英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第37話
~旧市街~
ヴァン達がガレージに到着すると、傘を差したアニエスがガレージ前で待っていた。
「おっと。」
「用事、すんだみたいですね。」
「マジで待ってやがるとは、クソ真面目な小娘だな。」
アニエスを確認したヴァン達は車から降りてアニエスに近づいた。
「お帰りなさい、皆さん。記念公園の方はどうでした?」
「はいっ、滞りなく。」
「…………?なんだ、微妙に疲れた顔してるな。」
アニエスの表情がいつもと僅かに違うことに気づいたヴァンは眉を顰めてアニエスに指摘した。
「え……そ、そうですか?そんなことはありませんけど。その、急な用事ですみませんでした。今日の活動については――――――」
「―――――アンタが解決屋って人だな?」
ヴァンの指摘に対して答えを誤魔化したアニエスがヴァン達に謝罪しようとしたその時、アニエスと同じアラミス高等学校の制服を身にまとった男子学生が真剣な表情でヴァンに声をかけた。
「…………?」
「えっと…………?」
「なんだ、この小僧は。」
「ア、アルベール君?どうしてここに………」
男性学生と初対面のヴァン達がそれぞれ不思議がっている中、アニエスは目を丸くして男子学生に訊ねた。
「ああ、アラミスの同級生か。そういや制服も着ているな。」
「お、もしかして彼氏かよ?」
「!そうなんですかっ!?」
アニエスの反応で男子学生とアニエスの関係を察したヴァンは納得した様子で呟き、冗談半分で指摘したアーロンの指摘を本気にしたフェリは驚きの表情でアニエスに確認し
「い、いえ、昔からのお友達で――――――」
「単刀直入に言う――――――これ以上、”アニエスを誑かさないでくれないか!?”」
確認されたアニエスが答えかけたその時、男子学生はヴァンを睨んである要求をした。
「………………………………は?」
「ア、アルベール君っ…………!?」
男子学生――――――アルベールの要求に少しの間目を丸くして黙り込んだヴァンは呆けた声を出し、アニエスは困惑の表情で声を上げた。
「アンタの噂は色々聞いた…………なんでも違法スレスレの依頼をこなすヤクザ者だそうじゃないか!?どうせお人好しな彼女に付け込んで無理矢理働かせているんだろう!?」
「ま、待ってアルベール君…………!ヴァンさんはそういうのじゃ――――――」
「アニエス、君は黙っていてくれ!――――――どうした、答えられないのか!?」
(まさに”恋は盲目”ですね…………)
アニエスの制止の言葉を軽く流してヴァンを睨み続けるアルベールの様子にメイヴィスレインは呆れた表情で溜息を吐いた。
「まあ待て、落ち着け少年。…………そうか、この前の大遅刻の件についてだな?”実家”からの呼び出しもあっていよいよ心配になっちまったわけか。」
一方ヴァンはアルベールの行動に察しがつくとアルベールに確認した。
「っ…………ど、どうして…………」
「ま、聞いてりゃ誰でもわかるわな。ピュアだねぇ~、学生クンは。」
「ふふ、親切な人ですね。」
「ゆ、友人を心配して何が悪い!?そもそも彼女を軽々しく雇うなんてのが間違ってるんだ!そんな所でバイトしているなんて知られたらお父上の名前に――――――」
アーロンにからかわれ、フェリに微笑ましそうに見つめられたアルベールは反論した後真剣な表情を浮かべてあることを口にしようとしたが
「―――――アルベール君っ…………!」
「…………すまない、だけど僕は…………!」
アニエスが声をあげると我に返ってアニエスに謝罪した後、複雑そうな表情であることを口にしようとした。
(ハン……?)
(…………”お父上”…………?)
(……………………)
一方アルベールのある言葉が気になったアーロンが眉を顰め、フェリが首を傾げている中、ヴァンは目を伏せて黙り込んでいた。
「あーっ、やっぱりここに来てた!もー、アルベールはすぐ先走るんだから~!」
「うふふ、らしいけどね。」
するとその時別の女子の声が聞こえるとアルベールと同じおさげ髪の女子生徒が呆れた表情でアルベールに指摘し、隣にいたレンは静かな笑みを浮かべて呟いた。
「!」
「オ、オデットに…………ヘイワーズ先輩!?それにレジーニアさんとアンリエットさんも…………」
「あ、またお友達ですねっ………って、ええっ!?て、天使様!?それに隣にいるのは…………」
「ハン、次から次へと。…………しっかし、まさか”天使の学生”までいやがるとはな。」
レンと女子生徒――――――オデットの背後にいるレジーニアとアンリエットに気づいたヴァンは目を見開き、アニエスは驚き、フェリはレジーニアに気づくと驚きの表情を声を上げた後アンリエットに気づくと真剣な表情を浮かべ、アーロンは呆れた表情で呟いた後興味ありげな様子でレジーニアを見つめた。
「オデット、先輩やレジーニアさん、アンリエットさんまでどうして…………」
一方アルベールは複雑そうな表情でオデット達に訊ねた。
「ダメじゃない、見守ってあげよってちゃんと話したでしょ?まったくアニエスのことになるとすーぐ周りが見えなくなるんだから。」
「フム、これこそが”恋は盲目”というものなんだろうね。」
(あ、あのレジーニアさん。そういうことはせめて本人さんがいない所で言ってあげた方が…………)
「ばっ、ちがっ、僕は別に…………!
オデットと共に指摘したレジーニアの指摘にアンリエットが気まずそうな表情を浮かべて小声で指摘している中、アルベールは必死の様子で反論しようとしていた。
「どうも初めまして!あたし、オデットって言います!ウチのアニエスがいつもお世話になってるみたいで!わわっ、貴女がフェリちゃん!?メチャクチャ可愛い~っ!!アーロンさんも聞いてた以上の超絶イケメンですねぇ!そしてヴァンさん―――――チョイ悪っぽいけど結構カッコイイじゃないですか~!思ってたよりずっとお若いし!もっとオジサンなのかと、な~んて!」
「お、おう…………」
「ちょ、ちょっとオデット、失礼ですってば…………!」
「あはは…………」
「ハン、姦しいことこの上ねぇな。」
自己紹介をした後興味津々の様子で自分達を見回して次から次へと感想を口にするオデットにヴァンは戸惑った様子で返事をし、フェリとアーロンは苦笑していた。
「あたしはレジーニアだ。見ての通りあたしの種族は天使だが…………アーロンだったか?君が契約している”守護天使”もそうだが”使霊”もあたしにとっては興味深い存在だから、機会があれば是非話をさせてくれ。――――――それとヴァンに関しては”久しぶり”だね。」
「ああ、3年ぶりくらいになるか。その制服姿、中々似合っているじゃねぇか。」
「ふふっ、誉め言葉として受け取っておくよ。」
「え……」
「な……」
「あれっ!?レジーニアとヴァンさんって知り合い同士なの~!?」
レジーニアは自己紹介をしてアーロンに視線を向けて自分の希望を告げた後ヴァンに声をかけ、声をかけられたヴァンは答えた後苦笑しながらレジーニアに指摘し、知り合い同士の様子で話すヴァンとレジーニアのやり取りにアニエスは呆け、アルベールは信じられない表情で絶句し、オデットは目を丸くして声を上げた後驚きの表情でレジーニアに確認した。
「そうだよ。ちなみにアンリエットもヴァンとは知り合い同士だよ。」
「は、はい。―――――ヴァンさん以外の事務所の方達は初めまして、ですね。私はアンリエット・セミフと申します。私とレジーニアさんは3年前にヴァンさんと知り合い、何度かお世話になりました。」
オデットの言葉を肯定したレジーニアに視線を向けられたアンリエットは頷いた後自己紹介をした。
「へ~!アンリエットもヴァンさんと知り合い同士なんだ~!ねぇねぇ、3年前に二人とヴァンさんの間には一体何があったの~?」
「そ、それは…………」
「……………………」
興味ありげな様子でヴァンとの関係を聞いて来るオデットの質問にアンリエットが口ごもっている中、アニエスは複雑そうな表情を浮かべてヴァンとレジーニア、アンリエットを見比べていた。
「すまないがその件については守秘義務があっておいそれと話すことはできないんだ。――――――ああそれとアルベール。君の口ぶりだと大方旧首都でのヴァンの評判だけでヴァンを怪しげな人物だと決めつけているようだが、彼はあたし達のアラミスへの留学の為のお金を出してくれているメンフィル帝国の貴族もそうだが、皇族の一部からも信頼されて互いの連絡先の交換も許された人物だよ。”貴族もそうだが皇族への直通の連絡先を知る事が許されることがどういう意味を示している”のかは、アニエスの事を心配している君ならわかるんじゃないかい?」
「な、な、な…………っ!?」
「ええ~っ!そんな気になることを聞いたら、益々二人とヴァンさんの間に何があったか気になるよ~!」
レジーニアの指摘を聞いたアルベールが口をパクパクさせて信じられない表情を浮かべている中、オデットは興味ありげな様子で声を上げた。
「クスクス…………いきなり来て騒がしくしてごめんなさい。私達、アラミス高等学校で”生徒会”をやっているの。アニエスも庶務としてずっと一緒にやってきた仲間でね。ウチの会計君も心配でたまらなくなっちゃたみたい。レジーニアさんとアンリエットさんは”生徒会”ではないけど、偶然にもアニエスのアルバイト先の”雇い主”とアラミスに来る前からの”お知り合い”だそうだから、二人には不慣れな旧首都の案内も兼ねてこうして私達と一緒に挨拶をする為に訊ねさせてもらった次第よ。」
その時レンが微笑みながらヴァンに理由を説明した。
「…………いや、気にすんな。その心配もごもっともだしな。あくまで彼女自身の意志を尊重すんのは変わりねぇが。」
「ぐっ…………!」
「ヴァンさん…………」
「ま、結局はそこだしねぇ~。」
ヴァンの答えを聞いたアルベールは唸り声を上げ、アニエスは目を丸くし、オデットは苦笑していた。
「うふふ、くれぐれも安全には配慮してくれると助かるわ。生徒会長としても、だけど”同じ寮のお隣さん”としてもね。――――ほら、アルベール君。彼女はまだ用事があるみたい。私達はこれで失礼するわよ。」
「ま、待ってください先輩っ、僕はまだ…………!」
レンに自分達と共にこの場から立ち去るように促されたアルベールはレンに反論しようとしたが
「アルベール君――――――頼んでおいた例の予算割り当てはどうなってるの?当然、終わらせてから来たのよね?」
「そ、それは…………」
意味ありげな笑みを浮かべたレンに問いかけられると口ごもった。
「ふう…………アニエスは面倒な購入申請をとっくに終わらせてくれてるわよ?まずは自分の筋を通しなさい。人に意見するのはそれからよ。」
「…………うう…………」
更にレンの正論に返す言葉がないアルベールは肩を落とした。
「それでは御機嫌よう、”解決屋”さん。――――――アニエスは寮でね。」
「また明日ね~。でも、あんまり遅くならないように!」
「それじゃあね、ヴァン。主にも君の事を伝えておくよ。」
「え、えと…………失礼します!」
「う、うん、ありがとう!――――――先輩とアルベール君達もまた!」
そしてレン達は別れの挨拶をしてその場から立ち去ったが、レンは去り際にヴァンにウインクをして去って行った。
(なんだァ…………あのスミレ髪?)
(…………学生さんにしては只者じゃない雰囲気でしたね。)
(…………3年ぶり、か。あの仔猫がマジで見違えたもんだぜ。)
アーロンとフェリがそれぞれレンを気にしている中、ヴァンは3年前初めて出会ったレンと今のレンを見比べて感心していた。
その後、モンマルトのアルバイトに戻るユエファと別れたヴァン達は事務所に戻った。
~アークライド解決事務所~
「―――――で、結局なんだったんだ?手配魔獣の退治よりも優先した”実家”からの呼び出しってのは?」
「っ…………」
「そんな言い方…………別にわたしたちで問題なく対処できましたし。」
事務所に戻ってそれぞれソファーに座るとアーロンはアニエスに問いかけ、アーロンの問いかけに息をのんだアニエスが複雑そうな表情を浮かべている中、アニエスの表情を見たフェリはアニエスを庇うためにアーロンに指摘した。
「たりめーだ。そういう話をしてんじゃねーよ。急用があんのはいい――――――だが、関係者が乗り込んでくるのは別だろ。てめぇ自身はともかく、ちゃんと周りにも”スジ”を通してんのかって話だ。」
「そ、それは…………」
「……………………」
アーロンの指摘に対して答えを濁しているアニエスをフェリは不安そうな表情を浮かべて見つめた。
「一般人だろうが黒月だろうが猟兵だろうがそこん所は同じだろ。――――――本来てめぇが突っ込むべきじゃねえのか?」
「ま、確かにな。”親父さん”あたりからそろそろ突っ込みが入ったか?」
アーロンの指摘に頭を掻きながら肯定したヴァンは苦笑を浮かべてアニエスに確認した。
「ど、どうしてそれを…………」
ヴァンの指摘に目を丸くしたアニエスは驚きの表情でヴァンを見つめた。
「いや―――――”あくまで一般論だぜ?”」
「!…………」
「俺のスタンスは最初から話してる通りだ。だが決めるのはお前だ――――――バイトを続けるのも止めるのもな。ああいった突っ込みが来るとなるとそうそう無理はさせられねぇが。」
「ヴァンさん…………」
「…………その逆、です。呼び出しもただの定期連絡で。父は忙しい人で………フェリちゃんみたいに手紙のやりとりすらろくにできなくて。…………3ヶ月ぶりに話せると思ったのですみません、途中で外してしまって…………」
「そう、だったんですね…………」
「…………ハッ…………」
アニエスの話を聞いたフェリは相槌を打ち、アーロンは鼻を鳴らした。
「…………本当は先日の遅刻の件とかバイトについて怒られると思ったんです。でも、”知っている筈”なのに一言も咎められることもなくて――――――」
複雑そうな表情を浮かべてアニエスは父親からの連絡について思い返した。
~数時間前~
「…………お父さん、どうして――――――なんで何も言ってくれないんですか…………?突然常に私と一緒にいることになった人と話をしたいとか、危険なアルバイトはやめろとか、無断で地方に行ったりするなとか…………!」
「成績も期待通り、出席日数も守っている。先日の遅刻についても許容範囲だ。生徒会庶務としての評判もいい――――――”世間一般的”にはよくやっているだろう。その意味で”プライベート”にまで口を出す必要は感じないというわけだ。それと”お前と契約している天使”についてだが…………性別はお前と同じ女性との事だし、年末に帰省した時にでも挨拶をすれば特に問題はない。」
「…………っ…………」
(…………なるほど。唯一の血縁者である父親のアニエスに向ける態度が”これ”では、アニエスの為に説教をした私を家族との”繋がり”を大切にしているアニエスが”姉”――――――”家族”のように感じても仕方ありませんね…………)
ヴァンと出会ってから以降の自分の周りの変化や行動について何も咎める事なく淡々と答えた父親の反応にアニエスは辛そうな表情で唇を噛み締め、その様子を見守っていたメイヴィスレインは僅かに複雑そうな表情を浮かべた。
「アニエス、お前に望むのは二つ。私を煩わせないこと――――――そして母さんに恥じない行動を心がけること。それが守れるならば行動の制限はしない。困ったことがあれば”彼ら”に言いなさい、大抵は応えるだろう。わざわざバイトをする”手間”も省けると思うがね――――――」
~現代~
「―――――ですから、大丈夫です。バイトを続けても良さそうなので。これからは今日みたいに突然外すこともないと思います。」
「アニエスさん…………」
「…………ハン…………」
「ま、家庭の事情に突っ込むつもりはねぇが…………――――――フェアなのは悪くねぇ。お前を信頼している証拠だろう。バイトにしても”ゲネシス”にしても決めるのはお前だ――――――違うか?」
「…………いえ、違いません。改めてよろしくお願いします――――――ヴァンさん、フェリちゃんにアーロンさんも。」
ヴァンの指摘に目を丸くして首を横に振って答えたアニエスはヴァン達を見回した。
「はい、もちろんですっ。」
「ハッ、精々ヨロシクしてやるよ。」
「お前は後輩だろうが…………――――ま、こちらこそよろしくだ。ただしお友達は何とかしろよ?毎度、突撃されちゃあかなわねぇ。」
「はい、しっかり誤解を――――――…………上手く言い繕っておきますので。」
「クク、マトモに説明したらあの小僧とか泡吹きそうだしなァ。」
「なるほど…………これが『ウソも方便』ですか!」
ヴァンの注意にアニエスが申し訳なさそうな表情で答えるとアーロンはアルベールを思い浮かべてからかいの表情で指摘し、話を聞いていたフェリは納得した様子で呟いた。
「ううっ…………正しい用法ですけど参考にしちゃダメですからね…………?」
フェリの様子にアニエスは疲れた表情で指摘した。
「そういや、そのダチで気になっていたが『アンリエット』っつったか?ファミリーネームが黒龍城塞で偶然出会ってそのままなし崩し的に共闘してアルマータの幹部達を撃退した”見習い門番”を名乗っていたあのリタとかいう幽霊と同じのようだが、何か関係あんのかよ?」
「えっと、その事なんですが…………私もアンリエットさんとリタさんのファミリーネームが一緒である事に気づいて、煌都から戻った日の翌日にアンリエットさんに聞いてみたのですが…………明らかに答え辛そうな表情を浮かべながら答えを濁していたので、何か事情があると判断してそれ以上聞くことは止めたのですが…………アンリエットさんの反応から察するに、少なくてもアンリエットさんにとってリタさんはとても大切な人のようなんです。」
あることが気になっていたアーロンの疑問にアニエスは複雑そうな表情を浮かべてアンリエットにリタの事を尋ねた時の事を思い返した。
~9月22日・アラミス高等学校~
「それで私に話があるとの事ですが、どういった話なのでしょうか、アニエスさん。」
「その……実は先日私はアルバイト先の仕事の関係で”ラングポート”という都市に出張していたのですが…………その時にリタさんという”幽霊”の方と出会い、少しの間だけお世話になったことがあったんです。」
「えっ!アニエスさん、リタさんとお会いしたんですか…………!?」
アニエスの話を聞いたアンリエットは驚きの表情で声を上げてアニエスに確認した。
「その様子ですとやはりアンリエットさんとリタさんは何らかの関係があるんですよね?ファミリーネームも同じのようですし…………」
「あ……っ!え、えっと、それは…………その…………」
アンリエットの反応を見てアンリエットとリタが何らかの関係があることを悟ったアニエスはアンリエットに確認し、アニエスの確認に対してアンリエットは声を上げた後明らかに言い辛そうな表情を浮かべて答えを濁していた。
「えっと…………何か言えない事情があるのでしたら、別に無理に答えてもらわなくても大丈夫ですよ?」
アンリエットの様子を見たアニエスは気まずそうな表情を浮かべてアンリエットに指摘した。
「申し訳ございません…………その…………色々と事情がありまして…………」
「あはは………謝る必要なんてないですよ。誰にだって話せない何らかの事情はあるのですから。」
「お気遣いいただきありがとうございます。アラミスに来たばかりの私やレジーニアさんによくしてくれた上、友人にもなってくれたアニエスさんにリタさんと私の関係を話せないことは心苦しいのですが…………これだけは言えます。――――――リタさんは私にとって、とても大切な人であると。」
アニエスに気づかいに申し訳なさそうな表情で答えたアンリエットはリタを思い浮かべて優し気な微笑みを浮かべて答えた。
~現代~
「”大切な人”ねぇ………あのロリババアは”そもそも人ですらない幽霊”だが、そこん所、アンリエットとかいうお前のダチは知っているのかよ?」
「リタさんの事を聞いた時に、最初にリタさんの事を”幽霊”と言いましたけど、それについては特に反応しませんでしたから、恐らくアンリエットさんもリタさんが”幽霊”であることはご存じだと思うのですが…………」
アニエスの話を聞いて更なる疑問を抱いたアーロンの指摘に対してアニエスはアンリエットの反応を思い返しながら答えた。
「ハッ、実はアンリエットとかいうお前のダチも”幽霊”で、リタとは姉妹だったとかいうオチなんじゃねぇのか?」
「さすがにそれはないと思うのですが…………」
アーロンの推測に対してアニエスは否定寄りの答えを口にした。
「…………いえ…………アーロンさんの推測も強ち間違っていないかもしれません。」
「あ?どういう意味だ、そりゃ。」
その時フェリが複雑そうな表情で答え、フェリの答えが気になったアーロンは続きを促した。
「あのアンリエットさんという方も、”ゲネシス”によって”屍鬼化”した半グレ達もそうですがリタさん同様”息吹がなかったんです。”」
「おいおい、マジかよ。」
「ええっ!?そ、それじゃあ本当にアンリエットさんも…………――――――!そういえば、レジーニアさんとメイヴィスレインは知り合い同士で、以前少しだけ互いに話をしたのですが、その時にレジーニアさんはメイヴィスレインに”アンリエットさんは守護霊だから浄化しないように気を付けて欲しい”みたいな事を仰っていましたが…………」
フェリの答えを聞いたアーロンは真剣な表情を浮かべ、アニエスは驚きの表情で声を上げた後あることを思い出した。
「ハッ、”天使”が”幽霊”を庇うとか、どんな関係なんだよ、あの二人は。」
「えっと、アンリエットさんとレジーニアさんの関係は二人のアラミスへの留学関連に色々とお世話になった”後ろ盾であるメンフィル帝国の貴族に仕えている者同士”という話は伺っていますが…………――――――メイヴィスレイン、アンリエットさんの件で聞きたいことがあるのだけど、今いいかしら?」
「――――何を聞きたいのですか?」
アーロンの推測に自分が知っている知識で答えたアニエスはメイヴィスレインを呼び、その場に召喚されたメイヴィスレインはアニエスに問いかけた。
「”守護霊”とは一体なんなの?あの時は授業の直前で説明する時間がないから、その内教えてくれるみたいなことになって、有耶無耶になったけど…………」
「…………そうですね。この場にはヴァン達もいてちょうどいい機会でもありますから、答えて差し上げます。”守護霊”とは――――――」
アニエスの問いかけに対して頷いたメイヴィスレインは”守護霊”のことについてその場にいる全員に説明した。
「要するに”守護霊”とやらは、姉貴やお前みてぇな”幽霊の使い魔版”みたいなもんか。」
「……私とマルティーナのそれぞれの契約者との”契約”は厳密には違いますが、その解釈で概ね正解です。――――――説明は終わったので私はこれで失礼します。」
説明を聞き終えて納得した様子で呟いたアーロンの解釈にメイヴィスレインは肯定した後アニエスの身体の中に戻り
「えと…………アニエスさん、すみません。アンリエットさんがリタさんとの関係を答える事を濁していたのも、恐らく自身がリタさんと同じ”幽霊”であることが関係していると思いますから、それを知ったアニエスさんとアンリエットさんの関係が気まずくなるかもしれない事を何も考えずに口にしてしまって…………」
「あはは………少なくても私はアンリエットさんが”幽霊”だからと言って、アンリエットさんとの友人関係を崩すつもりはありませんから、フェリちゃんが謝る必要なんてないですよ。」
申し訳なさそうな表情で謝罪するフェリにアニエスは苦笑しながらその必要はないことを伝えた。
「……………………っと、この番号は――――――」
アニエスの答えを聞いたヴァンが静かな笑みを浮かべて見守っているとヴァンのザイファに通信音が鳴り、音に気づいたヴァンはザイファを取り出して通信番号を確認した後通信を開始するとディンゴの映像がザイファに映った。
「―――――ヴァン、今いいか?」
「ディンゴか…………そっちからってのも珍しいな。どうした、なんか依頼があれば一区切りついたし相談に乗るぜ?」
「フッ、話が早くて助かる――――といっても俺からの依頼じゃない。ちょっとしたツテから”裏解決屋(お前たち)”への仲介を頼まれてな。事務所の端末番号を教えた。受けるかどうかは話して決めてくれ。」
「ハン…………?まあいい、了解だ。」
「ゴシップ記者兼情報屋だったか?俺様ほどじゃねえがイケメンだな。どこぞのオッサンとは違って。」
ヴァンがディンゴとの通信を終えるとアーロンはディンゴに関する感想を口にした。
「このガキ…………表に出るか?」
(わたしはヴァンさんも”いけめん”だと思いますけど。)
(ふふっ、ヴァンさんが聞いたら泣いて喜んじゃうかもです。)
ヴァンがアーロンを睨んでいる中、小声で呟いたフェリの言葉にアニエスは微笑みながら同意した。するとその時事務所の端末に通信が来た。
「っと、早速来たか。」
そしてヴァン達は事務所の端末での通信を始めた。
「あー…………よかった、繋がったみたいですね。」
「え……」
「なに……!?」
「こ、この方って…………」
「おいおい、驚いたな――――――」
端末に映った人物を目にした助手たちがそれぞれ驚いている中ヴァンは目を丸くして呟いた。端末に映った人物とは、なんと人気女優の一人であり、記念公園で出会ったニナ・フェンリィであった。
「ふふ、昼間見なかった方もいらっしゃるみたいですね。――――――ディンゴさんに紹介して頂いた、依頼人のニナ・フェンリィです。」
そしてヴァン達はニナから依頼についての詳しい話を聞き始めた――――――
ページ上へ戻る