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【KOF】怒チーム短編集

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何でも許せる方向け(コメディ/ギャグ)
  ウィップとレオナのガールズトーク ~ラルハラも添えて~

 午後三時を過ぎた頃、事務作業が一段落した。
 ウィップは同じく仕事が落ち着いたレオナを誘い、空母内のカフェへ向かった。
 大好物のハニーミルクラテ(蜂蜜多め)を購入して、レオナと一緒に執務室に戻ったウィップは、早速、隣の席のレオナに話しかけた。

「ねえ、レオナ」
「何?」
「もしもこの世に男が大佐と中尉しかいなくて、どちらかと結婚しなければならないとしたら、どっちを選ぶ?」

 軽い気持ちで訊いたウィップとは対照的に、レオナは「えっ」と戸惑ったような声を漏らし、真剣な表情で考え込んでいる。

「そうね……どちらかしか選べないのだとしたら、大佐を選ぶわ」
「ええっ!? 信じられなーい! あんな大雑把でいい加減で、口も人相も悪くて、おまけにハラスメントまでしてくるような筋肉ゴリラのどこがいいのよ?」

 日頃からラルフにムチ子呼ばわりされて反発心を抱いていたウィップは、レオナの選択に対してつい否定の限りを尽くしてしまった。

「体型については、大佐も中尉も似たりよったりだと思うけど……」
「微妙に違うのよ。それで、大佐のどんなところが素敵だと思うわけ?」
「大佐はああ見えて洞察力があるし、包容力もあるわ。それに、一見強面だけど、よく見ると優しい目をしているのよ。きっと本来の性格が表れているのね」

 レオナはいつもと変わらない無表情で淡々と答えた。その冷めた反応とは裏腹に、青い瞳がきらきらと輝いている。まるで恋する少女のように。
 と言っても、親子ほど歳の離れたラルフに対して恋愛感情など抱いてはいないだろうが……。

「レオナ……それは全部、好意的誤解だと思うわ」

 ウィップは小さく息をつき、ハニーミルクラテを一口飲んだ。
 たとえ世界がひっくり返ったとしても、私は大佐を男として見ることはできないわ……と思いながら。
 一方、レオナは好意的誤解という言葉に対して特に意義を唱えるでもなく、「あなたは中尉を選ぶの?」と尋ねてきた。

「もちろん! 彼は大佐と違ってクールで知的だし、女性の扱い方もスマートでしょう? それに、何と言ってもサングラスを取った素顔がイケメンモデル並に整っているのが魅力的なのよ」
「ウィップって、意外と面食いなのね……」

 レオナが若干呆れたような声で言った。
 ウィップはふふんと笑い、立てた人差し指を左右に振る。

「わかってないわねぇ。男は顔と知性よ。あなただって、頭の悪いブサメンよりは、知的なイケメンのほうがいいと思うでしょ?」
「ええ、まあ……」

 レオナはあまり興味が無さそうな声で曖昧に肯定し、カフェラテを飲んだ。
 彼女の反応を見て、ウィップはつい勘ぐる。
 本当は異性を選ぶ際に顔と知性を重視していないのか、それとも、男や恋愛そのものに興味が無いのか――と。
 だが、あえてそれらの点には触れずに話を進める。

「でも、中尉はあんなにイケメンで知的で常識人なのに、どうしてあの歳になっても独身のままなのかしら? あの強烈なキャラの大佐でさえ一度は結婚したことがあるっていうのに」
「その理由……聞いたことがあるわ」
「ほんと!? 興味あるわ。こっそり教えてよ」
「ええ、いいわよ」

 レオナは椅子ごとウィップに近づき、元々小さい声をさらに潜めて話し出した。

「……大佐いわく、中尉は常識人の皮を被ったやべぇ奴だそうよ」
「そう、大佐がそんなことを……。で、中尉はどうやばいの?」
「病的なプロレスマニアかつガンマニアで、その二つについて語り出すと翌朝まで止まらなくなるらしいわ。その他にも、ベッドの上でプロレスの寝技をかけたがる性癖があるとか……士官学校時代の癖が抜けなくて、掃除や靴磨きやベッドメイクのやり方に物凄くうるさい小姑みたいな奴だとか……そんな噂を聞いたわ」
「その噂が全部事実だとしたら、結婚どころか恋愛にも向いてなさそうね……」

 ウィップは指先を額に当て、溜め息をついた。

「中尉が結婚できない理由は大体わかったけど、大佐が離婚した理由は何なのかしらね?」
「さあ……それは知らないわ」
「あの人のことだから、どうせモラハラやDVで離婚したに違いないわよ」

「誰がモラハラDV夫だとぉぉぉっ!?」

 突然、ドスの利いた声が背後から聞こえてきた。
 ウィップは嫌な予感に駆られ、スローモーションのように振り返る。
 案の定、鬼のような形相をしたラルフが見下ろしていた。

「た、大佐! いつの間にそこにいたんですか!?」
「さっきからずっといたぞ。ったく、俺の気配に気づきもしねえでくっだらねぇ噂話ばかりしやがって。それでも特殊部隊の一員か?」

 ラルフは呆れたようにふんと鼻を鳴らした。
 悔しいが、彼の気配に全く気づかなかったことは完全に不覚だ。今回に限っては返す言葉も無い。

「……申し訳ありませんでした」

 ウィップとレオナは声を揃えて頭を下げた。

「ああ、レオナ。謝らなくてもいいぞ。お前は俺の魅力をよーくわかってるからな」

 ラルフは娘にデレデレな父親の如く頬を緩め、気安くレオナの肩をぽんぽんと叩いた。

 ――まったく、レオナに対しては甘いんだから。部下によって露骨に態度を変える上官なんて、上官失格よ!

 内心不満たらたらのウィップは半眼でラルフを睨む。
 その視線に気づいたラルフが締まりのない笑顔を一変させ、険しい表情を見せた。

「ムチ子、てめえは上官に対する不敬罪で追って処罰する。覚悟しとけよ」
「不敬罪って……王族や皇族じゃあるまいし」

 ウィップはぼそりと呟き、鼻で嘲笑った。

「あ? 何か言ったか!?」

 ラルフがぎろりと睨んできた。
 ウィップは首を横にぶんぶんと振り、「いえ、滅相もございません」と否定する。
 これ以上反抗を続けると余計な仕事を押し付けられそうだからだ。

「そうかそうか。王族や皇族じゃあるまいしとか何とか聞こえてきたような気がしたが、気のせいだったようだな」

 ――なによ、しっかり聞いてたんじゃない! 嫌な男!

 ウィップはラルフをきっと睨み、心の中で吐き捨てた。

「それじゃ、またあとでな。ウィップ君」

 ラルフは嗜虐的な笑みを残し、悠然と去っていった。
 遠ざかっていく彼の背中を見つめながら、ウィップは顔を引きつらせた。
 日頃はムチ子というあだ名で呼んでくる彼が『ウィップ君』などと言い出し、おぞましい笑顔を見せた時は、凄まじい量の事務仕事を押し付けてくる前触れだからだ。

 数分後、大量の書類を抱えたラルフが近づいてくるのが見えた。

「ほらよ、仕事を持ってきてやったぜ」

 ラルフはさも面白そうに言い放ち、ウィップのデスクに書類をどさっと置いた。
 塔のように聳える書類を見て、ウィップは目を剥き、口をあんぐりと開く。

「ちょっ……何ですかこの書類の山は!?」
「クラークに頼もうと思ってたやつなんだが、あいつも秘書業務にマネジメント業務にと忙しい身なんでな。こんな書類仕事を頼んじゃさすがに可哀想だと思って、お前に任せることにしたんだ。暇そうにしていたからなぁ、噂話なんかして」

 ラルフはにやにやと笑いながらウィップを見下ろした。
 部下に罰を与える時、彼は実に楽しそうな顔をする。

 ――部下にパワハラをして喜ぶだなんて、ほんと趣味の悪いクソオヤジねっ!

 心の中で悪態をつき、ウィップは口を尖らせる。

「えーっ、せっかく定時で上がろうと思ってたのにぃ……」
「文句言うんじゃねえ! これは上官命令だ!」

 憤怒の形相をしたラルフが雷のような怒声を放つ。
 ウィップはとっさに耳を手で覆い、顔をしかめた。

「そんな大きな声を出さないでくださいよ! 鼓膜が破れちゃうじゃないですか!」
「下っ端の分際で上官に楯突くほうが悪いんだ。さあ、お前の大好きな中尉殿のお力になれると思って頑張りたまえ、ムチ子君」
「あ、またムチ子って言った! パーソナルハラスメントで教官に報告しますよ!」

 ウィップは両拳を握り、声高に抗議した。
 だがそれも虚しく、ラルフはひらひらと手を振りながら去っていった。

「もう、上官命令って言えばどんな横暴も許されると思って……」
「大変ね、ウィップも……」

 レオナが同情の眼差しを向けてきた。
 だからと言って、ラルフから押し付けられた仕事を手伝ってくれるわけではなく、自分の業務を終えるとさっさと退室してしまった。
 ああ、なんて冷たい同僚なのだろう!

「はーあ、今日は残業確定かぁ……」

 特殊作戦課の島に一人残されたウィップは、一向に低くなる気配の無い書類の塔に絶望し、再び深い溜め息をついた。 
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