仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜
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黒き森の魔狼
ドイツ南西部シュツットガルトの西に広がるシュバルツバルト=黒の森は森の国と呼ばれるドイツでもとりわけ有名な森である。何処までも続く森はライン川や古城と共にドイツ人の心の原風景となっており多くの詩人や思想家がこの森を愛した。
森には多くの恵みがあった。家となり焚き火となる木々、腹を満たす果実や獲物、人々にとって森はかけがえの無いものであった。
森は同時に怖ろしい場所でもあった。熊や狼が潜み罪を犯した者や異端者が逃げ込み魔物や邪な妖精が木の陰から息を潜め狙っているーーー。森はこの世のものではないまつろわぬ者達が住む場所でもあったのだ。
この黒の森もそうであった。妖精や悪霊の話は多い。元々そういった人智の及ばぬ者達への関心が高い国民性もあり言い伝えや目撃談が現在に至るまで残っている。今も森の深き所にある古城とその近辺に狼男が現われるという噂がある。
そしてその辺りで行方を絶つ者が続出しているのである。狼男と行方不明事件に何らかの関連があると見たインターポールはこの地へ捜査班を送る事を決定した。
「話には聞いていたけど凄い森だな。こりゃあ狼男がいても不思議じゃないぜ」
緑のジャケットにクリーム色のズボンを身に着けたアジア系の男が言った。日に焼けた顔をしておりやや細面に太い眉とちぢれ気味の髪がよく似合っている。引き締まった身体をしている。彼の名は滝和也、かって仮面ライダー一号、二号と共に悪の組織ショッカー、ゲルショッカーと戦ってきた伝説の人物である。
日系アメリカ人としてハワイに生まれた彼は大学卒業後FBIに入り捜査官となる。当時世界中で暗躍していたショッカー担当となった彼はインターポールへ出向しショッカーの動きが最も活発だった日本へ赴任した。そこで二人の仮面ライダー、本郷猛および一文字隼人と出会ったのだ。そして彼等と共にショッカー、ゲルショッカーと戦った。ゲルショッカー壊滅後はFBIに戻り主に対テロリスト担当の捜査官として活動した。昨年インターポールに常識では考えられない超常現象や事件を取り扱う『特別捜査課』が極秘に設立されると再び出向してその課長となった。ショッカー、ゲルショッカー及びテロリスト達を相手に戦っていた彼の実戦能力と指揮能力、そして一本気な性格は部下達からも慕われておりその評価は高かった。
「乱開発が進んでいるって聞いてたけどまだこれだけ見事な森が残っているとはね。他の奴等にも見せたかったよ」
「そうですね。何か童話に出てくるみたいな森ですしね」
部下の一人である黒人の男が同意した。黒のアーミージャケットに白いジーンズを着ている。
「これが仕事じゃなかったらな。まあぼやいても始まりませんが」
同じく部下である青っぽい服を着た白人の男がぼやいた。二人の他にも何人かいる。皆インターポール特別捜査課の者であり滝の部下だ。
「童話か、確かにな。狼が出てくるなんてまるで赤ずきんちゃんみたいだな」
「赤ずきんちゃんか。いいですね」
「だろう?さしずめ俺達は悪い狼をやっつける漁師というところだ」
「確かに鉄砲も持ってますしね」
懐に隠し持っている拳銃をポン、と叩く。
「じゃあ行くぞ。狼男はどうか判らんが熊もいるらしい。二手に分かれ一組は森を、もう一組は俺と一緒に城内を探索だ」
「了解」
滝の指示により捜査官達は二手に分かれ捜査を開始した。それを遠くから見る影があった。
「そうか、滝和也が来たか。どうやらインターポールも馬鹿ではないらしい」
地下の奥深く、暗い一室で立ったまま報告を聞く者がいた。
報告をしている者は黒い服に赤いプロテクターとマスクを着けている。彼が片膝を着き報告している姿から前にいる男がかなりの地位にいる者である事が分かる。
「如何致しましょう?このままでは我等のこの地での計画が奴等に気付かれてしまいますが」
「ククク、心配無用だ。滝和也といえどあの古城に隠されたものを見つけ出すことは出来ん。それよりも計画は進んでいような?」
「はっ、全て順調であります」
「ならば良い。決行の日は近い。それまでに間に合わせねばならんからな」
「はい」
「行け。後は適時俺が指示を出す」
「解かりました」
黒服の男はそう言うと姿を消した。後には報告を聞いていた謎の男が残った。
「ククククク、事は全て上手くいっているな。後は決行の日を待つばかりだ」
「そう上手くいくかな」
後ろから声がした。男が振り向くと黒いスーツを着た男が立っていた。
顔から上は影でよく見えない。だが頭部から無数の光を放っている。白手袋をしており葉巻を手にしている。
「貴様か。何の用だ」
「何、そちらの計画の進み具合を知りたくてね。どうやら順調なようだな」
「フン、当然だ。この俺を侮ってもらっては困る」
「流石は誇り高き一族の子孫、と言うべきかな」
「褒めているつもりか?貴様の口からそんな言葉がでるとは妙な事だ。ところであの男は今どうしている?」
「あの男か?ローマで例の二人の手勢と戦っている。ドイツまでは来れんさ」
「そうか。では問題は無いな」
「フッフッフ、怖いのか?」
黒服の男はからかう様に言った。
「馬鹿な事を。俺があの男に敗れるとでも思っているのか?」
「さてな。万が一という事も有り得るからな」
「貴様」
影の男の言葉に軽く身構えた。攻撃するつもりは無い。威嚇しただけである。
「ほお。ここで我等は争っても他の奴等が得をするだけだ。それは貴様も解かっていよう」
「ふん」
構えを解いた。影の男もそれを見越していた様だ。
「流石は軍団きっての軍略家。だからこそこの度の作戦を任されたのだからな」
「言うな。貴様こそアフリカは大丈夫なのだろうな」
「アフリカか。まあどうしても手柄を欲しがっている死に損ないもいるがな」
「死に損ない?ああ、あいつか」
「そうだ。プライドだけは高いがな。適当にあしらっている」
「成程な。だが良いのか?アフリカには貴様の宿敵もいるのだろう」
「宿敵!?あの男か!」
影の男の声の調子が変わった。心なしか男の声にも怒気がこもっている。
「そうだ。かって我等を倒したあの男だ。今までタイにいたらしいが我々の動きを嗅ぎつけてアフリカ入りしたらしい」
「・・・・・・そうか。他にアフリカ入りした奴はいないな」
「他は知らぬ。今分かっているのはエルサレムにもう一人いるらしいという事だけだ」
「エルサレムか、確か中東は・・・・・・」
「あの単細胞が取り仕切っている」
「あの単細胞か。ここで死んでくれれば助かるのだがな」
影の男はクックックッ、と含み笑いを漏らした。
「いや、まだあの男は使える。例え知能が低くとも力だけはあるからな」
「そうだったな。連中に対抗するには手頃な駒だった」
「そういう事だ。今は少しでも駒が必要な時、使える物は取っておくに限る」
「うむ。では俺はアフリカに向かう。あの男が来たとなると安心は出来ん。この地での作戦成功を楽しみにしているぞ」
「うむ、待っているがいい」
「それではまたな」
影の男が指で葉巻の火を消すと全身が炎に包まれた。そして巨大な火球となりそのまま消え去った。
「地底王国の魔王か。その力どれ程のものかは知らぬが」
男は火の残りかすが床に落ちるのを見ながら呟いた。
「最後に笑うのはこの俺だ。誇り高き我が一族の名にかけてな」
男はそう言うと高らかに笑った。その笑い声は人のものというより獣の、それも荒れ狂う吹雪の中に木霊する肉食獣のそれであった。
その夜滝率いるインターポール特別捜査課は宿舎としているホテルに泊まった。観光客という名目でドイツ入りしている為表立って公の施設は使えないからだ。
滝は部下達が全員寝静まったのを確認してホテルを出た。昼に捜査した時になにやら引っ掛かるものを感じたからであった。
こういう時は必ず何かある、そしてそれは人目を忍んでいるものだ。ショッカー、ゲルショッカーとの長きに渡った戦いで彼はそれを嫌という程己に叩き込んだ。そしてそれが二つの組織の執拗な攻撃をくぐり抜け、テロリスト達を倒してきた糧となってきたのだ。
漆黒の空に少しばかりの雲がある。そして中空には月がある。不気味な程大きく血の様に毒々しい赤の色をした満月だ。
「嫌な月だな」
空を見上げて少し忌々しげに漏らした。月は嫌いではない。だがこの様な毒々しい色の月は嫌いだ。
月はやはり黄色の月がいい、滝はそう思っている。幼い頃からその色の月を見るのが好きだった。とりわけ日本で見た月は美しかった。何時終わると知れぬ死闘の日々の中ふと空を見上げると月がある。その淡い光を浴びると心まで癒されたように感じた。月は彼にとって欠かせぬ心の慰めの一つであったのだ。
「まあ贅沢言っての仕方無いか。見られるだけでもいい」
もう言って森の中を進んでいった。人の気配は無い。獣の気配も感じられない。リスや野兎といった小動物達がカサコソ動く音がするだけである。そして遠くから狼の遠吠えが聞こえてくる。
「・・・・・・」
狼、かと思った。だがその考えをすぐに打ち消した。何故か。何故ならばその遠吠えは古城の方から聞こえてきたからだ。
滝はその遠吠えから確信した。あの古城には絶対に何かある、と。足の歩みを速めた。
古城の前に来た。かってはこの辺りの領主の城の一つだったのだろう。苔むしてはいるが威風堂々とした造りである。
扉を開けた。樫の木で造られた頑丈な扉である。扉を開けたままにして中に入った。
窓から入ってくる月明かりを頼りに中を調べる。城の中は機能性を重視した造りの為思った程広くはない。その中を一部屋ずつ丹念に調べていく。
城主の間に入った。やけに背もたれが高いベッドの他は何も無い。当時のベッドは敵に素早く対処する事が出来ることを重要視し、完全に熟睡せず、また素早く起きられるようにと座って眠る為こうした造りになったという。
ベッドを調べてみた。昼に調べてみたが何も無かった。そして今度も何も無いようだ。滝がやれやれ、と溜息をついたその時後ろから足音がした。
「誰だ!」
後ろを振り向きざまに胸の拳銃を抜く。44マグナム。像ですら一撃で倒すと言われる銃だ。
「滝、さん・・・・・・!?」
声は女のものだった。しかもその声は聞き覚えのある声だった。
「えっ、ルリ子さん!?」
月明かりを背にしたその女性を滝は知っていた。彼女の名は緑川ルリ子。本郷猛を仮面ライダーに改造した緑川博士の一人娘でありライダーの協力者であった女性だ。
歳は二十代後半といったところか。黒い絹の様な長い髪が整った細い女性的な顔によく似合う。スラリとした身体を黒い上着とズボン、そして同じ色のブーツで包んでいる。
彼女は日本において本郷猛と行動を共にし、彼が欧州に渡るとその後を追い共にショッカーヨーロッパ支部と戦った。本郷が日本に戻ると一時行動を別にしていたがオーストラリアで合流し以後そのパートナーとして活動している。滝や立花藤兵衛等と共にその名を知られた女性であり今も尚本郷と共に活動を続けている。その事は滝の耳にも入っていた。何時か会いたいと思っていたが機会を得られずそのままとなっていたのだ。
「何故ここに?」
「気になる事があって。この城に狼男が出るとか」
「その通りだ。流石に耳が早いね」
「ええ。本郷さんが何か変だって言って。それでここへ来たの」
「本郷?あいつもここへ来てるのかい?」
「いえ・・・・・・」
ルリ子は頭を申し訳なさそうに頭を振った。
「ローマで黒服に赤のマスクとプロテクターを付けた一団に襲われて・・・。私だけ先に来たの」
「黒服に赤のマスク?デルザーの残党か何かかい!?」
「いえ、それにしては動きが素早かったわ。まるで誰かの指揮で動いてるみたいに」
「誰か、ねえ」
滝は察した。このシュバルツバルトとローマでの動きは連動していると。そして何かが動き始めようとしているのではないかと思った。
(何だ?ジンドグマも壊滅した。もう一連の組織は全て滅んだ筈だ)
ゲルショッカー壊滅後その任から離れたとはいえその後の組織の活動とライダー達との戦いを滝は全て知っていた。だからこそ疑念が沸き起こったのである。
(大首領も死んでいる。もう世界をその手に収めようという奴はいない筈だ。それなのに何故・・・・・・)
ふと滝はデストロンを思い出した。あの時首領は生きていたのではなかったか。
(もしや・・・・・・)
「滝さん、どうしたの?何考え込んでいるの?」
ルリ子の言葉に我に返った。そしてふと思い出したかのように尋ねた。
「それで本郷はどうなったの?まああいつの事だから大丈夫だろうけど」
「後で来るって言ってたわ。もう暫くしたら来ると思うけど」
「そうか。じゃあ今はこの城を調べるとしよう」
「ええ」
こうして再会した二人はすぐに古城の中を共に探索する事になった。
結局城内には何も無かった。庭に出て井戸等をもう一度調べてみることになった。
井戸の中も何も無かった。後は庭の中央に置かれている枯れた噴水だけだった。
「もうとっくに壊れちまってるな。それにしてもあの時代によくこんな物造れたな」
素材はよく判らないが高価な石材を使っている様だ。一番上の水の噴出口は狼のレリーフとなっている。
「ここでも狼か。何か妙に縁があるな」
苦笑してレリーフの口に手を入れてみた。ふざけたつもりだったが妙な感触を得た。何か掴んだ様だ。
「?」
引っ張ってみた。すると噴水の一部が急に開きだした。
「これは・・・・・・」
中へと続く階段がある。どうやら下に何かしらある様だ。
「行ってみよう」
二人は頷き合い中へ入っていった。まず滝が入りルリ子が続く。
暗い階段を降りると一本の長い廊下があった。左右に扉が立ち並んでいる。
慎重に一つずつ扉を開けていく。どの部屋にも複雑な機械や資料が置かれている。
何やら薬品の調合器やその製造法を書き表わしている様だ。何かしらのBC兵器を造っている様だがそれが何かまでは滝もルリ子も解からない。
ある部屋に入った。今までの部屋とは違い一際大きな部屋である。部屋の中央に数個のカプセルが並べて置かれている。
「これは・・・・・・」
カプセルは透明であった。そしてその中には人がそれぞれ一人ずつ横たえられていた。
「どうやら行方不明になっていた人達だな。まだ生きている様だ」
「滝さん、ここにスイッチがあるわ。ドイツ語で『開』って書いてあるわ」
「押してみて」
「はい」
ルリ子がスイッチを押すと全てのカプセルが開かれた。そして中の人は目を開き起き上がった。
「大丈夫ですか!?」
二人が身分を明かし優しく声を掛けると最初は驚き戸惑っていた人々は喜びの表情で二人に寄った。そして皆助かった、有り難う、と口々に言った。
「一体どうしてこんな所に?」
滝の問いに救出された人のうちの一人が怯えた顔で答えた。
「夕方にこの辺りを歩いていたら目の前に狼男が現われたんです。そして黒服に赤いマスクとプロテクターを付けた連中に取り囲まれて・・・・・・。気が付いたら貴方達に救い出されたんです」
皆異口同音にそうだと言った。黒服と赤いマスクの一団の名がまた出てきた。滝とルリ子は顔を見合わせた。やはりこのシュバルツバルトの狼男と本郷がローマで襲われた事件は連動していたのだ。
「とにかくここをすぐに出ましょう。人の救出を優先させるべきだわ」
ルリ子の言葉に従い救出した人達を連れ二人は地下の秘密基地を後にした。
階段を上り噴水を出た。辺りを見回す。誰もいない。
「さあ行こう」
その時だった。滝達の周りを謎の一団が取り囲んだ。その手には短い槍がある。
「ムゥッ!?」
それは黒い服に赤いマスクの者達、そうルリ子をローマで襲撃し、人々をさらったあの者達だ。
「流石は歴戦の戦士達だ。褒めてやろう」
取り囲まれた滝達の前にゆっくりと歩いて来る者がいる。月明かりに白の軍服とズボンが映し出される。手にはスティックを持っている。どうやら相当の地位にある者らしい。頭部を何やら金属のユニットで覆いその頭部は人のものではなかった。
黒い狼のものであった。滝は目の前に来たその男の名を知っていた。
「デルザーの改造魔人オオカミ長官、狼男の末裔か」
かって中欧の夜を支配した魔性の者がいた。その名は狼男。漆黒の身体と狼の顔と牙を持つ魔人である。
欧州全土にその伝説は残っている。満月の夜に月の光を浴び人から変化し生ある者を貪り食う夜の覇者。その変化する理由は呪いとも魔術とも血とも言われていた。
だが真の狼男は違った。彼は本来の姿が狼男なのであり人の姿が仮のものであったのだ。そういう意味で彼は真の魔物だった。呪いや魔術によるものではなく彼は本質的に人ではなかったのだ。
彼は魔界から来た。人の血や肉を求め来たのだ。そして無数の魔物達を従え夜の世界を支配した。
夜狼の遠吠えを聞くだけで人々は震え上がった。村を、町を襲い人々を貪り食った。彼の行く所食い千切られた屍と死の荒野が残された。
その彼を討たんとする騎士もいた。だが皆逆に食い殺される始末だった。彼の居城は食い殺された騎士達の髑髏で飾られていた。
その彼も滅ぶ時が来た。白銀の鎧を着た一人の騎士が彼の城にやって来たのだ。
騎士と狼男の死闘は三日三晩に渡って繰り広げられた。そして騎士の剣が彼の胸を貫いた。こうして夜の世界を支配した魔王は滅んだのである。
彼はその狼男の子孫である。夜間戦に長け奸智の持ち主である。
「そうだ。流石に俺の事は知っているな。伊達にショッカーやゲルショッカーと戦ってきたわけではないようだな」
「だが貴様は仮面ライダーストロンガーとの闘いに敗れ死んだはずだ。何故今ここにいるのだ?」
「ククク、それは貴様も解かっている筈だ」
「何!?」
「我等はこの世に悪の意志がある限り甦るのだ。幾度でもな」
「クッ・・・・・・」
滝は歯軋りした。だが気負される事無くオオカミ長官に問うた。
「何故貴様等はこの人達をさらった?そして下の基地で何をしようとしていた?」
「貴様、狂犬病は知っているな」
滝を嘲笑する様に言った。
「狂犬病は人や獣を狂い死にさせる伝染病だ。それを数十倍に強めた菌を今造っているのだ」
「何ィ!?」
「それを人に植えつける。その者が世に戻ればどうなる?狂犬病で欧州全土を死の荒野に変えてやるのだ」
オオカミ長官は言葉を続ける。
「貴様達がここへ来るのは計算通りだ。貴様等も捕らえ洗脳し狂犬病のキャリアーとしてやろう」
「糞っ!」
滝はオオカミ長官に挑みかかる。だが右ストレートを掴み取られ背負い投げで叩き付けられた。
「無駄だ。貴様ではこの俺は倒せん」
黒服と赤マスクの者達、戦闘員に取り押さえられる。ルリ子も救出された人達も捕らえられていた。
「これで滝和也と緑川ルリ子は終わりだ。狂犬病により醜く狂い死にしていくのだ。さあ連れて行け」
「待て!」
その時だった。横から声がした。力強く低い男の声だった。
「な、貴様は・・・・・・」
太い眉に彫が深くそれでいて底知れぬ知性を感じさせる顔立ちに異様に多く硬い黒髪を持つ東洋人の青年がバイクに跨っていた。黒がかった紺のスーツに空色のカッター、黒と黄のネクタイを着けている。
「済まない滝、ルリ子さん。遅れてしまった」
この若者こそ本郷猛、城南大学で天才科学者、またオートレーサーとして名を馳せた人物である。その能力をショッカーに狙われ改造人間にされたが脱出。そして盟友一文字隼人と共にショッカー、ゲルショッカーと戦いこれを壊滅させる。それからは世界各地で悪の組織と戦い続けた伝説の戦士である。またの名を仮面ライダー一号という。
「貴様、ローマで足止めを受けていたのではなかったのか」
「貴様等がいくら奸計を用いようともライダーは必ず貴様等の野望を打ち砕く!」
「おのれ、その減らず口を二度と言えぬようにしてやる。かかれ!」
オオカミ長官がスティックを振るうと戦闘員達が襲い掛かってきた。本郷はバイクから跳び降りると戦闘員達と向かい合った。
「ギィッ」
奇声をあげ戦闘員達が来る。一人目が拳を出すと本郷はそれを横から取り投げ飛ばす。そして二人目の腹に蹴りを入れ三人目をフックで倒す。その圧倒的な強さを目の当たりにし他の戦闘員達が怯んだのを見て滝とルリ子が今まで掴まれていた腕を思いきり振り動かした。そして自由になると彼等を倒し捕われていた人達を救出した。
「本郷、捕まっていた人達は全て解放したぞ」
「よし。滝、ルリ子さん、皆を安全な場所へ」
「解かった」
「了解」
二人は解放した人達を連れて後退してゆく。後には本郷とオオカミ長官が残された。
「おのれ本郷猛、よくも捕らえた人間共を」
「貴様等の計画は先程聞かせてもらった。その狂犬病のビールス、必ず叩き潰してやる。オオカミ長官、覚悟しろ」
「ククク、俺を誰だと思っている」
指差す本郷に対しオオカミ長官は不敵に笑った。
「俺はデルザーきっての知略の持ち主と言われた男、こういう時の備えは常に用意している」
「何っ!?」
「出でよ我が眷属、狼軍団よ!」
そう言うと右腕を大きく掲げた。すると手にしたスティックが白く輝き本郷の回りを取り囲む様に五つの火柱が立った。
「むぅっ!?」
その五つの火柱は全て怪人であった。ゲルショッカーの電気怪人クラゲウルフ、デストロンの吹雪怪人ユキオオカミ、ブラックサタンのガス怪人奇械人オオカミン、ネオショッカーの音波怪人オオカミジン、ドグマの刺客怪人ロンリーウルフの五体の怪人である。
「馬鹿な、復活してきたというのか」
「ハハハ、その通りよ。貴様を倒す為に地獄から甦ったのだ。そして見よ、本郷」
スティックで月を指し示す。
「我等狼一族は満月にこそその力を発揮する。如何に貴様とて適うまい」
「クッ・・・・・・」
「やれぃっ!」
オオカミ長官の号令一下五体の狼怪人達が襲って来る。本郷も応戦するが怪人が相手では分が悪い。しかも五体である。
たちまち劣勢となってしまった。
「まずい、このままでは・・・・・・」
「さあ、止めだ!」
ロンリーウルフが右手に持つ剣を横に一閃させる。本郷はそれを後ろに跳びかわす。空中で後ろに大きく宙返りした。
怪人達と離れた場所に着地した。そして右手で手刀を作り左斜め上に大きく掲げた。
ライダー
ゆっくりと半月を描き旋回させる。そして右斜め上に達すると動きを止め脇にスッと引き拳にした。それと共に本郷の腰に中央に風車のあるベルトが出現した。スーツも黒いバトルボディとなり胸が緑になった。手首足首が銀の手袋とブーツに包まれる。
変っ身っ!!
身体を右に捻り左手の手刀を素早く右斜め上へと突き出す。風車が激しく回転する。それと共に本郷の顔の右半分がバッタの様なライトグリーンの紅く大きな眼を持つ仮面に覆われた。そしてそれは左半分も覆った。
風車から強い光が発される。光が消え去ると本郷猛はそこにはいなかった。仮面ライダーがそこにいた。
ライトグリーンに紅の眼をした仮面。深紅のマフラー。黒のバトルボディに緑の胸、そして銀のグローブとブーツ。
仮面ライダー一号、ここに登場した。
「ぬうう、ライダーに変身したか」
「行くぞ改造人間っ、トゥッ!」
ライダーはそう言うやいなや大きく跳躍した。そして怪人達の中に降り立った。
「クゥゥーーラゲェーーーーッ」
クラゲウルフが右手の職種と爪の生えた左手を合わせ電流を放つ。ライダーはそれを左にさけ怪人の懐へ一気に入った。
左手でクラゲウルフの右肩を右手で左太腿を掴むと大きくジャンプしあ。そして頭上に怪人の身体を持ってくると駒の様に大きく回転させた。
「ライダァーーーきりもみシューートォーーーーッ!」
地面へ向けて思いきり投げ付けた。激しく回転しながら地面に叩き付けられたクラゲウルフは爆発四散した。
着地地点にはロンリーウルフがいた。空中で前転すると両足でロンリーウルフの首を絞めた。
「ガググ・・・・・・」
そのまま前へ倒れた。両手で跳ね空中で回転する。
「ライダァーーーヘッドクラッシャアーーーーッ!」
ロンリーウルフの脳天を地面に叩き付けた。素早く飛び退く。ライダーの背後で怪人は爆発した。
「ウォーーーーッ」
奇械人オオカミンが吼える。そして左手をライダーへ向けて構えるとロケット弾を撃ち出した。
「ムン!」
ライダーはそれを顔の前でクロスさせガードした。ロケット弾は爆発し闇の中に光と噴煙が巻き起こる。オオカミンは勝利を確信した。だがライダーは無事であった。
「トォッ!」
ガードを解き怪人へ突進する。そして頭から体当たりをかけた。
「ヘッドクラッシャアアーーーーッ!」
後ろへ吹き飛ぶ怪人。ライダーはそれに対し体当たりをかけたままの姿勢で突進を続ける。そして蹴り上げ自身もジャンプした。
その跳躍は驚異的だった。信じられぬ速さでオオカミンを飛び越すとそのまま怪人の背へ落下していく。
「ライダァーーーニーブロォーーーーック!」
膝蹴りを怪人の背に浴びせた。奇械人オオカミンは空中で大爆発を起こした。
「ムンッ!」
着地しファイティングポーズを取る。右手げ手刀を作り左斜め上に上げ身体を左へ捻る。左手は拳を作り脇に入れるポーズだ。
オオカミ長官はそう言って階段を降り基地へと後退していく。ユキオオカミトオオカミジンもそれに続く。
「待て!」
ライダーも追って階段を降りる。そして彼も基地の中へ入っていった。
ライダーは薄暗い基地の中を進む。部屋を開け機械やコンピューターを次々と破壊していく。
「ギィッツ」
廊下を進んでいくと前から戦闘員達が現われた。一蹴し更に中を進む。曲がり角に来た。前からオオカミジンが出てきた。
「ハァーーーォッ」
吼えるや否や頭部を飛ばしてきた。ライダーはそれを咄嗟に屈んでかわした。
だが頭部は反転して再び襲い掛かって来る。それを後ろ蹴りで打つ。起き上がり正拳を突き出す。
「ライダァーーーパァーーーーンチッ!」
頭部は爆発した。主を失った胴も倒れ動かなくなった。ライダーは再び足を進めた。
奥に着いた。そこは暗く何も見えなかった。
「ならば」
ライダーの眼が光った。部屋を見回す。
「これは・・・・・・」
部屋の中は何かしらの機器類で満たされていた。フラスコや試験管等実験用器具もある。
ここで何が行なわれていたか、ライダーはすぐに理解した。
「そうか、ここで狂犬病のビールスの強化、製造を行なっていたのだな」
「その通りだ、ライダーよ」
急に部屋が明るくなった。階段がありその上に二階があった。そこに声の主がいた。
「オオカミ長官!」
「ここまで来るとはな。見事だと誉めておこう。だがそれもここまでだ。我等が計画、邪魔はさせん」
「黙れっ!貴様等の邪悪な企み、この仮面ライダーが必ず阻止してやる!」
『それは不可能だ。何故なら貴様はここで死ぬからだ』
「その声はっ!?」
ライダーはその声に聞き覚えがあった。忘れる筈がない。かっての宿敵の声だった。
部屋の横にあるシャッターが左右に開いた。その奥から一人の男が二体の怪人を連れて現われた。
指揮杖を持ち金モールと数個の勲章が付いた十九世紀欧州のそれを彷彿とさせる黒と赤の軍服とヘルメットと着けた陰気な顔立ちの男である。かってゲルショッカーの大幹部として仮面ライダーを苦しめた男、ブラック将軍である。
ロシアの軍人の家に生まれた。士官学校を卒業後騎兵隊に入り武勲を重ねた。そひて何時しか猛将として知られるようになった。日露戦争においても第一次世界大戦においても活躍した。だがロシア革命が起こってしまった。彼が忠誠を尽くすロマノフ王朝は崩壊し内戦で白軍が敗れると彼はフランスに亡命した。そしてそこから当時フランスの植民地であったアルジェリアに渡った。
その地で何をするわけでもなかった。帝政ロシアはもうなく彼はそこで無為の日々を過ごしていた。その彼を誘う者がいた。首領であった。アフリカで暗躍する秘密結社ゲルダムに彼を誘ったのである。
彼はそれに従った。他にする事も無くまた戦えるのならば彼に異存は無かった。その組織の最高幹部となった。そしてショッカーと合併しゲルショッカーが結成されると彼は日本支部長となり辣腕を振るった。冷酷非常な戦略家であり仮面ライダー一号、二号と死闘を繰り広げた。だが最後はダブルライダーの前に敗れ組織を讃え散っていった。その彼が今再びライダーの前に姿を現わしたのである。
「ブラック将軍、復活していたのか」
「悪ある限り我等も不滅だ。永遠にな」
そう言って口の端を歪めてみせた。
「ライダー、貴様にはここで死んでもらう。作戦成功の為にな」
将軍の後ろに控えていた二体の怪人が出てきた。ゴッド悪人軍団の吸血怪人ヒルドラキュラとジンドグマのスプレー怪人スプレーダーである。ユキオオカミも階下へ跳び下りてきた。
「ヒルドラキュラはユキオオカミと共にライダーを倒せ、スプレーダーはウィルスを全て集めよ」
オオカミ長官の指揮の下三体の怪人は動く。ライダーはスプレーダーを押さえようとするが他の二体の怪人に阻まれ思うように動けない。
「まずい、このままでは」
ユキオオカミとヒルドラキュラの連携攻撃は巧みであった。一方が攻撃し一方が阻む。その間にもスプレーダーはウィルスを集めている。
「オオカミ長官、ウィルスは全て集め終えたぞ」
ブラック将軍が言った。
「よしならば計画は無事続けられるな」
オオカミ長官は満足そうに頷いた。
「この基地は廃棄、撤収するぞ」
「待て!」
ライダーはシャッターの中へ入ろうとする長官と将軍を追おうとする。だがその前にユキオオカミとヒルドラキュラが立ちはだかる。
「くっ・・・・・・」
シャッターは完全に閉じた。その奥から二人の叶笑が聞こえてくるようだ。歯噛みするライダーに息をつかせず二体の怪人が襲い掛ってくる。
「スノォーーーーッ」
ユキオオカミが拳を繰り出す。ライダーはそれを受け止め逆にライダーチョップを連続で浴びせる。そして地に投げ落としライダーパンチをみぞおちへ叩き込む。
ヒルドラキュラに対しては腹に連続してキックを入れた。そしてその延髄にソバットを直撃させた。
「アオーーーー」
怪人はゆっくりと前へ倒れていった。そしてそのまま動かなくなった。
「時間が無い。急ぐか」
出口へ踵を返したその時だった。何かがライダーの右足を掴んだ。
「くぅっ!」
それはユキオオカミだった。虫の息ながらも最後の力をもってライダーを離さない。
「くっ、しまった・・・・・・」
ライダーが苦悶の声を出したその時だった。古城は光に包まれた。夜の沈黙を爆発が切り裂いた。
「ライダーッ!?」
それは森の中を解放した人達を連れて進む滝とルリ子からも見られた。ライダーの身を案じ表情が暗転する二人。
「フフフフフ、これで仮面ライダーは死んだ」
オオカミ長官は遠く離れた古城を見下ろす丘の上で笑っていた。
「それはどうかな。あの男の悪運の強さは尋常ではない。これしきの事で死んだとは思わぬ事だ」
ブラック将軍が口を挟む。その後ろにはスプレーダーが控えている。
「フン、あの爆発に巻き込まれ助かる奴はおらん。今頃奴は跡形も無く吹き飛んでいるわ」
「だといいがな。まあいい」
ブラック将軍はオオカミ長官達に背を向けた。
「私はこれで帰らせてもらう。やらねばならぬ事もあるしな」
「人間共の血の採集か。それにより我等の手足となる怪人達がまた地獄から甦ってくるのだな」
「そうだ。また怪人をそちらに送り込む。それまで待っているがいい」
「ククク、楽しみにしているぞ」
ブラック将軍の身体が透けていく。そしてそのまま夜の闇の中へ消えていった。
「さて、後はウィルスの最後の強化をするだけだ。そしていよいよ作戦を決行だ」
オオカミ長官が笑ったその瞬間だった。夜空に空を切り裂く風の音がした。
「ガゴォォォーーーーン!」
何かがスプレーダーを直撃した。スプレーダーは大きく陥没し丘を転げ落ちていった。そして一度起き上がるが前のめりに倒れ爆死した。
「な・・・・・・」
一瞬何が起こったのか解からなかった。だが爆音がそれを教えていた。
「ライダー!?まさか生きていたというのか!?」
スプレーダーに体当たりをかけたのはライダーの乗る新サイクロンだった。空を飛翔する事も出来るこのマシンによる特攻の威力は絶大であり今の様に怪人を葬り去る事も出来る。
「これでウィルスは全て滅んだ。後はオオカミ長官、貴様だけだ」
新サイクロンから降りオオカミ長官を指差す。最早丘の上にいるのは二人だけとなっていた。
赤く禍々しく大地を照らす満月を背にオオカミ長官は立っていた。ライダーを前にしながらその顔は自信に満ちている。
「ククク、ククククク」
「何がおかしい」
「俺はかって中欧を殺戮と恐怖で支配した狼男の子孫、その力は知っていよう」
「それがどうした」
「それだけではない。あれを見よ」
月をスティックで指し示した。
「満月に我等狼一族の力は最も強まる。かって一夜にして国を滅ぼした事もある程までにな」
「ムゥッ」
その力の凄まじさはライダーも感じ取っていた。それは彼が今まで戦ってきた数多の強敵達と比しても遜色無い程であった。
「行くぞ、歯形爆弾!」
口に手を当てる。すると巨大な牙状の歯が現われた。
その牙をライダーへ次々と投げ付ける。近くまでくると爆発した。ライダーはそれを横に跳び上に跳びかわす。
オオカミ長官が間合いを詰めてきた。拳をライダーへ叩き込んでくる。
ライダーはそれを払った。そしてみぞおちにブローを入れようとする。
長官はそれをもう一方の手で防いだ。カウンターでその手に持つスティックで突きを入れる。
突きがライダーの胸を直撃した。ライダーは思わずしゃがみ込んだ。
その後頭部へ肘を入れる。これはかなりのダメージとなった。
ライダーは倒れ込んだ。勝機を見たオオカミ長官は後ろに跳び間合いを開けた。
「喰らえっ、満月プラズマ光線!」
頭部のユニットに集められたエネルギーが光線となりライダーへ向けて放たれる。ライダーはそれを間一髪でかわす。
それまでライダーがいた場所を光線が直撃する。地が四散し巨大な穴が作られた。地面は飴の様に溶けてしまっている。
「おのれ、かわしたか」
「何という威力だ。直撃を受けていれば命は無かった」
シュウシュウと音を立てる地面を見てライダーは呟いた。
「ならば再び攻撃を掛けるまでだ。受けてみよ!」
再び満月プラズマ光線を放つ。ライダーはそれを跳躍でかわした。
(まずいな。このままではいずれこちらが追い詰められてしまう)
ライダーは空を跳びつつ考えていた。
(満月のある限り奴は絶大な力を発揮する。あの光線はその最たるものだ)
月を見る。何時になく大きい。
(あの月さえ封じれば奴の力は弱まる。そうすればこちらにも勝機はある)
だが空には雲一つ無い。丘の上では月の光を阻むものなど何一つとして無い。
(どうすればいい。どうすれば一瞬でも月の光を遮られる・・・・・・)
その時ライダーの頭にある考えが浮かんだ。しかしそれは一か八かの大きな賭けであった。
(だがやるしかない。奴に勝つ方法はそれしか無い!)
着地と同時に跳んだ。それまでより一段高いジャンプだった。
「馬鹿め、何度跳んでも同じ事だ。死ね!」
空中で一回転するライダーへ向けて光線を放とうとする。
「ムッ!?」
だが光線は出なかった。戸惑うオオカミ長官へライダーが急降下をかける。
「ライダァーーーッキィーーーーック!」
多くの怪人達を葬った伝家の宝刀が胸を直撃した。オオカミ長官は吹き飛び丘を転げ落ちていったが致命傷とはならなかった。起き上がってきた。
「何故だ、何故満月プラズマ光線が出なかった」
「それはこれのせいだ」
ライダーの右手から何かが駆けて来る。それはライダーの前まで来るとやや左に曲がって止まった。
「・・・貴様のマシンか」
白と赤の流線型のマシン、仮面ライダー一号の愛車新サイクロン号である。彼の良き理解者立花藤兵衛がサイクロンを基に設計、開発したマシンである。
「そうだ。貴様が満月プラズマ光線を放つ一瞬に新サイクロンを飛ばし満月の光を塞いだのだ。新サイクロンが遠隔操作でも動かす事が出来るのを忘れていたな」
「ぬ、抜かったわ・・・・・・」
右手で胸を押さえ呻く。かろうじて立ってはいるがもう反撃する力も無い。敗北は決定的だった。
「行くぞ、止めだ!」
跳ぼうとしたライダーの左手を何かが絡め取った。それは赤い鞭だった。
「オオカミ長官を死なせるわけにはいかぬ。あ奴はこれからも働いてもらわねばならんからな」
「き、貴様は・・・・・・」
ライダーの左には怪異な風貌の男がいた。
虫の様な二本の角を生やした金と銀の頭部全体を覆う巨大な兜を被りオレンジと銀の大蛇を思わせるバトルボディである。
その上から緑のマントを羽織っている。特に異様なのは左手で鉄か何かしらの金属で出来ている様だ。親指以外の四本の指は一つになっており親指の先も尖っている。この人とは思えない外見の男こそショッカー大幹部の一人として悪名を馳せた地獄大使である。
地獄大使、かっては東南アジアで恐れられた勇将だったという。人々は彼を『力の魔神』と呼んだ。その勇猛にして苛烈なる指揮は周辺諸国や敵対勢力の恐怖の的だった。
だが突如として消息を絶ちショッカーの大幹部に就任した。東南アジアにおいて暴虐の限りを尽くしその功績を認められ日本支部長となった。常に前線で指揮を執る事を好む実戦派として知られ、大虐殺やライダー自身を狙う作戦を多用しライダー一号、二号と戦った。とかく喜怒哀楽の激しい事でも知られている。
「地獄大使、貴様も甦ってきたというのか」
「そうだ。わしやブラック将軍だけではない、他の者達も貴様等ライダーを倒し世界を悪に染め上げる為に地獄から舞い戻ってきておるわ」
地獄大使はニヤリ、と笑った。
「何っ、すると・・・・・・」
「フフフ、それは言えんな。いずれ解かる事だがな、貴様の死と共に」
「クッ・・・・・・」
「オオカミ長官、今のうちだ。早く撤退するがいい」
「う、うむ。恩に着るぞ」
オオカミ長官はそう言うと消えた。どうやらテレポーテーションらしい。
「さて、オオカミ長官も無事撤退した。後は貴様との勝負だが」
残忍な笑みを浮かべた。まるで毒蛇が笑ったかの様な笑みだった。
「今日のところははその命預けておこう。いずれ貴様は我等の前に敗れることになる」
鞭を収めた。マントで全身を覆った。
「また会おう。その時こそ貴様の最後の時だ」
「待てっ、地獄大使!」
だが地獄大使はそのまま消えていった。後には高笑いだけが残った。
「そうか、あの二人も復活しているのか」
翌日爆発した古城の跡地を調査しながら滝は本郷の話を聞いていた。
「あれだけの力を持っていた奴等を甦らせたんだ。どうやらどえらい事が起こりそうだぜ」
「ああ。次々と改造人間達が現われる。今までより遥かに過酷な戦いになる」
「過酷、ね」
本郷の言葉に滝は煙草をくわえニヤリ、と笑った。
「何時だって過酷だったさ。そんなことはどうだっていい。それより本郷、御前今すぐ行かなくちゃいけないんだろ?」
滝の言葉に本郷の隣のルリ子も微かに反応した。
「うむ、ロンドンで空を舞う怪人が出たらしい。すぐに急行する」
「空を飛ぶ奴か。ガランダーのフクロウ獣人あたりだな」
「おそらくな。奴は凶暴で獰猛な獣人だ。すぐに倒さなくてはいけない」
「相変わらず忙しいな。けど御前は一人で戦わなくちゃいけないんじゃない」
「ああ」
「ルリ子さんがいる。おやっさんも日本にいる。隼人のやつもどっかで戦っているだろう。それに・・・・・・」
滝は言葉を続けた。
「俺もいる。及ばずながら力になるぜ」
「・・・・・・済まない」
本郷は目と口だけで微笑んだ。
「礼はいいさ。支払い無用のツケにしといてやるからよ。また近いうちに会うだろうからよ、その時も頼むぜ」
「ああ、わかった」
「じゃあな。元気で頑張れよ」
本郷はバイクを駆り古城を後にした。ルリ子もバイクで追いかけていく。滝はそれを笑顔で見送り新しい煙草に火を点けた。
「また、始まったか」
吸った煙草が何時に無く美味く感じられた。だが彼は解かっていた。その煙草が束の間の休息に過ぎない事を。そして最後の一本になるかも知れない事も。
黒き森の魔狼 完
2003・11・21
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