IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
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深き蒼
目の前に捉えたのは、全身が銀色の機体『銀の福音』とその右手に首を掴まれた箒さん。
改めて自分の目で見る福音はエネルギー翼が太陽の反射で煌き、思った以上に綺麗で……それでいて憎い!
落ち着け私! 不確定要素の多いこの装備で冷静さを欠くな!
「であああああああああああああ!」
右手に展開された二叉の槍を福音に向かって突き出す。
遠心力によって加速した二叉の槍が『銀の福音』を中央、刺又状の部分に捉えた!
勢いに負けた福音が箒さんから手を離して私の遠心力によって振り回される。
「カルラ!」
一瞬箒さんの声が聞こえたけど、次の瞬間に私は福音を海の中に引きずり込んだせいでその声が聞こえなくなる。
私が装備しているのは水中戦特化奇襲型パッケージ『ディープ・ブルー』。水中、水上での戦闘を考慮されたこのパッケージはほぼ全てのブースター、スラスターをハイドロジェット推進器に変更。防護フィールドを最小限に設定し、装甲を全て丸みの帯びたものに換装、『スカイ・ルーラー』と同じく丸みを帯びたシェル状のアーマーを被ることで水中での動きを阻害しないように考案されています。今私の右手には二叉の大きな槍、左手にはドリル状の武装が装備されています。
これが今まで私が戦闘に参加しなかった一番の理由。水中戦用にブースターのほとんどをハイドロジェット推進器に変更しているため皆さんと同じ空中戦には参加できず、連携も取れない。
しかもこのパッケージは今現在本国でも実験段階のもので、それこそデータが不足している。こんな不確定要素を作戦の一部として入れるわけにはいかない。
だからこそ、私は最後の最後、皆さんに何かあったときの備えとして、今まで海底100mの位置でステルスモードで待機していました。
そして皆さんが落とされたから、今こそ私の役割を果たすとき!
いくら軍用ISと言えど福音はエネルギー兵器しか積んでいないはず。だから、減衰率の高い水中では有効な武装はない!
現に福音のエネルギーで構成された翼は、形を留めてはいるが時々端の方がノイズのように千切れたりしている。
エネルギー兵器やレーザー兵器の類は減衰率が著しく、水中で使うには向いていないからです。
つまり水中戦専用に開発されたパッケージを装備している私なら水中でのみ、1対1でも互角以上に戦える!
「ぶち抜けぇ!」
水面に叩きつけられたことで未だに二叉状の部分に捕まっている福音に向けて、二叉槍『ディアス』が牙を向く。
『ディアス』は二叉の中心部に小型のパイルバンカーがつけらていて、その大きさで敵を捉え零距離から貫くことを可能としている。
まずは……一撃!
ドゴォン!
水中に鈍い音が響き渡り、福音がくの字に折れ曲がる。
よし!効いてる!
不味いと判断したのか、福音が急速後退して『ディアス』の間から離脱しようとする。
それをさせるとでも……
「思ってるんですか!」
今まで直線状に槍の形状を保っていた『ディアス』の先端が動き、福音を挟み込むことで脱出を妨げる。槍というより巨大な鋏だ。
抜け出せなくなった福音に向けてもう一撃パイルバンカーを撃ち込む!
「もう……一発!」
再び腹部へと衝撃を受けた福音が再び大きく曲がる。
もう一発!
そう思ったとき、福音が『ディアス』の槍と柄の部分を掴むと……
「な!」
折った!?
激しい破損音が水中に響き渡ると共に、『ディアス』の二叉の槍の刃先が折られてしまう。
福音は拘束力の無くなった『ディアス』の先端を振り払うと、海上へと一気に急上昇していく。
空中では有効な武装がほとんどないのは私の方……それをさせるわけにはいかない!
『ユルルングル』の先端に追加された左手のドリル状の武装、『エインガナ』を福音に向けて射出。ワイヤーのついたそれは海蛇のように水中をうねりながらも高速で福音へと接近すると同時にドリルの部分が展開し爪のようになる。その爪が海上へ脱出しようとしていた福音の左足をしっかりと挟み込んだ。
「ぐ!」
瞬間ワイヤーで繋がった左腕ごと体が引っ張り上げられる。
何て出力! 水中特化のこの機体が水中で力負けしてる!
全身のハイドロジェット推進器を逆噴射させているのに徐々に海面へと引きずられていってしまう。
なら!
柄だけになった『ディアス』を投げ捨てて右手に50mm6連装魚雷発射装置『マーレイ』を展開する。
「行け!」
直上にいる福音に狙いをつけてトリガーを引いた。
こちらの攻撃に気づいた福音が回避行動を取る。高出力のブースターの勢いは水中でも健在で、魚雷は福音を掠めると水面に向かってしまう。
「食いつけ!」
通過した魚雷は水面ギリギリで反転すると……再び福音に向かう!
『エインガナ』の先端のクローには魚雷誘導装置がついていて、これに捕まっている限り『マーレイ』の魚雷が水中で外れることはデータ上では皆無!
回避した福音の背中から魚雷が直撃し、爆発する。
よし! ぶっつけ本番だけど……いける!
―『マーレイ』全弾連続発射―
残りの5発が軽い音共に発射される。
右手が反動でぶれるが魚雷はそれぞれが違う軌道を描きながらも福音に向かう。
最初の機動で避けた福音の背後から迫った魚雷が再度直撃、その衝撃で体勢が崩れたところに次の魚雷、さらに次の魚雷と命中して大爆発を起こした。
瞬間、左手の『エインガナ』を切り離す。これを行う場合の注意点は『エインガナ』の鉤爪ごと魚雷で巻き込んでしまうということ。
だからクロー部分が完全に破壊された『エインガナ』はもう邪魔にしかなりません。『マーレイ』も元込め式だからリロードには時間がかかるからほぼ使いきり。私は両手の武装を捨てると両手持ち肩掛け式の大型超音波砲『イヤロ』を展開して福音のいる位置に狙いをつけます。
超音波を一点に集中し相手に放つという水中専用のバズーカのような物で、音波で攻撃するため『甲龍』の衝撃砲のように弾が視認できない。
しかも音波を相手に撃ち込むという特性上衝撃砲よりも相手に気づかれにくい。唯一の弱点は水中以外では使えず衝撃砲よりも溜めの時間が長いと言うことだけど今なら当たる!
トリガーを引くと同時に 激しい衝撃と共に巨大な気泡が超音波の通った道を示してくれる。
極大の音の固まりは海を引き裂いて、爆発で起きた気泡を吹き飛ばし爆発の中心部を穿つ。
再度トリガーを引く、肩に襲い掛かる衝撃をモロともせずにさらにトリガーを引く! 引く! 引く!
気泡と超音波の連続で海中とは言えかなり荒れてしまった。既に姿勢制御がしずらくなってしまっている。
私は相手を確認するために一度砲撃を止めざるを得ない。それでもトリガーにはずっと指をかけたまま。いつでも撃てる状態をキープする。
「どう……」
動きがない……?
でもこれくらいで落ちる相手でもないはず………
気泡が薄れてくる。気泡の中心が銀色に輝いているのを確認してトリガーに掛ける指の力を強めた。
気泡が無くなり、そこにあったのは…自分の周囲に翼を卵のように展開している……『銀の福音』!
全部、防がれた…!
「くっ!」
躊躇い無く『イヤロ』のトリガーを引く、一瞬の溜めの後に再度超音波がエネルギーの翼に叩きつけられ、気泡を作り出す。
直撃した超音波は『銀の鐘』に少しだけ穴を開けたが、すぐさま塞がっていってしまう。つまり……ダメージ無し!
「この…!」
『イヤロ』を右手でだけで構えると左手にライフリングの長い8,62mm水中機銃『レイ・スティング』を展開する。穴が開くのならその穴が空くと同時に銃弾を叩き込むしかない!
そう思い両方の武装を福音に向けようとした瞬間、福音のいた空間が光った!
「な!」
―広域に爆発反応、『銀の福音』からのエネルギー攻撃と断定、衝撃波到達まで0,3秒―
ISの警告とほぼ同時に海中が福音の爆撃によって発生した爆発で荒れ狂う。
全身の稼動するハイドロジェット推進器をフル活用してなんとかその場に留まる。
激しい爆発の光とそれに伴う衝撃が私を襲い続ける。
「なんてめちゃくちゃ! 水中で爆撃なんて下手したら自分ごと……!」
こんな中で同じ位置に射撃なんて出来ない!
特に元々両手持ち用の『イヤロ』はただでさえ命中率が下がるって言うのにこんなのじゃ福音にさえ当たらない!
―警告! 敵IS急速接近!―
それに気づいた時には…目の前に……福音がいた………
「え――?」
考える間もなく、『イヤロ』を両手で掴まれた。こちらが何かする前に福音が右膝を叩き込むことで中央から『イヤロ』が折られる!
咄嗟に左手の『レイ・スティング』を構えた。福音の頭部に狙いをつけるまでに0,2秒、引き金を引くのに0,1秒。トリガーを引くまで0,3秒というその短い間に、福音はその銃身を右手で払った!
「は……」
早すぎる!
左手を弾かれたことで無防備になった私の首を、福音の空いた左手に掴まれた。
「が……!」
そして今更ながらに気づく……あの爆撃は私への攻撃じゃなくて水の中で自身を加速させるためにわざと……!
その考えに至ったときに、私は首を掴まれたまま福音に海面へと引っ張り上げられた。
「カルラ!」
「ぐ……が…!」
箒さんの声が聞こえる。
喉を締め付けられて声が出ない。
酸素を求めて口がパクパクと開くのを感じる。
「こ……の……」
ダメ元でも左手の『レイ・スティング』を福音にほぼ零距離で叩き込む。
その攻撃を、福音は大して気にする様子もなくその銃弾を身に受けながら『レイ・スティング』を私の手から弾き飛ばして無効化される。
そしてそれを見てからエネルギー状に変化した『銀の鐘』が私を包んでいく。
これは…ラウラさんの時と同じ零距離攻撃……!
「カルラを離せぇ!」
箒さんが福音に向かって滑空してくる。
「あ……だ…」
ダメと、逃げてと言おうとしているのに声が出ない。エネルギーの切れてる箒さんではどうあっても勝てない。分かっているのに……分かっているはずなのに箒さんは福音に向かっていく。
福音はそれをあざ笑うかのように少し動いただけでその滑空を避け、お返しとばかりに右足の蹴りで箒さんを吹き飛ばして海に叩き込んだ。
「舐め……」
るな!
両手の拳を福音の左手首を挟むように叩き込む。当然そんなことで福音が手を離すわけも無い。
でもこの距離なら『マルゴル』は効く!
両手の手甲の上部が開いて『マルゴル』が火を噴いた。流石に零距離のショットガンには掴んでいた手が衝撃に耐えられ無かったようで福音が私から手を離す。
その瞬間に私は再び海中へと潜り込んだ。深度50mまで潜って態勢を立て直す。
でも武装が……
―『ディアス』損失、『マーレイ』残弾0、『レイ・スティング』損失、『エインガナ』損壊、『イヤロ』損失―
ISが残存の武装を伝えてくれる。その内容がこれ以上の戦闘の続行は不可能と教えてくれる。
通常武装以外使える武装が……ない!
考えて、思考を止めちゃダメ! 今の私で、出来ること!
残りの武装は量子化をすることの出来た通常武装の『ハディント』と『エスペランス』、外さなくてすんだ『アドレード』。後は手甲の『マルゴル』と『ユルルングル』。
水中から地上を攻撃できる武装が……無い!
膝から両手に『アドレード』を引き抜いて構える。
どの道海面には皆さんが残っている。他の人を、友達を見捨てるわけにはいかない!
―スーパーキャビテーションシステム、稼動時間を0,3秒に設定―
頭を水面に向けて顔を上げる。スーパーキャビテーションシステムを作動させ、再度空気の泡に私が包まれる。全推進力を加速に集中。私の体は水中から文字通り飛び出す。
身体を一本の棒のようにすることで最大限まで加速を高める。自身が魚雷のように、両手を正面に構えて福音に向けて突撃。
使える武装が無いならこの身そのものを武器と為す!
海面に出た瞬間目の前に広がったのは……
「あ………」
視界を覆いつくす……エネルギー弾の……壁……
けたたましい程ISの警告が鳴り響く。でもこの距離でこの密度を避けることは……不可能………
それを理解した瞬間、私の意識は激しい衝撃と痛みと共に吹き飛ばされた。
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます
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