| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3部
サマンオサ
  幼なじみとの再会


『祠の牢獄』。世界にはルザミのような流刑地もあるが、他にもそう言う場所があるのだろうか。
「国家反逆罪って……、一体サイモンさんは何をしたんですか?」
 恐る恐る尋ねると、コゼットさんの目に一筋の涙が流れた。
「わかりません。ある日突然お城の兵士たちがやってきて、お城に連れていかれたのです。彼らが言うには、国王様の命を狙おうとした疑いがかけられたそうですが、そもそも夫はほとんど家にいることはありませんでした。なぜならあの人は正義感が強く、しょっちゅう国を飛び出しては、人々を苦しめている魔物を退治していましたから。そんな人がどうやって国王様の命を奪うと言うのでしょうか」
「なんだよそれ……。ひでえ話だな」
 ナギの言うとおり、なんて一方的な言い分なんだろう。その理不尽さに、私は腹が立った。
「サイモンが疑いをかけられた証拠はあるのか?」
「いえ……。何の説明もなく裁判にかけられ、こちらの弁護もないまま罪状を突きつけられました。そのあと私たち家族が面会する間もないまま、夫は見知らぬ地へと流刑されたのです」
「……」
 コゼットさんの説明に、尋ねたユウリも言葉を失う。
「そんなに腐りきった国なのに、なんで皆何も言わないの? だって、国を支える国民がこんなに苦しんでるんだよ? おかしいよ、絶対」
 珍しくシーラが声を荒げて言った。先ほど見かけたブレナンさんと言う人のお葬式のことを思い出し、私も頷く。
「昔は反発する人たちもいましたが……、その人たちは皆お城の地下にある牢屋に入れられ、ほとんどが獄中で亡くなりました。それから十年以上経ち、今では私たち国民は抗うのも無駄とわかり、国王様の機嫌を損なわないよう気を使いながら生活しているのです」
 十年……!!
 途方もない年月を経たこの国の事実に、私は目の前が真っ暗になった。
 私が知らないところで、ずっと長い間苦しめられている人たちがいる——。そんなやるせなさに、怒りと悲しみ、そして自分ではどうすることも出来ない悔しさが込み上げる。
「なるほど。それならサマンオサが今まで他国と関わらなかった理由が理解できる。出来れば騒ぎを大きくしたくはないが……」
 ユウリが苦い顔で顎に手を添える。
「でもさ、ポルトガの王様からの手紙を渡さなきゃいけないよね」
 シーラの指摘に、眉間に皺を寄せるユウリ。しばらく考えてから、
「手紙は途中で落としたことにして……」
「だっ、駄目だよユウリ!!」
「ふん。冗談に決まってるだろ」
 だったら冗談に聞こえるように言って欲しい。そんな眼差しを向けるも、ユウリは全く意に介してない様子で話を戻した。
「とにかくサイモンがいないのなら、ここに用事はない。それでその『祠の牢獄』の場所は知っているのか?」
「詳しくは知りません。噂では、遙か海の向こうにある孤島にあるとか……」
 コゼットさんの顔には、諦めきった感情が表れていた。
「まさかあの人に会うつもりですか? やめた方がいいと思います。おそらくあの人はもう……」
「そんなの、確かめなければわからないだろ」
「!!」
 はっきりとした口調で言い放つユウリに、コゼットさんは跳ねるように顔を上げた。
「で、でも……」
「ちょうど良い。だったら城に行って直接『祠の牢獄』の場所を聞く」
「!?」
「ユウリちゃん、それって結構大博打じゃない?」
 シーラも心配そうに尋ねるが、ユウリの性格上、ここで彼が考えを覆すことはないと私は感じていた。
「別にサイモンのことは聞いてないんだからいいだろ」
「いやいや、もっと慎重になろうよ。そんなこと聞いたら絶対捕まっちゃうって!」
 珍しくユウリの意見に反論するシーラ。すると、今まで黙っていたナギが口を挟む。
「今回ばかりはユウリに賛成だぜ。なんでそこまでサイモンを目の敵にしてんだ? ぜってー怪しいだろ」
「そもそもこの国のやり方が気に入らん。一度この国のトップの顔を見てみたい」
 ナギの意見にユウリもヒートアップする。そんな2人に、私たち女性陣は慌てて止めに入った。
「待ってよ、もう少し落ちつきなって!」
「もう、二人共!! 冷静になろうよぅ!!」
 ガチャッ!!
 その最中、玄関先から扉を開ける音が響いた。この部屋に出入りできる人は、コゼットさんの他にもう一人、彼女の息子しかいない。と言うことは——。
「母さん、どうして家の鍵が開いて……」
 若い男の人の声に反応した私は、思わず振り向いた。
 その瞬間、初対面のはずなのに、彼の顔を見た途端なぜか懐かしさを感じた。
「!?」
 リビングにやってきたその人物は、私より少し年上くらいの青年だった。ナギより背が高い彼は、少し癖毛の薄茶色の髪に瑠璃色の瞳が印象的で、目が合った途端深い色の瞳に吸い込まれそうになる。
 ああ、そうだ。最初にコゼットさんを見たときと、同じ感じだ。ずっと昔、似たような髪と目の色をした少年と、一緒に遊んだような……。
「もしかして……、ミオ?」
「え!?」
 初対面の男の人になぜか名前を聞かれ、びくりと身体が反応する。落ち着いて大人びた低い声は初めて聞くものはずなのに、どうしてこんなにも心に響くのだろう。
——ミオ。君はどうして武術の修行をしているの?
 そのときふと、幼い頃の記憶が頭をよぎった。そう、あれは私がカザーブの村で師匠に武術を教えてもらってから、一年ほど経った頃のことだ。
 師匠であるフェリオに連れられて、ある日突然彼は村にやってきた。最初見たときは人見知りだったのか、背格好の割におどおどしていて、同い年くらいの私とはろくに話もしなかった。だけどある時を境に、私と彼は唯一無二の親友となったのだ。彼の名前は——。
「もしかして、ルーク!?」
 その名を呼んだ途端、目の前にいる彼の目が見開いた。同じくコゼットさんも驚いた顔でこちらを見ている。
「え!? 嘘……、なんでルークがここに? サイモンさんの息子って……」
 想定外の出来事に、私はパニックに陥っていた。
「サイモンは僕の父親だよ。それよりミオこそどうしてここに? もう二度と会えないと思ってたのに……」
 ルークとおぼしき青年は、私を凝視しながらどんどん歩み寄ってきた。急に至近距離まで詰め寄られ、私は思わず立ち上がる。
 きりっと整った眉と深海のような瞳、それにすっと通った高い鼻筋はなかなかに端正だ。
 さらに背は高いがアルヴィスのように筋骨隆々と言うわけでもなく、細く鍛え抜かれた身体は均整が取れていて無駄がない体型と言える。シーラ曰く、アッサラームではこういう男性の方が女性にモテるのだという。
 などと呑気にシーラの恋愛講座を思い返していると、目の前に立つ当の本人が突然私の両手を握りしめたではないか。
「!?」
「やっぱり夢じゃない! 本物のミオだ……!」
 震える声でルークが呟いた瞬間、突然私の頭が後ろから引っ張られた。
 ぐいっ。
「いたたたたた!!」
 久々のユウリの三つ編み引っ張り攻撃に、私はたまらずルークから離れた。振り向くと、ユウリが胡乱な目を向けていた。
「新手の痴漢か? 随分と馴れ馴れしい奴だな」
「ま、待って!! もしかしたらこの人、私の幼馴染みかもしれないの!!」
『え?!』
 その言葉に、どう言うことかと3人が声を揃える。
 疑問を解決するべく、私は自己紹介がてら、目の前の彼が私が知ってるルークかどうか確認をした。
「ええと、私はミオ。昔カザーブの村で、フェリオっていう武闘家のもとで一緒に武術の修行をしてたんだけど、そのときのこと、覚えてる?」
 すると彼は目をひときわ輝かせた。
「もちろん!! 正確には僕が11歳のときだから7年前だ。よく君と修行を抜け出してコスモス畑に行ってたよね」
「そうそう!! そのあと師匠にバレて怒られたんだよね」
 思い出が共有できて嬉しくなった私は大きく頷いた。間違いない。彼は私の知っているルークだ。
 そう確信した瞬間、幼い頃の思い出が次々と呼び起こされる。
 修行中師匠に内緒でこっそりと二人で抜け出したこと。そのあとバレて揃って師匠に叱られたこと。休みの日は私の家に呼んで一緒に遊んだりしてたっけ。
 実際には半年くらいしか一緒にいなかったけど、他に同年代の友達もいなかった私にとって、ルークは唯一無二の親友だった。そんな彼が、まさか目の前にいるなんて——。
「はいはい二人とも。感動の再会は後にしてもらって、そろそろ本題に入ろー」
 ぱんぱん、と手を叩くシーラにハッとした私は、いつの間にか自分の世界に入っていたことに気づく。
「ご、ごめん皆。どうぞ続けてください」
 敬語になりながら話を促す私に、白い目でこちらを見ているユウリ。確かに今は旧友との再会に浮かれている場合ではないけれど、そこまで露骨に嫌な顔をしなくてもよくない?
 そんな私の気持ちとは裏腹に、ユウリは改めてコゼットさんたちに向き直った。
「俺たちはあんたたちに迷惑をかけるつもりはない。魔王を倒すためには、どうしてもサイモンに会わなければならないんだ。些細なことでもいい。サイモンや、ガイアの剣について知っていることがあれば、教えて欲しい」
 真剣な面持ちで頼み込むユウリに対し、コゼットさんはしばらく黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「……ごめんなさい。もう私の口からあの人に関することは言いたくないんです」
 そう言い残すと、コゼットさんは逃げるようにリビングから出て行き、二階へと上がってしまった。
『……』
 追いかけることも出来ず、私たちは彼女が階段を上る足音をただ黙って聞いていた。
「……ええと、ごめん。ちょっと事情が飲み込めないんだけど……」
 沈黙を破るかのように、ルークがおずおずと私に声をかけてきた。
「あっ、そういえば自己紹介がまだだったね☆ あたしはシーラ、こっちの銀髪がナギちんで、あっちの黒髪がユウリちゃんだよ♪」
「おいシーラ、自己紹介くらいマトモに話せよ。オレはナギだ」
「シーラさんに、ナギさんですね。ユウリさんは……、女性? いや、男性ですよね?」
「バカウサギ、お前のふざけたあだ名のせいで俺はこいつにベギラマをぶちこまなきゃならなくなった」
「ごめんなさい!! こう見えてユウリちゃんはれっきとした男の子なんです!!」
「あ……、やっぱりそうだったんですね」
 彼らのやり取りに戸惑いつつも、ルークは私たちを見回すと自分から名乗り始めた。
「こちらこそ自己紹介が遅れました。僕はルーク。……勇者サイモンの息子です」
 そう言い終えた直後に暗い顔を見せるルーク。と同時に彼からもコゼットさんと同じくサイモンさんに関する情報を得られることができないと悟った私たちの間に、微妙な雰囲気が広がった。
「てかよ、さっき聞いてたけど、あんたオレと同い年だろ? いちいち敬語で話さなくていいから。な? 年下の勇者様」
 場の雰囲気を変えようとしたのか、ナギはそう言うなり横目でユウリを見た。なんとなく『年下』を強調しているように聞こえるのは気のせいだろうか。
「あたしは皆より一番お姉さんだからね♪ 気軽にシーラお姉様☆って呼んでね」
「全然気軽じゃねえし!」
 まるで打ち合わせでもしてるのではないかと思うくらい息のあったやりとりを見て、ルークに笑みがこぼれた。
「ねえ、ルークは『祠の牢獄』がどこにあるのか知らない? 私たち、サイモンさんに聞きたいことがあるの」
 だが、私の問いにルークは首を横に振る。
「残念だけど、僕は何も知らないんだ。父さんはほとんど家にいなかったし、僕がカザーブに行っている間に父さんは捕まってしまったし……。そのあと何度も母さんに父さんの行方を聞いてみたけど、ここからずっと遠いところにあるってことしか教えてくれなかったよ。もしかしたら母さんも詳しく知らされてないのかもしれない」
「そうなんだ……」
 もしかしたらとは思ったが、やっぱり他を当たるしかなさそうだ。
「仕方ない。ならやっぱり一度城に行って話を聞くしかなさそうだな」
 やれやれ、と言うようにため息を吐くユウリを不思議そうに眺めているのはルークだ。
「あのさ、どうしてそんなに父さんに会いたいわけ? 魔王がどうとか言ってたけど、それと君たちと何の関係があるの?」
 ルークが疑問に思うのも当然だ。彼にはまだこちらの事情を一切話していない。けどどこから話せばいいんだろう。
「ええと、話せば長くなるんだけど……」
「何も知らないなら関係ないだろ。それより早く城に向かうぞ」
 ぐいと私の腕を掴みながら、ユウリは強引に玄関へ向かおうとする。その表情は依然険しいままだ。
「ま、待ってくれ、ミオ!! もし会えるなら、もう一度会いたい!! また来てくれないか?」
「え?」
 引き止めるルークの声に、つい私は振り向く。数年ぶりの再会で、私もルークに話したいことはたくさんある。だけど――。
「ごめんルーク。私たち、急いでるんだ」
 今は一刻も早く祠の牢獄の場所を突き止めなければならない。突き放すようにそう言うと、私は後ろ髪を引かれる思いでルークに背を向けた。
「ミオ……」
 ルークは今、どんな顔をしているのだろう。
 ふと彼が突然いなくなってしまったあの頃の思い出が頭をよぎり、私はかき消すように頭を振った。
「待ってよミオちん!! 別に皆でお城に行かなくてもいいんじゃない?」
「え?」
 シーラの一声に、私は思わず彼女の方を振り返った。
「お城には、あたしたち三人で行くから、ミオちんはここにいなよ。せっかく久しぶりに会った友達なんだもん、すぐにさよならするなんて寂しすぎるよ」
「そーだぜ。何よりお前が一番ここに残りたそうな顔してるぞ」
 ナギに指摘され、私はかっと顔が赤くなる。
「そ、そんなに顔に出てた? 私」
「そう言うってことは、図星なんだな」
 にやりと口の端を広げるナギに、私はしまったと口を押さえる。
「つーことだからユウリ、ミオはここに残してこうぜ。まさかそこまで薄情な奴じゃねえよな?」
「……」
 眉間に皺を寄せながら、真一文字に口を結ぶユウリ。普段喧嘩ばかりしているナギに諭され、彼のプライドが答えを邪魔しているようにも見えた。
「あっ、そっか! ユウリちゃんてば、そんなにミオちんと一緒にいたいんだね!! ごめんごめん、気がつかなくて」
「ふざけたことを言うな!! こんな間抜け女、いくらでもここに置いてってやる!!」
 シーラの言葉に、ユウリはパッと私の腕を離すと、食い気味に反論した。ていうかそこまでムキになって否定しなくてもよくない?
「てなわけだからミオちん、用事が終わったらまた迎えにくるね♪」
「あ、うん! ありがとね。シーラ、ナギ」
「気にすんな。じゃあ、後でな」
 二人の気遣いに感謝しつつ、私は三人を見送った。
「なんか、君の仲間には申し訳ないことをしてしまったな」
「うん、でも私もルークともっと話したかったから、お城に行ったとしても気が気じゃなかったかも」
 それで後でユウリに散々小言を言われるんだろうな、と私は小さく笑いを浮かべる。
「あ、でも私がしばらくここにいたら、コゼットさんも迷惑だよね」
「そんなことはないと思うけど……。でもせっかく来たんだ。だったら場所を変えよう。近くに大きな公園があるからそこに行こうか」
「うん!」
 ルークの提案により、早速私たちはこの町で一番大きいと言われる公園に行くことにしたのだった。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧