東方守勢録
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第二話
少し離れた丘の上に移動した後、俊司たちが刻一刻と迫っている突入の機会をうかがっていた。
「じゃあ作戦はさっき言った通りでいこうと思う」
「敵に見つからずに進んで内部を制圧してから突撃するんだったわよね?でも、私たちのような服装でうまく潜入できるの?」
「ああ。確実に成功できるとは断言できないけど、なんとかね。そのまえにチーム分けをしよう」
「チーム?」
「先に潜入する方と後から突撃する方だよ。まずは先に潜入する方だけど……」
俊司はポケットから手帳を取り出すと、あらかじめ決めてあったチームの発表を始めた。
「まずは、紫と幽々子さん……あと鈴仙と妹紅の4人でいってもらう」
「あら?俊司君はこないね?」
「いくら外の知識があるからってここで通用するほどのものじゃないし、幽々子さんは実際にこの場所にいたんだから、道案内は幽々子さんにたのんだほうがいいだろ?」
「それもそうよね~。じゃあ他の二人はどういった理由で?」
「まずは鈴仙からだな。今回の潜入には一番重要な役割になるよ」
「ひょえ!?わっ私がですか!?」
「ああ。鈴仙の能力がこの作戦の要になるんだ」
と言いながら俊司は再び自分の考えた作戦の内容を話し始めた。
彼が言うには、鈴仙の能力である『狂気を操る程度の能力』によって操る波長を利用することで、施設内の兵士に気付かれず潜入できるとのことだった。
当初は紫のスキマを使って直接潜入することも考えていたらしいが、過去2回も紫の能力を使用していたため、警戒されることも含めて鈴仙の能力を使用することにしたんだとか。
「そういうことでしたか……わかりました。最善を尽くします」
「頼むよ。で……妹紅は俺たちに突撃の合図をしてもらおうと思ってるんだ」
「どうやってだ?空中に思いっきり火を打ち上げるか?」
「まあ、そんな感じかな。たぶん武器庫があると思うからそこにある爆弾に火をつけてほしいんだ」
「陽動も兼ねてるってことか……でも危なくねぇか?」
「そこは紫のスキマを使うよ。とにかく、最初は監視塔を抑えてそこからスキマを使って武器庫に火をつけてくれ。その合図で、俺と文・霊夢・妖夢で突入するから」
「わかったわ。じゃあ始めましょうか」
「気をつけてな」
紫は俊司の一言に合わせるようにして振り向きざまに手を振ると、他の三人をひきつれて施設へと向かっていった。
「さてと、ついに攻める時が来たわね」
「今までは守りだったからか?」
「ええ。さあ……好き勝手してもらった分……返させてもらいましょうか!」
「あはは……」
霧のかかった施設をみながら闘士をむき出しにする霊夢をみて、俊司は苦笑いを返すしかなかった。
革命軍拠点内 潜入チーム
監視塔への道中。一同は鈴仙を先頭にすたすたと歩いていた。
「で?この施設では何をしてるのかしら?」
「主に新兵器の開発や武器の修理かしらね~。あとは捕虜を管理する施設があったわよ~?」
「……そこに藍と橙は?」
「たぶんいなかったわ。おそらくもっと大きい施設にいるんじゃないかしら」
「そう……」
「あの~話をしてるときに悪いんだけどさ……」
「?どうかしたの?」
「……堂々としすぎじゃないか?」
と言って視線を泳がせる妹紅。そんな彼女のすぐ横を見知らぬ男が通り過ぎて行った。
そう。彼女たちは道のど真ん中を平然と歩いていたのだった。
しかし、周りの兵士はそんな彼女たちに気付くことなくすたすたと歩き続けている。それをみて妹紅は気味悪そうな顔をしていた。
「そうかしら?別にばれてないんだしいいんじゃない?」
「それはそうだけどさ……なんか変な気分になるっていうか……」
「まあまあ、もう少しのしんぼうだからね?……ほら、着いたわよ」
一同の前に現れたのは、建物のいたるところにへんな機械をとりつけた塔だった。監視塔と聞いてかなり高い塔を想像していた一同だったが、目の前の塔はせいぜい2・3階ほどのものだった。
「案外小さいのね?」
「この拠点はもともと人が少ないのよ。それに建設する際の費用?がどうのこうのってことでこのサイズになったらしいわ」
「へぇ……で、これどうやって入るんですか?」
「ICカードを使うらしいんだけど……私が持っているものはもう使えなくなってるはずだしね…」
「……ちょうどいいわ、誰か来たわよ」
と言って紫が指さす方向には、一人の男がめんどくさそうにしながらこっちに向かってきていた。
「あ~めんどくせ~…なんで俺が監視塔で仕事なんて…戦場にだせっての!」
男は愚痴をこぼしながら監視塔の扉に近づくと、ポケットから一枚のカードを取り出し扉の横にあったパネルにかざし始めた。
『IC認証中…確認しました。ロックを解除します』
がちゃっ
ロックが外れる音を確認した男は、扉を開けようとドアノブに手をかける。
その背後ではウサ耳をつけた少女が立っているのも知らず…
「動かないでください」
「えっ……」
少女の声とともに、男の背中に一本の指が突き付けられた。
背後から指を強く突き付けられた男はすべてを悟ったのか表情から一瞬で血の気がひいていった。
「貴様ら……いつのまに……」
「抵抗しないでください。言うことを聞いていただければ危害は加えません」
「……」
生命の危機にさらされビビり始めたのか、男は足をガタガタと震わせながら両手をゆっくりと上げ始めた。
「どうすればいい……」
「ドアを開けてください。ちなみに叫んでも無駄ですよ?あなたは今私たち以外の人たちには見えませんし、声も聞こえませんから」
「ぐっ……わかった」
男は震える手でドアノブを握ると、ゆっくりと開け始めた。
監視塔の中では数人の兵士がモニターを見ながら監視を続けていた。しかし、扉が開いたにもかかわらず、誰一人も振り向くことがなかった。
「くそっ!なぜ気付かないんだ!」
「はい、御苦労さま」
「えっ……うっ!」
鈴仙が男の背中に突き付けていた指をひっこめると同時に、妹紅が思いっきり頭を蹴り飛ばした。強い衝撃が男の頭の中を駆け巡っていく。そして、男は白眼をむいたまま思いっきり床にたたきつけられていった。
「これで大丈夫だろ」
「そうね。でもこんなに音をたてても誰一人気付かないものなのかしら?」
「まあ、念には念をいれて強いめにいじってますから」
「それは安心ね。じゃあ月の兎さん、私だけ見えるようにしてもらえるかしら?」
「なにをするつもり幽々子」
「おもしろいこと」
「……ぷっ。何言ってるのよ……まったく」
「じゃあ能力きりますよ」
「ええ。おねがい」
鈴仙はモニターを見続ける男たちにむけて手をかざしたり見つめたりしながら何かをしていく。幽々子はその行為がひと段落したのを見届けるとフゥと息を吐き、男たちに近づきはじめた。
「お疲れ様~。何か変わったことはあるかしら?」
「いや、今日は特にないぞ。これだけ静かだとなんか不気味なんだ……が……!?」
幽々子の問いかけに反応した男は、一瞬で血相を変えて後ろを振り向く。そこには扇子を口元にあて、ミステリアスな雰囲気を出した幽々子が、なぜか軽い笑みを浮かべていた。
「きっ……貴様どうやって!」
「まあいろいろあってね~。早速だけど……ちょっと眠っててもらうわね?」
「何を……うわぁ!?」
男が反論しようとした瞬間、どこからともなく桜の花びらが現れたかと思うと、一瞬で桜吹雪が吹き荒れ始め部屋を埋め尽くし始めた。桜吹雪は一階だけでなく階段を駆け上がり上層階にも流れ始めていく。
数分後、桜吹雪が姿を消した時、残っていたのはその場で立ち続ける幽々子の姿と、寝息をたてながら床に伏せる男たちの姿だった。
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