姿(と言ってもアインハルトは学校指定の体操着だが)で防具を付けて立っており、その二人の間には恐らくは審判となるのだろうノーヴェ。
更に離れた所に、コロナ、リオ、スバル、ティアナ、そして……
『いや待て、いくらなんでも多くないか』
『あはは……まぁナンバーズの皆さんはこう言った事好きですからねぇ……』
『おいおい……』
唖然とした様子のクラナに、視線のあった二人が片手を上げて来る。後一人は手をぶんぶん振ってくる。
「昨日ぶりッスね!」
「久しぶりだな、クラナ」
「や」
「ども……」
ノーヴェの姉妹達。ウェンディをはじめとして、銀髪眼帯が特徴のチンク。ノーヴェ達と同じく中島家に住む、ディエチ。そして……
「「お久しぶりです。クラナさん」」
「…………」
聖王協会に務める双子。短髪のオットーと、長髪のディード。
少々緊張した面持ちで頭を下げた二人を、クラナは完全にスルーし、そのままメンバーとは少し離れた位置に立つ。
無視された二人は少しつらそうな顔をした後、ウェンディ達三人に気遣われ、苦笑を変えしていた。
『クラナ……』
『お待たせしてあれですけど、始めるなら早くした方が良いのでは?』
『……あぁ』
ノーヴェの少し残念そうな声が念話で聞こえたが、かぶせるようにそう返した。
さて、先程クラナが学校に付いた際にノーヴェから届いたメールには大雑把に言うとこのような事が書かれていた。
アインハルトとヴィヴィオ。
放課後、スパー。
気になるならお前も見に来い。
良い返事を期待する。
……?大雑把過ぎる?
まぁ内容は伝わったと思うので、そこはご容赦いただきたい。ちなみに時間と場所は、追って知らされたものだ。
さて、これまでのクラナならば決して受けなかったであろうこの誘い。
にも関わらずクラナが此処に来たのは、無論、メール受信後のアルの必死な説得もあってだがそれ以上に、クラナの心境が少々ながら変化しつつある事に起因している。
彼自身少し疑問なのだが、ノーヴェに今までため込んでいた事を吐露したせいか、少しばかり精神的に余裕のような物が生まれ、今ならば少しずつでもヴィヴィオに関わっていけそうな気がしたのだ。
無論、これは希望的観測であり、確信は一切無い。無いが……
『[お前だって本当は……ヴィヴィオ達と笑いあってたいんだろう?]』
この言葉が、胸の何処かに突き刺さっていた。
そう、今朝の話は改めて考え直す機会にもなったのだ。自分が本当は、どうしたいのか……
「んじゃ、スパーリング、4分1ラウンド。射砲撃とバインドは無しの格闘オンリーな」
と、ノーヴェの声が聞こえ、クラナは思考の海から意識を浮上させる。
既にアインハルトとヴィヴィオは向き合い、互いに自身の新地強化を行ったうえで、構えを取っていた。ちなみに、ヴィヴィオもアインハルトも変身は無し。10歳前半の少女だ。
「レディ……ゴー!」
開始と同時にアインハルトはその場にしっかりと踏ん張り、逆にヴィヴィオはトン、トントン、トンと、その場でステップを踏み始める。
元来、ヴィヴィオのスタイルであるノーヴェが教えるタイプのストライク・アーツは、機動性を主体とした型だ。
基本的にはステップからの踏み込みが多く、常に体を少々動かすことで、体の反応を早める効果もある。
さて、トン、トントン、トンと一定のリズムでステップを踏んでいたヴィヴィオのステップ音が、突如、タンッ!と軽快な音を立てた、と同時にヴィヴィオが姿勢を前傾形にして一気に踏み込み、姿勢を戻す要領で体もう一歩踏み込むと同時にストレートアッパーを打ち出す。
アインハルトはそれを腕を交差させ、ガードしつつ力の方向を逸らす。会場が湧いた。
『…………』
『うーむ……』
そこから一気にヴィヴィオのラッシュが始まる。
彼女らしいまっすぐな技を次々に繰り出し、時折フェイントや誘いを混ぜたうえで、鋭く早い一撃を狙う。アインハルトは一見して防戦一方だ。打ち込まれ続けるが反撃せず、徐々に後退している。しかし……
『……駄目だな』
『ですねぇ……』
ヴィヴィオの打ち込む技。その全てが、小技から大きい動作の技までべて、完璧に捌かれていた。
左からのストレートは左腕で逸らされ、右のフックは左腕で止められ、ラッシュの全てが完璧にいなされるか弾かれている。振りかぶってからの振りあげるような上段蹴りは、体を逸らすだけでかわされる。
あれだとヴィヴィオ自身は楽しいだろうが、本気の真剣勝負を望んでいるアインハルトとしては物足りないだろう。
そしてついに単純な動作からのアッパーカットをヴィヴィオが放った際、姿勢を一気に低くしたアインハルトにそれはかわされ……
そのまま懐に入った掌底が、ヴィヴィオの胴体を捕えて彼女は吹っ飛んだ。
後ろで待機していたオットーとディードに彼女の体が受け止められる。
ちなみに優に6、7メートルは飛んだが……まぁ身体強化をしているので問題ないだろう。
「魔法を使っているので」この世界では、大抵のあり得ない事象はこの一言で何とかなる。全く作者としては楽な限り……失礼。話しが逸れた。
吹っ飛んだヴィヴィオは、一瞬フルフルと細かく震えた後……パァッ!と輝くような笑顔を浮かべてアインハルトを見た。実はこれも高町家の人間の特性のひとつで、強いライバルや成長の伸びしろが有りそうな人材を見ると、どういう訳か楽しくなってしまうのだ。戦闘狂も良い所である。
だが、そんなヴィヴィオに対し、アインハルトはと言うと……
フイッ……とヴィヴィオに背を向け、そのまま歩きだしてしまった。
「……御手合わせ、ありがとうございました」
形式的すぎる挨拶。まるで期待外れの物を見たような彼女の態度に、当然ヴィヴィオは戸惑う。
「あの……あのっ!」
突然の事に付いて行けなくなりつつも、必死に彼女を呼び止めた。
それはもしかすると、自分と彼女のテンションが余りにも違う事から来る、戸惑いだったのかもしれない。
「すみません、わたし、何か失礼を……」
こういう時、素直に初めに自分に非があるのであはと思えるあたりは、彼女の器の大きさだろう。これが通常の競技者なら、キレていてもおかしく無い場面だ。
「いいえ」
アインハルトの簡素な否定に、ヴィヴィオの言葉は続く。
「じゃ、じゃあ……あの……私、弱すぎました?」
このように素直に自身が相手を失望させたのかと疑える辺りも、中々人格だろう。元来彼女は、プライドが先行しない質なのだ。
「いえ……“趣味と遊びの範囲内”でしたら十分すぎるほどに」
『…………』
クラナはそんな言葉を、何を言うでもなく唯聞いて居た。
元来、彼女とヴィヴィオではこの試合に求めている物が違う。この結果は、ある意味初めから予想できるものだったと言えよう。
「申し訳ありません。私の身勝手です」
小さくそう言って、アインハルトは再び歩き出す。
はっきりと申し上げるならば、全くその通りである。此処まで読んで下さった貴方ならば分かるだろうが、彼女は少々自身の目的に夢中になりすぎ、他者への配慮が粗雑になる傾向が有るのだ。
また敢えて言うならば、「申し訳ありません」は、相手に背を向けて言うべき言葉では無い。
とは言え、彼女もこれまでの人生全てをこの状況の為に打ち込んできたと言ってもよい身。多少自分勝手ながら、思わずこう言った言葉が出てきてしまう事も、仕方が無いのかもしれない。
「あのっ!」
しかしそれだけの事を言われてもヴィヴィオは食い下がる。
「すみません!今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります!」
それは一体何の為の懇願だったか。
彼女自身、既にこれほどの実力を持つアインハルトと、もっと交友を深めたいと既に感じていたのかもしれない。このままでは余りに後味が悪すぎる。
「今度はもっと真剣にやります!だから……もう一度やらせてもらえませんか!?今日じゃなくても良いです!明日でも……来週でも!」
その余りにも必死な訴えに、アインハルトは困ったようにノーヴェを見る。振られたノーヴェは少し考えこむように頭を掻くと……
「あー、じゃあ……来週、またやっか?今度はスパーじゃなくて、ちゃんとした練習試合って事で……」
「…………」
こうして、ヴィヴィオと、アインハルトの、再戦が決まった。
────
18:28 高町家
着替えたヴィヴィオは、悲しげな表情を浮かべて、ベットに倒れ込む。
思い出すのは、今日の試合……そしてそれが終わった直後の、相手の少女の少し悲しげな表情。
『──あの人からしたら、私は、レベルが低いのに、不真面目で……』
きっと、失望させてしまったのだろう。自分が、余りに弱すぎたから……
胸中に去来するのは罪悪感と、後悔。そして少しの、悔しさ。
『私だって……ストライクアーツは“趣味と遊び”だけじゃないけど……』
それを、どうすればいいのか……分からず、枕に顔をうずめる。
と、脳裏に、どういう訳か、昨日聞いた言葉がよみがえった。
『[どうだ?兄貴強かっただろう?]』
「…………」
と、ピピッと言う音を立てて、空中にホロウィンドウが現れた。屋内通信だ。画面には、エプロン姿の母、なのはの姿が有る……
「ヴィヴィオ、晩御飯だよ」
────
フェイトは、昨日の今日で既に仕事で別の世界に飛んでいるため、今日はもう居なかった。
昨日より座る人物の少なくなった、けれどいつも通りのテーブルを囲んで、三人は食事を続ける。
大皿に盛られた酢豚を口に運びながら、クラナは無言でなのはとヴィヴィオの会話を聞いて居た。
「ヴィヴィオ、なんだか今日は元気ないね?」
「えっ?」
言われて、自分が顔に出ている上に蜀がいつもより進んでいない事に始めて気が付いたらしいヴィヴィオは、新手多様に笑顔を浮かべる。
「そそ、そんな事無いよ!元気元気!ね!クリス!」
「(グッ!)」
『バレバレ……』
『あはは……』
嘘の下手すぎる妹に呆れつつ、ご飯をかっ込む。
そのまま話しはヴィヴィオが来週アインハルトと試合をする事に、進んでいた。それを聞きつつ、クラナは食事を終える。
「……御馳走様でした」
「あ……」
立ちあがったクラナに、なのはが少し残念そうな顔をした。
きっと殆ど話しかけなかった事を考えているのだろう。そこまで自分の事を気にしなくてもよいのだが……そんな事を考えつつ、クラナは食器を手早く洗い、リビングから出ようと歩きだし……
「……お、お兄ちゃん!」
その直後、意外な声に呼び止められた。
『……っ』
『ちょ、あ、相棒!?呼んでますよ!?』
一瞬止まりそうになった足を自制し、そのまま無視して歩を進める。が、リビングから出そうになった所で……
「ま、待って!!」
ヴィヴィオが、クラナの腕を掴んだ。
普段は避けられる事を恐れてか触れようともしない……否、出来ないくらんの腕をだ。
流石にそこまでされては止まらざるを得ず、クラナは最大限に不機嫌そうな顔で振り向く。
「…………なに?」
「っ……」
舌打ちすら聞こえそうな低い声に、一瞬ビクリと体を震わせたヴィヴィオはしかし、首をぶんっ!と一度振ると、クラナの目をまっすぐに見つめる。
「あ、あのね!来週、アインハルトさんと試合、するでしょ……?」
「…………」
「アインハルトさん、取っても強いから……今の私じゃきっと敵わないの!だから……」
そこで一瞬言葉に詰まったように言葉を停めた、ヴィヴィオはしかし、勇気を振り絞るようにしっかりとクラナの目を見て……
「来週まででいいから……私の練習……見てほしいの……!」
「っ……」
『ヴィヴィオさん……!』
「ヴィヴィオ……」
それは一体、どれほどぶりに、ヴィヴィオがクラナとの距離を明確に、一気に縮めようとした瞬間だっただろう。
反射的に、クラナは真剣そのものの、しかし目に若干の恐怖の色を浮かべたヴィヴィオの目を見返す。
この目を逸らし、腕を振り払う事は簡単だ。これまでの自分ならば、今すぐにでもそうする筈……
『[お前だって本当は……ヴィヴィオ達と笑いあってたいんだろう?]』
脳裏に、ノーヴェの言葉が反響する。
自分は、本当はどうしたいのか…………その答えは……歩み寄る事でしか……見いだせないのではあるまいか……
「腕、離せ」
「え、あ、ご、ごめんなさい!」
静かに言うと、ヴィヴィオは飛びのくように腕を離した。
そのまま振り向いたクラナの後ろ姿を見て、悲しげに眼を伏せる。
「……十五分後」
「え……?」
「庭に出ろ。練習……するぞ」
「え……」
余りにも簡潔な言葉。
それだけをのこして、彼の兄は二階へと上がって行く。しかし彼女は確かに聞いた。十五分後……
「は、はいっ!!!」
戸惑うよな、けれど最大級の笑顔で、ヴィヴィオは叫んだ。
後書き
自分で書いといてあれですけど・・・・・・素のクラナと表向きのクラナの境界線の分け方が思ってたより難易度高い・・・・・・
あ、以下予告です。
ア「アルです!ついに次回からは相棒とヴィヴィオさんの距離を詰めるぞ大作戦の開始ですよ!」
レ「頑張って居るようですね」
ア「レイジングハートさん!?これはようこそ!」
レ「おや、何時ものように[レイハさん]と呼んで下さっても構いませんよ。アル?」
ア「い、いえ!此処は公共の場ですし!」
レ「そうですか?ふふっ、良い心掛けですね」
ア「あはは・・・・ありがとうございます!」
レ「それはそうと・・・・クラナさんを良く説得出来ましたね・・・・」
ア「いえ。私は何も・・・・実質の功労者はノーヴェさんですから」
レ「それでも、マスターを必死に説得していた事実はジェットエッジから聞きました。良く頑張りましたね」
ア「は、はい!」
レ「出来ればこの調子でマスターとの仲も改善すればよいのですが・・・・」
ア「なのはさんですね」
レ「えぇ。本来は、年長者たるこちらから歩み寄るべきなのですが・・・・」
ア「では次回「始まりへ」」
レ「是非お読み下さい」
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