英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第35話
外回りの業務をある程度片付けているとGIDから手配魔獣の討伐の依頼メールが来た為、依頼の実行の為にヴァンは待機メンバーに連絡して手配魔獣がいる記念公園に向かう事情を説明し…………ほどなくして全員がガレージ前に集合した。
~旧市街~
「記念公園…………旧首都の人達の憩いの場所、なんですか。」
「ええ、家族でピクニックに行ったりする場所ですね。自然豊かで色んなエリアがあってデートスポットとしても人気みたいです。」
これから向かう場所について口にしたフェリにアニエスが詳細な説明をした。
「むむ、なんだか格好の演習場所な気もしますねっ。」
「このチビはぶれねえな。」
「ま、歩いて行けなくもないがバスか車で行くのが普通だ。ここからだと30分くらいだな。」
フェリの独特な感想にヴァン達がそれぞれ冷や汗をかいている中アーロンは苦笑し、ヴァンは説明を続けた。
「チッ、面倒クセーがしゃーねぇ。ご自慢のそのピックアップ、乗り心地を試させてもらおうじゃねえか。」
「あ、そういえばアーロンさんは何気に初めて乗るんでしたね。」
「…………汚すんじゃねーぞ?」
ヴァンの車に初めて乗ることを期待している様子のアーロンにアニエスはアーロンがヴァンの車に乗ることが初めてであることを思い出し、ヴァンはジト目で注意した。
「オヤジ臭が染みついてんだろうし細かいこと言ってんじゃねえっつの。」
「ハハハ、殺すぞクソガキ。」
注意に対して答えたアーロンのからかいの意味も込めた答えにヴァンは笑顔で指摘し、その様子にアニエス達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせているとアニエスのザイファに通信の音が鳴り始め、音に気付いたアニエスはザイファを取り出した。
「あ、失礼します…………(ってこの番号は。)もしもし、先輩ですか?――――――ちょうど良かった、実は今日は戻るのが遅くなりそうで…………ええっ、実家から!?…………で、ですがこれから…………」
通信相手からある内容を伝えられたアニエスは驚きの表情で声を上げて気まずそうな表情を浮かべてヴァン達を見回した。
「ま、戻るかどうかは貴女の判断に任せるわ。」
「…………わかりました、先輩。すぐに戻りますので。はい、はい……失礼します。…………すみません、急用が入ってしまって…………」
通信を終えたアニエスは申し訳なさそうな表情を浮かべてヴァン達に手配魔獣討伐の依頼に同行できなくなったことを報告した。
「あー、いいから行ってこい。こっちは気にすんな、魔獣相手なら俺達だけで十分対応できんだろ。」
「はい……どうか、気を付けてくださいね。その、用事を片付けたら事務所に顔を出しますのでっ。」
そしてアニエスはヴァンに軽く頭を下げた後慌てた様子でその場から走り去った。
「ハン……?」
「ど、どうしたんでしょう?随分慌ててましたけど…………」
「いいからとっとと乗りな。夕方までには片付けて戻るぞ。」
アニエスの慌てた様子にアーロンとフェリが不思議がっている中、ヴァンは車に乗るように促した。その後ヴァン達は車で記念公園へと向かい始めた。
~車内~
「残念でしたね、アニエスさん。4人揃っての最初の依頼、一緒に対応したかったです。」
「学校――――――いや、”実家”からの連絡みたいだし、仕方ねぇだろ。こういう時に融通が利くのがアルバイトってモンだ。」
「ハン……――――――あの小娘、やっぱ胡散臭ぇな。”ゲネシス”ってのを抜きにしても。」
アニエスが抜けたことを残念がっているフェリにヴァンが指摘すると鼻を鳴らしたアーロンが真剣な表情でアニエスのことについて口にした。
「え……」
「……………………」
アニエスを怪しがっているアーロンの言葉にフェリが呆けている中、ヴァンは真剣な表情で黙り込んでいた。
「そもそも経歴からして眉唾モンだろ。導力器を発売したエプスタインっつったら教科書にも載ってるような偉人だぜ。そもそも――――――”クローデル”ってのも偽名なんだろうが?」
(フウ……警戒心の強さは相変わらずだけど、さすがに警戒しすぎよ………)
「ええっ!?そ、そうなんですか…………?」
アーロンの指摘にアーロンの身体の中にいるユエファが呆れた表情で溜息を吐いている中フェリは驚きの表情で確認した。
「ったく…………無駄に鋭いな。――――――ただの偽名ってワケでもねえんだろ。名乗る時に見せた、後ろめたいようなそれでいて誇らしいような顔…………多分、母方の旧姓あたりだろうな。」
「あ…………」
「ハッ、てめぇもとっくに見透かしてたんじゃねーか。となると、わざわざ隠すほどの大層な”本名”が何かって話だ。クク、考えられるとしたら――――――」
ヴァンの推測にフェリが呆けている中アーロンは鼻を鳴らした後意味ありげな笑みを浮かべてある推測を口にしようとした。
「ちょ、ちょっと待ってください。よくわかりませんが…………それ…………アニエスさんが明かさずにいること、ですよね?えと、あんまり踏み込むのも…………」
するとその時フェリが声を上げてアーロンが口にしようと続きを制止した。
「イイ子ぶってんじゃねーよ、チビ。お前だって気になんだろうが?ヨロシクやってきた”仲間”にもなんで明かしてねぇのかってなァ?」
「…………そ、それは……………………」
「やれやれ――――――らしくねぇな、”麒麟児”。”小娘”の事情に本人がいない所でわざわざ立ち入ろうとするとは。」
「…………!」
(フフ、相変わらず鋭いわね。)
アーロンの言葉にフェリが答えを濁して気まずそうな表情を浮かべている中苦笑を浮かべたヴァンの指摘にアーロンは目を見開き、ユエファは感心していた。
「誰だって一つや二つ、自分だけで抱えてることはあんだろ。現にお前さんの”身内”の二人もそうだったじゃねぇか。――――――ホームから離れた上、尊敬している姉が隠し事の件をお前さんにまで今まで隠し続けていた事を知っちまったことで随分と器が縮こまったんじゃねえのか?」
「フン――――――確かにちぃと大人げなかったかもしれねぇな。所詮は乳臭ぇ小娘、”背景”がどうだろうが気にする必要もねえか。どのくらいの覚悟で加わってんのかは背中を預ける以上、確かめてぇトコだが。」
(全く……貴方もアニエスの事は言えないでしょうに。)
「…………アニエスさんはわたしたち以上に本気かと。」
アーロンの言葉にユエファが呆れている中フェリは真剣な表情で指摘した。
「ま…………そうだな。強力な護衛が常に傍に付いているとはいえ、お前らみたいに武術や戦闘技術があるわけでもねえのに――――――強引に押しかけて既に何度も修羅場を潜り抜けているくらいだ。」
「ハン……――――――しかし言うだけあって乗り心地も悪くねえじゃねえか。チンタラ走ってねぇでもうちょい飛ばせねぇのかよ?」
「るせえ、安全運転だ。文句言うならほっぽり出すぞ。」
その後ヴァン達は記念公園に到着した。
~ディルク記念公園~
「う~ん…………空気が美味しいですね。」
「ハン、旧首都のすぐ近くにこんな所があるとはな。しかし、人が殆どいねぇぞ?」
「ああ、普段はバスも通っててそれなりに人がいるんだが。例の依頼絡みで昨日から休園してるらしい。」
「本当だ、閉まっちゃってます。」
アーロンの疑問に答えたヴァンの話を聞いたフェリは目を丸くして閉まっている公園の出入り口を見つめた。
「話は通ってるはずだ。管理人に聞いてみるぞ。」
その後管理人に事情を説明して出入り口を開けてもらったヴァン達は公園に入った。
「魔獣の情報があんのはこの道のエリアだ。夕方前に片付けて戻るぞ。」
「ハッ、それを済ませたら歓楽街あたりでてめぇの奢りか?」
「誰が奢るかっつーの。」
「あの像は……」
アーロンの言葉にヴァンが反論していると公園内の女性の銅像に気づいたフェリは目を丸くして銅像を見つめた。
「ああ…………女革命家の像か。シーナ・ディルク――――――民主化革命の母、だったか。」
「ああ、彼女の没後に自然保護を兼ねて開園したからな。確か革命を始めた頃は二十歳かそこらの学生だった筈だ。クセの強い連中をまとめ上げての大革命…………エレボニアの侵攻もあったしな。」
「ハッ、そう聞くと随分と気合が入った女みてぇだが。」
「…………はい。この像も凛々しくて素敵ですよね。…………ですが彼女達による民主化革命も…………」
ヴァンの説明を聞いて鼻を鳴らしたアーロンと共にフェリは銅像を見つめたがある事実を思い出して複雑そうな表情を浮かべ
「4年前のメンフィル・クロスベル連合による電撃的な速さの侵攻によってカルバード全土が占領されたことでカルバード共和国は滅亡して連合の属州化しちまった事でシーナ・ディルク達による民主化革命も元の木阿弥になっちまったな。」
「唯一の救いだったのは汚職に塗れ、権力欲に満ちたカルバード王国時代の王族や政治家達と違って両帝国の皇族達にそうだが政府も清廉潔白かつ寛大で、それぞれ属州化したカルバードを巧く治めている事だろうな。実際、カルバード共和国がメンフィル・クロスベル連合によって滅ぼされた事で王政国家である連合にとって目障りな民生国家の象徴と言ってもいい彼女の銅像の破壊もしくは撤去も考えられていたとの事だが、連合がカルバード全土に渡っての市民達による反対の署名運動や前北カルバード総督の説得を受け入れた事によって、こうして今も彼女の銅像が無事でいられているとの話だからな。」
複雑そうな表情を浮かべたフェリの言葉の続きをアーロンが真剣な表情で答え、ヴァンは銅像に関するある事実を二人に説明した。
「そうだったんですか…………」
「ん、どうかしたのか?」
相槌を打った後銅像をジッと見つめているフェリが気になったヴァンは不思議そうな表情でフェリに訊ねた。
「いえ、何かこう…………何でしょう、見覚えがあるような。」
「ハン?言われてみりゃ、俺も微妙に見覚えがあるような。煌都で引っかけた西方娘でもなさそうだが。」
フェリの言葉に頷いたアーロンは眉を顰めて銅像を見つめて呟いた。
「引っかけた?」
「…………そこからかよ。チッ、ネンネのガキってのも意外とやりにくいな。」
自分が口にした言葉の意味がわからない様子のフェリにはアーロンは肩をすくめて苦笑し
「むっ…………」
アーロンの自分に向けた言葉が自分を馬鹿にしているような事であると本能的に察したフェリはジト目でアーロンを睨んだ。
(……………………?教科書にも載ってるような偉人に見覚えも何もねえ気がすんだが――――――)
一方何かの違和感を感じたヴァンは戸惑いの表情で銅像を見つめていた。
「だから何を引っかけたんですか?」
「いや、食い下がんなっつの!忘れろ!」
「おら、その辺にしとけ。とっとと片付けに行くぞ!それとアーロンは今の内にユエファを呼んどけ。」
そして言い合いをしているフェリとアーロンの様子に我に返ったヴァンは二人に注意した後アーロンにユエファを召喚するように指示をした。
「あん?小娘の天使みたいに、いざという時に手を貸してもらえばいいんじゃねぇのか?」
「あの時は万全じゃなかったメイヴィスレインにアルマータの幹部達との戦いに備えて回復に専念してもらっていたってのもあるが、道中の魔獣との戦闘でユエファの戦闘能力を確かめるという必要もある上、マルティーナと違って実戦経験が少ない彼女との連携も実戦で慣らす必要があるからな。」
「言われてみればそうだな――――――つー訳で頼むぜ、オフクロ。」
手配魔獣にもたどり着いていないにも関わらずユエファを呼ぶように促したヴァンの意図を知って納得したアーロンはユエファを召喚した。
「フフ、黒龍城塞以来の実戦ね。アーロンもそうだけど、ヴァンさんとフェリも改めてよろしくね♪」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「一応確認しておくが、”魔弓”による奇襲で怯んでいたとはいえ、黒月の”裏”の使い手であるあの凶手達を制圧できるほどの戦闘能力はあるようだが…………人間だった頃は実戦とは無縁だったあんたがそれ程の戦闘能力がある理由は…………もしかして、”使霊”になってからマルティーナに指導してもらっていたからか?」
ユエファにウインクされたフェリは元気よく答え、ヴァンはユエファにある確認をした。
「フフ、さすがヴァンさんね。ええ、マティに”使霊”として生み出されてからはアーロンが外出している間や夜寝ている間に、マティに指導してもらったわ。指導の一環として煌都近郊の街道を徘徊している魔獣との戦闘も経験しているから、一応ある程度の実戦経験自体はあるわよ。」
「ったく、まさか長年俺が目を離している隙を狙って姉貴共々コソコソとそんなことをやっていたとはな…………」
「ですが、”魔獣との実戦”と”人との実戦”はかなり違いますのに、あの時はよく凶手の人達を無力化できましたよね…………」
ヴァンの確認に対して答えたユエファの話を聞いたアーロンは苦笑しながらユエファを見つめ、あることが気になっていたフェリは目を丸くしてユエファを見つめて指摘した。
「フフ、役者時代に殺陣も経験しているからというのもあるけど、マティの話によると”使霊は生み出された時点で使霊を生み出した天使自身の力量に応じた戦闘能力が備え付けられている”からというのもあるわ。」
「…………?どういう事なんでしょうか?」
「恐らく端末にデータをインストールして、そのインストールしたデータがすぐに使えるのと同じように、”使霊は生み出された時点で戦闘能力が備え付けられている”という事なんだと思うぜ。」
「それだとチビじゃ、わかんねぇって。――――――チビにわかりやすく説明したら、手に入れたザイファに最初からホロウコアやクオーツもそうだがアーツドライバも全てセットされているようなものと同じってことだろ。」
ユエファの説明の意味がわからず首を傾げているフェリに説明したヴァンに苦笑しながら指摘したアーロンはフェリにとってわかりやすいと思われる説明をした。
「ムッ…………確かにアーロンさんの説明の方がわかりやすいですけど………」
「そんな事よりも”使霊は生み出された時点で使霊を生み出した天使自身の力量に応じた戦闘能力が備え付けられている”って言っていたが、アンタは天使階級第三位――――――上位の天使のマルティーナに生み出されたんだから、まさかとは思うがメイヴィスレインと互角――――――いや、それ以上の戦闘能力があるのかよ?」
フェリがアーロンをジト目で睨んでいる中あることに気づいたヴァンは表情を引き攣らせながらユエファに確認した。
「さすがに彼女程の戦闘能力は備わっていないわ。マティの話だと私が”使霊”として生み出された時点での天使階級で評価するとしたら、ギリギリ第六位の”能天使”に届くくらいの戦闘能力があるとの事よ。」
「えと…………天使様の階級の強さとかよくわかりませんが、”第三位”のマルティーナさんが生み出した割にはマルティーナさんの力量よりもかなり低い気がするのですが…………」
苦笑しながら答えたユエファの答えを聞いたフェリは気まずそうな表情を浮かべてユエファに指摘した。
「それはそうよ。マティ曰く”私の人格”の形成にかなり力を割いているとの事だから、もしマティが私の人格を形成せずに、使霊を生み出したら――――――感情がほとんどないほぼ機械人形のような”使霊”だったらマティの天使階級と同じ”第三位”クラスの戦闘能力が備え付けられていたとの事だもの。」
「感情がなく、ほぼ機械人形のような存在、ですか…………」
「ハン、そんなオフクロなんて見たくねぇし、そもそもずっと家族として暮らしてきた姉貴がオフクロをそんな風に生み出すなんてする訳がないっつーの。」
「…………話を戻すが…………ギエン老の治療の際に治癒魔術を使っていたが、それも”使霊として生み出された際に備わっていた戦闘能力の一部”か?」
ユエファの説明を聞いたフェリが不安そうな表情を浮かべて呟いた後アーロンは鼻を鳴らして真剣な表情で呟き、目を伏せて黙り込んでいたヴァンは気を取り直して質問を続けた。
「ええ。後は当然神聖魔術――――――光の魔術も使えるし、マティの指導によって私自身の適正属性である”火”――――――火炎魔術も習得しているし、他の魔術と違って数は少ないけど魅了魔術も習得しているわ。」
「”魅了魔術”、ですか?一体どんな魔術なんでしょうか?」
「”魅了魔術”ってのはその名の通り、相手を魅了する事で錯乱状態等に陥らせる魔術だが…………まさか、あんたが習得していたとはな。確か”魅了魔術”の主な使い手は”睡魔族”だと聞いているぜ。」
ユエファの説明を聞いてある疑問を抱いたフェリに説明したヴァンは苦笑しながらユエファを見つめて指摘し
「えと…………その”睡魔族”というのも、異種族の種族の一つなんでしょうか?」
「そうだ。それでその”睡魔族”についてだが…………あー…………フェリもそうだが、アニエス達のような女性陣には聞かせられないような事を平気でする種族という事で納得してくれ。」
「?その説明だと、全くわからないのですが。」
「クク、魔術の名前や効能も考えたら、俺はどんな種族なのか大体察しがついたぜ。…………にしても、ただでさえ人間だった頃からモテていたオフクロに魅了魔術とか鬼に金棒のようなものじゃねぇか。」
フェリの疑問に答え辛そうな表情で答えを濁しているヴァンの様子にフェリが首を傾げている中口元に笑みを浮かべたアーロンは苦笑しながらユエファを見つめて指摘した。
「ふふっ、ちなみにマティは”使霊”である私が魅了魔術を習得したことに頭を抱えていたわよ♪」
「そりゃ頭も抱えるだろ…………ちなみに得物は何を使っているんだ?黒龍城塞でも見たが、確かかなり珍しい得物だったよな?」
からかいの表情で答えたユエファに呆れた表情で指摘したヴァンは気を取り直してユエファに武装の事について尋ねた。
「ええ、私の得物はこれよ。」
ヴァンの言葉に頷いたユエファは自身の武装である二刀流の鉄扇を見せた。
「その武器?は一体…………」
「扇………いや、まさか”鉄扇”か?」
鉄扇を初めて目にしたフェリが不思議そうな表情を浮かべている中、察しがついたヴァンは目を丸くしてユエファに確認した。
「ええ。役者時代に”剣舞”の経験もしているから、アーロンと同じ得物――――――双星剣も使えないことはないけど、私はこっちの方が向いているのよ。」
「”鉄扇”とはまた随分と珍しいシロモノじゃねぇか。」
「ハッ、テメェも他人の事は言えねぇだろうが。」
ユエファの説明を聞いて苦笑しているヴァンにアーロンは鼻を鳴らして指摘した。
「えと…………その”鉄扇”というのも武器の一つなのでしょうか?」
「ああ。”鉄扇”とはその名の通り、鉄でできた扇で鈍器として使える上、今ユエファが広げているように広げれば盾の代わりにもなる攻防一体の武器だが……”どうやら、その鉄扇は斬る事もできる”みたいだな。」
「あら、まさか”これ”にも気づいていたなんて、相変わらず目敏いわね♪」
フェリに説明をしたヴァンだったがあることに気づくとユエファに指摘し、指摘されたユエファは目を丸くした後ヴァンの目敏さに感心しながら扇の先端に仕込まれている刃を見せた。
「”仕込み刃”とは何気にえげつねぇじゃねぇか。」
「ふふっ、昔から”綺麗な花には棘がある”という諺があるじゃない♪実際マティもそうだし、もしかしたらポーレットにも”棘”があるかもしれないわよ~?」
「なるほど…………ユエファさんもそうですがマルティーナさんは綺麗な人の上、それぞれの武装に”刃”がありますから、ポーレットさんも実は何らかの戦闘能力があって、武装は”刃”に関するものを身に着けているかもしれませんね!」
「いや、正真正銘民間人のポーレットに戦闘能力なんてねぇし、武装も身に着けてねえからっ!確認も終わった事だし、とっとと片付けに行くぞ!」
仕込み刃を目にして口元に笑みを浮かべたアーロンの指摘に答えたユエファはからかいの表情である推測をし、ユエファの推測を本気で信じている様子のフェリに疲れた表情で反論したヴァンは気を取り直して先に進むように促した。その後先に進み始めたヴァン達は見晴らしのいい場所に出た。
「わぁ…………眺めのいい場所ですね。やっぱり演習向きかと!」
「そればっかだな…………だが、悪くねえ景観じゃねぇか。」
景色を見つめて無邪気な様子で呟いたフェリに苦笑しながら指摘したアーロンは興味ありげな様子で景色を見回した。
「これでも他のエリアよりは整備されているが…………足を踏み外して池に落ちる奴もいるから気をつけろよ。」
「するかっつーの。しかし微妙に詳しいじゃねえか?ま、年寄りの散歩コースにはおあつらえ向きなんだろうが。」
「だれが年寄りだっつの!学生時代エレインと――――――…………」
「ほほう、なるほどなるほど。あの”剣の乙女”とねぇ。クク、確かにあからさまにデートスポットっぽいしなァ?」
「フフ、学生時代だったらデートに使えるお金もあまりなかったでしょうから、きっとデートスポットとして頻繫に利用していたのでしょうね♪」
「でーと…………え、え。ひょっとして!ヴァンさんとエレインさんって!」
ヴァンがふと口にしたある言葉を聞き逃さなかった3人はそれぞれ興味ありげな表情を浮かべてヴァンを見つめた。
「(ああもう、面倒くせえ…………)ほら、んなことより見てみろ!」
3人の反応に疲れた表情を浮かべたヴァンは話を逸らす意味も含めて3人に景色に所々見える徘徊している魔獣達に視線を向けるように促した。
「思ったよりいやがるな。」
「普段からこんなに…………?」
「いや、来園者も割といるから魔獣避けは徹底されてるはずだ。もしかすると件の魔獣ってのが呼び寄せてるのかもしれねぇな。」
「まずは集中して対処ですね!」
「赤裸々エピソードの追及は小娘込みで後ほどにしとくか。」
「フフ、お楽しみは後にした方がいいでしょうからね♪」
「だあっ、とっとと始めんぞ!」
そしてヴァン達は徘徊する魔獣達を撃破しながら手配魔獣の下へと向かった――――――
ページ上へ戻る