Fate/WizarDragonknight
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繁華街
前書き
連休中一杯投稿しようとしたのに一話しか投稿できなかった……無念
見滝原東の繁華街。
平日だろうが休日だろうが、夕方は人でごった返すこの場所。当然の如く混みあっているこの繁華街を、コウスケは茫然として見つめた。
「……いざ来てみたら、人多すぎだろ……」
「すごい賑やかだねッ! それじゃどこから探そうか? コウスケさんッ!」
どこから取り出したのか、サングラスかけながら響は尋ねた。
「響……何だ? それ」
「追跡尾行といったらこれでしょッ!」
響はサングラスを傾けながら答える。
太陽の光を反射させる彼女へ、コウスケは頭を抱えた。
「完全に形から入ってるじゃねえかよ……」
響はどこから仕入れた知識なのか、何度も何度も壁に張り付きながら、行き交う人たちを観察している。理由もなく反対側の壁に移動しては、人々の注目を集めている。
「……何してんだ?」
「知らないの? 尾行といったら、こうやって電柱の裏から時々チラッとサングラスを外すんだよ?」
「絶対変な映画の知識だろそれ。さてと……繁華街って手がかりだけで正直油断していたぜ」
コウスケは繁華街の通りを一望しながら呟く。
繁華街にてごった返しているのは人だけではない。
すぐそこの建物一つとっても、テナントの名前がぎっしりと詰め込まれている。果たしていくつのテナントが入っているのかと思うだけで、コウスケの脳は理解を拒絶し出していく。
「なあ、響。フロストノヴァのマスターがここにいると思うか?」
「フロストノヴァさんに会ったことのないわたしにそれを言われてもなあ……」
響は困り果てた様子を見せる。
確かに、響からすればフロストノヴァの存在はコウスケとハルトから知らされた程度の情報しかない。
つまり、仮にちづるを見つけたところで、実際にフロストノヴァが共にいるかどうかをコウスケが確認しなければならない。
「……オレらすげえ効率悪い探し方してねえか?」
「でも他に探す方法もないから」
「そうなんだよなあ……ググって見つかるもんでもねえし」
諦めて虱潰しに動くしかない、とコウスケは意を決した。
「……っしゃあねえ。とりあえず、この建物から探してみるか」
コウスケは手頃な建物を指す。
これまた色とりどりのテナントが所せましとひしめき合っており、建物全体が薄汚れているのも相まってとても綺麗とは言い難い。
「……よし。……よっしッ!」
「こんちわー」
「おいいきなり入るな!」
気合を入れるコウスケの傍らで能天気に一階のドアを開けた響。
テナント名くらい確認すればよかったとコウスケが後悔する間もなく、響は大股で店に入っていく。
「いらっしゃい……あら? 可愛いお客さんね」
字面だけ見ればそれは間違いなく女性のものだが、その声は男性のもの。
それを判断したコウスケは即決断。
「すいません間違えました響出るぞッ!」
「コウスケさんッ!? まだちづるちゃんがいるか見てないよ?」
「アイツのことはそこまで詳しくねえが、断言する! アイツはこの店にはいねえッ!」
言うが速いが、コウスケは響を隣の階段に引き込む。逃げるようにフロアを昇り、二階のテナントの扉に手を押し当てる。
「ぜえ、はあ……なんで○○バーなんてあんだよ……」
「コウスケさんどうしたの? すごい血相だよ」
「仕方ねえだろ。お前、あんなのに触れたら完全に染まっちまいそうだからな……あ、ここもお店みてえだな」
今度は念入りにとコウスケはテナント名を確認する。だが、すでに経年劣化により薄れた店名は、内容を推測できるほどの手がかりを残していなかった。
「……うっし。いいか響、今度はオレから行くからな?」
「オッスッ!」
響に見送られながら、コウスケは店の門戸を叩く。そして。
「こんにちは」
「いらっしゃい♡」
「すいません間違えました」
バタン。
「……」
頭を抱えるコウスケ。改めて少しだけドアを開けて中を覗いてみると。
「いらっしゃい可愛い坊や」
バタン。
「……よし、この建物に一之瀬はいねえ。次行こうぜ」
「まだ上にいっぱいお店あるよ?」
「るせえッ! ゲ〇〇―に熟○○―が立て続けに入っている建物に大学生がバイトしてるわけねえ!」
コウスケは宣言して、響の腕を引っ張って建物から出ていく。スタスタと素早い歩調で、繁華街の通りに出たコウスケは、膝を抑えながら息を吐く。
他の建物もほとんど似たようなお店しか入っていないのではないか。そんな予感を感じながら、コウスケは次の建物を目指す。
「……オレもうすうす感づいていたぜ。ここ、繁華街っつうより、所謂夜の街じゃねえか……!」
「まだ夕方だよ?」
「そういう意味じゃねえよッ!」
ツッコミを入れながら、コウスケは大股で繁華街を進んでいく。
すれ違う人たちを忘れずにチェックするものの、最も若くても大学生の範疇とは思えない年齢の人物ばかり。
やがて通りを過ぎたコウスケは、大きく息を吐いた。
「ったく、この通りじゃねえ……つうか、繁華街ってもしやどこもかしこも夜のお店だらけなんじゃ……?」
「夜のお店って何?」
「響、お前は永遠に知らなくてもいいことだ」
コウスケは響に釘を刺し、隣の通りへ目を向ける。
こちらも同じく大学生よりも上の年齢層でごった返しており、期待していいものか悩ましい。
「……あの中に一之瀬がいんのかねえ……」
「コウスケさん、そんなにあの繁華街が嫌なら他のところを探さない?」
響の提案に、コウスケは目を細めた。
「どっちにしろ、まともな手がかりがねえし、それでもいいかな……」
「ここで見かけたってだけだもんね」
それはそもそも手がかりとさえ言えないのではないか。
そんな予感がしてきたところで、響から腹の虫が鳴り響いた。
「お腹空いた……」
「仕方ねえ……何か食ってくか」
「ッ!」
コウスケの提案を聞いた途端、響は目を輝かせた。
「やったッ! それじゃあコウスケさん、あれ食べたいッ!」
響はコウスケの腕を掴み、近くに設置してある移動型店舗を指差す。
彼女の指先を見てみれば、それは果たして女子に大人気(偏見)のクレープ屋店舗だった。
「あれ食べよッ!」
「クレープって……何だよこれ?」
「いいから並ぼうッ!」
響はそのまま、コウスケを行列に並ばせる。目の前には、コウスケと同じ年代の人々が列をなしており、まさに人気店といった印象を抱いた。
「すげえ並んでるじゃねえか……」
「ここ美味しいってこの前たくさん話した子が言ってたから、ちょっと気になってたんだッ!」
「お前いつの間にそんな情報交換を?」
コウスケはそう言いながら、ポケットから財布を取り出す。
様々な日雇いバイトをこなしてはいる。多少の買い食いくらいなら余裕はあるだろうか。
「なあ響。このクレープとやら、そんなに高くねえよな?」
「うーん、わたしは知らないけど……あ、でもこの前おばちゃん助けたらお駄賃もらったから大丈夫だよ」
「お前バイトしねえと思ったらそんなことで稼いでたのかよ」
そうして響とやり取りしている間にも、列は進んでいく。
やがて二人でそれぞれクレープを購入し、その裏にある小さな広場に腰を落とす。
「お前意外にも金持ってんのな」
「人助けをしてたら、たまにお小遣いくれる人がいるから。わたしはいらないって言ってるんだけどね」
「もらっとけもらっとけ。っつうか、お前は働かねえの?」
「うーん、この前何回かバイトやってみたんだけど、途中つい困っている人がいるとそっちに行っちゃって、それでクビになっちゃうんだよね」
「お前らしいな。……真司も友奈もバイトしてるってのに、ウチのサーヴァントだけは働かねえってことか」
「ごめんって」
響は手を合わせながら苦笑した。
コウスケは「いいよ」と言いながら、口を大きく開けてクレープを頬張る。
クリームがたっぷりと詰め込まれたそれは、コウスケの味覚を砂糖の味で一杯にさせてくる。
「すごい甘いな……これ」
「でしょッ! すっごい甘いよッ!」
甘いという単語に対する異なる印象を感じながら、コウスケはそのままクレープをかじり続ける。
やがてバナナやチョコレートといった味わいを感じながら、コウスケは繁華街へ目線を移した。
「人を隠すには人の中。この中から特定の個人を見つけるとか無理だろ」
「うーん、美味しいッ!」
「少しは聞けよ!」
頬にクリームを付けながら幸せそうな笑顔の響。彼女の頭からは、どうやら目の前の甘味以外のものは全て消え去っているようにも見える。
これを食べ終わったらもう別のところを探すことに決めたコウスケは、引き続きクレープを頬張る。
「……これもうちっと腹に溜まんねえの?」
「美味しいから大丈夫ッ!」
「絶対に会話かみ合ってねえな」
コウスケは空を仰ぎ、もう一度クレープを食べる。今度は小麦粉でできている外皮の方だが、そちらは完全に味がしない。
「……これ何で人気あるんだ?」
コウスケがそんな疑問を持っていると、目の前の椅子に別の女性が腰を掛けた。
長く伸ばした髪に整った顔立ち。
すごい美人だな、とコウスケが舌を巻いていると。
「……一之瀬!?」
ふと、その名を口にした。
すると、目の前の女性はぎょっとしたような顔でこちらを振り向き。
おそらく無意識に、その口を動かした。
「……! た、多田君?」
腰を落とした女性は、思わず立ち上がった。
眼鏡がない上、服装や髪形もコウスケが知っているものとは違うが間違いない。
そこにいるのは、コウスケと何度か同じ講義を受け、またそれなりに互いを見知った顔として認識しているマスター候補、一之瀬ちづるであった。
「あなた、何でこんなところに……?」
「ああいや……それは……」
「水原さん、お待たせ」
その時、彼女の背後に男性の姿が現れる。
気弱そうな体つきの男性。眼鏡をかけた地味な外見の彼は、どことなく震えながらちづるへクレープを手渡した。
「はい、どうぞ」
「あ、ありが……」
「水原って……お前のことか? でもお前……」
「だ、誰かと人違いしているんですね? すみません、私はもう行きますから!」
「え? ちょ、ちょっと!」
だがちづるはそれ以上の発言に耳を貸さず、そしてクレープを手にすることもなく駆け出した。
「あ、おい待ってくれ一之瀬! 響、追いかけるぞ!」
「ええッ!?」
まだクレープを食べかけの響の抗議に耳を貸さず、コウスケは響の腕を掴みながらちづるを追いかける。
「……」
ただ一人取り残されたちづるの連れの男性は、茫然とちづるたちを見つめることしかできなかった。
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