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第21話「皆、服装が変わってる件」
前書き
ネオ・代表05−1です。第21話「皆、服装が変わってる件」となります。
どうぞ、ご覧ください。
シャワーを浴び終えたスヴェートはいつも通りの軍服を着用し、部屋に戻った。彼女は大きな窓に掛かるカーテンを開く。
カーテンを開いた窓からは、例の世界樹―――ユグドラシルのような巨大な大木が見えており、晴れた空には少数の雲がたなびいている。
「…美しい」
しばらく眺めたスヴェートは再び身だしなみを整え、部屋の出口へと向かい、扉を開けて廊下へと出ていった。しばらく廊下を歩いたスヴェートは、階段を下っていく。彼女が向かう場所は、ラウンジだ。
「早く起きてしまったが、まぁ良いか」
一人呟いたスヴェート。全員寝室は二階の部屋を使っており、スヴェートと同じく個室を使っている。彼女が階段を下るのは、例の暖炉があるラウンジが地下1階にあるからだ。エレベーターが動かない為、階段を使うしかない。
そして、ラウンジに向かっている理由は、全員が集まり、朝の7時に朝食を摂るからだ。最も、豪華な食事は微塵も期待していない。このような空間だ、食料がある筈がない。現にだ、動物を1体も見かけていないのだから。虫も食料?…虫もいないが、居たとしても食べる気にはならない。
【レーション・バー】が入った小型ケースの取っ手を握るように右手で持ちながら、スヴェートは歩いていた。桐生と呼ばれていたうら若き女性が食料を配るとのことだったが、ならば私も分けるか、と躊躇することなく食糧を分けると決めた。私も食糧を分けるぞ、と当時は言っていない。したがって今日の朝、私も食糧を分ける旨を伝える次第。
ラウンジの扉を開け、通路を歩き、階下へと下り、ソファーに向かった。
「おはよう、スヴェート。よく眠れたかしら?」
スヴェートを迎えたのはソファーに座る一人の女性―――ネレディア。ガミラス軍の第八警務艦隊を率いる、20代の女性。肩を大きく露出させたドレスを着用している……ドレス?
「あぁ、よく眠れた」
スヴェートはネレディアが着ている服装を確認した。
ネレディアは背中を大きく開いた赤一色のドレスを着て、肩は大きく露出。両手には同じ色の赤いロンググローブをはめている。ドレスのサイドには腰まで切れ上がったスリットがあり、蒼い脚が艶めかしい。
……どこからどう見てもだドレスだ、……軍服は??スヴェートは内心、困惑しつつも絶句していた。持参したのかって聞くか?いや、駄目に決まってるだろう、ていうか、ドレスを持参する軍人が居てたまるか。
スヴェートが抱える内心で頭を抱えているのを知らないネレディアは、彼女に話し掛けてきた。
「ねぇ貴女、その手に持っている物は?」
スヴェートは困惑する内容を頭の片隅に追いやり、ネレディアに応える。
「あぁ、このケースの事か」
スヴェートは小型ケースを机の上に起き、ケースを開け、彼女はレーションが入っている事を伝えた。
レーション。
戦闘糧食とも呼ばれるこのレーションは長時間の遭難時に使用することも想定して作られており、レーションの種類にもよるが、最低でも数年間は傷まず保つ。
レーションは色々とあり、例えば【レーション・バー】。
レーション・バーは二種類ある。一つは、葉巻型のレーション・バー。一つは、現代にあるカロリーメイトの形をしているレーション・バー。
違いは形状のみだが、この1本で1日に必要最低限の栄養が摂れる上、特殊な成分により空腹を満たせる素晴らしいレーションなのだ。ちなみに、味はプレーン味のみだ。
スヴェートが持参したレーションはこのレーション・バーに該当し、その葉巻型バージョンを15個以上、小型ケースに入れていた。
ケースを閉じたスヴェート。
「……ほう」
なんだその間は、と内心ツッコミを入れたスヴェート。
あれか、まだ隠し持っているだろうっと言外に追求しているのか?持ってない持ってない、これで全部だ。というかだ、お前知っているだろう、古代達が持ち込んだ食糧を自分達に分けるって。
ネレディアから視線が刺さる。問い詰めるような視線ではないが、とにかく刺さる。
「飲み物を持ってくる」
スヴェートは自身に刺さる視線を知らん知らんと、席を外しキッチンに移動する。キッチンに移動した彼女は、ポットに満たした水とガラスコップ11個を持ってきた。
どいうわけか、何処からか水が供給されているようで、その水に有毒は皆無。おかげさまで飲用・洗濯・入浴などに使うことが出来た。
「よく眠れたかしら、バーガー?」
「おう、眠れたぜ」
スヴェートが水をガラスコップに注いでいる中、バーガーが階段を下りてきた。
「スヴェート大佐も眠れたか?」
降りたバーガーはソファーに座る。
全員分を注ぎ終えたスヴェートは、おはようの挨拶を交わした。
「バーガー、上官には敬語を使わないと駄目よ」
「今更だろうが、お互いに気にしてないんだからよ」
「それもそうね」
……バーガー、お前もか。スヴェートは内心ツッコミを入れた。ネレディアと同じく服装が変わり、バーガーの服装は軍服からグレーのファーマルな服装へと変わっていた。
少しして古代達、バーレン、メルヒがやって来た。……服装、変わってる。
はぁ、とスヴェートは溜め息を吐きたくなる思いを我慢し、改めて、朝7時に全員集合でラウンジに集まる理由を思い返す。
理由は2つある。
1つは、食糧の計画配分。これから何日ここに閉じ込められるのか分からない為、生きる為に最低限必要な量を公平に、毎日朝夕2回に纏まって摂ることにしたのだ。スヴェートは「言うのが遅れたが、古代達・バーガー達に食糧を分ける」と伝えた。これにより少なくとも2周間、食糧問題は問題ない。もう1つは、朝7時に集まって全員の1日の行動予定を決定し、夕食時に情報交換を行う為だ。こうすることで情報を集約し、何か脱出の糸口を掴もうと考えたからだ。
バーガーは4日間で自分達が調べた事を書き込んだ、このホテルの見取り図をテーブルに広げた。
「このホテルは4階建てだ、それはお前らも知ってるだろう。エントランスに止まったままのエレベーターには11階までの階数表示はあるが、壊れているのか動力がねぇのか、どちらにせよ動かそうにも動かせねぇ」
「これだけの広さがあれば、どこか壁を壊すことは出来ないのかしら?」
戦闘糧食のブロックを小さくかじった新見は、身体を乗り出して見取り図を注視した。戦闘糧食は、古代達のが無くなってからスヴェートの食糧を分けることとなった。その為、戦闘糧食は古代達のを食べている。
「それは無理だ。どこも壁が強固、金属の棒で殴ろうが銃を撃とうがビクともしなかったぜ」
バーガーは苦笑いしつつ、肩を竦めた。バーガーの話を聞いたスヴェートは、お前も銃を使ったんだなという視線を向ける。その視線は一瞬だけ向けただけで、誰も気づいていないようだ。
「そうすると、後は床か天井ってことよね」
新見は推理を纏め、それを聞いた全員は彼女に頷く。
そんな中、スヴェートは爆弾があれば楽なんだがなぁっと思っていた。それもその筈、爆弾という素晴らしき物があれば、壁を吹き飛ばすことが出来るのだから。
『あぁぁぁぁぁぁーー!!!』
突如として、ラウンジの外から叫び声―――悲鳴が聞こえた。悲鳴は廊下からか。
スヴェートは朝の分の戦闘糧食を急ぎ完食した後、ラウンジを出て、声があった方向の廊下へと一番に駆け寄った。ブラスター・ピストルをホルスターから出し、銃口を構える。後ろから足音が続く。
「い、イテテテ…ッ」
「…?」
スヴェートは目が点となった。え、何これ?
何をどうしたのか分からなかったが、廊下に開いた大きな穴に沢村が落ちていたのだ。穴の深さは1mもない。落ちた穴に彼は横になりながら、頭を抱えていた。スヴェートは、ホルスターに持っていたブラスター・ピストルを戻した。
スヴェートの後ろに続いていた古代達・バーガー達が到着し、全員で穴を囲んだ。沢村は既に、スヴェートにより救助された。
沢村が言うには、だ。
朝早くホテル内を歩き回っていたら…以下略。つまり彼が落ちた穴は、床が腐った為に穴を形勢してしまった、ということだろう。
怪我がなくて本当によかったとスヴェートは安堵したが、同時にちょっと馬鹿な姿だなっと笑いそうになった。穴を囲んでいる中、バーガーが声を挙げた。
「これは地面じゃねぇか?それに土だぜ」
そう言われ、全員は見つめた。バーガーの言う通り、床下に土の地面が見えていた。であればだ、此処だけは、他の部分のような固い素材ではないのは容易に分かった。
「この地面を掘り進めれば、脱出が出来るかもしれないな」
スヴェートは、穴を覗き込みながら発言する。外へと出られる可能性が生まれたのだ。外に出れる保証はないが、やってみる価値はある。
この場に集まる全員が納得し、賛同する。反対意見は0により、直ぐさま行動に移した。穴掘りに使えそうな物をかき集めた。料理道具だろうが食べる時に使うスプーンだろうが、とにかく集めに集め、そして穴掘りを開始した。
国を超え、人種を超え、一丸となって穴掘りに集中した。誰もが想う心は1つ、『脱出』だ。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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