儚き運命の罪と罰
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第二章「クルセイド編」
閑話「コラボwith銀の守護騎士」その二
ありえないコンビ結成から三日が経過した。この間にまずエレギオはクローゼの秘密その一を見破ってしまったのである。
「どうも殿下。ご機嫌麗しゅう」
「や、止めてください!?」
「はっはっは………にしてもお姫様だったとはねえ。流石にビックリしたぜ」
「う……なんで私に探知なんか使ったりしたんですか!」
そう言うことである。クローゼの素性にどうもきな臭いを感じたエレギオは『天上眼』を使って探った所、なんとクローゼはお城に入っていったのだ。流石に自分の目が狂ったかと思って、物凄い勇気を振り絞って城に潜り込んで見たらなんとそこには『殿下』等と呼ばれたクローゼ……否、クローディア・フォン・アウスレーゼ姫がいたのだ。思わず気配を立ててしまい、麒麟功まで使って物凄い勢いで駆けつけて来た『剣聖』に必要以上にオーバーキルされ(なんでも娘が冷たくて寂しいから憂さ晴らしをしたかったのだそうだ)一日牢屋にぶち込まれる事になったのである。
散々な目にあったエレギオだったが、それに見合う程のからかい甲斐のあるネタを手に入れたことで機嫌がとっても良い。ちなみに牢屋にいた間にシオン・アークライトと名乗る男から執拗なスカウトを受けたがそれをつっぱねたのはまた別のお話。
「おっと。コレは失礼、私の如き下民が軽々しく口を聞いて良い方ではありませんでした。
どうかこの不肖エレギオをお赦しください」
「本当に止めてください!いい加減怒りますよ!」
本人曰く、俺の最高の敬語は聞いていて「ぞっとする」らしい。現に今も自分を抱きしめるような格好をして数歩下がった。以後クローゼ関連で困った事があったらこのネタだと心の中でメモを取る。
「とまあ冗談はここまでにして……」
「うう……酷くないですか?」
「ハハ、悪いな。癖でね。それよりこれから情報収集に出向くんだが……来る?」
「あ、ハイ。今は時間も有るし御一緒させて頂きます」
「んじゃ決まりだな。善は急げって言うし、行くぞ」
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町を出て歩くこと数分。エレギオが突然立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「んーいや、別にたいした事じゃない」
そう言って答える眼は初めて会った時のようにエメラルドの光で満ちている。担いだ大型の銃剣を片手で持って呟いた。
「数は二体、距離は300アージュって所か……」
「え?」
「魔獣だよ。俺達の歩く方向に居るんだ」
「300アージュ?だったらまだ構える必要ないんじゃあ……」
「俺に取って見りゃあ近過ぎる位だぜ」
狙撃を行なうにしてはずさん過ぎる構えだとクローゼは思った。銃器に関しては素人であるクローゼだがそれでも長銃を用いた狙撃にはちゃんと構える必要が有ると言うこと位は知っている。なのにエレギオはスコープも覗かず腰も落とさず無造作に二発放った。到底当たったとは思えない。だがエレギオは「よし当たったな」と呟いた。
「当たったな、じゃないですよ!もし他の方にでも当たったら」
「その心配は無いぜ。俺はミスファイアはしないし流れ弾で誰かを傷つける事も無い……ほら」
「えっ……」
その先には寸分違わず眉間を正確に打ち込まれた二体の魔獣が倒れ伏していた。
「うそ………」
銃はメジャーな武器だ。クローゼの知り合いにも長銃とは言わないが銃使いはいる。だがその誰しもが300アージュ離れた敵の眉間に正確に打ち込めるような使い手はいない。魔獣は眉間を打ち抜かれて、出血も殆どしていなかった。
まさに一撃必殺。いや必中必殺と言うべきか。一体だけならマグレで済ませる事もできたかもしれないがマグレは二回も起きない。エレギオは常人には見る事さえできない300アージュ先の敵のその急所を正確に打ち抜いたのだ。
「凄い……こんな事ができる人が居るなんて」
「そう言って貰えるのは光栄……って言いたい所だがなあ。
生憎俺はその気になりゃあ10000アージュ先のアリンコの眉間だってぶち抜けるんでな。
あの程度で誉められても素直に喜べねえ」
「い、10000アージュ!?」
「まあ特製の弾丸使わなきゃ途中で落ちちまうけどな。
でもまあ狙撃手って意味なら俺に張る奴はいねえよ」
……呆れて言葉も出ないとはこの事だ。クーデター事件の折に見たロランス少尉と言う男も出鱈目な強さを誇ったがこの男も大概だ。そんな超長距離から狙撃されようものなら無抵抗に蜂の巣にされるしかないではないか。と言うよりもそれ程の狙撃ならリベール中が彼の狙撃の有効射程範囲と言うことになる。
正直普通の人間がそれを言ってもただ嘘くさいだけだがクローゼは目の前の男がそれを言った態度には嘘めいたものを感じる事ができなかった。黙りこくってしまったクローゼにエレギオは少し照れくさそうに髪をかきながら「まあドラゴンソウルって言う素晴らしい長銃あってこその話だけどな」と口にする。
「それにしたって………そう言えば良くそんな重そうな長銃を片手で扱えますね」
「慣れてるからな」
エレギオの持つ『ドラゴンソウル』は若干華奢でこそあったが肉厚でギラリと黒く光り、その名からも獰猛な龍を思わせる形態をしていた。どうみてもその重さは10kgは下るまい。そうでなくともライフルは両手で扱う武器なのだ。しかもドラゴンソウルの場合その先にこれまた獅子の牙を思わせる輝きを放つダガーまでもが付いているのだ。もしかしたらそのダガーの部分だけでクローゼの使う細剣よりも重いかもしれない。ちなみにエレギオは依頼人が傍にいるから安全のためにしていないだけでその銃剣の重量を生かした接近戦も得意なのだ。
「いや慣れてるじゃあ済まないですよ……」
そう呆れたようにクローゼは言った。無理も無い。エレギオは知らないが彼の持つ『ドラゴンソウル』は重量で言えば「赤い死神」と評された猟兵が使っていた重火力ブレードライフル『ベルゼルガー』に並ぶほどの物である。そんな物を片手で振り回せる人は普通はいない。唯エレギオが初めてライフルに触れたのは4歳の時でその時から長い年月練習を積み重ねてきている以上、才能と言う言葉では評されたくない複雑な心も持つのがエレギオ・ツァーライトと言う男である。
「……でもやっぱり」
「ん、どうした?」
「あ、なんでもないです」
「そうか? なら良いんだが……」
エレギオは特にクローゼを気にした様子も無くスタスタと歩いて行った。それを見てクローゼはホッとして溜息をついた。流石に本音を面と向かって言うのは失礼だと思ったからだ。
やっぱりケイジの方が強い
彼女はそう言おうとしたのである。
エレギオなら笑って受け流したであろうが。そんなことは彼自身一番良く知っている訳だし。
だがクローゼにはやっぱりそれを面と向かって言うのは躊躇われただけの話である。
「おーいクローゼー、何ボサッとしてるんだー? 置いてくぞー」
「あ、ちょっと!? 待ってくださーい!」
エレギオがケイジより弱くても良い、とは思う。見つけて貰えたら底からはクローゼとケイジの問題だ。エレギオからしたらそれは他人事でしかないしそもそも一介の傭兵とお姫様では立場が違う所か最も遠い存在であると言っても過言ではない。この一件が終わればそれで接点は消える。エレギオもそれが分かっているからなのかクローゼに王宮の中のことを質問したりはしなかった。
だがクローゼは
(どうしてあれ程の実力者が傭兵なんかやっているの?)
気にする必要は無い。無いはずだ。なのにクローゼの頭の中からその疑問は浮かんだまま消えようとしなかった。
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「やれやれ……中々めぼしい情報にはありつけませんなぁ」
夜、事務所のテーブルに頬杖を着きながらエレギオはそう一人呟いた。『天上眼』を使えばいかなる幻術だろうと霧を払って真実を見る事ができる。強度も何も関係ない。そういう能力なのだ。
だが当然の事ながら効果範囲と言うのが存在する。その範囲外の事は生身であろうとエレギオが探知する事はできない。そしてケイジと思しき反応はリベールの何処を歩いてもなかった。
「こりゃあリベール国外のセンが強いな……」
普通の相手なら国外に居るとわかっただけで充分な収穫と言えるだろう。
だが相手は王国軍の英雄。そんな大物が時刻を離れて主君にも行き先を伝えず只管に身を隠す意味。
「……嫌だねえ。不吉な予感がプンプンするぜ」
取り合えずエレギオは腕を組んで目を閉じた。彼が考えを整理するときには何時もそうするのだ。
約120の並列思考を総動員して考察を組み立てる。
(エレボニアはねえ、リベールからあそこに入国するのは至難の技だ。
こんな短期間じゃあ『白烏(びゃくう』でも無理だ。『隻眼』に殺されに行くようなもんだしな……
クロスベルも除外だな。寄る可能性はあるがあんな不安定な土地を拠点にはしねえだろ。
となりゃカルバードか、それとも船使ったか……何にせよ共和国を調べる価値はあるな)
そして手元のノートにある国名を記す。『アルテリア法国』
「……馬鹿か俺は。ここはねえだろ」
話に聞いた限りではケイジと言う男はどうやら信仰心の薄い男らしい。そんな人間がよもや七曜協会の総本山たるアルテリアに足を運ぶのも変な話としか言いようが無い。下手をしたら一部の気が強い星杯騎士の逆鱗に触れる事にもなりかねない。特に守護騎士の機嫌でも損ねたら抹殺される可能性すらある。無論太刀打ちできない事は無いだろうが王国軍の英雄でも守護騎士第一位『紅耀石』セルナートには敵うまい。
(そういや第九位の奴元気にしてるかなー)
等と今でこそのほほんと思い浮べられているエレギオだったが、その恐ろしさは彼も骨身に染みて知っている。ちなみに守護騎士第九位とされるワジとは今でこそ仲の良い友人と言える相手だが殺し合いを演じた事もあるのだ。
「まあ何はともあれ方針は決まったな」
『目的地はカルバード共和国』とノートに大きくマーカーで記した。
エレギオは知らない。有り得ないと一蹴した土地こそ真の正解なのだと言う事を。
守護騎士第二位『氷華白刃』
その正体をエレギオは知る由も無かった―――――――
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共和国についてエレギオは真っ先に『天上眼』を発動させた。
「いるわいるわ……妙なのがたっくさん」
奇しくも、その折共和国ではある一つの事件起きていた。連続少女誘拐事件。世界的に誘拐と言う事件はそう珍しい訳ではない。だがリベールでは殆ど無かったが。その国民の倫理感の高さが伺える。平和とは最も縁遠い人種であるはずのエレギオはそれでも溜息をついた。
「リベールって本当に平和だったんだよな………」
早くもホームシックを感じて『妙なの』の中にケイジが居る事をエレギオは願った。元来ずぼらである彼は自ら厄介ごとに首を突っ込むと言う真似はしない。この少女誘拐事件に関わる気も毛頭ない。それなりの謝礼を払われたら話は別だが。
「夜まで待つか」
ケイジがどの様な理由でリベールを出たのかは知らないが決して表沙汰にできるような理由ではない筈だ。そしてやましい事がある人間は――――――夜に動く。身を隠せるというのも勿論そうだが、夜の闇が確かに隠したいことを覆ってくれそうな気がするからだ。いかなる幻術使いもその例外には漏れない。人間の本能だと言っても過言ではないだろう。とりあえずエレギオは宿を探す事にした。
「待ちな兄ちゃんよ」
「あん?」
くるりと回って振り返るとそこには昼間の共和国には似合わないダークスーツを着てサングラスをかけた明らかに腕っ節の強そうな男が居た。強そう、と言うのは正確ではない。エレギオが感じた強大な気配の一つ。そして同時にエレギオが良く知る人物だった。
ただし親しい訳ではない。エレギオは寧ろその暑苦しい顔を拝みたくはなかった。何時、何処の世界でも戦闘狂はずぼらに嫌われるものである。そしてエレギオは間違いなくずぼらだ。そしてこの男は戦闘狂だ。
「何でお前がこんなところに居るんだよ……『痩せ狼』」
「お互い様だろう『雲越え』。久しぶりだなあ」
結社『身喰らう蛇』が誇る怪物、執行者。
No.Ⅷ『痩せ狼』ヴァルター
そして…No.Ⅴ『雲越えの射手』エレギオ
後に『雲越えの射手』は、『氷華白刃』の不倶戴天の敵となると言う……
後書き
ケイジも何も出てきてないのに有りえないトンでも設定が出てきましたね。まさかの執行者www
ですが尊敬している黒やんの作品とのコラボである以上普通の作品にはしたくなかったんですよ。なのでコレはある種の提案ですね。ライもリーヴも死んじゃったんでエレギオ、使ってみない? と言う事です。勿論黒様の自由に設定は作っていただいて結構です。二つ名と能力さえ同じであれば何でもwww
コラボはコレで一旦終わりです。続きはまたやるかもしれませんが本編をもう少し進めてからになるでしょう。そう言うことで未完ですが、そこは理解していただけると助かります。と言うのもケイジとバトらせると能力の相性上エレギオが100パーセント勝ってしまうんですよね。本人勝てないとかほざいてますが幻術を得意とするケイジがエレギオの追跡をかわすことは不可能だからです。万華鏡写輪眼にも対抗できますからね。
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