Fate/WizarDragonknight
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免罪符
「ちょうちょ!」
「蝶? この市街地に?」
ひなの発言に、祐太と香子まで反応する。
その蝶は、モンシロチョウやアゲハ蝶など、見慣れたものではない。
黒い翼が、中心に近づく毎にオレンジになっていくそれはあろうことか両手を上げて歓迎するひなへ近づいていく。
「触っちゃダメだ!」
ハルトは叫び、ひなを抱き上げる。
だが蝶は、あたかもハルトを挑発するように接近してくる。
自然の蝶と違い、手で振り払おうとしてもその動きに変化はない。
執拗にひなに触れようとしてくる蝶。
だが、突如として、蝶を横から突き飛ばす者がいた。
「クラーケン!」
黄色いタコの形をした使い魔。
クラーケンは何度も蝶へ体当たりをして、ひなから引き離していく。
だが、蝶はそれでも抵抗を止めない。
クラーケンを押し返し、再びひなへ迫ろうとするが。
「グリフォン! 食い止めろ!」
コウスケの掛け声に、緑の使い魔も颯爽と助け船を出す。背中で蝶を食い止め、押し返す。
クラーケンとグリフォンはともに相槌を打ち合い、その体を分解させる。やがて、二体を構成していたパーツはそれぞれ組み合わさり、やがて翼の生えたタコ型の怪物に作り変えられていく。
「合体した!?」
「アイツら、あんなこと出来たんだな」
持ち主二人がそんなことを言っている間に、合体使い魔は蝶に激突し、共に上昇。
人の手が届かないほど上空に連れて行かれたところで、蝶はその能力を解放。赤い夕焼け空に、音とともにより濃ゆい赤を刻んだ。
「な、なんだ!?」
「何!?」
彼らからすれば、突然上空で爆発が起こったようにも見えたのだろう。
抱き合いながら驚愕する祐太と香子の一方、ひなは顔を輝かせている。
「はなびー!」
無邪気に喜ぶ彼らをしり目に、分裂したクラーケンとグリフォンがそれぞれの持ち主のもとに戻ってくる。
「ありがとうクラーケン。参加者らしい人……令呪がある人はいた?」
ハルトの質問に、クラーケンは体を左右に振る。明らかに否定を示す行為に安堵し、ハルトはクラーケンの指輪をホルスターに収納した。
「コウスケ! 見学者だ!」
「わーってるよ!」
コウスケはハルトに並び、その手にダイスサーベルを握っている。
「グリフォンの様子からすれば、多分保育園に参加者はいねえ!」
「こっちも同じ結論をもらったよ。……ということは、狙いは俺たち?」
「かもな」
コウスケはダイスサーベルで頭上を指す。
見上げると、コウスケの推測を肯定するように、新たな蝶の群れがこちらに向かってきていた。
「な、何あれ!?」
香子が悲鳴を上げる。
蝶の大群がわき目も降らずに向かってくるなど、確かに異能の力を持たない者からすれば恐怖でしかないだろう。空を覆いつくすほどの大群は、そのまま保育園の敷地へ迫る。
だが蝶の群れは、空中であらぬ方向へ方向転換した。一瞬だけ地上近くに下降し、そのまま空中へ滑空していく。
「え?」
ドライバーオンの指輪を作動させていたハルトは、突然の動きに目を丸くした。
そのまま蝶の群れが向かっていく先は、無数の白い鳥。
真っ白で、生物の魂がこもっていない造形の鳥。目元には瞳が入っておらず、黒い空洞だけがあった。
それを見た途端、ハルトは更に顔を強張らせる。
「あれは……!」
蝶の群れと鳥の群れは上空で衝突し、これまた爆発。
爆発に次ぐ爆発により、上空で無数の爆発が続いていく。
「おい、何だよあの鳥……!? あの鳥も爆発すんのか!?」
「あれは……! コウスケ! 今すぐひなちゃんたちをここから逃がして!」
「皆まで言うな! 祐太! 加賀! すぐにここから……」
「お美しいレディ」
突如としてその声は、祐太たちの方から聞こえてきた。
見れば、祐太と香子の間に立っているタイツの変態が、香子の顎に触れていた。
「な、何……!?」
「戦いの時でも、美しい女性というのは必ず我が癒しとなる」
タイツに蝶の仮面。
聖杯戦争の見学者、パピヨン。強烈なビジュアルを持つ相手に、香子は大きくのけ反る。
「逃がしはしないさ」
パピヨンは唇を舐めずり回し、香子に手を伸ばす。
「や、止めろ!」
叫んだ祐太が香子との間に割って入った。両手を伸ばし、自らがパピヨンへの盾になるようにするが、パピヨンはにやりと笑みを浮かべていた。
「離れろ祐太!」
叫んだコウスケがパピヨンへ飛び蹴りを放つ。
手を引っ込めたパピヨンとそのまま取っ組み合い、コウスケは共に地面を転がる。
そのまま置かれていたゴミ箱に激突し、中に詰められていたゴミ袋が宙を舞い、数頭の蝶と衝突。そのまま爆発する。
「やあやあ。ビースト」
見事な身のこなしで着地を繰り返し、パピヨンは自らの顔に手を当てる。
「昨日以来だね。どうやら今日は、サーヴァントとは別行動のようだ」
「てめえ、何しに来やがった!」
ダイスサーベルを向けたまま、コウスケは怒鳴る。
パピヨンは「何」と面に手を当てた。
「このような人や子供が集まる施設というのは、魔力を秘めた人物がいる可能性が高い。詮索してみるのも、参加者の務めというものだろう?」
「狙いは子供たちか……!」
ハルトはウィザーソードガンを向けた。
「それにあの鳥……今も聖杯戦争の真っ最中ってことか」
「形だけはお手本通りの参加者だよ、お前は!」
「ふん……それはどうも!」
コウスケはダイスサーベルでパピヨンの手から発射された蝶たち迎え撃つ。斬り伏せ、俗座に闘牛の指輪を発動。三体の牛が、蝶たちを蹴散らしていく。
「コウスケ!」
コウスケの応援に向かおうとするハルトだったが、その腕を祐太が掴む。
「おい、一体何が起こっているんだ!」
「それは……」
ハルトがそれを説明するよりも前に、視界の端で、今度はひなに迫るのに気付く。
「はっ! ひな!」
「危ないひなちゃん!」
だが、香子がひなを抱き飛ばし、転がって鳥から退避させる。同時に爆発した鳥が、香子の右肩を煽る。
「ああっ!」
悲鳴を上げる香子。
彼女の煽られた箇所は爆風により服が焼き切れており、白い素肌に火傷が見られる。
「くっ……」
そして、この場所にいる非参加者は香子たちだけではない。
夕方の保育園は、仕事終わりの保護者が児童を引き取りに来る時間帯であり、その門戸は開いている。つまり、今蝶と鳥が爆発を繰り返している場所のすぐ下は、自由奔放な子供たちが好奇の目で爆発に近づこうとしていた。
職員や保護者は悲鳴を上げて子供たちを引き留めようとするが、そんなことで子供たちは止まらない。
「おい、ハルト……!」
「保育園の近くで戦うのは危険すぎる! 何とかしてパピヨンをここから引き離して! 俺はもう一人の参加者……」
「よう、ウィザード」
その声は、ハルトのすぐ背後から聞こえてきた。
忍び。まさに忍者のごとく、音もなくハルトの背中を取ったのは、黒い衣を身に纏った青年。赤い雲の模様が特徴の衣類と金髪は、忍者とも思えないほど派手な印象を与える。
その者の名は。
「デイダラ……!」
「喝」
静かに。だが、はっきりと。
デイダラはその掌から、白い人形を放る。
ハルト、祐太、香子の中心に浮かび上がる蜘蛛の形をした人形。
それを始めて見た祐太と香子は、理解が追いつかないといった目で。
そしてそれを知るハルトは、鬼気迫る表情でそれを掴んだ。
「このっ……!」
一瞬、ハルトの目が赤くなる。
蜘蛛を掴んだ右手が一瞬だけ変化する。ハルトの人ならざる者の力を部分的に発揮するのと同時に、蜘蛛が爆発する。
ハルトの異形の腕を貫通した衝撃だけが祐太と香子を襲い、二人を転倒させる。
「……っ!」
爆弾を握りつぶし、人間の形になった腕の火傷は、今すぐでも魔力を注げば治療できるが、今はその時間が惜しい。
ハルトは即、デイダラに蹴りを放った。
ひらりとジャンプで避けたデイダラは、そのまま上空に待機させていた大きな鳥の背中に飛び乗る。
「また会ったなウィザード! 折角の戦闘中だ。お前も一緒に芸術を教えてやるよ、うん!」
「デイダラ……っ! やっぱり生きていたのか……!」
前回戦った時、デイダラは自爆を選んだ。
あっさり倒せたとは最初から思っていなかったが、いざ目の前に現れると、敵意が蘇ってくる。
「オイラの分身を倒した程度で図に乗ってんじゃねえよ、うん」
デイダラは吐き捨てる。
彼の手元には、すでに人形が握られており、軽い小さな煙とともに巨大化。デイダラが乗り物として使っている鳥と同じものが二体、完成する。
鳥たちは羽ばたきとともに、ハルトへ飛来。
「さあ、木端微塵に吹き飛べ! うん!」
「……」
だが、赤い眼のままだったハルトは、そのままソードモードに変形させたウィザーソードガンに力を込める。すると、赤い魔力が銀の表面に現れるほどに注ぎ込まれ、その切れ味が増していく。
「はあっ!」
伸びた刀身のまま、ハルトはウィザーソードガンを横に一閃。二体の鳥を瞬時に切り裂いたそれは、魔力とともに鳥たちを消滅させた。
「生きていたのか……つまり、デイダラが死んだと思っていたんだね」
その声は、パピヨン。
彼はコウスケの攻撃を受け流しながら、口元を大きく吊り上げていた。
「戦いを止めるとか言っていた割には、随分と好戦的じゃないか、偽善者」
「……言わなかったっけ? 戦いたい奴とは戦う。……力加減を誤ることだってあるよ」
「体のいい免罪符だな」
パピヨンは舌で唇を舐める。その足でコウスケの顎を蹴り上げ、その身を地に伏せさせた。
「やはり偽善者だよ、君は。都合一つで救う参加者、救わない参加者を決めているのだからな」
「別に偽善者でも何でもいいよ。戦いを止める説得はするけど、その時間がかかるせいで他の人に危害が加わる可能性があるなら、戦うよ」
ハルトの赤い眼が光る。すると、デイダラが「へえ……」と静かにハルトを睨む。
「お前のチャクラ、人間じゃねえな? どちらかというと、この世界にいる化け物だな。それとも……人柱力みてえなバケモンか?」
デイダラはハルトを見下ろしながら、確認するように頷く。
「ま、どっちにしろオイラの敵じゃねえな、うん」
「デイダラ……アンタ、パピヨンと知り合いだったのか」
「ああ」
デイダラは頷き、パピヨンを見下ろす。
パピヨンもコウスケを引き離し、笑みを張り付けたままデイダラと目を合わせた。
「前に、聖杯戦争の詳細を教えろだのなんだの言って来てな。まあ、お互いに芸術合戦を繰り広げたわけだ。うん」
「アレは中々に、ンンン……蝶☆刺☆激☆的☆」
パピヨンがその長い指を広げ、うっとりとみずからの顎に手を当てた。
背中の蝶の翼を広げ、デイダラと同じ高度へ上昇していく。
「俺も近いうちに、君たちの仲間になる。仲良くしようよ」
「ケッ。それで? 参加の目星はついたのか? うん」
「中々監督役が見つからなくてね。まあ、すぐにでも君たちと同じ参加者になるさ」
お互いに言葉を紡ぐたびに、それぞれの爆発の象徴が両者に寄り添っていく。
蝶と鳥。
デイダラの手とパピヨンの背。
それぞれの異能の力が、上空で発動。蝶と鳥がそれぞれ、一気に数を増していく。やがてそれは夕焼け空を黒い影で埋め尽くすほどの勢いで増加していった。
「なら……もう容赦はいらねえな? うん」
「蝶☆芸術の爆発合戦と行こうではないか」
パピヨンとデイダラは、もはや時も場所も問わない。
その足元で子供たちを守ろうと必死になっている大人たちや、ひなを庇おうとする祐太や香子の前であろうとも。
「芸術は爆発なんだよ! 芸術って奴を教えてやろうか、うん!?」
「んんんん……! 俺の美しさこそ、まさに芸術!」
自らの象徴である爆発を、永遠に繰り広げていった。
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